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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第五章 春休みってすぐ終わる

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第218話 火サスのクライマックスは大体ここ

 先導するキャサリンを追いかけ、崖の縁へとたどり着いたランディを迎え入れたのは、どこまでも広がる海と、見渡す限りの断崖とであった。


「お。あっちに小さく人工物ぽいのが見えるな」


 遠く左手側、大きく湾曲した崖の向こうに、薄っすらと見える海岸線。その先にポツンと何かの塔と思しき建物が見える……とランディは言うのだが、


「見えません」

「ですわね」


 他のメンバーには、残念ながら海岸線くらいしか分からない。


「お、アレか? あの黒い」

「そうそう!」


 唯一左手でひさしを作ったルークだけは見えると言うが、他のメンバーは眉を寄せて「いや、どれだよ」とやはり見えていないようだ。


「多分ですが、南の伯爵領の港ですわ」


 未だに南側を眺めるランディに、セシリアがあそこがハートフィールドの南にある別の伯爵領の街だと教えてくれた。


「港に高い灯台があるとお聞きしましたもの」


「へぇ。あそこが」


 呟くランディが考えている事は二つだ。一つはもちろん、あそこから帝国軍が乗り込んでくるかもしれないこと。そしてもう一つは、ルークやセシリアが春休みスタート時に言っていた、旅行先だという事だ。


「この探検が終わったら出発だったか?」


 振り返ったランディに、ルークが少し浮かない顔で頷いた。無理もない。セシリアには知らせていないが、今回の旅行はあそこを治める伯爵の息子と、セシリアの顔合わせなのだ。


 しっかりしろ。


 そんな言葉をランディは飲み込んだ。本当は発破をかけたい所だが、そんな事はルークが一番理解しているだろう。ルークならば、しっかりセシリアとの仲を深め、ハートフィールド伯爵に認められるはず。


 そんな事を自分に言い聞かせたランディは、「今はあそこはいいか」とはるか遠くに見えるボヤけた塔から目を逸らした。


「で、洞窟に行く為の道は……」

「これよ」


 ドヤ顔で指すキャサリンの指の先には、下へ続く細く小さな道がある。


 正確には道と呼んでいいか微妙な物だが、それでも細く真っ直ぐ伸びる様子は人為的なものを感じさせる。人一人が丁度歩ける程度の細い坂の入り口は、殆ど崖と同化している。右を見ても左を見ても終わりの見えない広い崖の縁から、この細い坂道を探すのは至難の業だろう。


「こんな場所から下に行けるんですのね」


 呟くセシリアが、知らなかったと目を丸くしているくらいだ。


「領主の娘なのに、か?」


 首を傾げるランディに、セシリアが基本的にこの断崖に人が近づく事はないと教えてくれた。その理由は至極単純だ。


「この崖には、巨鳥の巣がありますの」


 巨鳥アン・ズーと呼ばれる魔獣が、ここの崖に巣食っており、近づく人を襲うのだそうだ。アン・ズーの活動時間はが夕方かららしいが、もし起こしてしまえばこの崖の上で襲われる羽目になる。


 足場も悪く、相手は無限に広がる空がフィールドだ。もし掴まれでもしたら……崖下へ落とされ、巨鳥の餌になる未来が待っている。


「なるほど。つまり今ここで立ち往生してるのは……」

「そういう事。デカ男、アンタの出番よ」


 崖の上ですら足場が悪い。それの更に上を行く坂道だ。しかも巨鳥の巣がある場所を通るらしい。だからこそ先陣を切ってくれ、とキャサリンが道の先を顎でしゃくった。


「断る……と言いたいとこだが、確かにそれが一番効率が良さそうだな」


 ため息混じりのランディが、下へ続く小道に一歩踏み出した。押し問答をした所で、ランディが先陣を切ったほうが都合が良いのは間違いないからだ。


 とはいえ……巣がある、くらいの認識だったランディの顔は、一気に引き攣る事になった。


「アレが全部巣って言わねーよな」


 ランディが苦笑いなのは無理もない。小道に踏み出し、崖に沿って下へと向かったランディの視線の先には、崖に空いたいくつもの穴が見えるのだ。


「残念ながらアレが巣ですわ」


「まるで巨鳥のタワマンだな……」


 ランディは思わずぼやいてしまった。そのくらい崖にはいくつもの穴が空いているのだ。セシリアが追加で教えてくれるのは、この崖付近は船も避けると言う悲しい報告だ。


 つまり船で通るだけで、時間帯によっては襲われるくらい凶暴なのだろう。


 唯一の救いは、それぞれの穴がさほど大きくはない事か。人が二人並んで入れる程の穴だ。巨鳥と言うにはえらく小さい、というのがランディの感想だが、やはり数が多すぎるのは頂けない。


「襲撃が無いことを祈るか……」


 呟きながら歩きだしたランディに、皆が続く。先頭をランディ、その後ろをリズ、キャサリン、セシリアと続き、ルークやレオン、リヴィアと続いて殿をユリウスが務める形に収まった。


