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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第五章 春休みってすぐ終わる

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第194話 春休み、まだ始まったばかりとか……嘘だろ

 棺に収まったランディ達包んだ光が収まった頃……


「お?」


 ランディの目には見覚えのない天井が映っていた。いや、正確には見覚えはある。久しぶりに見る天井は、やはり趣味が良いとは言えないが。


「ここって……」


 ムクリと起き上がるランディ。同じ様に皆も棺から身体を起こして周囲を伺っている。目に映るのは、黒い壁とそれを這うように伸びる、血管のような脈動する管。


「【時の塔】だよな?」


 ルークの言葉に頷けるのは、ランディとセシリアだけだ。残るメンバーは初めて訪れる場所に加え、キャサリン達は【時の塔】という言葉すら知らないのだ。


 そんなキャサリンが【時の塔】について、アナベルにあの七不思議最後の【新月の塔】の正体だと聞かされて、あの日を思い出して肩を落とす一幕がありつつも……


「これ見よがしな扉があるな」


 棺から出たランディの目の前には、あの遺跡にあったのと同じくらい大きな扉がある。月と太陽のレリーフが掘られた扉。そして振り返れば並べられた無数の棺。壁や床、天井の材質こそ違えど、まさしくあの遺跡と同じ構造と言えよう。


「エリー」


 ランディの呼びかけに、エリーが黙って頷いて扉に手をかけた。


 軋む音を響かせながら、ゆっくりと開く扉……にエリーの後ろからランディも両手をかけた。ゆっくりと、だが確実に、エリーとリズ、そしてランディの三人が閉ざされていた扉を開いていく。


 扉の隙間からは眩い光が部屋に注ぎ込み、向こうの景色は全く見えない。だがランディには分かる。この向こうに、間違いなくエリーの身体があると。


 そうして三人で扉を押し開けば、眩い光は嘘のように収まり、全員の目の前に塔内部とは全く様子の違う部屋が現れた。


 真っ白な大理石で出来た床。

 まるで夜空を閉じ込めたようなドーム型の天井と壁。

 壁と天井に瞬く無数の星が照らすのは、中央に座す水晶で出来た美しい棺だ。


 荘厳な気配に、誰かがゴクリと唾を飲み込んだ。ランディは、その音すら煩く感じてしまう。なんせ静謐に包まれた室内は、立ち入ることさえ許されないと錯覚する程なのだ。


「……あ、あの棺が――」


 何とか声を絞り出したランディに、隣でエリーが黙ったまま頷いた。


 全員が恐る恐る部屋へと足を踏み入れた。大理石を叩いた足音が想像以上に反響し、誰ともなく顔を見合わせ忍び足に……。まるで眠る幼子に気を使うように、全員が抜き足差し足忍び足……なのだが、ルーク、ランディ、キャサリンの三人だけは端から見れば墓泥棒の集団にしか見えない。


 そうして幼子に気を使う集団と、墓泥棒の集団がたどり着いた美しい棺の中には……これまた美しい女性が横たわっていた。


「なにこれ……黒髪のエリザベスじゃない」


 キャサリンが思わず声を上げるのも無理はない。ランディ達はあの日【時の塔】で見たから知っているが、知らない人間からしたら驚きでしかないだろう。ただランディだけは……


「全然違うだろ。良く見ろ。唇の形とか。あと表情も。寝顔が全然違うだろ」


 ……キャサリンに力説しているのだが、その後ろでエリーが赤くなっている事を、ランディだけが知らない。


「あー、はいはい。ごちそうさま、ごちそうさま」


 ジト目でヒラヒラと手を振るキャサリンに、「ちゃんと見ろ」とランディが眉を寄せるが、キャサリンは面倒だと言わんばかりに口を開いた。


「デカ男の惚気は良いとして、結局身体は見つかったけど、どうやって戻すの?」


 キャサリンが、棺の上に被されている見えない壁をトントンと叩いた。次元の壁か、魔法障壁か。なんにせよ、固そうだという事しか分からない壁を、キャサリンが「割っても大丈夫なやつ?」ともう一度軽く叩いた。


