第210話 フラグを折ってるつもりはないんだが
アランを交えたキャサリン達との顔見せも終わり、今はアランとキース、そしてリヴィアとの遊び――という名の試合――が終わったアーベルが、教会から来てくれた第一陣の対応に当たっている。
ちなみに教会側の立会人は、ユリウスとリヴィアが手を挙げてくれた。
端的に言って、気を遣ってくれた形である。何だかんだで学友である三人に、わずかでも時間を作ってやろう、と。
なんせ今日の受け入れが終われば、キャサリンやユリウスは、ハートフィールドへ行ってアナベル達と合流する事になっているのだ。
「その後もアタシはレオンとアナベル様と協力して、ハートフィールド側で色々と受け入れ準備があるから」
優雅に紅茶を傾けるキャサリンに「そうなんですね」とリズが呟いた。教会の象徴としての聖女だが、長い間外国にとどまるわけにはいかない。だからこそヴィクトールへの船便が出ているハートフィールドに陣取って、様々な対応を行うのだという。
ハートフィールドへの受け入れもだが、ヴィクトールへ送り出す人員の見送りだ。
「お前の見送りに、そんな価値があるのかよ」
胡散臭いという表情を顔を隠さないランディに、現れたエリーも「そうじゃな」と悪い顔で頷いた。
「失礼なコンビね。価値なんて大アリよ」
鼻を鳴らしたキャサリンが、「これでも聖女よ?」と眉を寄せた。
「『皆さんにぃ加護がありますよぉにぃ』ってなモンで、イチコロよ」
何とも俗っぽい笑顔である。高らかに笑う聖女を、写真に収めて信者に見せてやろうか、とランディがため息をついた。
「まあアタシの加護は置いといて……。大丈夫なのよね?」
キャサリンが心配するのは、ヴィクトールやハートフィールドも【真理の巡礼者】の侵入があった事だ。それはつまり、帝国に目をつけられている事と同義である。
せっかく送り込んだ信者が、戦禍に見舞われてはキャサリンとしては心が痛いだろう。
「そうだな……正直全く問題ない。と言えば、嘘になるが」
小さくため息をついたランディだが、結局どこにいても帝国が侵略してくる事実は変わらない。加えてアランが言っていたが、帝国が進軍してくるにしても、ヴィクトールへの大規模な攻撃は難しいという事だ。
「確かに王国を落とそうっていう連中が、こことハートフィールドに馬鹿みたいに戦力を投入しないのは分かるわ」
帝国の目的はあくまでも王国の侵略だ。最優先事項は、王都の制圧である。ハートフィールドやヴィクトールに投入する戦力は、あくまでもブラフと足止めだ。
【真理の巡礼者】を利用した扇動と混乱。それに乗じた実行部隊の攻撃。その辺りがメインの戦力になるのは間違いない。
それはヴィクトールやハートフィールドから、援軍を出させないようにするための戦略であり、同時に国際社会と占領するだろう王国民からの非難を避ける政略でもある。
本来なら兵を割るような悪手を、カルト教団による現地調達の勢力で賄ってもらうという戦略。
カルトの反乱に見舞われ、対処できない王国に代わり、帝国軍が一時的にそれらを制圧すると言う形にしたい……という政略。
そのため方々に【真理の巡礼者】を放っている。
だからこそ、ヴィクトールではあまりにも効果が薄い。【真理の巡礼者】による洗脳も、帝国兵を送る事も難しいのだ。
地の利と国の利。
崖と山脈に囲まれた公国に入るには、必然的に魔の森を通るか、大河を通るしか出来ない。
帝国軍が大河を遡上するにも、王国、公国の両国家の許可がなければ不可能だ。仮に無理やり押し通るとなると、大河の上で両国家からの挟み撃ちを受ける事になる。
「まあ両国政府に話は通すんだろうが……」
苦笑いのランディに、エリーが「無能な味方は要らんぞ」と顔をしかめている。
実際エリーの言う通りで、今回は味方になるはずの王国政府と公国政府だが、全く信用がないのだ。どちらも帝国に侵略されるわけにはいかないだろうが、だからといってルシアンやアランの言う事を聞くとも思えない。
加えて全てを話せないというジレンマもある。連中の目的の裏に、エリーの身体や古き王があるなら、それぞれの封印を解くことが出来る日が一番怪しい。だが襲撃の日を伝えるにしても、ピンポイント過ぎて、逆に怪しくなってしまう。
「その辺は親父殿と閣下が上手くやるだろうけど」
ため息混じりのランディが、とにかくヴィクトールとハートフィールドの主戦場は、ハートフィールド領にほど近い別の伯爵領だろうということだ。そちらにもハイゼンクリフには負けるが、大きな港があるため、襲撃を受ける可能性は大いにある。
とにかく今は帝国が取れる手が限られているからこそ、アランもルシアンも相手の策に乗ることを選んだわけだ。
「何にせよ親父殿が受け入れを許可してるからな。絶対に護ってみせるさ」
ランディの言葉に、キャサリンが「信じるわよ」と真剣な顔を見せた。
