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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第四章 乙女ゲームが息をしていません

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第177話 面と向かって言われるとダメージがデカいよね

 ロルフを追って天井に空いた穴を、ランディは一つ、二つと越えた。ロルフがエリオットを追ってから、そこまで時間は経っていないはずだったのだが……天井の向こうにあったのは、既に上下が分かたれ、ダルマのようになったエリオットと、それを見下ろすロルフの姿だった。


「あちゃー。遅かった……」


 肩を落としたランディが、「閣下、何か吐きましたか?」とダメ元でロルフへ声をかけた。


 ランディの言葉に首を振るロルフと、既に虫の息のエリオット。だがエリオットはランディを見て、血を吹き出しながら声を荒げた。


「良いことを……ゴフッ…教えてやる」


 血を吐き出したエリオットが、ランディとロルフを見て嘲笑を浮かべた。


「もう俺達は……動きだした。お前たちは……終わり――」


 それだけ言い残すと、エリオットはそのまま動かなくなった。


「良く分かりませんでしたね」

「ああ」


 頷いたロルフだが、連中が未だヴァルトナーを狙っている事が、分かっただけ良いと続けた。エリオットの最期を信じるなら、今後何かしらのアクションがあるのは間違いないのだ。


「まさかヴァルトナーに、全面戦争を挑むとは考えにくいですが……」


 ため息混じりのランディが、「そこは情報に期待しましょうか」と大穴があいた屋根を見上げた。そこから音もなく現れたのは、侯爵家の影の一人だ。


「ご苦労さまです。捕まえられましたか?」


 ランディの言葉に、影が「既に城へ連行済みです」と頷いた。


「さっすが!」


 笑顔を向けたランディに、影が「それでは」と残して、また姿を消した。


「あれがブラウベルグの特殊部隊【暗潮あんちょう】か」


 消えた影の背中を視線で追うロルフに、「凄い練度ですよね」とランディも同じく視線で追ったその時、建物の外が騒がしくなってきた。


「どうやら閣下の方も……」

「ああ。時間通りだな」


 笑ったロルフが、「後は騎士に任せるぞ」と屋根に空いた大穴から外へ飛び出した。ロルフに続いたランディが、別の建物に飛び移り、ヴェリタス商会を振り返る。そこには建物を取り囲む騎士たちの姿があった。


 建物を取り囲み、捜査する素振りを見せる騎士たちに混じって、数人の男女も見える。どうやらロルフが手配した騎士も、上手く【真理の巡礼者(ピルグリム)】の残党を捕らえたらしい。


 彼らの成果を確認したランディは、既に先を走るロルフへ追いつくため、足早に屋根の上から姿を消した。






 夜中の襲撃が終わり、ランディとロルフがヴァルトナー侯爵家の城へと帰ってきた。


 ホールで身体中についた雪を払うロルフが、「それにしても」と笑顔でランディを振り返った。


「お主がヴェリタス商会を潰すと言った時、後詰めをどうするかと思っていたが……まさか、【暗潮】を動員していたとはな」


 やれやれと言った具合のロルフに、ランディも苦笑いを返した。


「閣下の騎士達を、信用しなかったわけではないんですが……」

「構わん。ますますもって面白い男だ」


 笑うロルフに、ランディは苦笑いで、【暗潮】を動かせるのは、リズやセドリックあってのことだと必死に説明している。


 二人が今話しているのは、ヴェリタス商会急襲の真の目的だ。


 今回二人とも、ヴェリタス商会へ殴り込みをかけたわけだが、その殴り込み自体はある意味で陽動だ。連中の規模も、そして人数も把握していない中殴り込むという事は、確実に討ちもらしが出る事を見越しての行動である。


 その討ちもらしをどうするか……それこそが二人の狙いだった。


 作戦本部が急襲されれば、街に散らばる【真理の巡礼者(ピルグリム)】は、間違いなくアクションをとる。


 状況を把握し、襲撃者を探り、そして外部へ連絡をする。


 その連中を捕まえるために、ランディは――セドリックがヴァルトナーとの窓口として残した――【暗潮】を。ロルフは自分の部下である騎士たちを。それぞれネズミ捕りに充てたわけである。


