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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第五章 春休みってすぐ終わる

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第199話 まずは簡単な問題から片付けたいと思います

 翌朝、ランディとリズは太陽が昇り始めた頃に、執務室の談話スペースに集まっていた。目的はもちろん、クラリスのデザイン工房についてだ。


「さて。どうしたもんかな……」


 ランディが腕を組み、難しい顔をしてしまうのも無理はない。クラリスの為のデザイン工房を作るとは言ったものの、いざ本気で考えてみたら問題が山積みなのだ。


 クラリスのデザイン工房が当たる事は分かっているし、クラリスが喜ぶことも分かっている。


 だがそこに至るまでの道のりと、至ってからの忙しさが、ランディとリズの二人に問題としてのしかかっている。


「何と言っても無名だ。例えばリズ、それからキャサリン嬢。そんな有名どころがデザインするとなれば、話題性で集客が見込めるが……」


 大きくため息をついたランディが続けるのは、どうしてもヴィクトールという田舎の、そして子どもが描くデザインだ。


 いくら最近発展めざましいとは言え、やはりクラリス単体でのネームバリューは皆無に等しい。


「ヒットして集客が上がる……の前に、そもそも集客が出来ない状態ですか」


 リズの言う通りヒットもなにも、集客から難しい。そもそも発熱インナーの販売も、周辺の平民向けの予定なのだ。


「集客もなんだが、仮に爆発的な人気が出たら、それはそれで大変だしな」


 ませているとは言え、クラリスはまだ十二の子どもである。これからまだまだ楽しいことがあるクラリスを、ランディは工房に縛り付けたくないのだ。


「この先どうするかは分からんが、公国にも学園はあるし、そこで俺達みたいに学園生活を楽しんで欲しい……とは思ってる」


 クラリスがどう考えるか分からないが……そう続けたランディに、リズが悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「『学園なんてどうでも良い』と仰っていた方の発言とは思えませんね」


