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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第三章 カメラとゴーストと教会と

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第85話 久々の出番で、ちょっと気合入ってます。

「臨時休校だぁ? またかよ……」


 【時の塔】探索から二日たった土曜の朝……腕も完全に治ったランディ――エリーに治してもらった――が、眉を寄せて校門前に張り出された紙を見ていた。


 学園の校門前はランディ達同様に、休校の知らせに動揺する無数の生徒達でごった返している。そんな校門の中に、一人の男性職員が現れた。


 全員が何事か、と職員へ詰め寄ろうとした時、「下がってください」と職員が声を張り上げ、校門をゆっくりと開いた。


 ギィギィと重い音を立てて開く校門に、その場の全員が「なんだ……」と安堵のため息を漏らしかけた時、学園の奥から幾つもの馬車が現れた。


「あれって……」

「寮で生活している地方の生徒達です、よね?」


 首をかしげるランディとリズの言う通り、今学園内から外へ向かっている馬車は、どれもこれもが寮生達のものだ。実際、馬車に混じって数人徒歩の生徒も見えるので、やはり馬車も生徒達のものだろう。


「下がって、下がって!」


 生徒たちへ指示を出す職員だが、タイミングが完全に悪かった。丁度中央貴族の生徒たちが乗る馬車も通りの向こうに現れたのだ。


「グダグダだな……付き合いきれん。帰るぞ」

「理由とか聞かなくても良いんです?」

「後でルークかコリーに聞こうぜ」


 ため息をついて、早々に校門前から退散するランディ達の背中には「どうなってる?」「もう冬休みなんだとよ!」とカチあった馬車同士が上げる声が響いていた。





 ☆☆☆




「王太子暗殺疑惑ぅ?」


 再び盛大に眉を寄せたランディは、現在借家のリビングでカメラの調整中だ。そんな片手間で会話をするランディに、「らしいぜ?」とルークが苦笑いを浮かべた。


「なんでまた?」

「俺が知ってると思うか?」


 肩をすくめるルークに「そりゃそうか」とランディが、手元のカメラを持ち上げて、視線の先でクルクルと回す。


「なんか、ダセーな」

「そうか?」


 眉を寄せるルークには、カメラの見た目の良し悪しなど分からない。実際に写真が撮れて、それがお手軽なら何でもいいと思っているのだ。


「それで? 王太子暗殺の疑惑のせいで学園は臨時休校……しかもそのまま冬休みに突入、ってか」


 もう一度カメラのガワを弄るランディに、「ま、仕方ねーよな」とルークがもう一度ため息をついた。なんせ王太子の身に危険が迫ったのだ。しかも学園の生徒が暗殺者を手引していたのである。……実際はただの勘違いでの騒動だが、黒幕であるクリスが居なくなってしまったことで、完全に王太子暗殺疑惑という事になったらしい。


 その事実に現在王宮は、上を下への大騒ぎだという。


 どの生徒が何処まで関与しているのか。そういった事を調べるという名目で、それらが判明するまでは、学園を一時休校という名の封鎖に処したわけである。


 とは言え、ランディからしたら「なんでまた?」と言いたくて仕方がない案件だ。なんせ、侯爵家の影は闇ギルドの中にちゃんと、ランディ達が狙われていた証拠を残してきている。


 にも関わらず、王太子暗殺疑惑……と着地することに違和感を拭えない。あの資料を見て、あの時間にランディ達があの場所にいた事も考慮すると、「あ。これ、間違えたな」と答えにたどり着くくらい簡単なはずだ。


 加えて既にクリス……と個人名までは言及せずとも、「学園の生徒が手引をした」と具体的な噂まで広がっている事に違和感を覚えている。本来なら隠し通して、内々で処理するはずの案件だ。


