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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第五章 春休みってすぐ終わる

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第259話 敵にも切り札がある!

 時を同じくして、港では侵入してきた帝国兵をルークやユリウス、そしてリヴィアが危なげなく処理していた。


「……剣聖、裏切ったのか。お前は――」


 帝国兵だろ。そう言いたげな恨みの籠もった瞳だが、表情を消したリヴィアは淡々と敵を屠るだけだ。


 そうして帝国の侵入が片手で数えられる数を越えた頃、大きな雷が港近くに落ちた。


「うおっ、デカかったな」


 思わず首をすぼめたルークに、「落ちたら一溜まりもないな」とユリウスも苦笑いを見せた。


 そんな不穏な雷が、再び帝国兵を連れて来る……だが今度の敵は、今までの敵のように突っ込んでくるわけではなく、ルーク達から一定の距離を保ったままだ。


「ンだありゃ?」

「帝国の魔道士部隊だよー」


 リヴィアが剣を構えた時、魔道士部隊の後方で数人が杖を掲げた。広がる魔力は、特に攻撃でも何でも無い。ただの魔力の波動だ。だがその波動を受けたリヴィアの腕がだらりと垂れ下がる。


「おい、リヴィア!」

「しっかりしろ……」


 ユリウスが駆けつけた時、「さあやれ!」と魔道士部隊から声が響いた。何事かとルークが魔道士を振り返った時、リヴィアがゆっくりとその剣をユリウスの腹に突き立てた。


 肉を貫く音に、ルークが気づくがもう遅い。


「おい――!」

「リヴィ……ア?」


 口から血を吐いたユリウスを前に、リヴィアの瞳に一瞬光が戻り……


「え? なん――あ、あ……あああああああ!」


 悲鳴を上げるリヴィアが、血に塗れた手で顔を覆い剣を落とした。


 再び広がる魔力の波動に、「テメーら!」とルークが駆け出し一瞬で魔道士部隊を斬り伏せた……だが――


「ふ。フフフ……魔剣が目覚めたのだ。これで貴様らもおわ、り――」


 不吉な言葉を残して倒れた魔道士に、ルークが首を傾げながらユリウス達を振り返った。そこには再び剣を持ち、ゆらりと立ち上がるリヴィアの姿があった。


「リヴィア、おい!」


 声をかけるルークを振り返ったリヴィアの瞳に光はない。


「……皆……みんな……コロス――」


 表情を消したリヴィアが、ルークへ斬り掛かった。


「くそ――」


 慌てて受けるルークだが、間違いなく学園で切り結んだ時よりもリヴィアの速さが上がっている。


 鍔迫り合いの形から、ルークが思い切りリヴィアを押し返した。


 押される勢いを利用して、リヴィアが後方宙返りでクルクルと回って着地。丁度ユリウスの近くに立ったリヴィアだが、蹲り血を流し続けるユリウスには目もくれない。


「魔剣がどうとか言ってたな」


 ルークが奥歯を鳴らす。どんな魔剣かは分からないが、恐らく先程のユリウスへの一撃がトリガーなのだろう。実力者を一瞬とはいえ操る……間違いなくかなり前から仕込まれていた一撃だ。


 恐らくリヴィアが魔剣を手にした頃から。


「悪趣味すぎんだろ」


 剣を構えるルークの前で、リヴィアも剣を構えた……その背後に、「これは!」とガードナー伯爵家令息フリードが現れた。この港の防衛責任者だ。


 現れたフリードへ視線を移したリヴィアに、「チッ」とルークが舌打ちをもらして斬り掛かった。そうせねば、間違いなくフリード達は一瞬で細切れだ。


 迫るルークの神速の一撃に、リヴィアも意識をルークへ戻した。

 ぶつかり合う二つの剣の衝撃で、雨が弾ける。


 弾けた雨にフリード達が、思わず顔を背けた。


「フリード様よ!」


 間合いを斬ったルークが再びリヴィアへ斬りかかる。


「悪いがユリウスを連れて下がっててくれ」

「だが――」

「頼む。大事なツレなんだ」


 ルークの真剣な言葉に、フリードが頷き「武運を」とユリウスを抱えて後方へと下がっていった。


 フリード達が烟る雨に姿を消した頃、ルークは剣を肩に預けて「フー」と大きく息を吐き出した。彼らに任せておけば、ユリウスは大丈夫だろう。フリードは実直な男であるし、ユリウスも【麒麟児】と称される男だ。あの程度で死ぬはずがない。


