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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第四章 乙女ゲームが息をしていません

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第181話 幕間 誰だよ、温泉掘ろうとか言い出したのは。スゲー地味だし大変なんですけど

 場所と深さが決まったならば、早速とばかりに二人は一旦街へと引き返した。先程アイリーンが話を通してくれていた代官から、温泉発掘に使う材料をもらい受けるためだ。


 湧き出す温泉を通すために、今回銅管を使用するのだが、その材料をロルフの口利きで融通してもらう形だ。


「閣下より、『好きに使わせよ』と伺っております」


 代官の男性が大きな倉庫を開けば、二人の目の前に大量の銅鉱石が現れた。


「これだけありゃ圧巻だな」


 威圧されるとはまさにこの事か。未製錬ながら、赤茶けたこぶし大の石がうず高く積み上げられている様子は、それだけでも見応えがあるから不思議だ。


「製錬などは……」


「そっちは大丈夫です。ただ運搬を手伝って頂ければと」


 ランディの提案に代官が頷いた。ランディだけでも運べるだろうが、今回の発掘に使用する銅は間違いなく大量になる。それを一度に運べるだけの大きな荷車がない以上、運搬を手伝って貰ったほうが効率がいい。


「リズ、どのくらいの量になりそうだ?」


 ランディがリズを振り返れば、バインダーと鉛筆片手にリズが「そうですね」と計算しはじめた。


「エリーの話で湧水量がこのくらいなので……五〇ミリ程度の銅管にしようと思ってます」


 紙にサラサラと条件を書いていくリズが続ける。


「銅管の厚さは五ミリにするとして……。外径が六〇ミリですね」


「じゃあその体積を求めたらいいわけか」


「理論上は」


 笑顔を見せたリズが、サラサラと計算をしはじめた。途中代官に銅の比重を聞く一幕こそあったが、条件さえ整ったら計算自体は一瞬だ。


「概算ですが一二三九〇キロですね。鉱石から取り出すので、さらに多くなりますが」


「二〇トンくらい見たほうがいいのか。とんでもねー量だな」


 苦笑いのランディだが仕方がない。なんせ深さ一六〇〇メートルで厚さ五ミリの六〇パイだ。それでも代官が「そのくらいなら、なんとか」と了承してくれるあたり、この銅山の年間産出量は凄まじいのだろう。


 そうして手に入れた大量の銅を、ランディが手押し車へ積み上げていく。


「……そ、それを一人で?」


 驚く代官だが、荷車の限界よりもランディの膂力の方が上なのだ。積めるだけ積んだ方が、効率も良い


「大丈夫ですよ。こっちは専門家なので」


 力仕事ならこの地の男たちにも負けはしない。ランディが笑顔で力こぶを叩いて、ギシギシと軋む荷車を引きはじめた。


 恐らくこの街でも珍しい程の積載量は、通りを行く人々の注目を集めている。もちろんそれもランディの狙いだ。


 温泉を掘るのはランディやリズ、そしてエリーで出来るが、温泉の引き込みから、簡単な排水工事施設の組み立てに材料の調達。やらねばならない事は山程ある。


 つまりこうして目立てば、物珍しさで人が集まってくれ、人足代わりになってくれるのではないか、という期待を込めての運搬だ。


 そうして注目を集め、大量の銅鉱石を手に入れた三人は、温泉予定地近くの小屋で製錬作業に取り掛かった。


 始めから製錬された銅を使用してもいいのだが、結局そのままでは使えない。


 鉱石から銅を取り出す製錬。そこから純度を高める精錬。普通なら二段階をふむ必要があるものを、ランディやリズのクラフトならば分解一発で精錬された銅が入手できる。


 今回も突貫工事なので、一発で精錬まで出来る分解を採用したわけである。


 まさにチートな能力で、ランディが銅を生成し、その隣でリズが一本五メートル程の銅管に作り変え、何本かに一つルーンで〝防腐〟、〝防蝕〟を施していく。


 魔力量こそ人並みのランディだが、銅など加工しやすい素材なら、ほとんど魔力消費無しでクラフトを実行できるくらいには使いこなしている。故に銅鉱石に分解をかけるだけなら、ランディの一般的な魔力量でもこの量だろうと問題ない。


 本来ゲームでは〝システム〟扱いのクラフトは、魔力を消費することはない。ただこの世界ではステータスウィンドウすら〝魔法〟なのだ。元が〝生産魔法〟のクラフト作業にもしっかりと魔力を消費する。


 それでもステータスウィンドウと合体したクラフトという、魔法に似たスキルは、日々の反復でランディ程度の魔力でも、こうした単純作業ならば長い時間実施できるよう調整がなされているのだ。


(ゲームシステムが上手く現実に反映されているようで……)


 微妙な感謝を覚えるランディだが、その感謝とは裏腹に表情は無に近い。なんせ絵面が非常に地味なのだ。ただ黙々と単純作業を繰り返すだけなので、非常に地味で面白みがない。


