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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第三章 カメラとゴーストと教会と

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第94話 うん、ごめん。それも俺だ

 セシリアとルークを見送り、コリーとも別れたランディ達は、アナベルを送るために通りを歩いていた。王都のメインストリートとも言える大通りは、今日も大盛況だ。


 そんな中でも一際人気なのが、新しくオープンした店舗だろう。


「写真館……結構な賑わいですね」


 目の端に映った人波に、「だな」とランディも頷いた。


 フィルムの希少性から、どうしてもカメラのメインターゲットは高位貴族もしくは豪商といった金持ちがメインだ。だが、それでも何とか庶民に楽しんで貰おうというランディの発案で、写真館をオープンする事にしたのだ。


 今後セシリアの領で、ヴァリオンの飼育や、コリーの研究で生きたヴァリオンから定期的に液が手に入るようになれば、フィルムの価格を下げる事が出来るだろう。


 それまでは、庶民向けに写真館で家族撮影などを楽しんで貰おうというわけだ。


 もちろん、フィルムが出回れば写真館は大判フィルムを使ったダイナミックな写真や、貸衣装を使った非日常の写真を提供するように方針を変えればいい。現代日本でも、有名な商売スタイルだ。


 既にその辺りもセドリックの指揮で進んでいるので、ランディとしてはもうノータッチでも構わない状況である。


「こ、今度……私もお父様とお母様と撮りに行くんです」


 嬉しそうなアナベルに、ランディがカメラとフィルムを融通しようか、と問いかけるも彼女は黙って首を振った。


「お、お気持ちだけ……。贈り物や贅沢が心の隙になりますから」


 はにかむアナベルに、「なるほど」とランディも感心して頷いた。根っからの聖人とは、アナベルやその両親の事を言うのだろう。これでは誰が聖女か分からない、とランディが「そう言えば……」と手を打った。


「さっきは触れなかったが、結局キャサリンはどうなったんだ?」


 あの日ハリスンに送らせてから後、キャサリンの話はとんと聞いていない。先ほど話題に上がったのは、今後の彼女や責任の所在だけで、今のキャサリンが何をしているか、などの話は上がらなかった。


 ランディの疑問に「確かに、あれ以降耳にしませんね」とリズも思い出したようにアナベルに視線を向けた。


「キャサリン様ですか?」


 小首を傾げたアナベルが、キャサリンが毎日大聖堂の地下に教会騎士と王国騎士を引き連れて潜っている事を教えてくれた。


「んだそりゃ? 元気、って事か?」

「多分?」


 顔を見合わせ首をかしげる二人に、「毎日ボロボロになって帰ってきてますけど」と苦笑いを浮かべた。


「な、何でも大聖堂の地下にダンジョンが隠されてたみたいで……」


 そう切り出したアナベルが言うのは、教皇を捕まえる際に、王国騎士が大聖堂を隈なく捜査した結果、地下へ続く階段と、その先に広がる巨大なダンジョンを見つけたらしいのだ。


 流石に大聖堂自体は教会の私物であり、その真下に続く謎のダンジョンに、国としても手が出すことが出来ない。大聖堂こそ王都にあるが、教会自体はまだ大陸全土に影響力を与える組織である事に変わりはないのだ。


 だがダンジョン内部に、他の証拠が隠されていないとも限らない。そこで白羽の矢が立ったのが聖女キャサリンである。王国騎士と教会騎士の合同チームに聖女を入れる事で、他の教会から突っ込みが入らないようにしているらしい。


