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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第四章 乙女ゲームが息をしていません

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第173話 分からないなら知ってるやつに聞けばいいよね

 アイリーンの抱える思わぬ傷を浮き彫りにしつつも、何とかヴァルトナーの事情に踏み込んだランディ達は今……客室として充てがわれた部屋に、全員で集まっていた。


 理由はもちろん、ロルフが告げた連中への認識をすり合わせるためだ。


 あの後ロルフに告げられた事を総括すると、数ヶ月前よりこのヴァルトナー侯爵領で【真理の巡礼者(ピルグリム)】という謎の集団が暗躍しはじめた。


 数ヶ月前とは言うが、正確にはいつから……というのは定かではない。というのも最初の異変が数ヶ月前なのだ。アイリーンの兄であるアーヴィンと侯爵夫人のイザベラがほぼ同時に謎の病に倒れた。それが数ヶ月前の話である。


 もちろんその時すぐに【真理の巡礼者(ピルグリム)】に気づいたわけでは無い。最初は医者に診察させ、司教に神聖魔法での治癒を依頼したのだが、それでも容態が安定する程度で、完全な回復には至らなかったのだ。


 その病の原因を調べるうちに、なんと城の中の人間が二人の病気に深く関わっている事が判明したのだ。捕まえて尋問した結果、彼らは強い洗脳を受けており、取り調べの間にそれぞれ奥歯に隠していた毒薬で自害したのだ。


 その時彼らが語った組織の名前が、【真理の巡礼者(ピルグリム)】だという。


 一枚岩だと思っていた城に間者が紛れ込んでいた。この事実にヴァルトナー家は騒然となった。


 本来であれば、すぐさま応援を願い大々的に捜査する案件だ。大事な跡取りと、愛する妻。その両方が狙われた状況に、ロルフが応援を依頼しようとしたまさにその時、中央からアイリーンの婚約者たるアーサーの醜聞が入ってきた。


 完全にタイミングが悪かった。


 敵対組織の名前が【真理の巡礼者(ピルグリム)】。まるで教会を連想させるような名前な上に、アーサーを誑かしたのが聖女だ。その微妙な掠り具合に、ロルフは中央への応援依頼を諦めた。


 誰が、どの勢力が、どこまで【真理の巡礼者(ピルグリム)】に関わっているか分からない。そもそも自分たちの懐にまで入り込んでいた集団だ。いわんや他家をや、である。


 正体不明の勢力と見えない争いを繰り広げていること。それは誰にも言うことは出来ない。なんせヴァルトナーが弱っている事が知られれば、間違いなく帝国からのアクションがあるからだ。


 もしかしたら【真理の巡礼者(ピルグリム)】こそが、帝国が派遣した新たな部隊の可能性すらある。


 今までとは違う毛色の相手に、百戦錬磨のヴァルトナーと言えど、絶賛苦戦中だとロルフが語っていた。


「思ってた以上に面倒そうな相手ですね」


 ため息まじりのランディに、「そうだね」とセドリックも頷いた。実際ロルフの話を聞いてから、ミランダは駆け足で各方面に連絡を飛ばしていたのだ。もしかしたらブラウベルグにも入り込んでいるかもしれない。


