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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
断章 冬のヴィクトール

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第128話 謎の神殿……の解明よりまずは仕事

 静かな森に佇む神殿。箱型の神殿の中は、巨大な空間が広がっており、真正面には大きな女性の石像がある。古代ギリシャのパルテノン神殿、そのアテナ女神像を彷彿とさせる大きさだ。今にも動き出しそうな石の女性を、窓から差し込む陽光がキラキラと照らす光景は、確かに神の存在を信じたくなる。


 実際にあまりにも静かで、現実離れした空気は、神々しさを通り越してどこか寒気すら感じさせる。これぞ神の御前とも言える雰囲気に、流石の学生たちもゴクリと唾を飲み込んでいた。


 研究機関が調査にでも来ていれば、もう少し賑やかさでもあったのだろうが、研修に被せて調査に来るはずもなく。入口や窓から差し込むわずかな光が照らす神殿内は、時が止まっているかの如く見える。


「この神殿は――」


 始まるバルク教官の解説では、地上一階、地下一階の不思議な神殿だが、最近の研究からメインは地下部分だという事が判明している。どうも地上部分は、地下を隠すために後から建てられたのではないかという事だ。


 事実教官二人に案内されてたどり着いた女神像の足元には、ポッカリと空いた穴があった。台座を引き摺った跡からも、この穴が隠されていた事は間違いない。


「こんなもん、良く動かせたな」


 流石のランディでも、この巨大な女神像とそれを支える台座を動かす自信はない。女神像を見上げて呟くランディに、「仕掛けがあったみたいですよ」とリズが教えてくれた。


 何でもこの仕掛けが見つかり、地下への入口が現れた当初は中々の盛り上がりを見せていたらしい。失われた古代文明の遺産だとか騒がれていたが、地下から出てきたのは、いくつもの空の棺と抽象的な壁画だけらしい。


 空の棺のせいで、霊廟だと言われ。抽象的な壁画のせいで、王家の謎や誕生を記しているとも言われている。


「研修もだが、歴史的建造物を見る機会でもある!」


 神殿内に響くガルド教官の声に、全員がわずかに眉をひそめるが、確かに貴重な機会なのは間違いない。


 全員がランタンや光魔法で明かりを確保しつつ、たどり着いた地下は巨大な空間であった。


 階段の暗さが吹き飛ぶ程、明るく発光する不思議な壁で作られた広い空間。部屋全体を埋め尽くすように、いくつもの棺が並ぶが、それらは全てが空っぽだ。


 居並ぶ棺の先に見えるのは、これまた巨大な扉だ。扉に施された月と太陽のレリーフは、部屋の反対側からでもかろうじて見える。つまりそのくらい扉が大きいのだろう。


 四方を囲む壁には、何とも良く分からない壁画が描かれている。


 玉座のようなものに座る男。

 その背後に見える巨大な円形の図。

 渦巻く黒い炎。

 炎の中に浮かぶ何かの文字。

 巨大な黒い月と神殿。

 そして……


「扉と意味深な二つの穴か」


 ……何とも抽象的な壁画の最後は、端から見えていた巨大な扉と、その中央にある二つの穴だ。


「この扉の先にダンジョンへ続く階段がある。出発は三〇分後だ。各自準備を怠るな」


 バルク教官の声で、全員が背嚢やマジックバッグをおろして、その中から必要な装備を手に取った。


 最終確認をする生徒達を尻目に、ランディはリズとともに壁画を見て回っている。


「何か分かりそうか?」

「いえ……ただ、エリーがルーンと古代語、あとは古代魔法言語らしきものが見えると」

「さっすが生き字引」


 感心するランディだが、確かに幾つかそれらしい文字は見える。


 例えば「王」「淵」「昏」「月」「黒」「扉」などの漢字は、ランディでも読める。それぞれの壁画の一部に組み込まれているようで、確かに知っている人間にしか分からないだろう。