「さて……後顧の憂いはなくなったってことで」


 ルークが肩を回して剣をだらりと下げた。


「こい、じゃじゃ馬娘。そろそろ俺に大海を見せてくれ」


 手招きをするルークを前に、リヴィアが足元の水を弾けさせて姿を消す。


 一瞬でルークの前に現れたリヴィア。

 振り下ろされる剣が、雨粒を裂いてルークの脳天に迫る。

 体を開いたルーク。

 肩を掠めて空振った切っ先が、ルークの背後で飛沫を上げた。


 剣圧だけで雨粒をことごとく弾き飛ばす。


 一撃必殺の乱舞がルークへ襲いかかる。


 だがそのどれもがルークを捉えることが出来ない。


 表情を消したまま剣を振り続けるリヴィアに、ルークも表情を変える事はない。


 ただ紙一重で全てを躱すルークに、リヴィアが初めて感情を剥き出しにしたように、剣を振りかぶった。

 その隙をついたルークが、滑り込むような低い体勢から、リヴィアの腹めがけて左拳を叩き込んだ。


「ぐっ――は――」


 くの字に折れたリヴィアから苦悶の声がもれると同時に、後ろへ大きく吹き飛んだ。


 雨粒を弾き飛ばし、地面を跳ねたリヴィアが、水の上を滑るように転がっていく。


「とっさに跳んで威力を殺したか。流石……なんて言えねえぞ? 【剣聖】」


 ため息混じりのルークの前で、ゆっくりと立ち上がったリヴィアが、口元に滲んだ血を乱暴に拭った。確かに動きは速くなっているが、リヴィアらしい独創的な剣術は完全に鳴りを潜めている。


「コロス」

「出来ねえ事を口にするな、馬鹿が」


 不満げに鼻を鳴らしたルークの目の前で、リヴィアの剣がどす黒く染まっていく……


「そーいや……魔剣、つってたな」


 眉を寄せるルークの前で、リヴィアが剣を舐めて、ニヤリと笑えば……ルークの前でリヴィアが二人に増えた。丁度鏡合わせのように、剣を持った二人のリヴィアが腰を落とす。


 魔剣【双影剣】。ゲームでは一振りで二度のダメージを与える剣は、現実では己の影が分身のように一緒に攻撃する。


「「いくよ」」


 ダブる声が響いた瞬間、ルークの目の前に二つの剣閃が迫っていた。

 首筋を狙う〝X〟の軌跡に、ルークがすかさずダッキング。

 空振った二人のリヴィアが、ルークの後ろで同時に急ブレーキ。


 ザーっと音を立てて、二つの軌跡が地面に水飛沫を上げる。


 止まったリヴィア達が、再び足元を弾けさせた。

 ルークへ迫る二人のリヴィア。

 今度はバラバラに斬り掛かって来る……のだが、その攻撃をルークは体捌きと剣だけで受けきっていく。


 数度の攻防の後、再び両者――相手は二人だが――の間合いが開いた。


 それを許さぬように、リヴィア達が突っ込んでくる。


 真正面からの突き。

 脇へ逸らしたルークが、リヴィアAの腕を小脇に抱えた。

 その真後ろから飛び上がるリヴィアB。


 瞬間、ルークは剣を手放し、リヴィアAの胸ぐらを掴んだ。

 左小脇に抱えたリヴィアの右手をガッチリ固定したルークが、リヴィアを真上に放り上げた。


 力任せに持ち上げられたリヴィアA。

 その足が地面から空へ向けて円弧を描き……リヴィアBの顎にクリーンヒット。

 そのままリヴィアAを真後ろへ放り投げたルークが、足元で跳ねた剣を蹴り上げキャッチ。


 目の前で仰け反ったリヴィアBとの間合いを詰め、

「寝てろ」

 柄頭で思い切り真下へと叩きつけた。


 水たまりを弾けさせ、リヴィアBが地面を跳ねた瞬間、ルークは既にその場にいなかった。


 放り投げられ受け身を取ったリヴィアAが、着地するよりも前に、間合いを詰めたルークの一閃。

 響いた金属音は、リヴィアがかろうじて剣を受けた音だろう。


 それでも走る衝撃に耐えきれぬように、リヴィアが再び地面を転がった。


「どうした? 普段のお前の方が強いぞ」


 ため息混じりのルークを挟むように、二人のリヴィアがゆっくりと立ち上がり……再び剣を構えた。


「コロス……コロスぅ――」

「やってみろ、三下」


 ルークの煽りに反応したように、二人のリヴィアが一気に駆け出した。

 雨を弾き飛ばす衝突。

 雨粒が細かい霧となって、三人の姿を隠した。


 それすらも降りしきる雨が地表へ叩きつけ……姿を現したのは、リヴィアAの斬撃を片手の剣で受け、リヴィアBの首根っこを掴んで地面に押さえつけるルークの姿だ。


 犬歯を剥き出しにするリヴィアに、「いい加減にしろ」とルークがリヴィアAの剣を弾いた。


 僅かに仰け反ったリヴィアA。

 剣を手放したルークがその胸ぐらを掴み

 思い切り頭突いた。


 鈍い音が響き、リヴィアAがフラフラとルークから距離を取る……と同時に、ルークが押さえていたリヴィアBが姿を消した。


「目ぇ、覚めたか? この馬鹿」


 ため息混じりで剣を拾ったルークに、リヴィアが「う、うう」とうめき声をもらした。


「……ルーカス」


 頭を抱えるリヴィアが「ごめん」と小さく呟いた。


「リヴィア……リヴィア……」


 呟くリヴィアがまた頭を抱えてよろめいた。手に持った魔剣から、再びドス黒い闘気が立ち上り、リヴィアを包みこんでいく。恐らく魔剣がリヴィアを取り込もうとしているのだろう。


