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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第四章 乙女ゲームが息をしていません

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第174話 敵を欺くにはまず味方から

「いや待って……ホントにもう――」


 セドリックが頭を抱えるのには理由がある。なんせ、「洗脳されたやつ捕まえてくるわ」と言って出ていった三人が、セドリックやミランダが止める間もなく、速攻で四人の使用人を引っ張ってきたのだ。


 鮮やかすぎる手並みだが、関心してばかりもいられない。なんせその四人を引き連れたランディ達が、「閣下に突き出そうぜ」と廊下を堂々と歩いているのだ。


 三人がハントに出てから既に騒がしかった城だが、その騒ぎが更に大きくなっている。もちろん既に寝ている奥方やエレインに配慮してはいるが、明らかにザワついた雰囲気は、既にロルフやアイリーンにも伝わっていてもおかしくない。


「何の騒ぎなの?」

「さっき言ってたじゃん。お客様が洗脳されてる人間が見抜けるだとか……」


 囁かれる噂が大きくなっていくにつれ、セドリックはわずかに違和感を覚えている。とは言え今はそれを確認する暇などない。この望ましくない状況に、セドリックは先手を打つために、「ミランダ、とりあえず連絡」とミランダを走らせた。


 セドリックの焦燥とは対象的なランディやハリスン、そしてエリーなのだが、頭を抱えるセドリックが「あのね……」とまるで幼子に諭すように語りはじめた。


「君らが洗脳されているだろう人を見破れるとして……どうやってそれを証明するのさ」


 至極もっともな意見に、ランディとハリスンが「そりゃあ……」と同時に言葉を詰まらせた。ハリスンはその瞳術を持って、ランディは野生の勘で。それぞれが魅了や精神操作にかかった味方を見破る事ができる。


 その延長で、洗脳などマインドコントロールを受けた人間を見抜いたと言っているのだが、それを証明する手立てがない。


「しかも……しかもだよ……ここはヴィクトールじゃなくてヴァルトナーだ。場合によっては敵対行動と見られても――」


 セドリックがそこまで話した時、ホールを挟んで向かいの通路がドタドタと慌ただしくなった。ちょうどホールの向こう側から顔を出したのは、アイリーンとロルフの二人だ。


 ミランダに連れられた二人は、ランディ達がやらかした状況を見ると「これは……」と大きく息を吸い込んだ。


 何か叫ばれる、と身を固くしたセドリックだが……吸い込んだ息をただ吐き出したロルフに、アイリーンが「父上?」と眉を寄せた。


「説明を聞こうか……」


 ロルフらしくない声に、セドリックも驚きながらランディやハリスンが洗脳されていると思しき連中を捕らえたのだと話した。


 もちろん捕らえられた男女は「違う」「旦那様、信じて下さい」と口々に洗脳など受けていない事を喚いている。そして彼らの表情を見ても、実際に洗脳にかかっているかなど、この場にいる誰にも分からない。


 既に屋敷中の使用人が野次馬のごとくホールを取り囲み、全員がロルフの言葉を待っている。


「……すまん。確かに敵が潜んでいるかもしれないと話しておきながら、城に泊めたことは私の不手際だ」


 声を震わせるロルフに、セドリックもようやく彼が大人しかった理由に気がついた。客人を危険な場所に安易に泊めた以上、何か起きた場合の責任はロルフ達ヴァルトナー側にある。