「ひとまず写真に残しとこうぜ」


 国の重要な史跡だが、教官達が生徒につきっきりなのをこれ幸いと、ランディとリズは手分けして壁画を写真に収めていく。


 全ての壁画を写真に収め終えた頃、学生たちの準備も整ったようで、ついにダンジョン探索研修が始まる。


 ランディ達も壁画の内容が気になるものの、今は仕事を優先させるべきと、慌てて第二班の後方についた。


「階段を降りたら、第一班は左の通路を。第二班は右の通路を進む事」


 バルク教官の声に、生徒達が黙ったまま頷いた。


「よし、行くぞ!」


 ガルド教官に先導される形で第一班が扉を押し開け……「あ。何もなくても開くんだ」……というランディの声を残して、第一班が扉の奥へと消えていった。


「我々も行くぞ」


 バルク教官に率いられる形で、第二班も扉の先に出現した階段へと一歩踏み出した。








 階段を降りた先に広がっていたのは、見るからに〝ダンジョン〟と呼んで差し支えのない石造りの回廊であった。先程の部屋と比べるとかなり暗いものの、わずかに発光する壁のお陰で近くは見える。


 微妙な明るさだが、第二班の面々はキャサリンの合図で数人が魔導ランタンを括りつけた棒を掲げた。明かりを使うか、それともダンジョンの発光で視界を確保するか。それすらも生徒達による判断の中、第二班は安全確保の為に明かりをつける事を選んだのだ。


(トラップもあるって言ってたし、普通に考えりゃ堅実な一手だが……)


 ランディの感想の理由は第二班と第一班の人数差に起因する。ルークやレオンを入れても二人少ない上に、護衛のランディ達も二人だ。リザーブメンバーの少なさから、安全策を取ったとも見える行動だが、それが諸刃の剣という事はキャサリン達も知っているだろう。


 明かりを灯すことは、ともすれば遠くの魔獣に存在を示す事になる。リザーブメンバーの少ない第二班は、基本的に戦闘の回数を減らす方が良いはずだ。


 それでも明かりをつけるという事は、明るい方が彼らにとって戦闘回数上昇よりも効率が良いと言える。


(少ない人数でコンパクトに纏めた部隊と、確保した明かり……ああ、なるほど――)


 ランディが明かりを灯した最大の理由に気がついたのは、先頭を歩く生徒が見せたハンドサインを見た時だ。コンパクトに纏まった隊列を更に明るく照らす事で、各々のサインや合図の見落としを防ぐ役割があるらしい。


(なるほど。薄暗いダンジョンのモンスターなら、光より音で探知する方がメインか……)


 声ではなく、ハンドサインや掲げた旗の色で意思伝達する。


 実際旧校舎での演習とは比べ物にならない行軍速度は、全員が己の役割を認識している証左だろう。時折上がるハンドサインや合図が、リーダーであるキャサリンを介さずとも、上手く全体に波及してロスを最小限に抑えている。


 例えばトラップ。


 発見した人間の合図で、全体が即座に止まり、罠を示す印がブロックに描かれる。あとはそのまま全体がそのブロックを回避して進むだけだ。この方法の利点は、何と言っても撤退時や、道を間違えて戻る時にも有効だと言うことだ。


 言葉がなくとも伝わる仕組み。全体の決定権とも言える頭はキャサリンだが、各々がその仕組を最大限活かすために頭を使う。矛盾しているようだが、それを可能にした第二班の面々に、ランディはただただ驚きを隠せないでいた。


「たった二週間で、ここまで仕上げるのか」

「学園での研修中も、様々な事を試していたな」


 既に先導役を辞め、ランディ達同様後方から付いてくるバルク教官が、「驚くべき成長だ」と満足そうに頷いている。


「お前のお陰かな?」

「まさか。私がしたのは少しのアドバイスで、ここまでの形にしたのは彼らの力でしょう」


 肩をすくめたランディに、バルク教官も「そうだな」と頷いた。あのミーティングの後、キャサリン達は何度も議論を重ね、自分達に合う最適解を求めてきたのだろう。その結果が、このシステマチックな行軍だ。


