表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/15

第1章:『わたくし、世界を征服する予定はございませんの!』

【1】

「この世に悪役令嬢が存在するのは、きっと世界の美の均衡を保つため……」

空を仰ぎ、金糸のようなブロンド髪をなびかせながら、ヴァイオレット・グランチェスターはうっとりと呟いた。

ここは、王都の中心にそびえ立つセレスティア魔導学院の庭園。学園一の花畑スポットであるにもかかわらず、今日もそこには人影がない。

理由は簡単、ヴァイオレット様がいるからである。

彼女の姿を見かけた学生たちは、小声で囁き合いながら距離を取る。

「ほら、あれが悪名高いグランチェスター嬢よ」

「また誰かに決闘を申し込んだって話、ほんと?」

「いやいや、今朝は『あなたはわたくしの敵ですわ!』って空気に言ってたらしいぞ…」

──うわさは風に乗って三倍速で広がる。が、その本人はといえば。

「今日もわたくし、完璧でしたわ……はぁ、世界征服ってどのあたりから始めるのがよろしいのかしら?」

と、全力の笑顔で紅茶を注いでいる。

が、彼女が世界を征服しようと“考えている”わけではない。

実際は「紅茶を美味しく飲める場所を確保したい」→「花畑を占拠」→「あれ?これって支配……?」→「そうですわ、わたくしは悪役令嬢でしたわ!」という脳内連想ゲームの果てに到達しているだけである。

天然とは時に、世界を滅ぼすよりも手に負えないのだ。


【2】

「……で、何してるの?」

背後からかかった冷静な声に、ヴァイオレットはぱっと振り返った。

「まあアリア!おはようでございますわ!今日は良いお天気ですわね、世界征服日和ですの!」

「その単語を爽やかに言うんじゃない」

登場したのは、氷の姫と称される美少女──アリア・レフィーナ。

すらりと伸びた黒髪と紫紺の瞳が印象的な、理知的な佇まいの少女だ。

彼女はヴァイオレットの“監視役”として、王家から密かに派遣されていた。

……が、今ではもう完全に“保護者”と化している。

「それで、何をまたやらかしたの?」

「やらかしただなんて。わたくし、ただ図書塔に足を運びましてよ?封印された地下階に入って、うっかり転んで、謎の本に手を置いたら、すごくキラキラした魔方陣が──」

「それ、100人中100人が“やらかした”って言う案件だよね!?」

アリアは手で額を押さえた。

「もしかして、その本って……黒い表紙に銀の鍵模様とか?」

「まあ、よくご存じで!」

「──それ、封印魔導書ラクリモーサ・コード! 国家指定の危険魔導書のひとつなんだけど!?なぜあなたがそんなもん契約してるの!?」

「ええ、あの子、可愛い声で『お前かよ……』って言いましたのよ?わたくし、思わず母性本能くすぐられてしまって」

「思考が飛躍しすぎて、もはやワープしてる」


【3】

と、その時だった。

ヴァイオレットの後ろから、ふわりと何かが浮かび上がった。

「……まったく、起こすなっつったのに。もうちょっと寝かせろってんだよ」

宙に浮いていたのは、銀髪の少年の姿をした小さな存在。

眠たげな目、つまらなそうな表情、そして足を組みながらふわふわ浮くその姿。

「この子が、ラクリモーサ・コードの精霊、ミル=インクスですの!」

「紹介しないでいいから!なにこの状況!?あんたが封印解いたのって、昨日の話だよね!?なんでもう仲良くなってるの!?」

「だって、お菓子を分けましたのよ?」

「……お前、令嬢じゃなくて野良猫の保護者か何かか?」

アリアは崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。


【4】

その後、ヴァイオレットが「世界征服の日誌」を書いていたことが判明し(内容はすべて“ティータイムの場所リスト”)、アリアがため息三回分説教し、ミルが「俺、選ばれし精霊だったよな……?」と遠い目をしたところで、この日の事件は幕を閉じた。

だがその影で、魔導書の光を探知した”影の組織《クレパスの影》”が、ひそかに動き始めていたことを、誰も知らなかった。


次回、ヴァイオレット様がまたやらかす。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