 現実逃避気味のランディが顔を上げた。


「お、ちょっとずつ人が集まってきたな」


 窓の外に見える人だかりに、ランディが「ちょっと行ってくる」と小屋から外に出た。


 外に集まっていたのは老若男女様々な人たちで、もちろん中には銅鉱石を運搬してくれた男たちもいる。そんな野次馬たちを前に、ランディは温泉を掘ろうとしている事を告げた。


 急に温泉だ何だと言われて、一瞬困惑した表情を見せた住人たちだが……理解した途端、彼らのテンションは分かりやすく上向いた。


(よしよし。掴みはオッケーだな)


 内心ほくそ笑むランディが、銅を抜き終わった石ころを幾つか纏めて一抱え程の岩に作り変えた。


「これを、あのへんに並べてほしいんですが」

「湯船というわけだな」


 何とも理解が早い。男たちが一斉に岩を抱えてそれを並べ始める。ちゃんと間を空けて、二つ並べられたそれは、間違いなく男湯と女湯だ。


「じゃあ、湯船はお願いします。我々はもう少し作業があるので」


「まかせろ。穴掘りは得意だからな」


 力こぶを見せた男たちが、「道具を持って来い」と威勢のいい声とともに近くに見える小屋へと走っていく。ただ石を並べただけの場所を、彼らが湯船として使えるよう掘ってくれるわけだ。


 そうして彼らが一生懸命湯船を掘っている間、ランディとリズは再び地味な作業へと戻り……そうして無心で作業する事しばらく。ようやく目標とする長さの銅管の目処がたった。


 小屋の外にまで溢れた銅管の数は、最終的には三〇〇を越えている。それらを綺麗に並べて目的地まで運んでくれたのは、集まった野次馬の中で、力仕事が不得手な人々だ。


「絶対に三人じゃ間に合わなかったな」

「ですね」


 何だかんだで人海戦術が必要な場面はある。いくらチートな能力とは言え、人力が必要な場面はゼロではないのだ。


「さて、一番重要な発掘と行くか」


 既に日も傾きはじめ、作業に適した時間は少ない。慌てて小屋の外へ飛び出たランディとリズは、発掘予定地まで急いだ。


 人々が見守る中、エリーが魔法で穴を掘りはじめる。その間ランディが何をしているかというと、積み上がった銅管を一定感覚で穴に突き刺しては繋げる役目だ。


 今回三人が選んだ手法は、穴を一定区間掘っては銅管を挿入して継ぎ足していく方法である。


 本来なら穴を貫通させ、専門的な技術でもって銅管やチタン、ステンレス製水道管を挿入する。とは言えこの場の誰もそんな知識がない。魔法で水流をコントロールして一気に挿入出来なくもないが、隙間なく綺麗に銅管を入れるのにも魔法が必要なのだ。


 そんな繊細な技能をランディが担当出来るはずもなく……穴を掘り進めつつ、銅管をセットしていくという変則的な方法に落ち着いた。


 硬い岩盤や複雑な地層なども、エリーの魔法があればなんのその。只管真っ直ぐ掘り進められるというのも大きな要因だ。


 そうしてエリーが掘り。

 ランディが出来た銅管をぶっ刺し。

 エリーが銅管を地面と密着させながら掘り進める。

 銅管の頭が地面に埋まりそうになれば、ランディが作った銅管をまた継ぎ足す。


 この作業もまた、単純作業のためランディの少ない魔力量でも……以下略なのだが……いかんせん単純作業がすぎる。


 長さ一六〇〇メートル。大体五メートル毎に継ぎ足しているのだが、地下が見えないため作った銅管がどんどん穴に吸い込まれていくだけにしか見えない。


 皆が不安そうな顔で見守る中、日もほとんど落ち、山道からキャサリン達が帰ってきた頃


「最後の一本だ」


 ランディが銅管を継ぎ足し、エリーがそれを埋め込んでいく……。ついに地面に完全に埋まった銅管に、人々が「何も起きない?」と落胆した表情を浮かべた瞬間、小さな地鳴りのような音とともに、お湯がボコボコと溢れ出した。


「お、おおお!」


 ランディの上げた歓声と結構な勢いがあるお湯に、周囲からも歓声が上がるのだが……


「ヤバい、こっから湯船まで引く銅管を考えてなかった」


 慌てたランディの言う通り、地下から地上まではお湯が出てきたものの溢れるだけで作った湯船には全く届いていない。


「直ぐに追加の鉱石を!」


 アイリーンの檄で男たちが荷車を引っ張り走り出す。


「エリー、湯船も土のままだったわ」

「ええい! なぜ先に言わん!」


 ワタワタとするエリーが、余ったクズ石を湯船(予定)に放り込むよう指示を出した。


 その場にいた老若男女問わず、全員がバタバタと湯船に石を投げ込み、それをエリーがクラフトで綺麗に成型。男たちが掘った湯船に沿うよう岩盤が形成され、その先に続く簡易的な排水施設も作った。近くの小川へ流し込むだけだが。


