第207話 進撃のリヴィア
※話をぶった切るようで申し訳ないです。少々忙しくしてまして。本来ならリヴィアの件は、ランディの思考の途中で訪れるはずだったのですが、ぼんやりした頭では、重要な部分とこの話を纏めきれないと判断した結果、こんな形になりました。
推敲等もほぼなしなので、とっ散らかってます……
ランディが思考の海へと沈んだ丁度その時、扉の前がドタドタと慌ただしくなり、勢いよく扉が開かれた。
「あ、はっけーん!」
ランディの思考をぶった切ったのは、突如として現れたリヴィアだ。満面の笑みで現れたリヴィアは、空気など読まないと言った具合で、「探したんだよー」と声をあげている。
「ユリウスもキャシーも、どこに行ったかと思ったよ」
「リヴィア今はちょっと――」
ユリウスが静かにしろというより前に、トテトテと歩いてきたリヴィアは、ユリウスとキャサリンの間にちょこんと座った。言動は子供っぽく小柄なリヴィアだが、年齢的にはランディ達とそう変わらない。流石に二人がけのソファに三人が座れば、窮屈そうだ。
迷惑そうなキャサリンと、呆れ顔のユリウス。それに挟まれたリヴィアが「やっほー」とランディに手を振った。
「リヴィア、お前は今までどこに行ってたんだ?」
眉を寄せるユリウスに、「逆だよ」とリヴィアが頬を膨らませた。
「二人がリヴィアを置いていったんじゃん」
「アンタが街を見てくるって勝手に居なくなったんじゃない」
「一応お前は俺の護衛ってことになってるんだからな」
ため息混じりの二人に「じゃー着いてきてよ」とリヴィアが頬を膨らませた。
(護衛……護衛か)
リヴィアを見ていたランディが、ふと彼女と目があった。
「ねー。暇なんだよね。遊ぼ」
「俺は暇じゃねー。頭脳労働中だ」
顔をしかめるランディに、リヴィアが「えー」と口を尖らせた。
「だって、【戦鬼】はルーカスより強いでしょ。遊んでよ」
口を尖らせるリヴィアに、「ここには他にもいるだろ」と周りを見渡した。キースにアーベルもルークに引けを取らない実力だ。
「確かにそうだけど……」
キョロキョロと周りを見回したリヴィアが、キースをじっと見つめ「お爺ちゃんは怖そうだし」とアランに視線を向けた。
「君が二代目【剣聖】殿か」
リヴィアを見て笑顔を見せたアランに「そだよー」とリヴィアが頷いた。
「オジサンは誰?」
首を傾げるリヴィアに、「馬鹿」とキャサリンが顔をしかめた。
「リヴィア、彼はヴィクトール卿だ。ここの領主だな」
「ふーん」
納得する様に頷いたリヴィアに、アランが「二代目は可愛げがあるな」とキースに笑いかけた。
「私の口からは何とも」
無表情で首を振るキースに、「隠さなくていいぞ」とアランがまた笑い声を上げる。
「オジサンはししょーを知ってるの?」
「師匠?」
「うん。師匠は【剣聖】だから、リヴィアが二代目」
「なるほど。【剣聖】なら知ってるよ。私もこう見えて冒険者をしていた事があるからね」
アランの言う冒険者時代は、問題を起こして国外に出ていた時期の話だ。とは言えそこまで長い期間ではない。
「だから若い頃は、良く耳にした名前だね」
今から二十年以上前、ランディ達が生まれる前の話だ。ちょうどその頃が【剣聖】の全盛期とも言える。
キース達【黒閃】よりも近い世代の英雄。だからランディより少し上の【鋼鉄の獅子】世代にとっては、憧れの名前でもある。
「ふーん、知ってるんだ。ならオジサンも強いの?」
首を傾げたリヴィアが、ランディやルークが恐ろしく強いことを嬉しそうに語っている。
「お前は俺と戦った事ねーだろ」
