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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第三章 カメラとゴーストと教会と

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第87話 自分より怒る奴がいると、結構冷静になれる

「ブラウベルグ侯爵および、ハイランド公国子爵家令息殿、その従者――」


 長々とランディ達の紹介が響き渡り、ようやくルークの紹介まで終わった頃「入られます!」と門を守っている騎士二人が、ゆっくりとその扉を開いた。


 ゆっくりと開かれた扉の先は、国会のような議場であった。


(謁見の間でやると思ったが)


 視線だけを彷徨わせるランディの瞳には、階段状になった長机とそれと向き合うように置かれた大きな机が映っている。議員の座る席と、議長席だろうか。コンパクトな国会本会議場といった雰囲気の議場には、ランディ達を待っていたように二人の人物がいる。


 議長席に座るのは間違いなく国王なのだろう。頭に乗せられた王冠は、ランディからしたら威厳よりも見栄にしか見えない。そして国王の隣に法務卿――リズが囁いて教えてくれた――が立っている。


 議長席の前まで案内された五人が、ひとまず片膝をついた。臣下の礼としても他国の王族への挨拶とも、どちらでも通用する汎用的な礼だ。


 事前に謁見などの最敬礼を取る必要はないと言われているが、一応筋を通した形である。


「全員楽にしてくれて構わない。エイベル卿――」


 ジェラルドの言葉で法務卿エイベルが、全員を議場の最前列の席へと案内した。本来なら選ばれた議員のみが座ることを許される席だが、今日ばかりは特別措置だ。なんせ膝をついたままでは、対話もままならないのだ。


 全員が席についたことで「さて……」と国王ジェラルドが本題を切り出した。


 内容は……まあ予想通りだ。


 木曜の夜中に、王太子とその学友が旧校舎で襲撃にあった。

 その時、一人の学生が刺客を手引したと思われる発言をしていた。

 加えて当日同じ時間帯に、ここにいる四人――侯爵除く――が同じ学園の敷地内にいた。


「この事実に相違ないな――」


 若干声が上ずる国王に、「はい」とランディが代表して頷いた。事実として、あの場にいた事は確かで、クリスが刺客を手引した事も間違いないのだ。


 ランディが躊躇いなく頷いた事で、国王側も「そうか……」と微妙な反応で頷いた。予定していなかったルシアンが同席していることで、国王としてもこの後の流れが全く読めていないのだろう。


「ならば……」


 俯く国王が言葉を探す。どう切り出して良いのか分からない、そんな雰囲気の国王だが、意を決したように大きく息を吐き出した。


「ルシアン侯よ……何が望みだ?」


 事ここに至って、覚悟を決めたと言わんばかりの国王に、ランディとルシアンがほぼ同時に口角を上げた。何だかんだで大国を治めている王なだけある。負け戦なのを確信して早々に白旗をあげた行為は、ランディにとってジェラルドの評価をわずかに上げた。


