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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第四章 乙女ゲームが息をしていません

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第179話 幕間 え? 温泉はどうしたって? 私が聞きたいです

「ひゃっほー! こりゃいいな。最高だ!」


 太陽を反射する白銀の上を、猛スピードで滑るランディが笑い声を上げた。水上スキーのような格好のランディを引っ張るのは、アイスウルフと呼ばれる大きな狼型の魔獣だ。


 アイスウルフは、本来北国に生息する、群れで活動する魔獣である。その魔獣をヴァルトナー侯爵騎士団で手なづけ、飼育管理し、高機動部隊の移動に利用しているのだ。


 本来の高機動部隊は、アイスウルフが引くソリに二人一組で乗る。それでもアイスウルフの膂力と健脚は、フロストホルンとは比べ物にならない速度を生み出せる。


 そんな魔獣を今回は二頭立てで、ランディ達の乗ってきたソリを引かせて移動しているのだが……


「れ、レオン。大丈夫よね?」

「そんなに心配なら、俺に掴まっときなよ」


 ……地面に近いということもあり、体感の速さは結構なものである。


 本来の二人一組ではなく、大量の荷物を素早く運ぶ時と同じ形の二頭立てだが、今回引くソリは四人――御者の騎士を入れても五人――乗りだ。つまり一人あぶれたランディは、短いスキー板で手綱だけを握った、いわゆるスキージョアリングのような状態なのだ。


 常人なら怖いと感じる速度も、常日頃から目にも止まらぬ速さで動くランディからしたらなんてことはない。


 それに今回は防寒具もバッチリだ。


 そうして、馬鹿みたいな動体視力、有り余る体力、無駄に高い運動神経。そして雪上を爆走出来る狼と、四つがセットになった結果……


「よし、行くぞ山田!」

「ワオーーン」


 ランディの掛け声に呼応したアイスウルフもとい山田――ランディが名付けた――が、小さなコブを飛び越えた。


 勢いに乗ったランディが、コブの前で膝を曲げ……乗り上げた瞬間に飛び上がった。


 キラキラと雪を舞い上げたランディが、空中でスキー板をクロスして回転。


 高速回転したランディが、宙に雪の結晶を撒き散らし……着地と同時にまた雪を舞い上げ滑走する。


「っしゃー! 今のは一〇点だな!」


 ガッツポーズを見せるランディに、「面白いな。今度部隊でも取り入れよう」とアイリーンが関心した顔で頷いている。


 ランディ達がなぜこんな事をしているのか……それは夜明け前まで時間が遡る。



 ―――――――



「温泉んー?」


 ロルフらしからぬ素っ頓狂な声に、アイリーンが「はい」と頬を上気させて頷いた。


 キャサリンやアイリーンと、「キャサリンの話し方変だよ」を乗り越えたランディ達だったが、ロルフ達の調査結果が出るまで、「温泉でも掘ってみるか」というぶっ飛んだ行動に出ようとしていた。


 それに待ったをかけたアイリーンが、ランディ達に是非と、ロルフの執務室まで案内したのが先程。


 そして執務室に突入するやいなや、アイリーンが「父上、温泉を掘ります」と宣言した結果、冒頭のロルフの素っ頓狂な声に繋がったのだ。


「なんでもランドルフ少年達が、温泉を掘れるのだとか……」


 熱の籠もった瞳でロルフへ訴えかけるのだが、ランディからしたら「ちょっと待ってくれ」案件である。なんせ掘ることは出来るが、温泉が出るかどうかは不明なのだ。


 地熱式暖房器具を開発していた関係で、ヴィクトールなら色々と地質調査を行っているが、ヴァルトナーの土地はそんな事をしていない。調査していたヴィクトールですら、隣のシャドラー領との間あたりに、断層を見つけただけなのだ。


 一応魔の森を囲うようにある山脈付近なことと、既に活動を休止している火山があることから、もしかしたら温泉があるかも……レベルの話である。


 故に仲間内だけで掘ってみて、出たらラッキー。出なければ「上手く行かないね」くらいのつもりだった。


 加えてヴァルトナーは今、【真理の巡礼者(ピルグリム)】の全貌解明のために忙しい時期だ。温泉などと……


「父上。温泉が出たら、毎日入り放題ですよ!」


 ……温泉が楽しみすぎて、IQの下がったアイリーンがロルフへゴリ押しをかけた。


「ヴィクトール……。本当に掘れるのか?」


 アイリーンの肩越しにランディを見つめるロルフに、「掘るだけなら出来ますが」とランディが肩をすくめて応えた。敢えて「掘るだけなら」と強調したランディに、ロルフは黙ったまま頷いた。


「掘るだけなら、か」


 ランディの言葉を繰り返したロルフが、「どこにやったか……」と近くにある本棚を物色しはじめた。そうして幾つかの資料を引っ張り出したロルフが、「お、あったあった」と一冊の資料を持ってきた。


