表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第五章 春休みってすぐ終わる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

226/239

第222話 まあ大魔法使いに剣聖もいますから

 杖を構えたエリー達の前に現れたのは、巨大な女だ。真っ白な衣に身を包み、慈愛に満ちた表情を見せる髪の長い女性。どこかエリーやリズを彷彿とさせる顔立ちだが、足先が透けて見えないそれは実態を持たぬ存在なのだろう。


「これが女神様って言われたら、アタシ納得しそうなんだけど」


 言いながらも手にヒノキの棒――生誕祭でエリーに貰った――を構えるキャサリンに、「女神か」とエリーが笑顔を見せた。


「ちょうどよい。こやつを潰せば、妾達がその神の座に座れるのう」


 笑顔だが杖を強く握りしめるエリーに、セシリアは「言ってる場合ですか」と奥歯を強く噛み締めた。そのくらい眼の前の存在が放つ気配は異様なのだ。


 恐ろしく強い気配を感じるというのに、どこまでも澄み切った水面を見つめているかのような気持ちになる。あまりのギャップに、脳が目の前の存在に弓引くことを拒否している。


 だからこそキャサリンも思わず言ったのだ。


 ――女神


 と。眼の前の大いなる存在に、神格を見たのだ。事実女神が手をかざすと、エリー達四人の周囲に無数の天使らしき存在が現れた。


 神格を持ち、天使を使役する。そんな大いなる存在を前に、剣を片手に舌なめずりをするのはリヴィアだ。


「斬りでがありそうだねー」


「意気や良し」


 リヴィア同様獰猛な笑みを見せるエリーが杖を掲げた。


「さあ。者共、派手に行くぞ――」


 エリーの杖が光り輝き、女神へ雷が降り注いだ。




 ☆☆☆



 一方その頃、洞窟前に残った男性陣は何とも言えない表情で洞窟を見つめていた。


「お前の話が本当だとすると、キャサリン嬢が入ったのはマズいのではないか?」


 眉を寄せるユリウスが、聖女の記憶を集めるなら、キャサリンの記憶は間違いなく洞窟にとってカウンターになると告げた。


「なるだろうな。なんせ現在進行系で未だ傾国の魔女の汚名だ。聖女とは対極も対極。しかも国家転覆の疑いまで掛けられたっつー純度一〇〇パーセント、混じりっけなしの黒ときたもんだ」