 もちろん幹部の人間から、直接情報を聞き出せれば良かったのだろうが、ランディもロルフも〝出来れば〟程度の認識であった。


「流石に全て捕らえた……とは言えないかもですが」


 ため息混じりのランディに、ロルフはまた「構わん」と笑った。今回見せた電光石火の襲撃は、間違いなく相手にとってダメージだ。しかもアクションを起こした残党も捕まえている。


「連中動くに動けず、結局仲間のタレコミで芋づる式は間違いないからな」


 動けば捕らえられる可能性が。潜っても見つけられる可能性が出てきた。つまりヴァルトナーに潜入した連中の真の殲滅は時間の問題というわけだ。


「なら尋問はお任せします。そっちは門外漢なので」


 ランディが肩をすくめたちょうどその時、ホールの向こう側からアイリーンが駆けてきた。


「父上――」

「騒々しいな。イザベラ達が……」

「母上と兄上が容体が――」


 嬉しそうな笑みのアイリーンに、ロルフが「ヴィクトール、すまん!」とランディを残してアイリーンと二人で駆け出した。


 二人が廊下の向こうに消えた頃、同じ廊下の門からリズがひょっこり顔を覗かせた。


 少し速歩きでホールへ来たリズが、「おかえりなさい」と笑顔を見せた。


「ただいま」


 笑顔を返したランディが、「リズとエリーも、おかえり」とその頭を撫でた。


「ありがとうな。皆、無事に送り届けられたか?」

「はい」


 くすぐったそうに微笑むリズに、ランディは眦を下げて手を下ろした。


「閣下とフローラ様と、もう少し話してきても良かったんだぞ?」


 首を傾げたランディに、「それは今度で大丈夫です」とリズが笑顔で首を振った。


「ところでキャサリン嬢は、上手いことやったみたいだな」


 ランディがリズが顔を見せた廊下へ視線を向けた。そちらに走っていったロルフやアイリーンは今頃歓喜の涙を流しているのだろうか。


「かなり頑張ったみたいですよ。エリーは『まだまだじゃな』って言ってましたけど」


 微笑むリズが、「頑張ってました」とランディの視線を追いかけるように廊下を見た。


「そっか……ちったぁガッツを見せたんなら、コタツ作りも上手く行くかもな」

「そうですね。メインはそっちだったんですけど……」


 苦笑いのリズだが、ランディとしても中々奇妙な縁だと思っている。


 キャサリンがコタツ作りなどと、突拍子もない事を言い出したお陰で、こうしてヴァルトナーと知り合い、謎の組織の陰謀の第一波を防いだのだ。


 もちろん相手の目的も何も分かっていない以上、糠喜び出来る状況ではないが、夜が明けるまでの数時間くらいは、この喜びに浸ってもいいだろう。


「とりあえず風呂に入りてーな」

「あ、それなら一度家に帰りませんか? 久しぶりに家のお風呂に入りたいです」

「いーね。俺もずっと入ってなかったし」


 そうと決まれば早いほうが良いと、リズの転移が二人を包み、光が収まった頃には二人の姿はホールにはなかった。





 二人がホールから飛び立った頃……


「キャサリン・エヴァンス嬢! 貴殿は我が家の恩人だ!」


 ……キャサリンはロルフに腕がもげそうな程、力強い握手をされていた。


「ちょ、もげる。腕が――」


 悲鳴を上げるキャサリンに、ロルフが「これはすまない」と慌てて手を離した。それでも感謝が収まらないと言ったロルフに代わり、アイリーンがキャサリンの手を強く握った。


「キャサリン嬢、感謝申し上げる。今の君は、間違いなく聖女だ」


 笑顔を見せたアイリーンに、キャサリンの口角がピクピクと動き、その顔を聖女モードへと切り替えた。


「いえいえ。まだまだ若輩者ですぅ」


 文字が見えるくらい空気が「ピシ」と固まった。確実にやらかしただろう事は分かるキャサリンだが、この話し方が駄目だという自覚がない。


「……キャサリン嬢、あまりこういう事は言いたくないのだが」


「な、なんでしょうぅ?」


 苦笑いのアイリーンが、ため息混じりに続けた。


「その話し方は、駄目だと思うぞ」

「え? なんで? 可愛くないですか?」


 驚いた表情のキャサリンに、レオンが「可愛くないって」と後ろでため息をついた。


「ランドルフ様も言ってたじゃん。『ぶん殴りたくなる』って」

「はぁ? アイツそんな事言ってたの?」