 一般人の顔をして紛れ込んでいるかもしれない。ではなく、既にコミュニティに所属する一般人を洗脳して【真理の巡礼者(ピルグリム)】に変えてしまうのだ。


 熟練の暗殺者が、一般人のフリをしているのとはわけが違う。洗脳の恐ろしいところは、ある日突然、隣人が暗殺者に変わるのだ。既に懐に抱えた人間が、一瞬で敵に変わる。


 それが今回の相手の真の恐ろしさと言える。今までにない戦い方は、ミランダやセドリックをしても最大限に警戒する必要がある。


「にしても、【真理の巡礼者(ピルグリム)】ですか。聞いたことは?」

「いや、ないよ」


 首を振るセドリックに、「ですよね」とランディが肩を落とした。セドリックやミランダが聞いたことがあるなら、あそこまで慌てて連絡を飛ばす必要などないのだ。


 ため息をついたランディが、ベッドに深く腰掛け直した。


「で……お前はどうなんだ? 乙女ゲーマスター?」


 視線を向けた先には、リズとリタに挟まれ意気消沈のキャサリンだ。


「その呼び方はちょっと……。自分のやらかしで、潰れそうなのよ」


 首を振ったキャサリンが、「あと十分くらい待って」と両手で顔を覆った。ランディとしては過ぎたことは仕方がない、と言いたいところではある。だがそれを口にすることはない。自分の過ちを認めて、消化するのにも時間が必要なのだ。


 誰もが「過ぎたこと」と割り切って生きてなどいけまい。ランディだって、シャドラーとのことは暫く引きずったくらいだ。


 小さくため息をついたランディが、「待ちますか」とセドリックに声をかけてベッドの上に転がった。暫く誰も何も言わない、そんな時間が流れ……


「セドリック様、一通り連絡を飛ばしております」


 ……ミランダが帰ってきた音で、ランディが上体を起こし、キャサリンもようやく顔を上げて唇を噛み締めた。


「ごめん。アタシが落ち込む資格はないのに……」

「落ち込むに資格もクソもあるか」


 顔を上げたキャサリンに、ランディがため息混じりで続ける。


「心の形なんざ人それぞれだろうが。何に傷ついたとして、誰かがそれをおかしいだなんて……それこそ資格がねーよ」


 鼻を鳴らしたランディに、キャサリンが驚いたような顔を見せている。


「そんなんじゃねえよ。今はそれより、悪いと思ってんなら、ちったぁアイリーン嬢の役に立ってみろ」


 ランディの言葉にキャサリンが黙ったまま頷いた。


「……えっと、【真理の巡礼者(ピルグリム)】だったわよね」


 キャサリンが皆を見回し、大きく息を吸い込んだ。


「知ってるわよ。と言っても名前だけだけど」


 先程吸い込んだ息を、思い切り吐き出したキャサリンに、ランディもセドリックもがっくりと肩を落としてため息をついた。


「ためた割には役に立たねーな」

「うっさいわね」


 口を尖らせたキャサリンが語るのは、ゲームに出てくる【真理の巡礼者(ピルグリム)】の立ち位置だ。


「あいつら、ゲーム中盤くらいから出てくる連中で、立ち位置は狂信者って感じかしら」


「狂信者? 誰の?」


 眉を寄せるランディに、「決まってるでしょ」とキャサリンがリズを、いやその中にいるエリーを見た。


「……知ってる?」


 首を傾げてリズを見るランディに、「知らん」とエリーが現れて鼻を鳴らした。


「連中、『世界に起きた異変は、大いなる存在復活の予兆、これこそ世界の真理だ』って、道中で主人公たちの邪魔をするのよ」


 キャサリンが語るのは、ゲーム本編ではそろそろ世界中でエレオノーラ復活に向けて魔獣が凶暴化したり、不穏なことがポツポツと起きるのだという。例えば侯爵家の反乱から教会の変も、連中に言わせれば〝復活の予兆〟なのだそうだ。


(まあ、リズが追放されてエリーを宿して……んで閣下が反乱だから、強ち予兆と言えなくもないが)


 キャサリンの説明を聞きながら、ランディは再びエリーに視線を合わせた。


「そんな青瓢箪なぞ、妾が知るわけなかろう」


 顔をしかめるエリーに、「なるほどな」とランディが頷いた。エリーは言っていた。古の魔法使いエレオノーラの名前は、時と場合によってはマズいと。だから愛称をつけたのだ。


 恐らく教会との関係からエリーは警告を発したのだろうが、どうやら教会以外にもエリーの名前や功績が残っていたのだ。連中はそれをどこかで手に入れて、エリーの復活こそが世界の真理だと活動をはじめた。


(いや……もしかしたら、アレの狂信者の可能性もあるな)