 仮に使用人を拘束したそれが、謂れのないものだとしても、ランディ達が己の安全を確保するためだと主張したら、ロルフ達には強く言い返せない。


「だが、私には洗脳されているかどうかの見極めが出来ん。だから一旦彼らを私に預けてはくれまいか?」


 ロルフの真剣な瞳に、ランディとハリスンは顔を見合わせ頷いた。


「いいですよ。そもそも彼らの役目は終わりですから――」


 ランディがエリーへ視線を移せば、ホール全体を半透明の膜が覆った。急に現れた壁に、誰も彼もが慌てふためく中、ランディは次にハリスンへと視線を移した。


「アイツと、アイツ……かな?」

「残念。それとあの娘っすね」

「うむ。間違いないの」


 ランディが指差した使用人に加え、ハリスンもメイドを一人指差し、エリーがそれに頷いた。


「オッケー。エリー、確保」

「命令するでない」


 口を尖らせたエリーが、いつぞやのように一瞬で三人を拘束し、加えて催眠魔法で意識も奪った。


 もう何のことだか分からない状況に、使用人たちから悲鳴が上がる始末だ。流石の状況にロルフも顔を歪めてランディを睨みつけた。


「……どういう事だ? 事と次第では――」

「すみません閣下。お叱りは後で」


 ランディが即座に倒れた三人のウチの一人に駆け寄り、口の中に手を突っ込んだ。


「ビンゴ……」


 出てきたのは、小さな丸薬のようなものだ。指で何とか摘める程度の大きさは、離れた位置からでは目を凝らしてやっと見えるかどうかである。


 だがその丸薬に覚えがあるのか、慌てたロルフとアイリーンが、それぞれ倒れた男女の口の中に手を突っ込んだ。もちろん出てきたのは、同じような小さな丸薬だ。


 ランディがそれを爪の先で潰すと……赤黒い血のような液体がわずかに飛び散った。


「この量で死ぬのか。猛毒だな……」


 手を拭ったランディが、今も呆けるロルフへ向き直った。


「閣下、ダシに使うような真似をしてすみませんでした」


 ランディが頭を下げて、ハリスンが「申し訳ねーっす」と捕まえてきた四人を解放した。一連の行動を見ていたセドリックは、ようやく違和感の正体が判明してため息をついた。


「ランドルフ君、一芝居打ったんだね」


 非難めいたと口ぶりのセドリックに、「そうですね」とランディが頷いた。


「洗脳されてるかどうか分かるというのも……?」

「そりゃ、同じヴィクトールの人間なら一〇〇%分かりますが、ここはヴィクトールじゃありませんから」


 頭を掻いたランディが続けるのは、ランディが洗脳を見破るのは専ら〝勘〟であるということだ。同じヴィクトールの人間なら、普段とは違う様子や雰囲気など、冴えわたる勘の〝裏付け〟ができるが、ランディはヴァルトナーの人間の普段など知らない。


 野生の勘で「怪しい」ということは分かっても、確定させる〝裏付け〟の要素がないのだ。ちなみにヴィクトールの騎士たちも、洗脳を見破るのはランディ同様〝勘〟である。


 それでも知己の人間であれば、彼らも一〇〇%の精度を誇るだけあって、ヴィクトールの異常性は言わずもがなだろう。


「ちなみにあっしは誰でも見分けられますぜ」


 瞳を指すハリスンは、確かにその瞳術で持って精神干渉を見破れる。ハリスン曰く、微妙な魔力のゆらぎがあるらしいが、ランディにはそれが見えない。ただそれが見えるのがエリーである。


「なるほど。君たちが見抜けるのは本当で、仮に隠密行動したとしても、捕まえた人間を引き連れてウロウロしては、本当に洗脳された奴が近づくはずがない……。だから、引きずり出したわけかい?」


 セドリックの言葉にランディが頷いた。


 何の相談もなく、いきなり突飛な行動を起こす。問題を起こしたように見せてその場に全員を集める。しかもセドリック達味方に対しても、欺くような発言と行動だ。


 広がる混乱と焦燥は、騒ぎをより大きくし人を集めやすくなる。


「洗脳されてるはずの人間が、普通に実生活を送れる。つまり、思想が書き換えられただけで、行動そのものの根幹は一般人と変わらないんです」


 ランディの言葉に「確かに」とアイリーンが頷いた。アイリーン達が捕らえた使用人が、実際にそうだったのだ。普段通りに振る舞い、知らぬ間にやられていた。


「根幹が変わらないなら、緊張と緩和である程度行動が操れるので」


「緊張と緩和?」


「ええ。疑われてると緊張した人間が、疑いが晴れた状況に出くわせば……そういう時が一番油断するんですよ。その道のプロなら絶対に逃げてるでしょうが。一般人を刺客に選んだのが仇でしたね」


 ランディが気絶している男性を見下ろした。


「しかも彼らが『捕まるかも』と警戒していた相手は、全然違う人間を捕まえてるんですから。『全く見破れていない、馬鹿の面でも拝みに行くか』そんなところでしょうね」


 ランディの言葉に、アイリーンとロルフは言葉を失くして捕らえられた使用人を見ていた。


 洗脳されている人間を、今まで水面下でしか探せなかったのは、一網打尽に出来ない危険性があったからだ。連中を逃がせば、次にどんな手を打ってくるか分からない。既に後手に回っている状況で、何とか最良の一手を打とうとしていたのがアイリーン達だ。


 それをランディ達はひっくり返した。


 洗脳を見破れると言い、堂々と城の中で使用人を捕まえ、彼らの動揺を誘い騒ぎを大きくした。その結果、望んだようにロルフとアイリーンだけでなく騒ぎの質が変わったと油断した本命を引き寄せたのだ。