「見えない障壁……」

「なら知ってる人に聞きゃいいんじゃねえか?」


 ルークの言葉に、ランディとルークの二人が部屋の隅へと視線を向けた。


 何もない。ただ星が瞬くだけの地平を、全員が見つめたその時……


「あちゃー。バレてたか」


 ……キャサリンのような桃色の髪で、赤縁眼鏡で白衣の女性が現れた。


「……シャル」

「久しぶりね。ノーラ」


 息を呑んだエリーと、笑顔を見せるシャルと呼ばれた女性。あの映像で見た時はかけていなかった眼鏡は、それだけ時が経ったということだろうか。


「何じゃその眼鏡は?」

「え? 格好良くない? ほら、研究者って感じで」

「分からん」


 鼻を鳴らすエリーに、シャルロッテが「えー?」とボヤきながら眼鏡を外して白衣の胸ポケットにねじ込んだ。想像とは違うシャルロッテ像に、ランディ以下全員が面食らう中、エリーだけは通常運転で、シャルロッテの近くへ歩み寄った。


「息災か?」

「ノーラこそ」


 笑顔を見せ合う二人だが、シャルロッテがその顔を急に曇らせた。


「……ごめんなさい、ノーラ。あの時私がもっと早く駆けつけていられたら……」


 曇らせた顔を更に俯かせるシャルロッテに、「構わん。過ぎたことじゃ」とエリーがため息を返した。


「でも……」


 それでも俯いたままのシャルロッテに、エリーが「忙しかったんじゃろう」とまたため息を返した。先ほどシャルロッテは研究者だと言っていた。つまり親友の危機に気づかぬほど、何かの研究に没頭していたのだろう。


「忙しかった……そうね――」


 視線を逸らしたシャルロッテだが、その顔はどこか苦笑いに見えなくもない。その反応にエリーの眉がピクリと動いた。


「シャル。お主まさか……」

「だって仕方ないじゃない。ダーリンと旅行中だったんだし」


 口を尖らせるシャルロッテは、どこか既視感しかない。今ここにいるキャサリン以外の全員が、「あ、これ絶対コイツの祖先だ」と思っているが、それを口にすることはない。


「なぁにが〝ダーリン〟じゃ。ピンクなのは髪の毛だけにしておけ」


 鼻を鳴らしたエリーに、今度はシャルロッテの眉がピクリと動いた。


「あらぁ。お子ちゃまのノーラちゃんには早かったかしらぁ?」


 蟀谷がヒクつくシャルロッテが「アタシは愛に生きたの」と頬を膨らませた。その煽りにエリーの蟀谷に青筋が一つ。そんなエリーが引きつった笑みのまま口を開いた。


「愛に生きたじゃと? 散々ダメ男に引っ掛かり、その度に妾に泣きついてくるのが、愛に生きることかの」


 エリー渾身の口撃に「グハッ」とシャルロッテが胸を抑えて前傾姿勢に。


「効いた。今のは……」


 うずくまるシャルロッテを前に「カッカッカッ」とエリーが高らかに笑ったかと思えば、


「彼氏いない暦=年齢のノーラには分からないわよ」


 ニヤリと笑ったシャルロッテ渾身の口撃。


「だ、誰が彼氏いない暦=年齢じゃ! こ、これでも彼氏の一人や二人くらいは……」

「一緒にお茶を飲んだだけでは、彼氏とは言いませんー」


 勝ち誇った顔のシャルロッテに、「ぐぬぬぬ」とエリーが顔をしかめた。


「だいたい何よその話し方。『のじゃ』なんてキャラ作って。そんな事しても男はできませんー」


 煽るようなシャルロッテの表情に、「や、やかましいわ」とエリーが顔を赤くして口を尖らせた。


「お主こそ何が『研究者っぽい』じゃ。大方またごっこ遊びにでもハマってたんじゃろう」


 煽り返すようなエリーの表情に、「い、いいじゃない。可愛いんだし」とシャルロッテも顔を赤くして口を尖らせた。


 そうして始まる二人の幼稚な応酬を前に、ランディ達は呆れ顔で顔を見合わせた。


「……学園長、確か祖先がシャルロッテ様にお世話になったって」

「……口伝じゃ。口伝とは、時が経つにつれて変わるものじゃ」


 しみじみと頷くルキウスから、ランディはそっと目を逸らした。


 今もギャーギャー言い合うエリーとシャルロッテだが、二人の顔は分かりやすく楽しそうだ。思っていた人物像とは違うが、お互いが言いたい放題出来る関係は、彼女たちが幼い頃から築き上げてきた信頼の賜物だろう。