「信じろ。ヴィクトールの名にかけて、領民には傷一つ付けねえ」
真剣な顔のランディに「分かったわ」とキャサリンが大きく息を吐き出した。
「一旦暗い話は止めにしましょ。どうせ連中が事を起こすにしても、もう少し先の話でしょ?」
紅茶に口をつけたキャサリンが、表情を一転させて街作りの話題に切り替えた。
「まだまだ作りかけだけど、結構素敵な街になりそうじゃない?」
大きな通りと、大河へと続く水路。商業を起こし、水路経由で港町へ大量の物資を届けられる街は、キャサリンをしても可能性の塊に見えているのだ。
「コンセプトとかあるの?」
目を輝かせるキャサリンに、「一応……」とランディが服飾をメインにしたデザイナー達の街にしたい事を語った。
「へぇー。デザイナーか。そーいやアンタの妹、なかなかのモンだったわね」
しみじみと頷くキャサリンに、なぜかエリーが「そうじゃろう」と満足気に頷いている。
「つってもまだ子どもだし、無名だからな。流石にクラリス一本じゃ心許ない」
腕を組むランディに、エリーとキャサリンが「「大丈夫じゃ」」と声を揃えた。意外な所で意見が噛み合う二人に、ランディは「あのな……」とリズにしたのと同じ説明をする。
「エリーは聞いてただろ」
ため息混じりのランディに「知らん。恐らく寝てた」と鼻を鳴らしたエリーが、確かに一理あると頷いた。
「コタツにしても、さっきの考察にしても、この話にしても……なんでアンタ学園の勉強出来ないのよ」
呆れ顔のキャサリンに、「俺が聞きてーわ」とランディが鼻を鳴らした。
「ま、それはいいわ。にしても別のデザイナーね……。アテはあるのかしら?」
優雅に紅茶を傾けたキャサリンだが……
「ああ。一応な。マダム・ヴァルモアとかいう――」
「ブーーーーーーー!」
ランディの回答に思わず口に含んだ紅茶を思い切りぶち撒けた。
「きったねぇな」
「そうじゃな」
眉を寄せるランディとエリーのコンビに、「ゴホッ、ゴホッ」とキャサリンが噎せながら、手を挙げた。
「ちょ、ちょっと待って……聞き間違いかしら?」
顔を上げたキャサリンに、「おい、ハナ出てんぞ」とランディが苦笑いだ。
「うっさい。今はどうでもいいでしょ」
そう言いながら鼻をすすったキャサリンが、「で? 何だって?」とランディを睨みつけた。
「何って……マダム・ヴァルモアだけど?」
首を傾げるランディに、キャサリンが頭を抱えて唸りだした。うずくまるように頭を抱え、低い声で唸るキャサリンを前に、ランディとエリーは顔を見合わせ思わず苦笑いを浮かべた。
「どんな感情?」
「妾が知るわけがなかろう」
二人がもう一度キャサリンに視線を戻したその時、
「あ゙ーーー」
と雄叫びと共にキャサリンが顔を上げた。
「アンタって……いや、アンタ達ってホント、アンタ達よね」
よく分からない罵声に「「は?」」とランディとエリーが、ポカンとした表情を見せた。
「マダム・ヴァルモアって……」
頭を抱えるキャサリンに「何だ、知り合いか?」とランディが首を傾げた。
「知り合いっていうか、知ってるっていうか……」
その微妙な表現に、ランディの中でようやく合点がいった。恐らく、ゲームにも登場する、重要なキャラクターだと。
「もしかして、敵だったり?」
恐る恐る聞くランディに、キャサリンが「違うわ」と首を振った。
「アタシの……聖女の最強装備を作れるファンキーな婆さんよ」
ランディを睨みつけるようなキャサリンが、大きくため息をついて続ける。
「最強装備? デザイナーの婆さんが?」
眉を寄せるランディに、キャサリンがマダムが服にルーンを織れる事を説明した。
「服にルーンって……」
「妾達も出来るの」
エリーの言葉に、「ルーン! そうだ!」と声を張り上げたランディが、自身の服をたくし上げた。
「ちょ、ちょっと何よ急に」
顔を覆うものの、目は隠せていないキャサリンをよそに、「どーりで身体が重いわけだ」とランディはようやく自分が〝抑制〟のルーン入りシャツを着ている事を思い出した。
「キースの野郎……次はボコボコにしてやる」
悪い顔で笑うランディだが、「馬鹿ね」とキャサリンは呆れ顔だ。
「それにしても、アンタ達チートがすぎるでしょ」
キャサリンがジト目を向けるのは、エリーとその中にいるリズだ。
「ホンっと、アンタ達と敵対し続けなくて良かったわよ。ルーンにしろマダムにしろ、とんだフラグクラッシャーだわ」
遠い目をするキャサリンの言う通り、仮に今も一生懸命ゲームをしているつもりなら、またもや先回りどころか自分のはるか上をいかれていた可能性があるのだ。
「アンタ、本当にシナリオ知らないのよね」
「知ってるか」
鼻を鳴らすランディに、「納得いかないわ」とキャサリンがまた頭を抱えるのであった。
※すみません。久しぶりに体調を崩しまして。
明日の更新がなければお察しください。