「なるほど。体のいい旗印ってやつか」


 相変わらず利用されているようだが、アナベル曰く「地力をつけるんだ」とキャサリン自身は毎日やる気に満ちているそうなので、それ以上ランディが何も言う事はない。


 与えられた役目とは言え、キャサリンがそれに意義を見出して進んでいるなら、それは彼女にとって立派な一歩だろう。


「にしても、まだ一応聖女って肩書はあるんだな」

「な、何だかんだで、聖女様として地道な活動もしてましたから」


 言いにくそうに口を開いたアナベルに、ランディとリズは驚いた表情で、顔を見合わせた。まさかあのキャサリンが聖女として活動していたとは。


 もちろん本人は、ゲームイベントを消化していただけだが、そんな事を知っている人間などいない。


 当時は自分本位の理由、つまり偽善ではあるが、それを受けた人間が良しとしたら、それは立派な善だったのだろう。


 何だかんだで、彼女の中にも残っている物はあったようだ、とランディが何故か少しだけ安堵のため息をついた時、隣でリズも同じ様にため息をついていた。


 思わず視線があった二人が、どちらともなく笑った。やはり二人共似た者同士だ。


 口ではアレコレ言いつつも、これから訪れるだろうキャサリンにとっての、本当の試練を心配していた節があった。今まで好き勝手してきたツケは、必ず回ってくる。それでも今の彼女なら乗り越えられるのだろう。


「地力をつけるか……いいんじゃねーか」


「はい。それにしても、教会の地下ですか……」


 呟いたリズが「確か杖が――」と続けた言葉にランディも思い出した。


 教会の地下。

 大神殿。

 ダンジョン。

 杖


 ……その四つのワードがランディの中で繋がる。


(そのダンジョンって……アレか? アレだよな)


 リズとエリーが持つ、万象律の杖(エレクシオン)。それがあった場所だろう。



「まあ、良く分からんが、元気なら良いんじゃねーか? 俺達が心配する事でもねーだろ」

「そうですね」

「はい」


 そう結論付けた三人の前に、アナベルの家が見えてきた。


「こ、ここまでで結構です」

「じゃあまた新学期にな」

「アナベル様、ご自愛ください」


 手を振るアナベルを見送った二人も、「俺達も帰るか」と借家へ向けて歩きだした。


「収穫祭以来のヴィクトールだな」

「皆さん元気だといいのですが」

「あー。土産を買わねーとだな」

「シュガースター・パフじゃな」

「お前、そればっかな」


 笑い声の絶えない三人の姿が人混みへと消えていった――





 ☆☆☆




 賑わう城下を、自室から見下ろしていたエドガーは大きくため息をついていた。


「接触禁止令か……」


 呟いたエドガーの背中に、「我々も接触禁止です」とダリオが呟いた。


「洗脳されていたのが解けたのに、接触禁止っておかしいよな」


 ため息をつくアーサーに、「それなんだが」とダリオが言いにくそうに口を開いた。


「キャシーが傾国の魔女って呼ばれていたの知ってるか?」


 ダリオの言葉にエドガーとアーサーが首を振った。


 重鎮の子息を虜にするキャサリンが、影で傾国の魔女と呼ばれていた事。そして事実……


「殿下も俺も、キャシー……いやエヴァンス嬢とつるんでから婚約者を失ってるし……」


 肩を落としたダリオに、「確かに」と二人が頷いた。何とも自分本位で子供らしい現実逃避だが、残念ながらこの場にそれを咎められる人間がいない。


 ランディからしたら、「その選択をしたのはお前らで、責任はお前らにしかない」と言った所だが、この三人にそれを言えるのはそれぞれの親くらいのものだろう。


 それを指摘する相手がいないというのは、彼らにとって不幸だったのかもしれない。いや、もしかしたらここで彼らがキャサリンを見捨てず、彼女に寄り添えば、キャサリンだけは応えてくれたかもしれない。


 だが彼らが選んだのは……


「私は教会に良いように利用され、ハニートラップに引っかかって婚約者を糾弾した間抜けな男、というわけだな」


 ……被害者という生温い立場だ。


 自嘲気味に笑い被害者ぶるエドガーに、ダリオもアーサーも「悪いのは利用した奴だ」としか言わない。


 ここでランディやルークのように「そうだ。お前は大馬鹿野郎だ」とか、「エリザベスを信じなかったお前が一番悪い」などと、嘘偽りなく、相手の間違いを正せる友人がいたら、エドガーは先に進めていたのかもしれない。


