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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第五章 春休みってすぐ終わる

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第196話 見送りに来たって素直に言えないんです

 翌朝……早くもなく遅くもない時間帯に、コリーは現れた。ランディもリズも既に準備を済ませた丁度のタイミングは、長期休みの朝から現れる友人としては、百点満点の時間とも言える……のだが……


「お待たせしましたか?」


 いつも通りなコリーに、ランディは一瞬だけ言葉に詰まった。それでもなるべく平静に「いんや」と首を振って微笑む事にした。出来るだけコリーから視線を逸らさぬよう、いやその横に見える人物を視界に捉えないように。


「ねえ。なんで無視してんのよ」


「待ってねえよ。バッチリ、ナイスタイミングってやつだ」


 非難の声を無視しランディはサムズ・アップを見せた。未だに「ねぇ」と聞こえる言葉を無視するランディに、コリーは「よ、良かったです」と微笑むのだが隣の人物が気になって仕方がないのだろう。


 やはりコリー少年は、どこまでもお人好しだ。これまたお人好しのアナベルとセットになれば、いつか誰かに騙されやしないかとランディはヒヤヒヤしていたりする。


(あー。でもここまでピュアだと、騙すほうが嫌になるという可能性も)


 そんな現実逃避気味のランディに、コリーの横で盛大に口を尖らせるのは……


「ちょっと。アタシもいるんだけど」

「うるせーな。何でいるんだよ。お前は聖女の仕事がどうのって言ってたろ」


 顔をしかめるランディの言う通り、コリーの横には何故かキャサリンが一緒にいるのだ。


「仕事はあるわよ。ちょっとした伝言忘れがあったから、一緒に来ただけ」


 鼻を鳴らすキャサリンに、ランディは思わず「何だ。来ねーのか」と口走ってしまった。来たら面倒だとは思うが、キャサリンの持つ現代日本の知識はかなり有用なのだ。


「もしかして、来てほしかったわけ?」

「いや」


 満更でもなさそうなキャサリンに、ランディが真顔で食い気味に首を振った。


「来て欲しいとしても、お前の脳みそっつーか、ジャペーンの知識だけだな」


「アンタ失礼すぎるでしょ」


 頬をふくらませるキャサリンだが、「うるせーな」とランディも口を尖らせた。


「お前は週一くらいで丁度いいんだよ」


「奇遇ね。それはアタシも」


 鼻を鳴らしたキャサリンが、ランディに数枚の紙を手渡した。


「これ。派遣する人員の名簿よ。近い内に派遣できると思うから」


 キャサリンが言うのは、教会が抱える荘園からあぶれた信者達のことだ。今は様々な教会や修道院に身を寄せているが、既にキャパオーバーな状況は今すぐにでも人を派遣したくて仕方がないのである。


「国の許可とか貰ってたら遅くなるし、最初は聖教会公国支部での活動って名目で送るから」


「なるほど。教会の慈善活動名義で、送り込んで許可は後からか」


「そーゆーこと」


 ニヤリと笑うキャサリンに、「悪い聖女が居たもんだ」とランディも苦笑いだ。


 二人が話しているのは、超法規的な措置における教会関係者の国外移動だ。各国で国教としての地位を築いている教会だからこそ出来る、期間限定での教会職員の派遣。当該国で教会関係者が不足している場合、教会は国の承認を待たずに教会関係者を該当する教会へ派遣する事が出来る。


 この時、教会関係者は旅行者とも移住者とも違う、教会という組織に属する人間として扱われる。冒険者が国境をまたぎ、別の国で活動出来るのに似ている。


 ギルドなら護衛などで同行する場合。

 教会ならそれこそ慈善活動から布教まで様々だ。


 もちろん期間を過ぎても活動する場合は、各国の承認を経て籍を移さねばならないし、何か問題があった場合に責任を問われるのは教会や冒険者ギルドだ。


 だからギルドにしろ教会にしろ、派遣する人員の身元は必ず確かな人間である。


 つまりキャサリンは信者たちに、それっぽい教会の役職を与えて、公国に新しく出来る街の教会へ派遣するという名目を取るのだ。役職持ちが、小姓や従者を引き連れて移動するのは当たり前のこと。