 それをルークが持ってくるくらいには、噂として広めているのだ。


 何らかの思惑が見え隠れするが、今のところランディにはサッパリだ。サッパリなので、考えても仕方がない、と話半分でカメラを弄り続けている。


「まったく、迷惑なこった」


 微塵もそう思っていないランディの横顔に、ルークがまた苦笑いを見せた。


「期末試験が流れて良かったな」

「おう、ラッキーだったぜ……赤点が――」


 誘導尋問のような内容に、ランディが慌てて口をつぐみ、ルークにジト目を向けた。そんなランディに、ルークがニヤニヤと笑い、そしてコーヒーを一気に飲み干した。


「にしても、誰が何処まで関わってるか、か……」


 呟いたルークに「気になるのか?」とランディが、視線をカメラに固定したまま返した。


「気になると言うか……一昨日、暗部の連中に見られただろ」


 呆れ顔のルークに「ああ……」とランディが面倒さを隠さない顔を上げた。ルークの言葉で、相手が噂を広めた理由をランディは何となく理解したのだ。


「そんな強引な事するか?」

「さあな。ただ証拠もあって状況的に理解できるのに、共犯者探し、だ」


 苦い顔のルークに、ランディが「ハァ」と盛大なため息を返した。


 アレだけ派手に暴れた以上、間違いなく暗部や衛兵の調査があの場所に入っている。ならば資料も見つかっているはずで、筆跡鑑定でも何でもやれば、クリスが黒幕だったという事実には簡単にたどり着けるだろう。


 そして本当の狙いがランディ達であったことにも。


 そんなランディの読み通り、王国政府もその答えまでたどり着いている。


 それなのに、この期に及んで共犯者を探すということは、そういう事なのだろう。


「方便、ってやつか」

「政治の世界ってのは面倒だな」


 苦笑いのルークに、「お前も継承権があるんだぞ」と出かかった言葉をランディはのみこんだ。今ここでルークに八つ当たりしたとしても、全く意味がないのだ。


「やっぱ、あん時ぶっ殺しときゃ良かったか」


 ため息混じりのランディに「よせよせ」とルークが首を振った。


「んなことしたら、余計に拗れただろうよ」

「それもそうか……」


 盛大なため息をついたランディに、ルークが表情を引き締めた。


「何処まで突いてくると思う?」

「そうだな……まあ黒幕の身柄、くらいじゃねーか」

「塔、はどうだろう?」

「今回の事に関係ねーからな」


 そう言って首を振ったランディが、「口にするやつが居たとしたら、そりゃ馬鹿だ」と笑ってみせた。それに納得したのだろうルークも頷いた。


 二人が今話しているのは、ランディ達が王宮へ呼び出されるだろう、という予想だ。


 闇ギルドの本部に調査が入ってるのは間違いない。だが、黒幕であるクリスが見つからない。それもそのはず。クリスの身柄は今、セドリックが確保しているのだ。


 いかに暗部と言えど、探し当てるのは至難の業だろう。


 様々な状況から、ランディは王国政府の現状をある程度予想している。


 闇ギルドの本部から出てきた、ランディやリズを狙っていた証拠。

 壊滅させられた闇ギルド。


 その状況から、王国政府も侯爵家の関与くらいは見抜いているはず。ならば、クリスの身柄を侯爵が確保している可能性も。


 だが侯爵家相手に「クリス知りません?」などと、普通に聞くことなど出来るはずがない。クリスは曲がりなりにも法務卿の息子だ。その息子が、既に外国籍とは言え侯爵の娘の暗殺を企てていたのだ。


 だからこそクリスの犯行を「王太子暗殺疑惑」にすり替え、そしてその共犯探しという事でランディ達を王宮へと呼び寄せるのだろう。


 あの日あの場所にいた、という何とも微妙な事実だけでの呼び出しだが、本当に王太子暗殺疑惑であれば、現場近くに居た人間が呼び出されるのは珍しいことではない。


 だがもちろんこの呼び出しもブラフだろう。


 ようは侯爵へのパフォーマンスだ。私達は令嬢暗殺疑惑など知らない、という。それと同時に、リズが召喚されることを嫌う侯爵が、クリスを早々に引き渡してくれるのでは、という思いも透けているが。


 あとは、本当の黒幕へのメッセージもあるかもしれない。王宮は真の理由に気がついていない、いや気づいているがそれを明らかにするつもりはない、という。


 それにどんな意味があるか分からないが、ランディもルークも、今回の騒動にはクリスの背後に別の人物がいると睨んでいる。


 一介の学生が、何の考えもなしに、学友の暗殺を企てる意味が分からないのだ。だからこそ、王宮はクリスを早めに返して貰いたいのだろう。クリスの背後にいる何かとの交渉のためにも。