 とにかくそれが出来上がった頃、男たちが追加の鉱石を持って戻ってきた。


 再びそれを製錬し、エリーが作った管を、「あっつ、お湯あっつ!」とランディがはしゃぎながら繋いでいく。


 最終的に二股に分かれた銅管が、男湯と女湯へとたどり着いた。


「ふぅー。ちょっとビックリしたけど何とかなったな」


 額の汗を拭うランディに、「グダグダね」とキャサリンが呆れた顔を見せた。


「良いんだよ。初めてのことは、大抵失敗するんだ。それでも形になっただけマシだろ」


 ランディの言う通り、湯船にゆっくりと満たされていくお湯に、集まっていた人々も嬉しそうな顔を見せてそれを触っている。


 とは言え地中一六〇〇メートルから湧き出したお湯は、六〇度を軽く超えている。


「溜まったお湯が四二度前後になるように、調整も必要だな」


 近くを流れる小川から水を引くか、それとも溜まったお湯の温度が低下していくのに合わせて、熱い湯を供給してバランスを取るか。


 その辺りの工事はアイリーンやロルフに丸投げする予定だ。この辺りの気候や、小川の水質、そういった物が大いに関係してくるので、ランディ達よりも彼らの方が適任なのだ。


「まあ、今日のところは……」


 笑顔のランディが、余った銅鉱石から銅を抽出し、簡易的な止水弁を作った。それを銅管の先に繋げれば、簡単に供給を止める事が出来る。


 お湯が溜まった状態で供給を止め、後は周囲の雪でも放り込めばいいだろう。


 ドバドバと流れ出るお湯が、大きな湯船をゆっくりと満たしていく……立ち昇る真っ白な湯気に子どもたちがはしゃぎ、大人たちは急ぎ家々から湯着代わりの肌着を持ち寄っていた。


 流石にこの時間からは衝立や壁を作るのは無理だ。ならば、湯着ありの全員で温泉を楽しもうという魂胆だろう。


 何とも強かな彼らの行動に、ランディとリズも顔を見合わせ、早速彼らから古い肌着を受け取り、クラフトで自分用に加工しはじめた。


 ランディは普通に海パンタイプ。

 リズは可愛らしいワンピースタイプ。


 それぞれの湯着とキャサリン、レオン、アイリーンの物が出来た頃、


「満杯になったぞ!」


 誰かが叫んだ声に、全員がまた歓声を上げた。


 そこからの行動は早かった。男女に分かれて近くの小屋で湯着に着替えた全員は、「寒い寒い」と笑いながら湯気の立ち昇る湯船の前まで集まり……


「じゃあ、今日は雪で温度調整を」


 ランディの掛け声で、皆が思い思いに雪を中に放り込む。「まだ熱い」だの「もう良いんじゃないか?」だのの声が飛び交いつつ、ランディがゆっくりと湯船に足を突っ込んだ。


「あ゙ーーーーー」


 ランディから漏れるオッサンの様な声に、皆が顔を見合わせゆっくりと湯船に浸かった。


「まるで芋洗いだな!」


 温泉だというのに、全くゆっくり出来はしない。まるで真夏の流れるプールを彷彿とさせる混み具合だ。それでもこんな事も良いじゃないか、と笑顔のランディが真上を見上げれば、満天の星空が皆を見下ろしている。


「ちょっとぬるくなって来た?」

「誰かお湯追加してー」

「あっつ、こっち、あっつ!」


 様々なところから上がる笑い声を聞きながら、ランディは人混みをかき分け、女湯に一番近い端へとたどり着いた。


 ちょうど反対端から顔を覗かせたリズと顔を見合わせ、二人はどちらともなく笑った。


「ま、予行としては良かったかな?」

「はい。こんな賑やかなのもアリです」


 二人が上げる笑い声は、白い湯気に乗って満天の星空へと登っていった。


 ※結構大きめな湯船なので、本来なら一日くらいかけないとお湯が貯まらないはずなんですが……

 そうなるとですね。

 一泊して、朝からまず泉質チェック、温度調整、洗い場工事、上下水道工事。

 その後は建物のデザインと、材料選別、調達、建築、もちろん椅子など小物の調達。場合によっては露天風呂の追加で……あああああああ絶対終わらなーーい。ってなったので、こんな形で決着つけました。


 多分真面目に全部書いたら、また断章レベルの話になりそうだったのでご了承下さい。


 ヴィクトールで作る時は、もっと段取り良くやろうと思いました。


 ということで、幕間【キャサリンと温泉と】はこれにてお終いです。


 次回からは第五章です。

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