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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第五章 春休みってすぐ終わる

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第232話 閑話 騎士と令嬢⑤

 ルークの居なくなった薄暗い廊下に、コンラッドが扉を叩くノックの音が響いた。


「閣下。緊急事た、い――」


 言葉とほぼ同時に、開いた扉にコンラッドの語尾がしぼんでいく。扉を開いたのは、ナイトガウン姿のアルフレッドだったのだ。まさか向こうから、しかも即座に扉を開けられるとは思ってもみなかったのだろう。だが驚きから復帰したコンラッドは、もう一度緊急事態である旨を告げた。


 だがアルフレッドは、あまり慌てた素振りを見せず、コンラッドに「把握している」とまで言うのだ。


「ルークが行方不明、だね?」

「ご存知だったのですか?」


 アルフレッドの言葉に、コンラッドはまた驚きの表情を浮かべた。


「少々ね。とりあえず中に――」


 アルフレッドが軽く頭と視線を傾け、扉の内側を示した。砕けた雰囲気に見えるアルフレッドは、コンラッドのよく知る友人としての姿だ。つまり今から話すのは、貴族と騎士ではなく友人としての内々の話という事になる。


 そうでなくとも、この時間に部屋へと入るのだ。大っぴらに出来る話ではない。


 アルフレッドに促され、部屋へと入ったコンラッドを迎え入れたのは、心配そうな顔でうつむくセシリアと、その背中をさするカタリナだ。


 二人の様子を見たコンラッドが、ため息混じりでアルフレッドを振り返った。


「お嬢様はどうしたんだ? それとルークも……」


 砕けた口調になったコンラッドに、アルフレッドが先程廊下から聞こえてきた一部始終を語って聞かせた。ルークが相手にしていたのは幻影と言えど、言葉は部屋の中にまで届いていたのだ。


「なるほど。一介の騎士がお嬢様への想いを吐露か……確かに当主の顔としては頷けないな」


 苦い顔のコンラッドに「そうでもないよ」とアルフレッドは首を振った。


「にしても、よくそんなやり取りが聞こえたな」


 ため息混じりのコンラッドだが、彼の言う通り本来なら、部屋の中も催眠の効果が波及していてもおかしくはない。にもかかわらず、ルークの声が聞こえたのには理由がある。


「アナベル嬢が用意してくれた、魔除けのアミュレットのお陰かな」


 アルフレッドが見せたのは、アナベルが教会の人員と一緒に運んでくれた、ペンダントトップ型の御守りだ。神聖魔法で鍛えられたアミュレットは、邪悪な呪を弾いてくれる効果がある。


 そのお陰でホレスが薄く広げた催眠魔法から逃れられたわけだが……その結果、セシリアはルークの独白と誘拐を聞いてしまい、嬉しさから心配へと突き落とされた状況だ。


「流石は大司教様ということか」


 ため息混じりのコンラッドが、胸元から似た形のペンダントトップを取り出した。今回の旅に同行する全員が身に着けている。


 もちろんルークとセシリアにも。御守りという事しか伝えていなかったが。とにかくそのお陰で、ハートフィールド家は、ルークの独白を聞いた形だ。


「当主としてなら、今直ぐに相手へクレームを入れるのが正しいのだが……」


 小さくため息をついたアルフレッドに、セシリアが不思議そうな顔を見せた。それはなぜ今直ぐにでも、ルークを探しに行かないのか、とでも言いたげなものだ。


 そんなセシリアを見たアルフレッドが、「安心しなさい」とその頭を撫でた。


「お前がルークを除け者にしたのは、まさかこれを予想していたのか?」


 コンラッドのジト目に、アルフレッドは「除け者にはしていないよ」と首を振った。だが事実ルークだけは何も知らされておらず、こうしてホレスによって連れ去られてしまっているのだ。


