第190話 ほら。ちゃんと皆出来る子なんです。
ルキウスも合流した事で、一同はルキウスの転移で遺跡へと飛んだ。流石は長い時を生きるルキウスなだけあって、この人数を転移させる事もわけないという。
いつもの光と浮遊感の後、ランディの目の前には学園の中庭ではなく、あの大扉と大部屋があった。あの日と変わらない微妙に発光する扉と壁画、そして等間隔で並ぶ空の棺だ。
全員がソワソワと周囲を見回す様子に、ランディが大きく手を叩いた。
「どうする? ひとまずバラけて色々調べてみるか?」
ランディの提案に全員が頷いた。何だかんだで大人数だ。一箇所に固まるより視点をバラバラにした方が、何か気付く事もあるかもしれない。
そうして扉、壁画、上の遺跡、フロアに並んだ空の棺桶……と各々が調べたい場所へと散っていった。
「やっぱり少し発光してんな」
扉を前に、ランディが難しい顔をして腕を組んだ。同じように扉の前に立つのは、エリーとルキウスだ。
「恐らくじゃが……あの輝く玉がトリガーじゃな」
「ああ、あの。……王太子の金◯か」
納得して頷くランディだが、両隣のルキウスとエリーは、それぞれ苦い顔としかめっ面である。
「てことは、結局謎を解いてもアレがないと入れないんじゃね?」
ランディの疑問はもっともだ。実際キャサリンも言っていたが、この扉の先はそれぞれの玉を入れる事で別のダンジョンへと通じる仕掛けになっている。
そして両方の玉を入れた時、【日蝕の祭壇】と呼ばれる謎の場所に通じるのだとか。
「確かにお主の言う事も一理ある。じゃが……」
扉に触れたエリーが、学園長をチラリと振り返った。
「エルフの小僧よ。どう思う?」
エリーに意見を求められたルキウスが、「そうですな」とこちらも扉に手を触れた。
「酷く……複雑な術式。いや、絡み合っておるのか?」
呟くルキウスに、「恐らく」とエリーも頷く。こうなってはランディの出番はない。魔法的な問題は二人に任せ、ランディはその場を離れた。背中に聞こえる複雑な話は、ランディには難しすぎるのだ。
そんなランディが向かった先は、アナベルとコリーが調べている空の棺だ。
「何か分かりそうか?」
「今のところは何とも……」
首を振るコリーだが、今まで国の研究者達が分からなかったのだ。いくら優秀とは言え、学生が早々に分かる物ではない。
それでも棺に寝転がっていたアナベルが、
「ま、埋葬の形跡がないので、何かの呪いか儀式かもしれません」
ムクリと起き上がり、ブツブツと何かの仮説を語りだすのだから、やはり二人とも優秀だ。
「んじゃそっちは任せた」
こちらもランディでは出番がない。何かしらの魔術的儀式、それもアナベルが思いつく方面ではランディの知識は全く役に立たないのだ。
次にランディが目を付けたのは壁画だ。こちらは今キャサリンとレオンが、実際の壁画と解読した暗号とを照らし合わせている。
「どんな感じ?」
「どうもこうも無いわよ。写真で見てたけど、アタシ達の暗号解読は正しかった。それだけね」
肩をすくめるキャサリンが、暗号解読文片手に壁画を指差した。
玉座のようなものに座る男。
その背後に見える巨大な円形の図。
渦巻く黒い炎。
炎の中に浮かぶ何かの文字と球体。
巨大な黒い月と神殿。
そして解読文の内容はこうだ。
『古き王 失われし時の軸に 彼の者を封印す
金と銀 黒き炎に染まりし時 輝く座標は深淵に沈む
資格もつ者 昏き月の影に立ち 天の光を集めん
さすれば闇の扉は開かれる』
それぞれが、解読文と壁画との対応を見るに、キャサリンの言う通り暗号解読は間違っていない。
たがランディはここで思い出した。初めに来た時と、エドガーが玉を入手した時で、壁画にわずかな変化があったことを。
「確か、炎の中に玉が浮かんだんだよな」
ランディが懐から、あの時突入前に取った写真を取り出した。念の為と思って全部持ってきたそれを、一枚一枚めくって確認する。
「あった。これこれ」
ランディが示す写真は、初めて遺跡にたどり着いた時の写真だ。炎の中で踊るのは文字だけで、球体はどこにもない。
「ホントね。確かに始めと壁画が違うのね」
ランディの差し出した写真と、今の壁画を見比べるキャサリンの横で、別の写真と壁画を見比べていたレオンが「あ」と声を上げた。
「これ……円形の壁画の一番外側、微妙に光ってません?」
ランディに見せたのは、巨大な円形の図が映った写真だ。巨大な円形の壁画は、時計の外周をぐるりと二九の小さな丸が囲んでいる。少しずつ満ち欠けしていく様子から、間違いなく月齢を現しているのだろうが、レオンがその部分が光っていると言うのだ。
「確かに。言われてみたら若干……」
写真と見比べると、わずかに発光している……その程度だが、変化と言えば変化だ。
(元々淡く発光してたから気付かなかったのか……)
壁画を睨みつけるランディの元に、上階を調べていたルークとセシリアが戻ってきた。
「どうだ? 何か分かったか?」
壁画を眺めながら口を開いたランディに、「いんや」とルークが首を振った。
「ただ少しおかしな事がありますわ」
セシリアが続けるのは、遺跡に設けられた窓の位置だという。
「普通、あの手の女神像を作るなら、窓から差し込む光が女神像に当たるように、計算するはずなんですが……」
「あれ? 当たってなかったか?」
首を傾げたランディが思い出すのは、初めてここに来た時の記憶だ。パルテノン神殿のアテナ像よろしく、巨大な女神像が陽光に輝いていた事を覚えている。