「これ、真横から襲われたらイチコロじゃね?」


 ランディの言う通り、伸び切った戦列は左右を崖と海に挟まれ簡単に援軍など出せる状況ではない。


「大丈夫よ。アン・ズーは巣に近づくやつを目標にするから」

「つまり俺が一番狙われるってわけね」


 ため息が止まらないランディだが、ここで文句を言っても仕方がない。代わりに、自分の左側の岩肌を軽くもぎ取った。何ということはない。単純に弾を確保しただけだ。


 ただ……その衝撃で崩れた岩肌から転がった小石が、数個転がり……その音が合図だったかのように、いくつもの穴から奇っ怪な物が顔を出した。


 鳥……と呼ぶにはどことなく人間っぽい。


「ンだありゃ?」

「し、知らないわよ。アン・ズーってただの鳥のはずよ!」


 キャサリンの声が断崖に響いた瞬間、不気味な鳴き声を嘶かせ、無数の異形が巣穴から飛び立った。


 空を覆う無数の異形。どれもこれもが不気味な声を発し、ランディ達の上をグルグルと旋回している。

 かと思えば数匹の異形が、空から急降下――ランディ達の前に立ちふさがった。


 人と鳥を合わせたような異形。全身がやせ細り爛れた皮膚が毛のように垂れ下がっている。爛れた皮膚をしても細いと分かる手足は、文字通り骨と皮だけ。それでも人の顔を軽々と掴めそうな大きな掌には、長く鋭い爪が付いている。


 ボロボロの羽を羽ばたかせ、爛れたペストマスクのような奇妙な顔が、「ニチャリ」と笑ったかに見えた。


「おいおい。出番待ちで腐ったとか言うなよ。それと鳥人間コンテストは、鳥のコスプレじゃねーからな」


 苦笑いのランディだが、自分も令嬢のコスプレだという事を忘れている……。


 片や腐った鳥人間と片やマッチョの令嬢。向かい合う両者のシュールな絵面を、全員が固唾を呑んで見守っている。


 根源的な嫌悪を駆り立てるような異形。まさしく恐怖や嫌悪で、敵の視覚をも攻撃する敵だが、こちらはこちらで、視覚の暴力を体現したランディがいる。


 向かい合う両者はお互い警戒しているのだが……後続の皆は先程ランディを散々笑ったせいで、どこかシュールな雰囲気なのだ。


 全身が腐った鳥人間と、肩と腕のドレスが弾けた筋骨隆々の令嬢。そして周りは崖と海である。もはや世界観も何も分からない状況だが、向かい合う両者だけは真剣そのものだ。


「うーん、この……」


 緊張感の無いキャサリンの呟きが、崖下へと吸い込まれた頃、ランディがゆっくりと腰を落とした……「クソ、スカートが突っ張る」……これまた微妙な感想がランディから漏れた瞬間、鳥人間が動いた。


 ランディ目掛けて、ものすごい速さで宙を飛ぶ……鳥人間の頭が弾け飛んだ。


 ランディが投擲した石が脳天を貫き、意思を手放した鳥人間の身体が慣性に従い、ランディ達の脇を通り抜けて海へと落ちていく。


 それが合図だったかのように、鳥人間が一斉にランディ達へ襲いかかった。


 足場も悪く、ランディやルーク、レオンに至ってはいつもとは違うスカート姿だ。流石に分が悪いと全員が身構える……のだが、


 ――パチン


 断崖に響いた指パッチン一つで、空を覆う鳥人間の群れは風の刃でバラバラに。


 ボトボトと落ちてくる腐った残骸すら、再びの指パッチンで海側へと吹き飛んで行く始末だ。


「他愛ないのう」


 あくびを噛み殺すエリーに、「さっすが」とランディが振り返ってその頭を撫でた。


「ええい。やめんか!」


 口を尖らせるが満更でもないエリーが、「疾く進め!」とランディの背中を押す。


 この場にあって、エリーの魔法に驚いていないのはランディだけだ。それはランディが魔法を殆ど使えないから、エリーが何をしたのか理解出来ていないせいである。


「今の魔法……」

「は、はは。アタシまじで、こんな化け物と戦うつもりだったの?」


 顔が引き攣るセシリアとキャサリンは、エリーが放った累唱の凄さを理解している。そして黙り込んだままのルークとユリウスもだ。


「エリザベスも強いね!」

「あれはエレオノーラ様の方っすね」


 呑気な年下組と違い、ルークもユリウスも魔法を操る。黙り込んだままのユリウスを、ルークがチラリと振り返った。


「兄貴達を止めた方が良いんじゃねえか?」

「止まってくれたら良いんだが」


 苦笑いのユリウスの先では、事の凄さが分かっていないランディが、坂の途中でエリーのエスコート中である。


 後続の反応などつゆ知らず。ランディは安全が確保された小道を、エリーとリズの手を取り進み……ようやく道の先に出現した踊り場へとたどり着いた。


「ここが……」

「そ。【聖女の洞窟】」


 頷くキャサリンだが、ランディ達の目の前にあるのは、どう見てもごく普通の洞窟だ。確かに巨鳥、と言うか異形の巣穴とは雰囲気がちがうが、女性しか入れないだとか、〝聖女の〟と名を冠するとは思えない。


 どう見てもただの洞窟に、ランディ達が顔を見合わせる。


「ひとまず入ってみるか? 俺達だけで」


 首をかしげたランディに、ルークとレオンが頷いた。そうしてランディを先頭に、女装したルークとレオンが真っ暗な洞窟の先へと足を踏み入れた。



 ※多数の反響ありがとうございました!

 ふざけて書いたのに、皆様に喜んで頂けて驚きと感謝で忙しいです。

 ただおふざけの影響で、今回のシリアスシーンがシュールになってしまいました事、お詫び申し上げます。

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