 分かれ道こそリーダーの判断に委ねているが、それ以外は今のところ、脅威の行軍速度で探索は全く順調そのものだ。


 不意に上がった赤い旗に、行軍が止まり全員に緊張が走る。それだけでランディ達にも魔獣が現れた事が分かるから大したものだ。


「敵影、二つ」

「後方クリア」


 魔獣の接敵を知らせる声と後方確認の声に、部隊の緊張が更に高まる。


「ヴォーパルバニーだ」


 明かりの届かぬ暗がりから出てきたのは、報告の通りダンジョンに似つかわしくない真っ白な兎だ。だがもちろん、こんな場所にただの兎が出るわけもない。


 生徒達を前にした二匹の白兎が、「キシャー」と真っ赤に裂けた口から牙を覗かせた。


「対兎フォーメーションよ!」


 キャサリンの号令とほぼ同時に、ヴォーパルバニーが高速で駆け出した。

 一気に間合いを詰めるヴォーパルバニーを前に、前衛二人が盾を前面に構える。

 亀のように盾の中に手足を引っ込め、首すらすぼめる。

 そんな生徒に向けて、ヴォーパルバニーは、わずかに見える顔めがけて飛びかかり――その身体を前衛の後ろから突き出された剣と槍が貫いた。


 綺麗なカウンターで、損害なく魔獣を倒した生徒達が「やった」と喜色を顔に浮かべた。


「油断しないで。警戒と被害報告、武器の損耗率チェックよ」


 その言葉で慌てて生徒達が、「損害なし」、「損耗率軽微」と報告を上げていく。生徒達のチェックも一瞬で終わり、魔石を回収して再び行軍が始まる。


「さあ、みんな行くわよ! 目標は前人未到の五階層踏破よ」


 キャサリンの号令に、全員が武器を掲げて応えた。完全に一つのチームとして機能している第二班に、ランディは人知れず「【キャサリン探検隊】すげーな」と安堵のため息をついていた。


 一歩一歩進むキャサリン達第二班の背中は、ランディにそう思わせる程の頼もしさがあった。



 ☆☆☆



 一方その頃……


「敵影!」

「敵だ。全体迎撃準備!」


 エドガーの合図で第一班が行軍を止め、そして暗がりから現れた魔獣を待ち構える。出てきたのは第二班同様ヴォーパルバニーが二匹。


「前衛防御! 足を止めてから攻撃だ!」


 素早いヴォーパルバニー相手に、魔法や弓での攻撃は不利と判断したのだろう。判断自体に【鋼翼の鷲】もガルド教官も何も言わない。いわばセオリー通りの判断だからだ。


 素早い魔獣相手は、盾で動きを制限してからとどめ。ヴォーパルバニーでなくとも一般的な戦略で、エドガー達も難なくヴォーパルバニーを仕留めていた。


 第二班と違い、喜んだりこそしない彼らは淡々と自分の武器をチェックし、損耗率を確認している。傍目に見れば、楽勝に見える彼らの戦いだが、それを見守る【鋼翼の鷲】の面々の顔はあまり優れない。


「セオリー通りだけどさ……」

「学生ですからね。仕方ありませんよ」


 セリナの呟きに、イリオスが肩をすくめた。彼らが言うのは、「セオリー通りなら、いちいち指示は要らなくないか」という事だ。この程度の簡単な行動すら指示を必要とするなら、今後高位魔獣が出てきた時に、エドガーの指示が追いつくとは思えない。


 もちろん冒険者パーティでも、戦闘中に声掛けは必須だ。だがそれはある程度基本戦術が確立してる上での声掛けだ。


 ――抑える

 ――とどめは任せろ


 そんな感じで、各々が自分の役割を理解した上での声掛けだ。リーダーが一から十まで指示していては、いざという時判断が鈍るのは間違いない。


「どうやら、今年も出番が回ってきそうだな」


 ため息混じりのレオナードの言う通り、何だかんだで学生達の護衛につく時は、毎回彼らの手助けをしている。今回はエドガーという旗印のもとで、かなり纏まっていると聞いていただけに、〝纏まってるだけ〟の状態にため息がもれるのも無理はない。


「あっちはどうなんだろー」

「さあな。戦士の顔をしていたからな……案外こちらよりマシかもしれんぞ」


 レオナードの視線の先では、見つけた罠に対して伝言ゲームのように「罠だ」「トラップだって」と伝わっていく第一班の生徒達が映っていた。

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