「覚えておいでですか? この遺跡は元々あの像によって隠されていた事を」
セシリアの言葉にランディが、「そういや……」と女神像の足元に広がっていた階段を思い出した。
「つまり……」
「この遺跡は元々この形が正常だった。もしくは、この形になることを想定して作られた」
セシリアの補足にランディが「うーん」と唸った。聞いていた話だと、上の遺跡はこの下を隠すために後から作られた的な事だったはずだ。それが、この形で正常、もしくはこの形になるように作られたとは如何に。
謎が謎を呼ぶ状況にランディが「一旦情報を集めてみるか」と頭を掻いた。
ランディが集合をかけたことで、それぞれが調査を一時中断して、大扉の前に集まった。
「さてと……分からない事だらけだが、分かったこともいくつかあったな」
ランディの言葉に頷いて、まず口を開いたのはキャサリンとレオンだ。壁画の内容がわずかに変わっていること、そして解読した暗号文は間違いなく今の壁画とマッチしていること。
「壁画の発光が見られる部分は……恐らくここの封印にも月の魔力を利用しているからじゃろう」
エリーの補足にルキウスも「じゃろうな」と頷いた。壁画にあったように、〝黒い月〟が新月を表すとして、その封印が弱まった時に正しい方法を取れというヒントのようなものだと。
「つー事は、光ってる部分でもより強い輝きは、今の月齢ってことか?」
「うむ」
エリーが頷いた事で、一同から「おー」という声が上がった。ほぼ分かりきっていた事実だが、それを壁画の変化が補完した形だ。非常に小さいが一歩前進とも言える。
「じゃ、じゃあ次は私達で……」
思わず手を挙げたアナベルに、ランディが「いいぞ」と笑顔で頷いた。
「わ、私達は空の棺を調査してたのですが……」
アナベルが続けるのは、棺自体に何かが埋葬されていた形跡はなく、何かの呪いかもしくは儀式の線で調べたという話だ。
「人が埋葬された形跡はなかったのですが、全ての棺で何かが燃えた痕跡を確認してます」
急に饒舌になったアナベルは、ゴーストバスターモードだ。
「恐らくですが、太古にあった殉葬を模した副葬品の類が入っていたかと思われるのですが。」
饒舌なアナベルを前に、「じゅんそうを模した副葬品?」とランディが首を傾げた。
「馬鹿ね。兵馬俑みたいなもんよ」
ため息混じりのキャサリンに、「なーる」とランディが手を打った。
「つまりここに封印されていた奴の為、淋しくないように……ってことか?」
ランディの質問に「普通に考えれば……ですが」と饒舌アナベルが言葉を詰まらせた。確かにそれら全てが焼き払われているとなると、また話が変わってくる。
大きな恨みか、それとも何かの呪いか。
「棺の中に僅かに残る魔力の残滓から、扉と同じ種類の物を感じたので……」
「封印しときながら、全部焼き払った。と?」
首を傾げるランディに、「なので封印する儀式の可能性も……」とアナベルがそれ以上は分からないと肩を落とした。
「いやいや。十分すぎるだろ。流石アナベル嬢だ」
大きく頷いたランディの横で、「ねえ、アタシの兵馬俑は? 偏った知識は?」とキャサリンが笑顔に青筋を浮かべている。
「わーった。わーった。お前も偉い」
適当なランディの返事に、キャサリンが「キー!」と金切声を上げ、再びレオンに「どうどう」と羽交い締めにされた。
「んじゃ、次は俺達だな」
ルークが語りだしたのは、上の遺跡の違和感だ。先程聞いた通りの内容だが、ランディ以外のメンバーは新鮮な顔でそれを聞いている。唯一ルキウスだけが、口伝で知っている内容もあるようで、時折「そうじゃな」と頷いていた。
ルーク達の説明が終わった後には、上の遺跡も何らかの仕掛けがあるのでは、と全員が大盛りあがりだ。
(ここまでの話……研究機関なら掴んでるだろうが)
盛り上がる皆を見るランディの感想だ。いくら優秀とは言え、学生の集団が調べて分かることなら、その道の専門家達も解いているのは間違いない。
それでも研究機関に伝手のないランディ達にとって、この数時間での調査の進展は非常に有益だ。いやむしろ数時間で、これだけの成果を上げたのだ。高い山もひとっ飛びな集団に、ランディは思わず「さっすが」と誰にも聞こえぬよう、呟いていた。
とはいえ、ここから先の話はまた変わってくる。研究者でも解明出来ない謎。だがランディ達にはその突破口とも呼べる人間がいるのだ。
そのうちの一人が、この遺跡に最も詳しいだろうルキウスまで同行している。
「優秀な生徒ばかりじゃ」
嬉しそうなルキウスだが、ランディの視線に気付き満足そうに頷いた。
「確かに上の遺跡は、この遺跡を隠すために作られたのは間違いない……が、儂が伝え聞く話では、それすらブラフじゃという」
「つまり?」
「見つけてもらう事が前提じゃった……そう言えるな」
ルキウスの言葉に全員がザワつく。隠しておきながら、見つけてもらうことが前提。そこにある解かれた形跡のない封印と、謎の副葬品。
ランディは絶賛混乱中だ。上と下の遺跡の目的が全く合致していない。
(封印しておきながら、見つけてほしかった……)
「何だ……ここまで違和感の正体が出かかってるんだが……」
頭を掻くランディに、エリーが「まあ待て」とニヤリと笑った。
そしてこの存在こそ、今この集団におけるジョーカー。古の叡智を名乗る大いなる存在だ。
「結論を出すのは、妾達の調査結果を聞いてからじゃ」
そうしてエリーがルキウスと調べた扉の秘密を話し始めた。