 ランディが思い出すのは、エリーを処刑したあの男だ。あれが封印された古の王だとしたら、可能性はゼロではない。なんせ連中の目的が〝大いなる存在の復活〟なのだから。


 ただそんな狂信者どもが、何の目的を持ってヴァルトナー侯爵領で暗躍しているかは不明だが。


「とりあえず分かった事は、相手の名前とイカレポンチって事くらい……か」


 ランディの発言に、「イカレポンチって」とキャサリンが呆れた顔を見せている。


「そして、分からない事の方が多い……と」


 ため息混じりのセドリックに、「まあ、そうですね」とランディが頷いた。


 実際連中の規模も目的も何も分かっていないのだ。それこそ本当に〝大いなる存在の復活〟が目的かどうかも、ヴァルトナーにどれだけ潜伏しているかもである。


 だからこそロルフはああやって、会食形式での情報交換を実施したのだ。ほとんどの使用人すら締め出し、完全に味方だと判断できた連中だけで話すために。


 そう思えばあの立会は、ロルフの方便であり、同時にランディ達が簡単に洗脳などされない面子かどうかを判断する材料だったとも言える。


「この城にもどれだけの敵が紛れているやら……」


 セドリックの言葉に、女性陣が分かりやすく身体を固くした。これからここで一夜を明かすというのに、敵陣のど真ん中という可能性が出てきたのだ。そう考えれば、わざわざアイリーンがメイドを呼び、リズ達を風呂に通したことにも納得だ。


 なんせ風呂を担当したメイドたちは、あの食堂にいたメイドと一緒なのだ。間違いなくアイリーン達が信頼を置く面子である。


 だからあのタイミングで、もっとも無防備になる風呂に放り込まれたのだろう。しかも全員一緒にである。信頼の置けるメイドとミランダというアイリーンが認める護衛。安全を確保するための一手とも言える。


「ったく……このままじゃおちおち眠れもしねーな」


 ベッドから立ち上がったランディが「なあ?」と同じ様に立ち上がったハリスンを振り返った。


「お前は右、俺は左……でどうよ?」

「オッケーっす。それよりも若、ちゃんと見抜けるんですかい?」


 煽るような笑みのハリスンに、「馬鹿にすんな」とランディが鼻を鳴らす。


「うっそだー。あっし、全然大丈夫なのに、殴られたこと覚えてますぜ?」

「何年前の話してんだよ。あれからスゲー成長してるっつーの」


 相変わらずの笑顔を見せるハリスンと、口を尖らせるランディ。


「……えっと……一体何をするのかな?」


 苦笑いでランディとハリスンを見比べるセドリックに、「何って……」とランディがハリスンと顔を見合わせた。


「洗脳されてるんすよね? ならそいつら見つけて、捕まえたらいいんじゃねーですか?」


 ハリスンのキョトンとした顔に、「え?」とセドリックが呆けた声を上げた。


「出来るのかい?」

「出来るも何も……」


 ハリスンの視線を受けたランディが、大きく頷いた。


「ヴィクトールでは必須スキルですよ。魔の森には、魅了とか精神操作とか使う面倒な魔獣もいますから」


 胸を張るランディだが……


「あっしは大丈夫なのに殴られましたけどね」


 ……ハリスンに昔のやらかしをバラされていた。


「面白い。洗脳を見破って捕まえるか」


 呟いたエリーが「妾も行こう」とランディの真横に立った。


「お前、分かんのか?」

「馬鹿にするでない。魔術的な観点からも見破る方法はいくらかある」


 自慢げに頷くエリーだが、キャサリンが首を振っていることからも、簡単な技術ではないのだろう。


「まあいいか。俺から離れんなよ」

「何イチャついてんすか! ちゃんとやってくだせえよ!」


 エリーを引き連れたランディと、口を尖らせたハリスン。三人が静かな城の中へ散っていった。


 それからしばらくして、三人が計四人の男女を捕らえたという一報に、セドリックは若干の頭痛を覚えていた。

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