異世界
ようやく舞台へ上がってくれた感じです
静寂だった・・・
かすかに遠くで虫が鳴く声がする・・・
だが、聴いたことのない音色・・・
あれ?いま何時だ?
康介はぼんやりと考えながら意識を取り戻していった・・・
「!? そうだ! みんなは!?」
ふと我に返った康介が体を起こすと、そこはさっきまでの風が嘘のようにおさまった広場だった。キャンプファイヤー用に組まれた井桁の薪は崩れてしまっていた。
どのくらい時間が経ったか分からないが、日が落ちて暗くなっている。
ただ月の光のおかげか、かなり明るいためライトを照らす必要もなさそうだった。
「月夜か・・・え!?今夜月出てたっけ?」
そう、たしか月齢は1にもなっていなかったはずだ。
キャンプに行く前に調べたのだから間違いない。
なのにこんなに明るいなんて・・・
ガバッと上を見上げた康介は、息をのんだ。そして動けなかった。
「ぁ・・・」
声にならなかった。
その時、あちこちから声が上がり始めた。
気絶していたスカウト達が、気づき始めたようだった。
康介は、ハッとしてみんなの方へ意識を向けた。
優先順位。まずは皆の安全確認が先だ!
「おい!真一!百花!気が付いていたら返事しろ!」
「隊付!上班!」
声をかけながら動いて回る
明るいとはいっても、夜は夜だ。
仰向けならまだしも、うつぶせになっているスカウト達が、誰が誰だか判別がすぐにつくわけでもない。
「康介!イーグル班は全員いるようだ!まだみんな気を失っているが」
そう声がした方を向くと、次長の鴇谷 聡がこちらに手を振っていた。
「聡!無事だったか! じゃあすまんがイーグル班の面倒、まかせていいか?上班も隊付も意識がないままなんだ。」
「あいよ!まかせな。」
康介はまず上級班長の北見蒼真、隊付の吉岡希の姿を探した。
あの光の暴走の瞬間、二人は薪のそばに居たはずだが、近くには見当たらない。
この広場はそこまで広くはないはずだが、明るいとはいえ夜であること、そしてところどころに生えている木の陰で見づらいところがあるなど、困難な要素はたくさんあった。
ふと、ズボンのポケットに入れていたヘッドランプの存在を思い出した。
ポケットから出すのももどかしく、急いで頭部に装着する。
(焦っているな・・・おれ・・・こういうときほど落ち着けって、蒼真さんも希さんも言ってたな・・・)
康介は二人の先輩から聞かされていたことを思い出し、深呼吸をして気持ちを整えた。
もっとも、蒼真・希も隊長たちから言われたことを、偉そうに康介に言ったに過ぎないのだが。
落ち着くついでに、先ほどの空をもう一度見上げてみたが、雲がかかってしまっていて再確認できなかった。
ほどなくして本部テント付近に倒れている二人を発見した康介は、揺り起こそうとしてとどまった。
(こういう時って救急法になんか手順があったよな・・・ああ、もう、こんなことなら救急章をきちんと取っておけばよかった・・・)
とりあえず、揺り動かすことはせず手首を取って脈を診てみた。まあそのくらいはできる。
問題なさそうだ。つぎに顔を近づけて呼吸をみた・・・大丈夫だそうだ。呼吸している。
希の顔に近づいたときは、ちょっとドキドキして、周りをきょろきょろしてしまった康介だった。
二人の肩を軽く揺すって声をかけてみた。
「隊付!上班!起きてください!蒼真さん!希さん!」
2~3回ほど揺すったところで反応があった!
「ん・・・いったい何があった・・・」
「何なのよもう・・・」
意識もはっきりしているようだ。ホッとしたのも束の間、康介は二人に話しかけた。
「起きてください!変なことになっています!」
二人に広場の中心に集まってほしいことを伝えて、他班の状況を見に走り出した。
ちらほら、起き上がり始めたスカウトがいるようである。
「真一!百花!いるか!? いたら返事しろ!」
「いるわよ!いったい何が起きたのよ、もう・・・」
「ここにいるぜ。えらい目にあった・・・」
二人はぶつぶつ言いながらも、康介のそばに寄っていった。
「無事でよかった!班員は揃っているか?」
「オオカミは、いま次長の悠平に点呼を取らせてるが、概ね大丈夫そうだ」
「コブラもそうね。次長のさくらが良く動いてくれてる」
「オーケー、いまのうちに全員を広場の中心に集めてくれるか?上班と隊付も来るから総点呼をとろう」
「「了解」」
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全員が揃うのに時間はかからなかった。
各班それぞれに統率ができている。
ざわざわと不安な表情を浮かべるスカウト達をみると、自分も不安で泣きそうになってくる。
康介は、そんな気持ちを振り払うと上級班長に報告した。
「イーグル班、全員揃っています。」
つづけてオオカミ班、コブラ班から無事の報告があった。
「よし、みんな小さく輪になって座ってくれ」
上級班長の蒼真は、そう言って本部テントから持ち出してきたオイルランタンに火を灯した。
不思議なもので、火の有無一つで安心感が違ってくる。
「現在の状況がよくわからない。むやみに動くのもまずいと思うが、何か気づいたスカウトはいるか?些細なことでもなんでもいい。」
蒼真がそう皆に問いかけたが、皆それぞれに気が付いたばかりで情報がない。
わずかな沈黙があったが、康介が手を挙げた。
「突拍子もないことかもしれませんが、笑わずに聞いてください。根拠もあります」
「うん、もちろんだ」
康介は、少し逡巡したのち意を決したように言った。
「ここ、地球じゃないかもしれません」
ここまで読んでいただきありがとうございます。