 とは言え、あまり時間はない。アナベルやコリーにキャサリン、レオン。それにルキウスは今後の予定もあるのだ。長居するには遺跡での謎解きに時間をかけすぎた。


 ランディは二人には悪いと思いつつも、皆の輪から一歩前に出て口を開いた。


「エリー」


 ランディの呼びかけに「何じゃ!」といつも以上の勢いで振り返ったエリー。その顔は鬼気迫るとでも言うのだろうか。どうやら口喧嘩は最高潮だったのは間違いない。


「盛り上がってる所悪いんだが、そろそろ身体の――」

「そうじゃったな」


 落ち着きを取り戻したエリーが、シャルロッテに向き直った。


「シャルよ。言いたいことはいくつもあるが……まずは妾の身体を守ってくれたこと、感謝しよう」


 尊大にふんぞり返るエリーに、シャルロッテが盛大に顔をしかめた。


「シャル様。ありがとうございます。って言葉が聞きたいわね」


 眉を寄せるシャルロッテに、「あ?」とエリーがドスを効かせた言葉をなげかけ、シャルロッテが「何よ」とエリーに顔を寄せた。


 しばし見つめ合う二人。いくらランディが荒事に精通していると言えど、キャットファイトは専門外だ。どうしたものかとランディが二人を見比べていると、エリーとシャルロッテはどちらともなく吹き出した。


「この感じ久しぶり。本当にノーラなのね」

「どこに疑う要素があるのじゃ」


 呆れ顔のエリーに、「だって……」とシャルロッテが不意にランディを見た。


「ノーラがアタシの前に男を連れて来るんだもん」


 キョトンとした表情のシャルロッテに「な゙――」とエリーが顔面を紅潮させた。


「それにしても、君がノーラの恋人か」


 真っ赤なエリーを無視したシャルロッテが、ランディをマジマジと見つめる。


「あの時ノーラに『お前を幸せにしてやる』って言ってたの、君だよね?」


 シャルロッテの言葉は、【時の塔】でエリーの過去を垣間見た時の事だろう。確かにそんな類のことを言ったな、とランディは「ああ」と頷いた。


 そんなランディをまたシャルロッテがマジマジと見つめ「ふぅん」と言ってエリーに視線を移した。


「……どこで捕まえたわけ?」

「つ、捕まえたというか……」

「捕まっちゃったわけね」


 ニヤニヤとするシャルロッテから、「し、知らん」とエリーが赤い顔を背けた。


「へぇ。知らないの。じゃあ、アタシが貰っても……」

「やらんぞ!」


 思わず叫んだエリーを、「へぇー」とシャルロッテがまたニヤニヤと覗き込んだ。思わず叫んだのだろうエリーが、自身の言葉の意味にまた顔を赤くして俯く様を、シャルロッテがエリーの周りを回りながら「へぇー。へぇー」とニヤニヤした顔を見せている。


「お子ちゃまノーラちゃんにも、ついに春がきたのかー」


 ニヤニヤとするシャルロッテに、エリーが「……」小さく呟いた。


「え? なに?」

「千年も経ったのじゃ。妾もお、大人にくらいなるわ」


 赤い顔のエリーに、シャルロッテとランディが思わず顔を見合わせ、そしてどちらともなく微笑んだ。


「そっかー。千年も経ったんだもんね」


 感慨深そうな笑顔を見せたシャルロッテが続ける。


「そりゃ、アタシも残留思念だけになっちゃうよね」


 悲しげな笑顔を見せたシャルロッテだが、「同情はしないでよ」と即座に掌を向けた。


「今頃アタシの魂は、どっかで生まれ変わって生を謳歌してるはずだから」


 満足そうに頷いたシャルロッテが「イケメンに囲まれて」と頬を染めた。ちなみにその場の全員が、多分それはもう破綻した後じゃないかな。と思っているが誰もそれを口にはしない。