「陛下……何処まで掴んで居られますか?」


 初めて口を開いたルシアンに、国王がため息混じりに彼らが掴んでいる事実を並べだした。


 クリスが暗殺者を手引したこと。

 暗殺者の狙いが、リズやランディであったこと。

 闇ギルドのアジトが壊滅させられたこと。

 クリスの行方が分かっていないこと。


 そして国王が最後に口にしたのは……教会も闇ギルドを利用した形跡があったという事実だ。


「クリス・ロウは、元々教会が運営する孤児院の出身だ。故に、教会と繋がっている可能性もゼロではないだろうが……」


 歯切れの悪い国王の言葉から、出来たら教会と繋がっていて欲しくない、という思いが透けている。


 教会が繋がっていなければ、ここにいる人間だけで何とか内々に済ませられるかもしれない、そう考えているのだろう。


 確かに国際問題だが、国王はランディ達が何度も襲撃を受けていた事はまだ知らない。たった一度の暗殺未遂なら、まだ賠償金や謝罪での解決が可能だろうと。


 だが現実はそう甘くはない。


「陛下。では我々が掴んでいる情報も明るみにしましょう」


 そう切り出したルシアンが話すのは、昨日聞いた内容だ。


 侯爵家がクリスを確保していること。

 クリスの証言が得られたこと。

 教会が王国内で内乱を画策していたこと。

 その混乱に乗じて、王家を廃して新たな国を興そうとしていたこと。


 並べられた驚愕の事実に、国王やエイベルも驚きを貼り付けた表情のまま固まっている。


「内乱……新たな帝国……」


 そう呟いた国王が、勢いよくエイベルを振り返った。


「わ、わわわわわ私は知りません!」


 もげそうな勢いで首を振るエイベルに、「本当だろうな」とジェラルドが殺気混じりの瞳で詰め寄った。


「陛下。エイベル卿の仰っている事は本当でしょう」


 ルシアンの助け舟に、エイベルが安堵のため息をつき、ジェラルドが再びルシアンへと視線を向けた。


「ルシアン侯よ……その話は本当であろうな。もし嘘なら――」

「国外にでも追放されますかな」


 殺気の籠もったルシアンの瞳に、ジェラルドが「うッ」と勢いをなくした。


「嘘かどうか、クリス・ロウに聞けばよろしいでしょう。必要であればお返ししますよ」


 堂々たるルシアンの態度に、ジェラルドが「だが……」と逡巡するように視線を下げた。


「我々が何かを吹き込んでいる。そうお考えですか?」


 ニヤリと笑ったルシアンに「いや――」と反射的に答えたジェラルドだが……その後に見せた苦い顔は、雄弁に彼の心情を物語っていた。


「確かに我々がクリス・ロウを先に確保した以上、陛下が誤情報に警戒するのも頷けます」


 一瞬だけ寄り添って見せたルシアンだが、「ですが、それに何の問題がありましょう?」と悪びれる様子もなくジェラルド達を突き放した。


 呆けるジェラルド達にルシアンが語るのは、千載一遇の好機だという事だ。教会による陰謀を明るみにし、共に教会勢力を叩き潰すことが出来る好機だと。


「こ、侯は…女神様に恨みでもあるのか?」


 わずかに震えるジェラルドの言葉を「まさか」とルシアンが鼻で笑い飛ばした。


「私は熱心な女神の信徒ですよ。女神様の教えは、実に素晴らしいと常々考えております。ただ――」

「ただ?」

「――女神様への感謝を、醜い豚に良いように使われるのが我慢ならないだけです」


 吐き捨てたルシアンの言葉に、ランディとルークが思わず口笛を鳴らした。わずかに響いたその場違いな音に、リズとセシリアがそれぞれを睨みつけた。


「私が敬うのは女神様であって、醜く肥え太った欲望の塊ではない。しかも一度ならず二度までも、我が娘を利用したのです。万死に値すると思いますが」


 鋭い視線に国王が思わずたじろいだ。それでも一度目は自分達は悪くない、と言いたげにルシアンを睨み返した。


「い、一度目は、侯の娘が――」

「それと何の関係がありますかな?」


 ジェラルドの言葉を鼻で笑い飛ばしたルシアンが続ける。


「今はそんな話をしていませんよ。教会が子どもの喧嘩に口を出した。それが事実で、今はそれだけが重要でしょう」


 ルシアンの言葉に、ジェラルドも渋々と頷くしか出来ない。実際ルシアンの言う通りであって、リズが悪かろうが、キャサリンやクリスが各々の目的でリズを嵌めようが、結局のところ教会が出張らなければあそこまでの大事にはならなかった事案だ。


 つまり一度目から教会は意図を持って、介入してきたと見ても問題ない。それが威厳を保つ為だけのものか、それに加えて内乱まで狙ったものなのか、は分からないが。


「ひとまず教会に意図があるのは分かった……。それで、ルシアン候。そんな話を持ってくるということは、あるのだろうな?」


「もちろんです」


 自信たっぷりに頷いたルシアンが、「ある、のではなく、作るのですが」と立ち上がって懐から数枚の紙を取り出した。


 それは恐らく既に研究機関に届けられているだろう、アナベルが記したゴーストに関する考察の資料だ。


 それをエイベル経由で手渡したルシアンが、再び席につきながら口を開いた。


「教会がひた隠してきた真実。それを持って我々は教会上層部を一掃するつもりです」


 資料に目を通すジェラルドが「こ、こんな……」と肩をワナワナと震わせている。今の今まで国民へ伝えられてきた内容とは全く違うのだ。そんな事実を利用し、教会の上層部は、無辜の市民から善意を巻き上げていた。それを許せる人間がどれだけいるだろうか。


「既に仕込みも始まっております。もちろんこれだけでも大打撃を与えられるでしょうが……」


「我々にも協力しろ、と?」


「協力……とまでは行きませんが」


 言葉を切ったルシアンが、ジェラルドに向けてニヤリと笑った。


「時が来た時は、今回の事実を陛下の名のもとに公開していただければ、と」


 非常に抽象的な指示だが、それはつまり「その時」は分かりやすいくらいにハッキリしている、という意味だ。だが国王の表情は優れない。それは彼らにとってのアキレス腱が残ったままだからだ。


「もちろん、クリス・ロウという手先をそのままにするのは問題がありましょう」


 その言葉に何度も頷くのはエイベルだ。今回の事件を教会のせいにするにしても、それの手先となって動いたクリスはロウ伯爵家の後継者だ。王国の重鎮の息子が、教会と共に国家転覆を図った。それはもう、ロウ一族全てが処断されるレベルの話である。