「そもそも、この家が【真理の巡礼者(ピルグリム)】に侵食されてると予想していたなら、ルークにも情報を共有すべきだったのだ」


 非難がたっぷり籠もったコンラッドの視線に、アルフレッドは小さく首を振った。


「それは無理だよ。セシリアにも伝えてないんだ。ルークに伝えたら、この子に勘付かれる可能性があったからね」


 肩をすくめたアルフレッドが、【真理の巡礼者(ピルグリム)】は今回の旅のメインではないと続けた。


「そうだとしてもだな」


 苦虫を噛み潰したようなコンラッドに、アルフレッドが言いたいことは分かる、と小さく頷いた。


「分かるが……娘を任せるに足る男か、そしてこれから来る苦難の為に、ルークには悪いが、彼には一皮向けてもらう必要があったからね」


 そう言いながらも、申し訳なさそうなアルフレッドがコンラッドに力ない笑みを見せた。


「若者を利用して、酷い男だと思うかい?」


「まさか。お前が判断をミスったのは、お嬢様の婚約者候補に、あの阿呆を許可した時くらいだ」


 ため息混じりのコンラッドに、アルフレッドが「耳が痛いね」とベッドの上に腰を下ろした。


「私は荒事方面はからっきしだが……あの老人ではルークの相手になるまい」


 そうは言うものの少し不安そうなアルフレッドは、自分に言い聞かせるように続けた。


「アラン殿が仰っていたのだ。『あの子の真価は、己が剣の意味に気付いてからだ』と。だから……」



 ☆☆☆




 アルフレッドやコンラッドが事態の把握に努めている頃、ルークは謎の空間でホレスと向き合っていた。壁や天井、床といった概念があるのか不明だが、ルークとホレスを包む空間は、全方位で黒と紫がグニャグニャと入り交じる不思議な光景だ。


「悪趣味な場所だな」


 鼻を鳴らすルークに、ホレスがニヤリと口角を上げた。


「ワシが作り上げた次元だ」


 事更に別次元だと強調するホレスに、「へぇ」とルークは少しだけ興味を見せた。別次元と言えば、ルークが思い出すのは、あの旧校舎にいた虚無の住人(ヴォイドウォーカー)に、【時の塔】だ。


 どちらもランディが解決した、ルークにとってはそろそろ自分も通り過ぎておきたい現象でもある。


「お前のような者には分からんだろうが、ワシは悠久の時を駆け抜け、生きながら虚無の住人(ヴォイドウォーカー)の存在に――」

「フンっ!」


 ホレスを無視したルークが、足元を思い切り踏みしめた。返ってくる衝撃は、ここが硬いという事だけを教えてくれる。


「……何をしている?」

「いや。これをぶち破れたら、俺もまた強くなれるなって」


 笑顔のルークがゆっくりと剣を抜いた。


「来い爺。そろそろ永眠させてやるよ」


 鼻を鳴らしたルークに、ホレスが「いい度胸だ」と背後に無数の影の手を出現させた。


「ワシはホレス。【真理の巡礼者(ピルグリム)】の四聖が一柱、【虚無の支配者レギオン・オブ・ヴォイド】ホレス」


 無数に出現する影の手は、支配者を名乗るだけあって、確かに虚無の住人(ヴォイドウォーカー)よりも多い。放つ気配も圧倒的だが、それを前にしたルークに動じる様子は一切ない。