「だから。最後にノーラとも話せたし大満足」


 笑顔を見せたシャルロッテが「そうそう。身体だったね」とエリーの身体が眠る水晶へと視線を移した。


「…………」


 沈黙したまま棺を眺めるシャルロッテに、全員の視線が集まり、そして――


「ごっめーん。ちょっとミスっちゃってさ」


 顔の前で思い切り両手を併せたシャルロッテが語るのは、あの古き王を封印した時に、王から干渉を受けたという話だ。


「まさかあの扉を経由して、こっちに逆封印をかけるとは思わなくて」


 苦笑いのシャルロッテが言うには、扉に施した時空超越術式をたどり、この場所に眠るエリーの身体を逆に封印されたというのだ。


「術式に整合性を持たせるために、どうしてもノーラの身体っていう情報は入れないと駄目で……」

「逆にそれを狙われたか」


 ため息混じりのエリーが「どうりで扉の術式が複雑なわけじゃ」と頷いた。


「特に条件のない封印術なんだけど、日食の時の最も強い月の力を使われちゃってるから」


「同じ様に封印を解くなら日食を待たねばならぬのか」


 天井を、瞬く星空を見上げたエリーに「ごめん」とまたシャルロッテが手を合わせた。


「日食か……」


 天が関係してくる以上、ランディ達に出来る事はその時を待つだけだ。しかも日食の時間はそこまで長くない。始まったら転移して、そのまま解除ということになる。


 そしてそもそもランディ達が生きている間にあるか、という事が一番の問題なのだ。


 全員が諦めのため息をもらしかけた時、「日食なら……」とキャサリンが手を挙げた。


「日食ならもうすぐあるわよ。確か三年の春頃に――」


 キャサリンが言うのは、ゲームでエレオノーラが完全復活するのがその日食の時だという。そこから少しずつ公国が侵食されていき、二学期途中で公国が滅びるのがゲームのシナリオだ。


 ゲームのシナリオは破綻したが、星々の動きまでは人では変えられない。つまりランディ達が狙うのは、あと一、二ヶ月で始まる日食ということになる。


「それが最初で最後のチャンスってわけか」


 呟くランディの脳内には、この場所にどうやって日食の力を届けるか、そしてエリーの身体にどうやって魂を戻すか、その辺りの問題も浮上している。だがタイミングがそこしかないならやるしかない。


「そうと決まれば、春休みも忙しくなるな」

「そう言えばまだ春休み初日だったわね」

「内容が濃すぎて、もう終わりな気がしてましたわ」


 笑い合う皆を見たシャルロッテが、エリーの耳元で囁いた。


「いい友達ね」

「お主に負けず劣らず、な」


 笑顔を見せたエリーの前で、シャルロッテの身体が薄れていく……。


「ごめん。多分もう時間――」

「構わん。こうして最後に話が出来た。それだけで」


 頷いたエリーにシャルロッテが微笑んだ。


『いつか、生まれ変わった私を見つけたら――』

「案ずるな。もう出会っておる」


 笑ったエリーに、シャルロッテが「え?」と声をもらした。


「お主の魂は、どうやら妾が恋しくて、別世界から飛んで来てくれたようじゃ」


 チラリとキャサリンを振り返ったエリーに、シャルロッテとキャサリンの視線がかち合った。


「「アタシ?」」


 思わず声が被った二人が眉を寄せ。


「「アタシ、こんなんじゃないわよ」」


 とまたハモるのだから、全員が思わず声を上げて笑ってしまった。


『最後にケチがついた気分』

「こっちのセリフ」


 何とも言えない雰囲気の二人が顔を背け、そしてシャルロッテがため息混じりにエリーへと手を振った。


『じゃあね』

「うむ。またの……」


 手を振ったエリーの前で、シャルロッテが光の粒となって消えていった。


 しばし虚空を見つめていたエリーだが、「フッ」と小さく笑うとランディ達を振り返った。


「ひとまず今日は帰るとしよう。来たるべき日までお預けじゃ」


 笑顔のエリーに「だな」とランディが頷き、エリーが杖を掲げた。


 エリーの転移が皆を包み込み、そして部屋はまた静寂に包まれた。だが来た時とは違う、優しげな静寂に……。

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