 肩をすくめたランディが、その事を知っているのはランディやリズ、そしてセシリアと本人くらいだが、その殆どが洞窟に潜っているのだ。インパクトは極大だろう。


「大丈夫なのか?」


 真剣な表情のユリウスに、「さあな」とランディが小さくため息をついた。


 そんなランディの視界の端では、ルークが落ち着きなくウロウロとしている。


「ルーク、少しは落ち着け」

「落ち着いてるさ」


 顔をしかめたルークに、ランディがまたため息をついた。ランディの仮説を聞いてから、ずっとああして、落ち着きなくウロウロとしているのだ。


「まあ気持ちはわかるっすよ」


 不安げなレオンに、同じ様にユリウスも頷いた。


 ――リヴィアはお前より強いだろーが。


 ランディは出かかった言葉を飲み込んだ。そんな単純な話じゃない事は、ランディ自身が理解しているのだから。


 皆の気持ちは分かる。だが中に入るという選択をしたのは、あくまでも本人達だ。だからその覚悟に、外野であるランディ達がとやかく言うのは、違うとランディは思っている。


 だから、また繰り返す。


「ルーク。いい加減、落ち着け」

「だから落ち着いて――」


 ルークが言葉を飲み込んだ。ランディの視線がいつになく真剣なのだ。


「お前の気持ちは分かる。そりゃ痛いほどに。『止められなかった俺を殴ってくれ』って言いたいくらいには、な」


 ため息混じりのランディが、「だがよ」とルークの肩を叩いた。


「セシリア嬢は馬鹿じゃねーだろ。俺達の話を聞いて、ある程度の危険を承知で潜ったんだ」


 ランディの言葉に、ルークがわずかに視線を逸らした。それはセシリアだけでなく、エリーもリヴィアもキャサリンも一緒だ。……後ろ二人は微妙に分かってない気もするが。


「お前の気持ちは、ここの皆が全員共有してる。だがな……信じてねーのは、ナヨナヨしてんのはお前だけだぞ」


 ランディの言葉にルークがハッとした顔を見せた。


「さっきも言ったが、お前の気持ちは分かる。心配だ。俺もレオンも、そしてユリウスも」


 ランディの視線の先では、固い表情で頷くユリウスとレオンがいる。


「けどな。エリーが『任せろ』っつったんだ。女子が気合見せたんだ。ならそれを信用するのも俺達男の役目だろ」


 ランディの言葉に「分かってんよ」とルークが視線を逸らせたまま口を尖らせた。


「いんや、分かってねー。だからお前らはいつまで経っても、〝お嬢様と騎士〟なんだよ」


 ランディの言葉にルークが思わず睨みつけた。


「いつまで前を歩くつもりだ。いつまでセシリア嬢に、お前の背中だけを見せるつもりだ。いい加減横に並ばせてやれよ」


 吐き捨てながらルークを突き放したランディに、ルークが「チッ」と舌打ちをもらした。


「好き放題言いやがって」

「そりゃそうだろ。お前と俺の仲で遠慮なんかするか。気持ちわりぃ」


 鼻で笑ったランディに「あー。クソ!」とルークが頭を掻きむしって、それでもいつもの不敵な笑顔を浮かべてみせた。


「覚えてろ。ナヨナヨだとか言ったこと、必ず取り消させてやるからな」

「おうおう。その意気だ。ようやくらしくなったな」


 同じ様に不敵に笑ったランディが、最近ショボくれいて面白くなかったと続けた。


 そこからまた二人の言い合いが始まるのだが、それは先程までの物とは全く別の雰囲気だ。お互い言いたい事を言い合うのだが、そこには確固たる信頼が見える。


「面白い絆だな」

「アレは特殊な例っすよ」


 肩をすくめるレオンに、「確かにな」とユリウスも頷いた。




「さて。エリーやリズが帰って来るまでのあいだ、俺達は俺達で調べたいことがあるんだが」


 一段落ついたランディが、ユリウスとレオンを振り返った。


「そう言えばそんな事を言っていたな」


 思い出したように頷いたユリウスが、「何を調べるんだ?」と周囲を見渡した。


「俺が調べたいのは中だ。洞窟の、な」


 洞窟を指さしたランディが、中にあった謎の門を調べたいのだと続けた。


「確かにそれも言っていたな」


「つーわけで、一旦調べてみようぜ。俺達じゃ分からなくても、ユリウスなら色々知ってんだろ?」


 帝国の学園を飛び級で卒業する程の天才だ。ランディ達では分からないアレコレや、太古の遺跡などにも精通している可能性がある。それこそ門が洞窟に作用しているなら、それを解読してランディ達も入れるかもしれないのだ。