 ただゆっくり腰を落として剣を構えるだけだ。


「俺はルーク。……いずれ最強の剣士と呼ばれる男だ」


 ルークが「よろしくな」と不遜な笑みを見せた瞬間、ホレスの背後から影の手が一斉にルークへ襲いかかった。


 ルークのいる場所へ突き刺さる影の手……を、突っ切ってルークがホレスへ迫った。


 ルークの横薙ぎ。


 空間に響くのは、金属同士がぶつかったような甲高い音だ。


 チリチリとホレスの鼻先でルークの切っ先が火花を散らしている。


 虚無の住人(ヴォイドウォーカー)の持つ、次元の壁。それに阻まれたルークの剣に、ホレスがニヤリと口角を上げた。


「貴様では届かんよ」


 ルークの真後ろから迫る影の手。

 それをルークが跳躍して躱す。


 宙を浮くルークへ影の手が一斉に襲いかかる。


「芸がねえな」


 鼻で笑ったルークの剣が閃く……ルークを中心に、影の手が一斉に弾けた。


「なっ――」


 驚いたホレス目掛けて、ルークが上空から縦回転して斬りつけた。

 響いたのは先程とは違う鈍い音だ。

「馬鹿な!」

 慌てたホレスが、影の手で地面を押しのけ操りルークと距離を取った。


「おいおいおい。痛そうな音がするには早すぎんだろ」


 剣を霞に構えたルークが、「支配者レギオンが聞いて呆れるぜ」とその足に力を込めた。


 睨み合う両者。

 不敵な笑みのルークと

 頬に冷や汗を伝わせるホレス。


 しばし睨み合っていた二人だが、動いたのはまたもホレスだ。


 背後の影の手を増やし、その三分の一程をルークへ突っ込ませた。

 一瞬でルークに迫る影の手。

 ルークの鼻先へ届きそうな瞬間、「紫電――」ルークが呟き、雷光の如く飛び出した。


 ルークへ迫っていた影の手が弾け飛ぶ。

 その様子にホレスが慌てて残った影の手で己を覆う……が、それら全てを弾き飛ばすのが、ルークの繰り出した紫電――という名の神速の突き――だ。


 影の手をかき消し、次元の壁を貫き、ホレスの右肩穿ち、そして……


「馬鹿な……」


 ホレスの真後ろでは、次元も貫かれ元の廊下が見えている。次元の穴はゆっくりと小さくなっていくのだが、自慢の防御も空間も破られたホレスに、始めのような勢いはない。


「さて爺。知ってることを全て話せ」


 切っ先をグリグリするルークに、ホレスが「ぐっ、あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」と情けない悲鳴をもらした。それでも血走った瞳で、ルークを睨みつけたホレスが口を開く。


「話すことなどないわ」


 唾を飛ばすホレスに「汚えな」とルークが剣を真下へ振り抜いた。ホレスの肩口から腕が吹き飛んだ。


「話したくねえならいいさ。どうせお前が元凶だろ」


 ルークが剣を振ると、刃にこびり付いた紫の血が飛び散る。


「【真理の巡礼者(ピルグリム)】の四聖だったか?」


 片眉を上げたルークの言う通り、ホレスはその所属を名乗っていた。ならばこの男が元凶なのは間違いないのだ。


「ワシを殺したとしても、まだ――」

「ああ、要らねえよ。そういうのは」


 切っ先を向けたルークが、「要らねえよ」ともう一度呟いた。


「どうせお前は影武者とかそういうやつだろ?」


 ルークの言葉にホレスが驚いた表情を見せた。


「図星か。弱すぎてあくびが出るんだよ」


 吐き捨てたルークに、ホレスが顔を歪めた。


「お前らが何をしようと。何を企もうと。そして、誰が来ようと。お嬢様の敵なら、俺が斬るだけだ」


 ゆっくりと剣先を持ち上げたルークに、ホレスが奥歯を鳴らした。


「悪いな。お嬢様と伯爵様と話があるんだ。だから……テメェの出番は終わりだ」


 振り下ろされる切っ先をホレスが睨みつけ……そして肩口から袈裟に真っ二つに斬り裂かれた。


 紫の血が地面へゆっくりと馴染んでいく……それと同時にルークを取り囲んでいた謎の空間が、ガラガラと音を立てて崩れていった。






「戻ってきたか」


 剣を収めたルークの眼の前に広がるのは、あの薄暗く静かな廊下だ。ただ違うのは、真っ二つに分かれ、紫の血を撒き散らすホレスの死体があることか。


「さて。これをどうするかだが……」


 苦笑いのルークが頭を掻いた頃、背後の部屋がにわかに騒がしくなり始めた。


『ひとまず全員を呼んで来る』


 コンラッドの声が聞こえたかと思えば、勢いよく開いた扉からコンラッドが飛び出してきた。


「……ルーク?」


「すみません。サボってたわけじゃ――」


 ルークが頬を掻いた瞬間、「ルーク?!」とセシリアが扉から顔をのぞかせた。


「お嬢さ――」

「ルーク!」


 勢いよく抱きついたセシリアに、「お、お嬢様」とルークが慌てるがセシリアはその腕を放そうとしない。


「心配しましたわ!」


 わずかに涙を浮かべるセシリアに、「俺はまだまだですね」とルークが苦笑いを浮かべてその頭を撫でた。


「お嬢様に心配させるなんて、騎士失格ですね」

「何をいいますか! 心配くらいさせて下さい」


 頬を膨らませるセシリアに、ルークは敵わないと頬を緩めてセシリアを見た。


「ルーク。流石だね」


 部屋から出てきたアルフレッドに、ルークは思わず姿勢を正そうとするも、抱きつくセシリアのせいで上手くいかない。


「お、お嬢様――」

「そのままで構わないよ」


 微笑んだアルフレッドが、ちらりとホレスの死体を見た。


「さて。君からのクレームや積もる話もあると思うが……」


 死体を見るアルフレッドに、「俺が呼んでこよう」と、ため息混じりのコンラッドが、廊下を駆けていった。


「ルーク。セシリア。皆が来る前に、二人には話しておこうか。この旅の本当の目的を――」

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