襲撃1
康介がなんとなくかざした手のひら。
つられるように皆が覗き込んだところへ突然、火が出現したからたまらない。
どよめきのなか、最前列にいた蒼真、希、真一、百花は思わずあとずさりしようとしたが、後列にいるスカウト達がさらにどよめきながら前のめりになったため、結果的に火との距離は縮まってしまった。
「あっつ!」「ちょ・・・皆下がって!あっつい!」「前髪焼けるっつの!」
「康介、お前熱くないのか?」
「あ・・・あぁ・・・熱く・・・・ない・・・・」
呆然としながら、他人事のように自分の手のひらの上で燃え続ける火を眺める康介。
(なんだこれ、すげー・・・いわゆるスキルってやつか?)
ドキドキしながら見つめ続けていると、希が話しかける。
「ねーねー、消すのはどうやるの?」
(たしかに・・・消火のイメージで消えるのかな?これ・・・)
火が消えるイメージを強く念じてみたところ、すんなりと消えてくれた。
おおおお・・・・
ざわざわとする中、康介は点けたり消したりを繰り返してみる。
「オーケー、コツが分かったような気がする」
皆が前に乗り出してきた。なんだかんだ言っても興味津々なのだ。
「まず、選ぶ技能章を念じるんだ」
技能章を持っている全てのスカウト達がフンフン頷く。
「そうするとボヤっと出来そうな技が脳裏に浮かんでくる」
フンフ・・・ン?
「それをつかめたら、ググっと気持ちを込めて、ブワッと吐き出す感じでイメージすると、ボッと火がつい・・・・・・あいたっ!いてっ!ちょっ!なんで!」
皆、一斉に康介をどつきまわす。
とは言え、感覚的なものでしかないものを説明するのは実際難しいだろう。
「はぁ・・・仕方ねぇなぁ。自分でコツをつかむ以外ないか」
頭をポリポリ掻きながら、蒼真が目をつぶる。
自分の持つ技能章・・・今の自分に必要なスキル・・・守りたいのは仲間・・・
思考を深く落としていく。
蒼真は周りの音が聞こえなくなってくるほどに集中していく。
脳裏の奥にキラッと光る、閃光のようなものを掴んだ。
光が大きくなる・・・大きくなるようにイメージする・・・
突然、イメージに文字が浮かぶ。
-『戦略の眼』-
びっくりして目を開けるが、蒼真の視野には周囲の地形が詳細に浮かび上がるように見えた。
まるで脳内に立体的な地図が描かれていくような感覚が広がる。
「うぉっ!?なんだこれ!」
慌てふためく蒼真だが、まわりからすると「??」である。
なにせ見えているのは蒼真だけなのだから。
「これが・・・スキル?」
蒼真は驚きながらもすぐに冷静さを取り戻し、自分に起きたことを説明した。
「蒼真さん、これってどういうことでしょう?」
百花が不思議そうな表情で質問をしてくる。
「ん?なにが?」
「いや、さっきの康介の時は、野営章がかすかに光っていたんです。でも、いまの上班の場合、上級班長章、リーダーシップ章、読図章の三つが光ってます」
「ほんとだ・・・技能章の組み合わせっぽいようだが、上班章も光っているとなると、こりゃ蒼真さんのユニークスキルかもしれませんね」
「ユニークスキル?」
「はい、その人独自のスキルという意味です。上班章が関係しているとなるとそういうことになるかなぁと」
「なるほど・・・」
蒼真はしばらく考えていたが、ほどなくして皆に指示を出し始めた。
「技能章が、なにかしらのスキルと呼ばれる特殊な技を発現させる、ということはわかった。検証は引き続きやっていく必要があるが、まずは今夜の安全を確保しよう。そこでウンウンうなってる数名・・・いったん中止してこっちにきてくれ」
真一、百花をはじめとする技能章持ちのスカウト達は、発動しないスキルにがっくりしたように集まってくる。
「各班長、次長はちょっとこっちに来てくれ。希さんもおねがい」
蒼真は、康介・聡・真一・悠平・百花・さくら、それぞれの班長と次長を集めた。
「もしかして、初級の子たちのこと?」
希が質問する。
「はい。いま我々はスキルのことで浮足立っています。でも初級スカウトの子たちは技能章を持っていない」
「あっ・・・」皆、ハッとしたように息をのむ。
「それにイーグル班の小鳥遊くんは、2級になりたてでやはり技能章を持っていない。
これが彼らにとってどれだけの失望感になるか、想像してほしいんだ。」
「たしかに、そうですね。軽率だったかもしれません」
しょぼんと項垂れたのは真一だった。
「いや、責めてるわけじゃないんだ。現に俺もスキルが発動したときは興奮が抑えられなかった。ただ、それと同時に彼ら技能章を持たないスカウト達の寂しそうな顔が見えたんだ。」
「わかりました。私の反省しなきゃ・・・班員の気持ちをまとめるのが班長なのにね」
苦笑いして百花は自分の頭をこつんと叩いた。
「うん、俺たちは仲間だ。誰一人欠けることなく元の世界に戻る方法を探らなきゃ。ね」
そう締めくくると、蒼真は皆を解散させた。
班長達は、自分の班に戻るとそれぞれの言葉で皆のフォローを始めている。
蒼真は満足そうにそれを眺めていた。
「やるじゃん」
希が肘でツンツンすると、
「あ、いや、たまたま気づいたんですよ。たまたま」
「良い上班だよ、キミは。自信をもって!」
「ありがとう、希さん」
蒼真はそう言うと、もう一度『戦略の眼』を発動させた。
丁寧に観ると、一定の距離以上は分からないようだ。だが、地形からすると各班のサイトは一緒に転移したように見える。
ここから班サイトまでの概算距離から推定すると、半径1キロ程度は分かるらしい。
(このスキルは地形がわかるだけなんだろうか・・・野生動物などに襲われる心配はないだろうか・・・そういう表示ができればいいんだけど)
蒼真は意識をスカウト達に合わせてみた。すると地形上の広場にあたるところに青い点が浮かび上がる。光点の数も20。
次に、この広場の外周に意識を向けた。
「!!っ・・・」
このキャンプサイトから推定500メートル、地図の上を仮に北とした場合、北東方向に赤い点が3つ表示され、すこしずつこちらに近づいてきている。
地図全体も、赤く明滅しているようだった。
蒼真は直感で「危険」と判断した。
「全員!緊急事態だ!」
緊張感がこもる声に、全員が一斉に蒼真を見る。
「正体不明の生き物と思われるものがこちらに近づいているようだ。方角はこっち。康介、急いでキャンプファイヤーの薪に火をつけて大きく燃やしてくれ。野生動物なら近づきにくくくなるかもしれない」
「了解です!」康介はすぐさま、班員に声をかけて作業に入った。
ここは地形的に高台にあるようで、急な斜面を登る必要があり赤い点の移動速度は極端に遅い。
しかし、確実にこちらを認識したように向かってきていた。
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