 それを聞けばルークやレオンも、やる気を見せると言うものだ。信頼すると決めたものの、何だかんだ言って心配なことには変わりない。


 そうして頼れるのはユリウスの頭脳だけという、パラメーターを腕力に偏らせたの四人組の調査が始まった。




 ☆☆☆


 ランディ達が青春を見せつけていた頃、エリー達四人はというと……女神と死闘の真っ最中であった。


 セシリアやキャサリンをして、神格を見せてしまう存在。普通ならば戦わず逃げの一択だろうが、ランディ達の信頼に応えるように戦いの天秤は僅かにエリー達へと傾いていた。


「あはははははは! なにコレ! 面白ーい」


 ……縦横無尽に洞窟の壁を蹴り、リヴィアが剣を振り回す。その先にあるのは、女神が作り出した数多の天使達だ。


 斬っても斬っても湧いてくる天使達だが、リヴィアには丁度いい強さのようで、今も「いいよ。君達楽しいよー」と笑顔で天使たちを斬りまくっているのだ。


 そんな空中戦が繰り広げられる真下では……


「いくぞ。合わせろ!」


 エリーの号令に合わせて、セシリアが魔法を放っていた。


「どうでしょうか?」

「悪くはない。ここを出たら、リズに累唱を教えてもらえ」


 セシリアの持つ魔法の才に、いや努力の結晶にエリーが満足げに頷いた。もちろん女神相手に有効打とは行かないが、それでも二人の攻撃は間違いなく女神の幻影を削っている。


 天使を一手に引き受けるリヴィア。

 少しずつだが女神を削るエリーとセシリア。


 そんな三人の活躍……だけではない。


「それにしても……」


 苦笑いのセシリアが見つめるのは、悲鳴混じりにヒノキの棒を振り回すキャサリンだ。キャサリンは先程から、女神のヘイトを一身に買っている。その理由は単純明快で……


「向こうに行きなさいよ!」


 苦し紛れに振るったヒノキの棒が、女神の手に当たった瞬間、女神が嫌がるように大きく仰け反ったのだ。


「なぜキャサリン様のアレが、あんなダメージを」


 引きつる笑顔のセシリアが、「危ない」と女神の反撃に竜巻をぶつけた。衝撃でそれた女神の腕がキャサリンの真上を通過する。


「あ、あぶなー! ちょっと、向こうも狙いなさいよ!」


 プンスコ怒るキャサリンに、女神の追撃が振り下ろされる。それをエリーの障壁が阻むが、女神は執拗にキャサリンを狙い続けている。


「仕方ない。アレが元凶じゃからの」


 苦笑いのエリーが続けるのは、そもそもキャサリン自身が引き連れている、今までの悪行への噂や恨みだ。あの頃とは変わったキャサリンだが、それを認められぬ者、それを知らぬ者は今も多数存在する。


 それこそアイリーン達が知らなかったくらいには、まだ【傾国の魔女】のほうがイメージが強いのだ。


「イメージを集めるのじゃ。本人や周囲に向けられる尊敬や感謝を集める事もしておる……が」


「負の感情の方が、より強く引きつけられる。と」


 セシリアの視線の先では、半狂乱のキャサリンがヒノキの棒で女神の手を殴りつけている。一応エリーが全員に次元を隔絶するレベルの魔法障壁を展開しているので、あの女神の攻撃といえど数回程度なら阻めるはずなのだが……。キャサリンは今もまた必死に地面を転がり女神の攻撃を躱している。


「私の中でのイメージは、とっくに変わってるのですが」

「妾ものう。が、世間は直ぐには認めてくれん」


 エリーの言う通り、キャサリンが引き連れている数多の恨みや妬みが、今この場において清廉な女神へ最も効果的な攻撃なのだ。


「聖女の責務を嫌がり、何とかしようと足掻いた結果、こうしてその元凶に立ち向かえておるのじゃから、人生とは不思議よ」


 カラカラと笑ったエリーが、男漁りも無駄では無かったようだと更に笑った。


「ちょっと、笑ってないで手伝いなさいよ!」


 ヒノキの棒を振り下ろすキャサリンの綺麗な型は、間違いなく戦闘教練の賜物だろう。動きこそ固いが、変な所で真面目だったお陰か棒の軌跡だけは悪くはない。そのお陰か一打一打が痛恨の一撃らしく、女神は更に怒り狂ってキャサリンに襲いかかる始末だ。


「いくら聖女の小娘と言えど、これ以上の放置は流石に可哀想よの」


 笑顔を見せたエリーが、「セシリアよ。しばし時間を稼げ」と一歩引いて杖を構えた。


 急速に練り上げられる魔力に、リヴィアの肩がピクリと跳ね、女神もエリーに視線を合わせた。


「キャサリン様! 時間を稼ぎますわよ!」


 魔法を放ったセシリアに「わ、分かったわ!」とキャサリンが再びヒノキの棒を振り回した。


 二人が壁のように女神の前に立ちふさがり、その後ろでエリーが「スゥ」と大きく息を吸い込んだ。


「『原初の闇に沈みし者 深淵の先に座す者

 永久に続く虚ろの夜 天を裂く黒き顎 

 万象を縛る軛 理と呼ばれし鎖

 汝を縛る全てを今解き放たん

 贄を捧げる時は満ちた

 貪れ 喰らえ 飲み干せ この世の 全てを――』」


 エリーの詠唱に合わせ、漆黒の顎が虚空から現れた。そのあまりにも馬鹿げた魔力と、禍々しい見た目に女神が慌てて逃げようとするがもう遅い。


 顎から伸びてきた黒い鎖が、逃げようとする女神を捕らえたのだ。


「どうした? 逃げねば食ろうてしまうぞ……バクゥっとな」


 悪い笑顔のエリーに、女神が初めて憤怒の形相を見せた――瞬間「開け、奈落の顎デヴォウリング・アビス


 エリーが杖を地面に突き立てるのと同時、漆黒の顎が女神の下半身へ喰らいついた。食いちぎられた女神が苦しみの声を上げ、鬼の形相をエリーに向けた瞬間、


「キャサリン! 突っ込めぇ!」


 エリーの叫びに、キャサリンが「は? え?」と言いながらも駆け出した。


 駆けるキャサリンの背を押すように、一陣の風が吹きその身体を宙へ押し上げる。


「わ、ちょ――」

「ブチかませぃ!」


 悪い顔のエリーに「ああもう!」とキャサリンが眉を寄せながら、思い切りヒノキの棒を女神の眉間に叩き込んだ。


 女神の眉間を中心に、真っ白な光が辺りを包み込む――










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