「あれ? 直接言われてなかった?」


 首を傾げるレオンに「言われたことがあるよーな、ないよーな」とキャサリンが記憶を探っている。


「で、でも流石に……そこまで酷い言われ方じゃなかった気がするんだけど」


 口を尖らせるキャサリンに、アイリーンが呆れた顔で首を振った。


「いや。ランドルフ少年に同意だな。ぶん殴りたくなった」


 ニヤリと笑ったアイリーンに、「あ、アイデンティティだったのに」と膝をついたキャサリンに、レオン、ロルフ、アイリーンの三人が顔を見合わせて笑うのであった。




 ☆☆☆



 キャサリンが打ちひしがれていた頃、ブランクルフト郊外のヴェリタス商会跡では、騎士たちによる検分作業が進んでいた。


 対外的には、ヴェリタス商会の商品が爆発したことになる予定であったが、実際に建物が崩れてしまった今、騎士たちは一先ず規制線を張るだけに留める事にした。


「まさか本当に爆発が起きるとは……」


 呟く騎士の言う通り、着いた時は形が残っていた建物だが、小さな爆発が数度起きて建物自体が綺麗にペシャンコになったのだ。


「原因はこれかと――」


 一人の騎士が持ってきたのは、割れた魔石だ。どうやら魔道具に使用していた魔石が、何らかの影響で暴走を起こした。それが今分かる範囲での結論である。


「腐っても裏の集団か……」


 何かあった時の証拠隠滅。間違いなくそうだろう。


「規制線、張り終えました」


 部下の報告を聞いたら騎士が、「一部隊を残せ」と数人を残して引き上げていく。建物こそ潰れたが、火事などでこれ以上の証拠が遺失するのを防ぐための見張りだ。





 そんな騎士達を近くの建物から眺める影が一つ……


「【北壁】は強かったか?」

『さあね。アンタの方が強いんじゃない?』


 虚空に響くエリオットの声に、黒尽くめの男が「そうか」とだけ呟いた。


「こんな玉に魂だけ入れて生き延びるか……流石【叡智】だな」


 黒尽くめが掌を広げると、そこには脈動するような小さな玉があった。


『ま、僕にしか出来ない芸当だけどね』


 ヘラヘラと笑う玉が、このお陰で死を超越したのだと自慢げに話している。


『つーか、良く考えたら、アンタ南の担当になったって言ってなかった?』


「南に行く前に招集がかかってな。お前を迎えに行けと言われて来てみたら……このザマだ」


 ため息混じりの黒尽くめが掌の上で玉を転がした。


『うるさいなー。どうせこれも〝計画通り〟なんでしょ?』

「ああ。全てはあの方の掌の上……ただ――」

『ただ?』

「いや、なんでもない」


 黒尽くめが遠くに見える城の気配を探る。己が気になっている人物の気配を……だが感知出来なかったようで、諦めて首を振った。


「何を気にする必要がある。あの程度せいぜい誤差にすぎんと言うのに」


 黒尽くめが、自分に言い聞かせるように呟いて姿を消した。残っていたのはいつの間にか晴れ渡った空に見える、わずかにかけた月だけであった。

 ※これにて第四章は終了です。

 ポイントやブクマを頂きありがとうございます。この場を借りて重ねてお礼申し上げます。


 皆様の応援が、日々執筆の活力となっております。

 この機会にまだブクマされてない方や、ポイントを投げてないよ、という方はブクマや評価をしていただけると幸いです。


 さて、第一部とガラリと変わり、謎だらけの四章となってしまいましたが、今後少しずつ明らかになっていきます。


 謎の組織。

 息をしていないエドガー君。


 彼らが繋がる事はあるのか。作者も心配していますが、エドガーなら何とかしてくれるはずです。(ウルトラC的なムーブで)


 ちなみに五章くらいで終わると思ってたのですが、「あ、これ無理だ」って今なってるので、もう少し続きそうです。


 五章ではようやくエリーの身体と、ずっと伏せていたヴィクトール最強さんが登場予定です。ぜひ続きもお楽しみいただければ幸いです。


 最後になりますが、まだまだ至らない作者ではございますが、ぜひこれからも彼らの冒険を楽しんでいただければ幸いです。やはり読み続けて頂ける事が一番の喜びですから。


 それでは五章をお待ち下さい。※幕間を挟みます。

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