 だが……結局彼らの中で自分達は騙された可哀想な男……という情けない被害者意識だけが残る事になった。


「私は許されるのだろうか」


 そうしてエドガーが陥ったのは、完全に悲劇のヒーローの思考である。


 悲劇のヒーロー気取りの男が許される事などない。相手の気持ちを慮る事もせず、自分が許されるかどうかの心配など、ランディが聞けば鼻で笑われるだろう。


 それすら分からぬまま、己が間違いすら分からぬまま「ごめんなさい」を言って、誰が受け入れるだろうか。


 そんな事も分からない、被害者意識を持ったエドガーが、今後起こすことを今はまだ誰も知らない。





 ☆☆☆





 エドガー達がナヨナヨし、ランディ達が楽しく帰省の準備に勤しんでいる頃、キャサリンはと言うと……


「や、やったわ……ようやくオークジェネラルのアンデッドを倒せたわ……」


 ……負傷した自分の治療もそぞろに、怪我に呻く騎士たちへ、必死で回復魔法をかけていた。


「こ、これが現実の痛みってこと? ゲームじゃない世界…上等よ」


 はしゃいだランディのせいで生み出された、オークジェネラルのアンデッド。地力をつけたいキャサリンを、ここ数日阻み続けた思わぬ強敵は、連れてきた騎士たちを殆ど戦闘不能にするという凶悪な存在であった。


 それでも何度も一緒に挑み続ければ、拙かった連携もマシになると言うものだ。


 キャサリンのバフと回復魔法。

 壁の役割りを果たす騎士たち。

 神聖魔法を駆使し、オークジェネラルにトドメを刺した教会騎士。


 全員が一致団結し、何とかオークジェネラルのアンデッドを撃退し、道を拓いたのだ。


 騎士たちは様々な証拠を探しているが、キャサリンが目指しているのは、レベルアップと、聖女最強の武器である【呪われた杖】だ。


(ゲームじゃないけど、その知識が利用できる場所は利用する。アタシに今必要なのは歩くための地力だもの)


 逸る気持ちを抑えきれない、キャサリンの足が速くなる。


 既に雑魚しか残っていないダンジョンを一気に踏破し、キャサリンが駆け足気味で中庭へと向かう。疲労困憊で足は縺れるが、それすら構わぬと全力で駆ける。


 遅れる騎士たちを振り切り、背後から聞こえる「聖女様、独りで行くなって」という不躾な声を無視しつつ、中庭にたどり着いたキャサリン……


「え?」


 ……の口から、盛大な疑問符がこぼれおちた。


 あるはずの杖がなく。

 何かがえぐり取られたようなクレーター。

 その脇に散らばる割れたガラス片。


 そして……


「リッチの衣、ですかね?」


 ……遅れてきた騎士が拾い上げた独特の黒い衣は、高位アンデッドであるリッチが纏っているそれだ。


「我々が駆けつける前に、リッチを倒されたのですか?」

「え? ええ? ええ」


 ただ「え」と答えただけなのだが、その場の全員が「流石聖女様」と何故かキャサリンの功績として称えられていた。ここ数日のダンジョンアタックで、死線をくぐり抜けた彼らは、キャサリンへの評価を少しずつ見直している。


「へぇ。意外にやるじゃん」


 そんな事を呟く騎士は、調査隊の中でも一番年若い教会騎士だ。聞く所によると、元々キャサリンの卒業後には、聖女の任務に同行予定の騎士だったらしい。


「もう終わりだよね?」


 若い騎士が、今も呆けるキャサリンの肩を叩いて踵を返した。


「ほら。早く帰るよ、聖女様」


 手を引かれるキャサリンは「え? ええ」とまたもや「え」だけを繰り返していた。









「エリザベスぅぅぅぅぅぅ。じゃない、あのデカ男ぉぉぉぉおおおお! 絶対あいつだわ!」


 その夜キャサリンは、自宅のベッドで枕を思い切り殴りつけた事は言うまでもない。








 ※これにて第三章および第一部は終了です。

 ブクマや評価、感想もありがとうございます。この場を借りて重ねてお礼申し上げます。


 皆様の応援が、日々執筆の活力となっております。

 この機会にまだブクマされてない方や、評価をしてないよ、という方はブクマや評価をしていただけると幸いです。


 ここ数話の展開で、ご納得頂けない事も多々あったかと思います。ですが、彼らが進む道を今後も見守っていただければと思います。


 至らない作者ではございますが、ぜひこれからも彼らの冒険を楽しんでいただければ幸いです。やはり読み続けて頂ける事が一番の喜びですから。


 それでは四章(第二部)をお待ち下さい。※幕間と断章を挟みます。

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