「そうだったね……君は、いやヴィクトールは――」


 安堵と呆れが混じったようなセドリックが「父上が『ヴィクトールは恐ろしい』と言うわけだ」とジト目でランディを見た。


「まさか自分たちに有利になるよう、場をひっくり返すとはね」

「そんな大したもんじゃないですよ」

「でも君たちの思い描いたとおりだ」


 セドリックの言う通り、当にこの場はヴィクトールであるランディやハリスンの独壇場だ。ちなみにそこにリズとエリーが普通にゲットインしている事に、セドリックは頭痛を覚えていたりする。


「まあ俺達のやり方が上手くハマっただけでしょう」


 肩をすくめたランディが、自分を餌に魔獣をおびき寄せるみたいなものだ、と普段からやってる事だと強調した。


「そんな阿呆は若だけですけどね」


 ハリスンの辛辣な評価に、「お前は俺サイドだろ」とランディが顔をしかめた。何とも締まらない空気だが、セドリックがそれを打ち消すようにロルフへ視線を向けた。


「閣下……。一団の代表者として――」

「構わん」


 首を振ったロルフがランディを見た。


「ヴィクトールよ……助かった。礼を言うぞ」


 頭を下げるロルフに、ランディは「まだ礼には早いですよ」と首を振った。


「洗脳を解いて、連中に一泡吹かせてからです」


 ランディの悪い笑顔に頷いたエリーが、かがみ込んで男性の様子を探ること暫く……


「ほぅ。少々(つたな)いが……累唱を利用した精神操作じゃな。肉体派には高度すぎて判別不可な技術じゃが……妾にとっては児戯に等しいの」


 ……鼻で笑ったエリーが、指パッチン一つ。倒れる三人の身体から、黒い靄が立ち上って消えていった。


 それと同時に「う…ん――」と三人がそれぞれ意識を取り戻した。


「ここは?」


 頭痛を振り払うような女性に、アイリーンが「分かるか?」と声をかけている。


「アイリーン様……私、ずっとおかしな夢を見ていたみたいです」


 女性が語ったのは、ある日突然ヴァルトナー侯爵家へ抑えきれない憎悪が生まれたという事だ。この憎悪を晴らすために、今は面従腹背で仕えているだけだと言い聞かせ続けていたという。


「それはいつ頃からだ?」


 ロルフの言葉に、考え込んだ女性が「確か日記があります」と立ち上がった。女性について行くアイリーンの姿に、ミランダがセドリックと視線だけを交わしてアイリーンの後を追った。


 同時にロルフが、家令の男性に日々の記録を取りに走らせた。


 女性と家令を待つ間、ロルフによって残った男性二人にも聞き取りが行われているが、ある日を境に先程の女性同様の憎悪が湧いてきたのだという。


 そんな事が分かった頃、息を切らして女性が日記を片手に戻ってきた。そこに綴らていたのは、何気ない日常だったのだが……


「この日からです」


 ……女性が言うように、ある日を境に日記の内容が侯爵家への恨みつらみに変わっていたのだ。


「なんでこんな事を……」


 顔を覆う女性だが、アイリーン達は内容など気にせず、変わったその日付に注目していた。


「父上――」

「ああ」


 家令から日誌を受け取ったロルフが「ヴェリタス商会が挨拶に来た日、か」と頷いて日誌を閉じた。洗脳されていた三人を見比べるロルフが「なるほど」ともう一度頷いた。


「それぞれ案内役、給仕係、そしてサンプル搬入の受取係か……」


 拳を握りしめるロルフに、ランディが声をかけた。


「どうやらその商会が、黒っぽいですね」

「やつら、古代魔法言語で【真理ヴェリタス】を名乗るくらいじゃからな」


 呆れ顔のエリーが「馬鹿にしておるぞ」と悪い顔でロルフを焚き付けた。


「面白い」


 拳を握りしめ、獰猛な笑みを浮かべるロルフへ、ランディが再び声をかけた。今度は悪い笑顔で……


「じゃあ、行きますか」


 ランディの見せた悪い笑顔にロルフも一瞬驚き、アイリーンは「え? 行くとは?」と呆けた声を上げた。


「決まってるでしょ。そのなんちゃら商会を潰しに行くんですよ」

「い、今からか?」

「ええ。即時行動は、ヴィクトールの鉄則です」


 ランディの笑顔に、ロルフも笑顔を返した。


「いいぞ。ヴィクトール。やはり私はお前が、お前たちが好きだ」

「私も。ぜひ今度合同演習とかしましょう。ウチの人間も喜びます」


 怪物二人と、それぞれが有する集団が手を組む事が確定した瞬間だった。

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