 だが、そうなってくると国王による真実の発表のインパクトにも関わってくる。なんせ教会の責任と、自国の責任も出てくる。


 その問題に頭を悩ます二人に、ルシアンが悪魔の如き囁きを……


「教会のせいにしてしまえば良いでしょう。精神操作魔法でもなんでも。クリス君は、教皇に操られていた、と」


 悪い顔で笑うルシアンに、ランディとルークは「ヒッ」と声を漏らしていた。最初に嘘をついて、リズを追い込んだ教会や王国への意趣返しだが、その嘘がたどり着く先が大きすぎる。


 完全に包囲網が敷かれた教会上層部。

 そしてこんな人物と敵対する羽目になった王家。


 ランディとルークの小さな悲鳴は、どちらに対してのものだろうか。


 だが国王もただでは転ばない。逡巡するように視線を落としていたジェラルドは、ルシアンへ悪い顔を見せた。


「それを飲むにあたって、一つだけ提案がある……」


 完全に為政者としての顔。それはなるほどルシアンをしても、入念な準備をしてあたらせたくなる、という老獪さをランディに感じさせていた。


「……真実を、王太子暗殺疑惑で進めさせてもらいたいのだが」


「なるほど……」


 頷いたルシアンがランディを見た。もちろんランディとて、国王が言いたいことくらい分かる。教会に操られたとするにしても、クリスが他国の貴族を狙ったというのは大問題だ。


 ランディが気にしないと言っても、公国政府がどう出るかは分からない。


 ならいっそ、〝教会が王太子を害し、国を乗っ取ろうとしていた〟そんな絵にしてしまえば良い。最初から他国の貴族は巻き込まれていなかった、と。


 つまりランディに注がれる視線は、当事者としてどうか、というものだ。だがランディとて、馬鹿ではない。それの背後に隠れる思惑くらい見て取れる。


 その思惑に今の今まで傍観者であったランディは、腹の底で小さな怒りが湧き上がってくるのを覚えている。


「聖女様が七不思議だなんだと言い出したのも、王太子殿下を旧校舎へと誘う口実とする、ですか?」


 ランディの言葉に、ジェラルドやエイベルが驚きの表情を見せた。まさかランディに、そこまで見抜かれているとは思わなかったのだろう。


「随分と都合のいい駒ですね。聖女とは」


 不快感を隠さないランディから、わずかな怒気が漏れる。別にキャサリンに対して、何の感慨もない。いやむしろリズを嵌めた事を思えば、嫌いな部類に入る人間だ。


 それでも彼女の思惑を利用した大人たちが、今度は彼女自身の立場と行動を利用しようというのだ。


 しかも我が身可愛さに、である。


「教会による王太子暗殺疑惑、好きにしたらいいでしょう。ただ貴方がたはまた少女を一人生贄に出しますか?」


 もう面倒だから、いっそこのまま叩き潰してしまおうか。そうランディが考え始めた時、隣に座っていたリズが「陛下」と声を上げた。


「発言の許可を頂いても?」


 ランディの発する異様な気配にあてられていたジェラルドが、「あ、ああ」と上ずった声をもらした。


「我が主は、キャサリン様の身を案じて居られます」


 リズの言葉に「いや、別に案じてまでは――」と我に返ったランディだが、それを無視してリズが続ける。


「教会による王太子暗殺疑惑。主も言うように好きになされたらいいです。ただし聖女キャサリン様への温情も与えていただけるなら……」


 キャサリンという存在の、一番の被害者であるリズが「温情」などと言うものだから、ランディも怒りの鉾を収めるしかない。正直リズだけは、キャサリンを「ぶっ殺してくれ」と言っても許される存在なのだ。


 そんな彼女が、キャサリンを心配して「温情を与えろ」と国王に直談判するのだ。


「いや、別に温情までは……」

「でも見殺しには出来ませんよね?」

「それをお前が言うと、だな……」


 確かにランディも今の今まで「お前ら卑怯だぞ」と言っていたが、キャサリンをぶっ殺してもいいくらいのリズが、彼女を庇う様子に、「別にそこまで」と何故か国王サイドに回らざるを得ない。


「少女一人を犠牲に、汚い大人が得をするなど、私には到底許せません」


 毅然としたリズの態度。そしてそこにハッキリと見える明らかな怒り。あまり見せないリズのその感情にその場の誰もが驚き、ランディも沸々と湧いていた怒りが冷め、ジェラルドに至っては「相わかった」と頷くしか出来ない。


「聖女も、クリス同様精神操作をされていた事にすれば問題なかろう」


「ご理解、感謝します」


 リズが頭を下げたことで、ある程度の方針も決まり、ランディが暴れる事なく解散となった。





「……怒るタイミングを逃したな」

「あんだけ横で怒られちゃな」

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