「ルーカス……お願い。これ以上……だから、リヴィアを殺して――」


 苦しそうに剣を構えるリヴィアに、ルークが盛大なため息をついて眉を寄せた。


「やなこった」


 鼻で笑うルークに、リヴィアが「だって――」と声を荒げるが、ルークは頑として首を縦に振らない。


「悪いが俺が戦いたいのは、二代目【剣聖】だ。魔剣に乗っ取られた、可哀想な女の子なんて、斬れるかよ」


 ルークの言葉が聞こえているのか、リヴィアはまた頭を抱えて苦しみだした。


「俺に殺してほしけりゃ、せめて自分てめえで魔剣を叩き伏せてから言え」


 ルークが突き出した剣の先で、リヴィアが苦しそうにまた声を上げる。


「ホントはユリウスの仕事だけどよ……。俺はレディには優しいからな」


 ニヤリと笑ったルークの前で、再びリヴィアの身体からもう一人のリヴィアが現れた。


「来い。自分てめえが何者か思い出せるよう、俺が付き合ってやるよ」


 笑うルーク目掛けて、リヴィア達が一気に駆け出した。

 迎え撃つルークが、リヴィア二人を弾き飛ばす。


 それでもリヴィア達は止まらない。

 再び姿勢を低くしてルークへ迫る。

 片方の影へもう片方が滑り込み、身体を隠した。


 リヴィアAが踏み込み……の足を振り上げた。

 足元の水たまりが、飛沫となってルークへ襲いかかる。

 高速の目潰しに、ルークが僅かに頭を傾け――

 そこに迫る、リヴィアBの切っ先。


 完全死角からの奇襲が、ルークの頬を掠めた。


 猛攻は尚も続く。

 ルークの頬を掠めた剣を引きざまに、リヴィアBが横薙ぎ。

 ダッキングしたルークの視線の先には、潜るような姿勢のリヴィアA。

 突き上げるような切っ先に、ルークが慌ててブリッジ……からのサマーソルトでリヴィアAを吹き飛ばした。


 数回のバク転で距離を取ったルークが、「良くなってきたな」と笑った。


「「黙れ!」」


 初めて殺意以外の感情を顕にした二人のリヴィアが迫る。


 先程より格段に動きが良くなった。いや、リヴィアらしくなったそれは、傍目には完全にリヴィアが取り込まれつつあるように見える。


 だが斬り結ぶルークの顔は、少しずつ笑顔になっていく。


「見せてみろ、【剣聖】の底力ってーのを」

「煩い!」


 リヴィアが叫んだ瞬間、闘気が雨を弾かせ同時にもう一人のリヴィアも姿を消した。


 苦しむように頭を抱えるリヴィアから、再びもう一人のリヴィアが顔を覗かせる。重なり合うようにダブって存在するリヴィアが、同時に顔を上げた。


 一人は苦悶の表情。

 もう一人は憤怒の表情。


 対象的なリヴィア二人が、同時に口を開く。


「ルーカス……『コロス』お願い……リヴィアを――『コロス』――今のうちに」

「やなこった」


 鼻で笑ったルークに、リヴィアが「ならせめて逃げ……」と懇願するような顔を見せた。


「馬鹿か。誰の心配してんだ。俺はルーカス・ハイランド、いずれ世界最強の剣士になる男だぞ」


 笑顔のルークがリヴィアに真っ直ぐ剣を向けた。


「チンチクリン程度に心配される程、落ちちゃいねえよ」

「でも――『コロス!』」


 叫んだリヴィアが分身を抑え込もうと、己の身体を強く抱きしめた。


「抑え込むな。解き放て。自分てめえが中で全力出せるよう、俺がこっちで止めといてやる、つってんだろ!」


 剣を構えたルークに、リヴィアが目を見開いた。その時、リヴィアの全身を再び黒い闘気が包み込み、分身が完全に姿を表した。


「「コロス……」」

「言ってろ馬鹿が。井戸の底、深淵の一端を覗かせてやる」


 笑顔のルーク目掛けて、二人のリヴィアが駆け出した。

 先程よりも格段に速くなったリヴィアの剣。



 雨はまだ強く降り続いている。

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