 家長に役職でも与えて、家族単位で移動させる。キャサリンだからこそ出来る力技での派遣とも言える。


「と言っても、これだけの数の派遣となると、絶対国から突っ込まれるし……期間はせいぜい春休みの終わりくらいまでよ」


「つー事はそれまでに国から許可を貰わねーと、ってわけか」


 眉を寄せるランディに「そーゆーこと」とキャサリンがまた頷いた。


「王国側はアタシと大司教様から打診を入れるから、公国側はお願いするわ」


「私の仕事ですね」


 微笑むリズが「久々に文官らしいです」と嬉しそうに続けた。


「エリザベスに任せときゃ大丈夫ね。デカ男じゃ心配だったけど、これで安心だわ」


 ニヤリと笑ったキャサリンに「どーゆー事だ」とランディが盛大に顔をしかめた。


「そーゆー所よ」


 悪びれる様子のないキャサリンが、「表に馬車も待たせてるから」と二人にヒラヒラと手を振った。


「あ、そうそう。人員はアンタに貰った希望を元に既に済ませてるから……。後はよろしくしてあげてよね」


 若干心配そうなキャサリンに「任せろ」とランディが頷いた。理由はどうあれ、ヴィクトールに来て働いてくれるのなら、それ即ちヴィクトールの人間だ。


「本来の始業式の日には、王都に戻ってきなさいよ」


 背中を向けたままのキャサリンが「日食に間に合わなくなるから」と今度こそ門に向けて歩き出した。その背中を見送るランディ達三人は、思わず顔を見合わせ微笑んだ。


 何だかんだで面倒見が良いというか、肩の力の抜けたキャサリンが、本来の彼女の姿なのだろう。


「キャサリン嬢!」


 ビクリとなったキャサリンの背中に「事業、成功させるぞ」とランディが手を振った。ゆっくり振り返り、どこか恥ずかしげなキャサリンが、それでも小さく手を挙げてまた背中を見せて歩いていく。




「さてと。俺達もそろそろ帰るか」


 ランディとリズは、既に侯爵家の使用人たちには挨拶も済ませてある。だから後はリズに転移を使ってもらうだけなのだが……


「一緒に行きますか?」


 ……ランディが話しかけた庭木の影や別の影から、「いえ……」と数人の【暗潮】が顔を出した。ここ数日リズやランディを影から支えてくれたメンバーである。あの日、ヴァルトナーから帰って来た時、リズにお礼を言われてからここ数日妙に気合が入っていたメンバーでもある。


 流石にエリーの身体探しには同行しなかったが、それでもランディ達が帰ってくるまで学園周辺でしっかり待っていたりと、彼らは完全にリズの護衛なのだ。


「我々は、一度侯爵家に戻り、ミランダの指示を仰ぎます」


 頭を下げる男性に、ランディが「そうですか」と頷いた。確かにブラウベルグも未だ【真理の巡礼者(ピルグリム)】の脅威に晒されていると言える。相手の目的が見えない以上、影で動ける人員は多いに越した事はない。


「では、お姫様の護衛はお任せ下さい」


「お願いいたします」


 頭を下げた男が、「それでは――」と頭を下げたまま姿を消した。


「一度閣下にも会いに行きたいが……」

「今は忙しいでしょうからね」


 リズの言う通り、セドリックすら領地に戻して様々な対策を実行している最中だ。呑気に会いに行って、その手を止めるわけにはいかない。


 ルークやセシリアも。キャサリンも。皆が皆、この春休みは忙しい。皆が気にならないわけではないが、手を止めるわけにはいかない。


 加えてそれぞれ春休みの間に、一皮剥けるはずだ。ならばランディ達もいざという時彼らに助けてもらった恩を返せるように、力をつけるべきだ。


「俺達は俺達に出来る事をするか」

「はい」


 頷いたリズが、虚空から杖を取り出した。


「じゃあ、飛びますよ」


 リズの言葉とほぼ同時、ランディとコリーを光が包みこんだ。



 ☆☆☆



「いやー。懐かしいぜ、我が家」


 久しぶりに帰ってきたヴィクトール領は、数ヶ月前とさほど変わらない長閑な景色だ。聞く限りでは、【真理の巡礼者(ピルグリム)】も確認されておらず、この田舎だけは色々な問題から隔離されているようにすら感じる。