呆れ顔のランディに、それでもルークが自分よりも数段強いと言っていたとリヴィアが目を輝かせている。普段ランディを褒める事がないルークなだけに、自分の知らない所でそんな事を言われていたら、ランディとて「そ、そうか」と微妙に照れてしまうというものだ。
「だから……そこのトップでししょーも知ってる元冒険者なら、すっごく強いんじゃない?」
目を輝かせるリヴィアに、「強そうに見えるかな?」とアランがおどけてみせた。
「うーん。見えない」
眉を寄せるリヴィアに「そうだろうね」とアランが大きく頷いた。
「皆が命をかけてくれているからね。だからせめて私の手は、皆のために命を育もうかと思って」
アランが感慨深げに手をさする。顔に似合わずゴツゴツとした手指は、ともすれば鍛え抜かれた騎士の手に見えなくもない。だからこそリヴィアは「剣ダコがあるけど?」と眉を寄せてしまう。
「ああ、これか。これは毎日皆に混じって振ってるからね……鍬を」
笑顔のアランが鍬を振る真似をしてみせた。事実アランの言う通りで、それは既に彼のライフワークと言っていいものだ。領主の仕事に加え、領民と肩を並べて鍬を振る。他にもやるべきことがあるというのに、それらを熟しながら鍬を振る。
領民から慕われる、アランらしいと言える行動だ。
「それって楽しい?」
興味を示すリヴィアに、ユリウスは「珍しいな」と小さく呟いた。事実ユリウスの言う通りで、リヴィアの興味は基本的に戦いと相手の強さだけだ。もちろん女の子らしく、可愛いものや甘いものも好きだが、相手は二十以上歳の離れた中年男性だ。話が合うとは到底思えない。
それなのにアランの話に、興味を示しているのだ。いかにアランがナイスミドルとは言え、幼馴染のユリウスでも初めてみるリヴィアの姿だ。
驚くユリウスを尻目に、アランはリヴィアに土を耕すことの楽しさを説いている。
「ふーん。リヴィアにはよく分かんない」
聞くだけ聞いてリヴィアらしい反応に、ユリウスは「申し訳ございません」とアランへ頭を下げた。
「気にすることはない。興味は人それぞれだろう」
笑ったアランが、再びリヴィアへ向き直った。
「君は剣が好きかい?」
「うーん、どうだろー。でも、剣で遊ぶのは好きだよ。ずっとユリウスとそうして遊んできたから」
「そうか。なら……命を斬ることは?」
アランの投げた質問に、全員の顔が強張った。だがリヴィアは「うーん」と唸って首を振るだけだ。
「分かんない。でも、剣が楽しいのは、上手になるのと強い相手と戦う事かな」
笑顔を見せたリヴィアが「ルーカスと同じ事言うね」とまた笑った。ひとしきりアランとリヴィアは剣やルークの話で盛り上がった頃、ユリウスが「失礼」と二人の間に割って入った。
「リヴィア。今重要な話の途中でな。出来れば静かに――」
「えー!」
口を尖らせたリヴィアが、「しょうがないな」とアーベルへ視線を向けた。
「お兄さん、暇でしょ。リヴィアと遊ぼ」
「いいよ」
まさかの同意に、ユリウスとキャサリンが「いいのか?」と同時に目を見開くが、ランディからしたらアーベルが興味を持つのも仕方がないというところだ。
なんせ二代目とはいえあの【剣聖】の名を拝しているのだ。加えてルークとも切り結んだ事を仄めかしている。ルークが頭一つ抜けているとは言え、アーベルももう一人のガルハルトも、切磋琢磨してきた仲間でありライバルだ。
自分の力を試してみたいと思うのも無理はない。
喜ぶリヴィアを引き連れ、「訓練場に行ってくる」とアーベルが部屋を後にした。そうしてようやく静かになった部屋で、ランディは今度こそ思考の海へと沈むのであった。