「ウチが銅山を経営しているのは、知っているな?」


 資料を差し出したロルフに、「ええ」と頷くランディが、差し出された資料に目を落とした。


『鉱脈探索のための地質調査報告書』


 それをパラパラとめくれば、ヴァルトナー侯爵領の地質について事細かに書かれている。もちろんほとんどが、銅山がある巨大な山脈および、現在の銅山内部の地質報告がほとんどだが、それだけでも膨大な量の地質データだ。


「これって……」


 ランディが思わず苦い顔を上げてしまった時、満面の笑みのロルフが、口を開いた。


「【真理の巡礼者(ピルグリム)】の事があったばかりだろう?」


 意味深に笑ったロルフが続けるのは、彼らの大きな収入源である銅山に、細工をされていないかという事だ。


 地質を調査する道具や魔法のある世界。不思議な呪いを扱える連中なら、地面に細工をしていないとも限らない。例えば地下水にあえて鉱山から有害物質が流れるように細工したり……。


 そうなれば中毒で、ヴァルトナーを攻撃出来るわけだ。


「急ぎ調査が必要だったのだが……。調査で温泉が見つかれば、掘ってみたいよなー」


 ニンマリ笑うロルフに「みたいよなーって」とランディは苦笑いが止まらない。


 そんなランディの肩をロルフが叩いた。


「せっかくだ。ヴィクトール領の予行練習をしていくといい」


 そうしてランディは地質報告書片手に、調査名目で近くの鉱山街行きを決定した。


 そうしてアイリーンの勧めで、仮眠の後アイスウルフによる高速移動をすることになったのだ。


 ―――――――――



 そして現在……


「あ! これ楽しいかもです!」


 ……ランディと代わったリズが、「ヤマダ、もっとスピード上げましょう」と楽しげに雪の上を滑っている。


 ちなみにリズの前にはレオンもアイリーンも体験済みだ。二人共日々鍛えているだけあって、ランディに引けを取らない見事な滑走を見せていた。


 特にレオンに至っては、そっち方面に才能があるのではというくらい、様々なトリックを見せた。ランディがエア、いわゆる空中メインの大技ばかりなのに対し、レオンはグランドでスイッチ※1したり、ビッテリーターン※2を見せたりと、セクシーな滑りを見せていた。


