発動
ちょっとだけ短いですがキリがいいので・・・
食事を終え、片付けまで済ませたイーグル班、オオカミ班、コブラ班は、18時56分に広場に整列を完了した。
「イーグル班、全員揃いました」
「オオカミ班、全員揃いました」
「コブラ班、全員揃いました」
班長は班員がそろっていることを確認すると、上級班長にそれぞれ報告をする。
「よし、いま隊長たちは資材の受け取りでこの下の駐車場に行っている。30分後にはキャンプファイヤーを実施するので、各班の出し物の最終確認をすること。あと今のうちにトイレにも行っておいた方がいいぞ。19時25分までには、あそこの広場の入り口に整列しておくこと。その際、懐中電灯やヘッドランプは点けないこと。以上、わかれ!」
蒼真がそう発言して、手をカタカナのハの字に見える解散のハンドサインをすると、
スカウト達は敬礼をして各班ごとに集まっていった。
このキャンプファイヤーの点火役は、蒼真と希である。
二人は点火用の松明の確認と、広場の中央に井桁に組まれた薪の確認をした。
予定の時間は1時間。
隊長たちの話によれば、キャンプファイヤーの薪の量にもコツがあるらしい。
点火したばかりの時は少しずつ燃え広がり、歌やゲームを交えて徐々に盛り上がっていく。
その盛り上がりの頂点を前後として、各班の出し物がある。
出し物はボーイスカウトではスタンツと呼ばれ、アクションを伴う歌や即興劇などを行う。
これは、協力してひとつの表現を創り上げるという意味もあり、簡単な打ち合わせだけの即興劇などで自己表現力を養うという意味もあるらしい。
蒼真はこの即興劇が割と好きだった。
アドリブが必要だが、思いがけない笑いが発生するため演っていても観ていても楽しいのだ。
今回、上班・隊付の2名でも出し物をする予定だ。
演目は「指導者モノマネ」
はずすと痛いが、たぶんスカウト達には大うけするに違いないとほくそ笑んでいた。
ふと周りを見渡すと、三つの班はそれぞれ距離を置いて広場の周辺にいた。
そして他班に聞こえないように小さな声で最終段取りの確認をしている。
19時を過ぎた今、辺りは夏の夕暮れ時を迎えようとしていた。
まだ明るいものの、ひぐらしの鳴き声が透き通るように聞こえてくる。
そして昼間とは違う、涼しい風が頬をなでる。
希は、夏のこの時間帯が気に入っていた。
そして、普段の生活で味わうこの時間帯より、ボーイスカウトの仲間たちと一緒に過ごすこの雰囲気と、セットで味わう瞬間を何より好んでいた。
「ね、蒼真。あと5分くらいしたら整列させようか。隊長たちが戻ってくるまでに整えておきたいかな。」
「そうですね。あ、希さん。念のためもう一回、点火までの流れと着火ポイントの確認をしておきたいんですが、良いですか?」
「オッケー♪ じゃあ、ちゃちゃっと終わらせようか」
二人は井桁に組まれたキャンプファイヤーの薪組に近づいた。
そこで、あることに気づく。
「!?希さん、この薪の周り、わずかに風が回っていませんか?」
「・・・そうね、たしかに・・・」
「なんか竜巻の始まりのようなかんじの回り方ですけど」
「薪組を中心に回っているわね・・・」
すぐおさまるだろうけどね、と二人で話していると、希があるものを見つけた。
「ちょっと、蒼真・・・薪組の中を見てみて。なんか小さく光ってない?」
「光?あれ、ほんとだ。蛍でもまぎれたかな?」
「いやぁ・・・もう8月だよ?さすがにないんじゃない?」
「なんだろ・・・さっきまで無かったのにな」
蒼真は薪の隙間に手を入れて確認しようとしゃがんだ瞬間。
突如、それは起きた。
-光の洪水-
そう言い表せられるほどの光と色の氾濫。
それぞれの班も異変に気付き、驚きの表情でこちらを振り返っている。
続いて風が来た・・・
薪を囲むようにグルグル回る風。
広場を囲むように回る風。
足元の枯葉や小枝が舞い上がっていく・・・
そして誰も気づいていなかったが、キャンプ場全体をも風が取り巻いていた。
「みんな!きをつけ・・・」
風の音でかき消され、誰も聞こえていないようだった。
希は、最初は驚いて蒼真の腕にしがみついていたが、すぐさま立て直し皆に指示を出す。
「各班!上班の近くにあつまれ!手をつないでバラバラになるな!」
蒼真と違い、ふしぎと良く通る声が響いた。
(こっちにあつまったら危ないんじゃ・・・)
そう思った蒼真だったが、いつのまにか中心だった薪の周りの風は止み、光だけになっていた。
むしろ、外周部分の方が風が強い。
(さすが希さん・・・よく見ている。こういうとこ見習わなきゃ)
皆が少しずつ集まり始めた。
「上班!全班あつまりましたよ! なんなんですかこれ!?」
近づいた康介が、蒼真の耳元で叫ぶ。
「俺もわけわからん! とにかく何があるかわからんから初級スカウト達はひと固まりにして、2級はそれを守れ!康介!頼めるか!?」
「了解!」今度は康介がスカウト達に指示を出していく。
それを見た蒼真は、風の壁の外に目を向けた。
すると、遠くから隊長たち3人がこちらに駆け寄ってくる姿が目に入った。
隊長たちが来てくれた!
ホッとする蒼真だったが、おかしなことに気づく。
風の壁の向こう側に見える三人は、動きがスローモーションなのだ。
それも少しずつ遅くなっていく。
北見副長は目を見開いて走りながらこちらに手をのばそうとしていたが、それとて超スローモーションとなって、蒼真たちの目に映っていた。
「オヤジっ!・・・」
反射的に手を伸ばそうとしたその瞬間。
光が弾けた。
キャンプファイヤーの世界は奥が深いのですよ(笑)後片付けが大変ですけどねw