 痛いところを突かれたランディが、「俺は良いんだよ」とリズの笑顔から顔を逸した。


「アラン様のお気持ちが分かりましたか?」

「兄貴ってーのは、妹に優しいんだ。セドリック様みたいに」


 肩をすくめたランディに、リズも「フフフ」と微笑んだ。


「確かにランディの言う通り、学園というか、今この時にしかない出会いや経験がありますからね」


 大きく頷くリズの言う通り、学園生活でしか得られないものが確かにある。それは大人になってからでは決して取り戻せない貴重な経験だ。


「では、クラリス様の工房はもっと先でしょうか?」


 少しだけ残念そうなリズに「いや。コンセプトの中心だからな」とランディが再び腕を組んで唸った。


 コンセプトとして出してみたものの、いざ形にしようとすると、いきなり暗礁に乗り上げたわけだが……


「どちらにしろ作るなら、まずは場所を押さえませんか?」

「そうだな。走りながら見えてくる物もあるかもしれん」


 頷いたランディとリズは、机の上に街の区画図を広げた。クラリスの扱いをどうするかで迷っているが、今後街のシンボルとも言える中心的な工房になるのは間違いない。


 ならば場所は押さえておく必要がある。中心となる工房をどこに作るか……二人が区画図の上で視線を彷徨わせた。


 既にキースにも町長にも、空いている場所ならどこでもいいと許可を貰っている。


「どこでもいいっつっても、候補はあんまりねーよな」


「そうですね。やはり大通りに面した場所がいいかと思います」


 区画図を眺めていたリズが、「やはりここでしょうか?」と街のほぼ中央を指さした。


「中央か。確かにそうだな……」


 頷きはしたものの考え込むランディの顔を、「気になる事があります?」とリズが覗き込んだ。


「いや。確かに中央が良いんだが、やっぱクラリスには少し早いかなと思ってな」


 ランディの言う通り、中央に工房を建ててしまえば、動かさないわけにはいかない。なんせ中央の一番いい立地だ。いつまでも工房を閉めていては、目立ってしまう。


 そうなるとやはりクラリスは、工房にかかりきりになるだろう。ランディの望む形とは程遠いと言える。


「それに、だ――」


 区画図をトントンと叩くランディが、仮に人気が出ても、それを継続させる難しさを語った。


「リズやセシリア嬢も褒めてはくれたが、クラリス自身もまだ発展途上だという自覚はあるだろ」


「確かにそうですが……」


 頬を膨らませるリズは、「絶対に通用しますよ」とクラリスのデザイナーとしての才能に太鼓判を押している。


「だがまだまだ引き出しの多さで、プロに勝てるとは思えん」


 クラリスの才能は認めるが、それでもプロを侮る事は出来ない。戦場は違えど、彼ら彼女らも、そこで鎬を削っている人間だ。才能だけの小娘では、まだ相手にならない。


 畑こそちがえど、ランディも武の高みを目指し鎬を削っている真っ最中だ。才能だけで戦えるほど、どの世界も甘いものではない事を、ランディは誰よりも理解しているつもりだ。


「出来たら少しずつ経験を積めれば……」


 区画図の上で彷徨っていたランディの指がピタリと止まる。


「そう考えると静かで、クラリスの生活に支障がない程度なら……ここだな」


 ランディが指したのは、高級住宅街予定地だ。街の中でも小高い丘の上にあり、街を一望出来る静かな場所である。


「確かにここだと静かですが――」


 注文が来ないのでは? そう言いたげなリズの視線に「そうなんだよなー」と背もたれに身体を預けて天井を仰いだ。


 ランディもクラリスの熱意は知っているし、何よりリズの言う通りクラリスのデザインは、間違いなく一級品だと思っている。だがクラリス本人も言っている〝自己流〟なのも理解している。


「せめて、クラリスだけじゃなくて、他にもデザイナーがいりゃあ……」


 天井を仰いだままのランディが思い出すのは、自分に戦い方を教えてくれた人達のことだ。キースはもちろんのこと、様々な人がランディにこの世界での戦い方を教えてくれた。


 クラリスにデザインの〝いろは〟を教えてくれて、尚且つ工房の面倒も見てくれる存在。


「師匠であり共同経営者であり、ですか……」


 リズは考え込むように腕を組んだ。


「ランディは、マダム・ヴァルモアを知ってますか?」


 真剣な表情のリズに、「マダム……何だって?」とランディが身体を起こした。


「マダム・ヴァルモアです。二十年程前に突如として現役を引退した、伝説的デザイナーなんですが」


 リズが続けるのは、まだ四〇そこらで引退を表明したデザイナーの話だ。かつて大陸中でその名声を轟かせた伝説のデザイナーで、彼女のオーダーメイドドレスを着ることこそ、社交界ではステータスとなる程だったという。


「スゲー。婆さんだな」

「まだレディです」


 頬を膨らませたリズに「悪い」とランディが肩をすくめた。


「んで? その引退した伝説のレディをクラリスの先生に……ってことか?」


 首を傾げたランディに、リズが頷いた。


「正確には、ランディの言っていた師匠兼共同デザイナーですが」


「おいおい。伝説って呼ばれるくらいの人だぞ?」


 眉を寄せたランディが、引退した伝説にまた針を握らせるなど、下手をしたら街を作る以上に難しい案件だ。


「分かりません。ただ……もしマダム・ヴァルモアを動かせたとした場合の、私のビジョンをお話しても良いでしょうか?」


 真剣なリズに、ランディが前のめりになって頷いた。


「まず私達が出した工房の予定地ですが、どちらも使ってはいかがでしょう?」


 リズの提案に、「どちらも?」とランディが首を傾げた。


「中央をマダムに任せて、丘の上でクラリスってことか?」


 眉を寄せるランディだが、リズは「違います」と首を振った。


「マダムとクラリス様はどちらも丘の上です」


 リズの提案と意図が分からないランディは、ただ黙って話の続きを促すだけだ。


「区画を見て思ったんですが、何も工房を一つにまとめる必要はないんです」


 リズが語るのは、クラリスの工房の役目を二つに分けるビジョンだ。


 中央に作る工房は、流行の発信基地として使うものだ。そこでは、マダムのネームバリューを大いに活用した流行を発信する工房で、貴族や商会の令嬢と言ったお金持ちから、平民向けの既製品までを手広く手掛ける。