「……閣下がその背後の人間を掴んでるだろうから、政府は焦ってカードを切るんだろうが」


 ため息混じりのランディに、「やだやだ。こりゃ黒幕は結構大物だぜ?」とルークが口を尖らせた。


「この焦り具合からすると……」

「順当に考えりゃ、他国か国の大貴族か。あとは教会くらいか」


 苦い顔のルークの言葉に「だよなー」とランディが天を仰いだ。仮に教会だった場合ランディ達にちょっかいを出す理由までは分からない。一瞬ゴースト関連か、と思ったのだがカメラが出来る前から連中はウロウロしていたので違うだろう。


「色々と考えられるが……」

「これ以上の推論で話すのは無意味だな」


 その言葉にランディが大きく頷いた。ある程度の予想は出来るし、確信めいたものがあったとしても結局推論は推論の域を出ない。状況証拠だけで「こう」と決めつけては、仮に違った場合の出足が鈍る。


 相手も人間だ。ワケの分からない理由……なんてことがないとも限らない。ならば今は推論を突き詰めるよりも、他に有意義な事に時間を使うほうがマシである。


 そのうち嫌でも分かるのだ。とランディは大きく伸びをした。


「とにかく今はどうしよもねーな」

「いや、【銀嶺の貴公子】と連絡を取るとかだな……」


 投げやりなランディに、ルークが思わず眉を寄せた。


「いいよ。どーせ俺達の呼び出しはパフォーマンスだろ。それにセドリック様に連絡した所で、結局やることは変わんねーだろ」


 再びカメラに視線を落としたランディに、ルークが顔を曇らせた。


「お前、王宮で暴れるなよ」

「馬鹿言うな。その程度の分別くらいあるわ」


 カメラを机に置いたランディが、「俺はやる時はやる男だ」と悪い顔で笑ってみせた。


「どーよ。カッコよくなったろ?」

「……そうか?」


 カメラを持ち上げ、クルクルと回すルークが「分からん」と呟いた。


「まあ、もしかしたら明日にでも俺達の所に――」


『ごめんください! ランドルフ・ヴィクトール様はご在宅でしょうか?』


 外から響いた声に、ランディとルークが苦い顔を見合わせ、同時にため息をついた。今リタとハリスンは、お嬢様二人の相手のために、二階の裏側に作ったテラスにいる。


 リズとセシリアのお茶会。それにリタも参加し、ハリスンは護衛役としてテラスに置いてきた。彼らがいない以上、訪問者の応対は必然的にランディかルークという事になるのだが……。


 目配せするランディに、ルークが「お前んちだろ」と顔をしかめるが、ランディがそれを無視するように拳を突き出し「じゃーんけーん」と声を上げた。


「「ホイ」」


 結果は……


「結局お前が行くなら、意味なかっただろ」


 呆れ顔のルークが言う通り、ランディの負けである。


 仕方がない、と渋々玄関へ向かうランディの耳に『すみません! ランドルフ・ヴィクトール様は――』とどこか聞き覚えのある声が響いていた。


「はいはーい。今開けますよ――」


 扉を開いたランディの眼の前には、「やあ」と満面の笑みで手を振るセドリックがいた。


「は? セドリック様? なんで――」

「『なんで』って先触れに決まってるじゃないか」


 ケラケラと笑うセドリックが、「いい顔が見れたよ」とランディの肩をポンポンと叩いた。


「いやいや、セドリック様が先触れって――」


 そこまで口走ったランディの顔が青くなる。セドリックを先触れと称して走らせることが出来る人間を、ランディはたった一人だけ知っている。


 そう。ただ一人だけ。


 事実、家の前には見たことがない豪華で厳つい馬車が停まっているのだ。その馬車から、一人の男が現れた。


 好々爺然とした変装でもない。

 娘思いの父の顔でもない。


 威厳と貫禄に満ちた、大貴族としての顔でゆっくりと歩いてくる人物。


(先触れっつーか、ほぼ同時じゃねーか)


 苦笑いしか浮かべられないランディの前に、そんな人物がたどり着いた。身長も体格も、遥かにランディの方が大きく立派だが、溢れる威厳は相手に軍配が上がる。


 それでもランディを前にニコリと笑った彼は、やはり娘大好き親父の顔をしていた。


「久しぶりだね。ランドルフ君」

「ご無沙汰してます。侯爵閣下」



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