「お! ようやく帰ってきやしたね」


 屋敷の扉から顔をのぞかせたのは、ハリスンとリタだ。リズに駆け寄り、「途中で帰ってしまい」と頭を下げるリタに、リズが構わないと笑顔で首を振っている。


「コリー君も久しぶりっす」

「お久しぶりです!」


 元気に挨拶をしたコリーに、「直ぐ部屋に案内させやすね」とハリスンが近くを通った騎士へと声を掛けた。


「それじゃあ、先輩。また後で――」

「ああ。後で顔を出すよ」


 騎士と一緒に歩くコリーへ手を振るランディが、「で?」とハリスンへ向き直った。


「ハートフィールドはどうだった?」


「どうもこうも、対処が早かったから良かったって感じっすかね」


 肩をすくめたハリスンの言う通り、ヴァルトナーと比べると直接的な被害こそないものの、少なくない人数が洗脳に遭っていたという。


「こりゃ新しい街は大変かもな」

「恐らく相手もこれ幸いと流入させてるっすよ」


 苦笑いのハリスンに「だろうな」とランディも苦笑いを返した。この状況で、新しい街を作ってそこに人を入れるのだ。敵からしたら最高の隠れ蓑だろう。


 いかにヴィクトールの人間が洗脳を見破れると言っても、初めて入ってくる人間の挙動まで見抜くのは難しい。


「どうするんすか?」

「うーん。まあ追々考えるさ。最悪エリーの広域浄化魔法でぶっ飛ばしてもいいからな」


 何とも言えない力技だが、それが可能なのが古の大魔法使いエリーである。


「とりあえずコリーは任せるぞ。俺達は親父殿に挨拶して、その足で新しい街に向かうからさ」


 肩を叩いたランディに「りょーかいっす」とハリスンが頭を掻いた。本来なら御者として同行してほしかった所だが、何だかんだ言って騎士隊の副隊長だ。新しく入る見習い達の教導から、【真理の巡礼者(ピルグリム)】への対応まで、やることは盛り沢山だろう。


「リタはどうしやす?」


 首を傾げたハリスンに、名前を呼ばれたリタがランディを見た。


「リタはハリスンと留守番だ」


「で、ですが――」


 リズのお世話を……そう言いたげなリタにランディは首を振った。


「今回は後輩とは言え客を招いてるからな。リタには悪いが、コリーとハリスンの面倒を見てもらいたくてな」


「あっしもっすか?」


 素っ頓狂な声を挙げたハリスンに、「お前も、だ」とランディが頷いた。


「騎士達の教導、ハートフィールドとの連絡係、加えて【真理の巡礼者(ピルグリム)】の阿呆共だ。お前はお前が思ってる以上に忙しい」


 ランディの言葉に「うーん」とハリスンが首を傾げる。


「つーわけだからよ。リタ、頼むわ。コイツを見張って働き過ぎの時は無理にでも休ませてやってくれ」


「そういう事なら」


 頷いたリタが力こぶを見せた。何だかんだでリタとハリスンのコンビは良い感じだ。ハリスンもリタの言うことなら素直に聞く。実際ハリスンが今この領で占める重要度というのは非常に高いからこそ、側でしっかりとスケジュール管理が出来る人間が必要なのだ。


「リタ、頑張ってくださいね」


 笑顔を見せるリズに「お任せ下さい」とリタがまた力こぶを見せた。


「じゃあ。後は頼むぞ――」


 リタとハリスンを残し、ランディとリズはアランに会うために屋敷の扉をくぐった。


「ランディ、もしかしてワザとです?」


 微笑むリズに「さあな」とランディが視線を逸らした。リタのためにハリスンの面倒を見ろ、そう言ったのか。と言いたげなリズの視線に、ランディはただ無言で笑顔を見せるだけだ。


「とにかく、親父殿への挨拶をちゃちゃっと済ませて、街に向かおうぜ。今日中には着いときたいからよ」


 話題を逸らしたランディに、リズが微笑み「分かりました」と頷いた。

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