 とは言え、そこは流行を発信し、そして受信する場所だ。世間の流れをいち早くキャッチし、また流れを作り出す場所で作られ販売されるのは、多くの人間が手に取る作品になる。


「そしてここからが肝です。流行の発信基地には、実はもう一つ秘密の工房があるんです」


「そこが丘の上?」


 首を傾げたランディに「はい」とリズが頷いた。


「丘の上のアトリエ(工房)は流行を取り入れつつも。他にはない一点ものを扱う、格式高い場所にするんです」


「おお。なんか凄そうだぞ」


 更に前のめりになるランディに、リズも笑顔で顔を寄せた。


「特別な顧客のみが訪れることが出来る。マダム・ヴァルモアが手掛ける一点物。ステータスが重要な高位貴族向けですね」


 リズが更に語るのは、例えばその丘の上へアクセスするための紹介状だ。それを持つだけでも貴族の中ではステータスになる。


「クラリス様には、マダム・ヴァルモアと共にドレスの制作から、デザインまで……余裕を持った納期の中で、生のデザインを学ぶ機会になるかと」


 プレゼンが終わったリズが、「どうでしょう?」と微笑んだ。


「いいな。すごく良い」


 嬉しそうに頷くランディは「だが……」とその顔を引き締めた。


「まず、マダム・ヴァルモアが頷くのか? それと、クラリスがこの形で納得するかだな」


 大きなため息をついたランディの疑問はもっともだ。そもそもマダム・ヴァルモアありきの作戦であるし、何よりクラリスとマダムとの相性も問題になってくるだろう。


「そうですね……。もしお時間を頂けるなら、クラリス様を連れて一度マダムを訪ねてみますが?」


「え? 知ってんの? 伝説」


 驚くランディに「はい」とリズが笑顔で頷いた。


「マダムが引退するキッカケになったのが、お母様のドレスですから」


 とんでもない情報をぶっこむリズが、「お母様とマダムは、まだお茶飲み友達ですよ」と更にとんでもない情報をぶっ込んできた。


(ブラウベルグすげーな)


 そんな感想しか浮かばない。だが折角伝手があるなら、使わない手はない。


「ならクラリスとマダムの引き合わせは、お願いしてもいいか?」


 苦笑いのランディにリズは笑顔で頷いた。


「あと、出来たらクラリスには工房の事は内緒にしておいて欲しい」


「サプライズってやつですね」


 茶目っ気たっぷりにウインクを見せたリズが、「では早速……」と虚空から杖を取り出した。今から屋敷へ飛んでクラリスに話をしてみるのだろう。即断即決は、嫌になるほどヴィクトールと言った雰囲気だ。


「護衛はいらねーか?」

「大丈夫です。エリーもいますし、私もだいぶ強くなりましたから」


 笑顔を見せるリズの気配は、確かに出会った頃から考えられないほど熟練の魔法使いのそれだ。


「なら頼むわ」


「はい。まずお母様に手紙でお伺いを立ててからですから、今日の夕方にはクラリス様の意向を持って帰れるかと思います」


「OKだ。親父殿とお袋にもよろしく言っててくれ」


 手を振ったランディに「はい」とリズも手を振ってその姿を消した。


 一人残されたランディは「ふぅー」と大きくため息をついて立ち上がった。


「リズがいない間に、俺は俺で面倒事を片付けるか」


 大きく伸びをしたランディが、扉に視線を向けると丁度ノックが響き渡った。ランディが入室を促すと、現れたのはキースだ。


「丁度良かった。探そうと思ってたからな」


「そうですか。私もエリザベスさんの気配が消えたので、せっかくならと……」


 穏やかな口調だが、キースの纏う雰囲気はいつもとは違う。どうやらキースもランディと同じことを考えていたのだろう、とランディが大きく息を吐き出した。


「何人くらい潜り込んでる?」

「思っていたより少ないですな」

「そうか。なら案内してもらおうか」


 立ち上がったランディに、「かしこまりました」とキースが先導するように歩き出した。捕らえた【真理の巡礼者(ピルグリム)】の連中から、情報を聞き出すために……。

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