 ※1後ろ向きで滑る事。

 ※2寝そべるようなターン。


 レオンが見せたセクシーな滑りに、キャサリンが微妙に見とれていたのは、本人には内緒にしていたりする。


 そして現在、リズはトリックこそ見せないものの、持ち前の運動神経の良さを発揮し、短くバランスの取りにくいスキー板で、見事なスピードスキーを見せている。


「キャー! 速いです!」


 楽しげな悲鳴を上げるリズを見て、ランディの隣に座るキャサリンが、ジト目を向けた。


「アンタの彼女、ヤバい扉開くんじゃない?」

「明るいのは良いことだろ?」


 肩をすくめたランディに、キャサリンが「そうね」と呟くが……一転、今度はニヤニヤとした視線を向けた。


「にしても、アンタもエリザベスも彼女、彼氏を否定しないのね」


 悪い顔で笑うキャサリンに「おま、それは――」とランディが一瞬だけ慌てて、諦めたため息をついた。


「否定はしねーが……まあ、まだちゃんと伝えてはねーんだよな」


 罰が悪そうに頭を掻くランディに、アイリーンも「そうなのか?」と振り返った。


「いやまあ……ほら、ちょと事情が事情なので」


 言葉を濁すランディだが、キャサリンが「あー」と理解したように頷いた。


「エリザベスだけじゃなくて、エレオノーラもいるものね」


 キャサリンが視線を向ける先では、いつの間に代わったのか「ヤマダ! お主の限界を見せてみよ」とエリーが山田アイスウルフに怪しいバフをかけた所だ。


「っひょーーーーー!」


 間抜けな叫び声を上げて、一気に加速したエリーを見送ったランディが、「まあ、な」と苦い顔で頷いた。


 ランディにとっては、リズもエリーもどちらも同じくらい大事だ。だから本当は三人でずっと一緒が良い。


「三人一緒がいい。二人もそう思っててくれるといいんだが」


 苦笑いを浮かべるランディは、あの日自分が寝ている時に「三人一緒がいい」とリズが言ったことを知らない。


「なら、今のまま一心同体のほうが良いんじゃない?」


 首を傾げるキャサリンに「そりゃ無しだ」とランディが即座に首を振った。


「約束したからな。ちゃんと身体を取り戻すって」


 そう意気込むランディに、隣でキャサリンが盛大なため息をついた。


「ならどっちか諦めるの?」

「俺はそのつもりはねーが……二人がどう思ってるかは知らねーんだよな」


 遠い目をするランディに、キャサリンが「アンタ馬鹿でしょ」とため息をもらした。


「なにをビビって、エリザベス達のせいにしてんのよ。どっちも好きなんでしょ?」


 鼻を鳴らしたキャサリンが「男ならね……」と続ける。


「……『二人共俺について来い』くらい言ってみなさいよ」


 面食らったランディをよそに、キャサリンが見つめる先、小さくなっていたエリーが高速で戻ってきた。


 雪を舞い上げ、ランディ達とすれ違ったエリーが「わははははは!」と笑い声を上げながらUターン。再びの爆走でランディ達を追い越した。


「どうせ日本じゃないんだし、二人とも好きなら二人とも好きでいいんじゃない? そんなに遠慮しないといけない仲なの?」


 キャサリンの言葉に「いや……」とランディが呟いた。実際ずっと三人四脚で歩いてきた。だからこの関係を崩したくなくて、ランディはどこかビビっていたのは事実だ。


 だが思い返せば三人で築いてきた関係は、その程度で崩れるものではないはずである。


「ま。ここは現実だし? アンタみたいな馬鹿が、ダブルヒロインをゲット出来るとは思わないけど。あんなの物語ありきだしぃー」


 小馬鹿にするようなキャサリンに「言ったな」とランディが苦い顔を返した。


 だがキャサリンの言う通りだ。大事なことだからと二人の気持ちを優先したい、といつの間にか二人に責任を押し付けていたのかもしれない。


 自分が二人を好きなら、それをストレートに表現する必要がある。二人がどうしたいか、の前にランディ自身がどうしたいかを告げないのは卑怯だ。


「まあ期待しないで見ててあげるわ。アンタがあの二人を幸せにしてくれたら、アタシも絶頂時に蹴落とされなくて良さそうだし」


 肩を竦めるキャサリンに、ランディは何も返す事が出来ない。ただ今まで朧気に「三人がいいな」と思っていた事の続きが、見え始めている。


「サンキューな。まさかお前に気づかされるとは」

「言ったでしょ。あたし恋愛マスターなの。このくらい朝飯前よ」


 キャサリンがドヤ顔を見せた頃、ちょうど休憩のタイミングも重なり、ソリが停止した。


「キャサリン様! そろそろ代わりましょうか?」


 戻ってきたリズが、キャサリンへ笑いかけた。


「いやよ! だってその狼、なんかテンションおかしいじゃない」


 リズとエリーが褒めまくり、バフまでかけたせいで山田アイスウルフは、異様に毛並みが艷やかで心なしか瞳もキリリとしている。


「大丈夫ですよ。ヤマダはいい子なので」

「大体なんで山田なのよ!」

「知りません? なんでです?」


 ランディに向けて首を傾げるリズだが、ランディも「……ノリで?」としか答えようがない。正直ポチだとか太郎だとかも思いついたのだが、なんだか普通すぎるし、折角ヨーロッパ風ファンタジーなのだ。横文字が良いと色々考えた結果……一周回って山田になったのだ。


「どこをどう辿ったら苗字に行き着くのよ」

「だからノリだっつってんだろ」


 ランディが顔をしかめている頃、リズは「楽しいんですけどね」と言いながら、山田の頭を撫でていた。


「じゃあ一周しましたし、またランディが滑りますか?」

「そうだな」


 頷いて立ち上がろうとしたランディだが、キャサリンが山田をじっと見ている事に気がついた。


「滑ってみたいんだろ?」


 ニヤリと笑ったランディに、斜向かいに座っていたレオンも「聖女様、顔に書いてるよ」と振り返りつつ援護射撃を放つ。


「……ちょっとだけ。ホント、ちょっとだけよ」


 口を尖らせたキャサリンに、「良かったです」とリズが頬を綻ばせた。


 そうしてあれよあれよと言う間に、キャサリンはスキージョアリングのスタンバイを済ませ……


「ゆっくりよ。絶対、フリじゃないからね!」


 尻尾をブンブン振る山田に、キャサリンがへっぴり腰で「マジで、ゆっくり――」と言った瞬間、山田が今日一の加速を見せた。


「この馬鹿イッヌぅぅぅぅううう!」


 キャサリンの悲鳴を残して、 山田が高速で駆けていった。


「大丈夫かな、アレ?」

「大丈夫ですよ。キャサリン様、ああ見えて実技の成績も良いんですよ」

「聖女様基本スペックは高いんすよ。やる気がないだけで」

「マジか。運動音痴そうなのに」


 ランディが苦笑いを浮かべた頃、向こうからまたキャサリンがすごいスピードで戻ってきた。


「キャー! 山田! アンタやるじゃない!」


 ヤバい扉を開いて。


「レオン……」

「……良いと思うっす。明るいほうが」


 視線を逸らしたレオンの横を、「きゃーーー!」と歓喜の悲鳴を上げてキャサリンが通り過ぎていった。


「そうだな。良いよな……」


 気がつけばまさか、リズやエリーのことを相談出来るまでの仲だ。それを悪く思わないのも良いものだ。


 そんなランディの視線の向こうで、「ちょ――うわぁあああ!」と絶叫を上げたキャサリンが青空へ飛び上がっていた。

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