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エンジェルメディア  作者: lou
8/13

世界書庫までの道のり 馬車へ。

カタカタと夜の宿の窓が風に音を鳴らす中鹿は与えられたベットの上でぼーっと一点を見つめている。


『あ…ごめん鹿。命令忘れてたね。』


窓の音に目が覚めたのか月祈が鹿の方をぎょっとして見る。


『起きたのか。朝では無い…だろ?』


そんなのを知りもしない鹿はそんなことを聞く。


『…鹿,寝なさい。』


その月祈の声に鹿の意識はプツリと切れる。

1時間半後。


『もう来るんじゃないか?』


『そうね…もう向かう…?』


『そーだねー街にバイバイしなくて大丈夫?』


『私のことなんだと思ってんの?』


月祈が鹿にどう通信機器を持たせようか試行錯誤しながら鹿をクルクル回転させているところに湊が外套を羽織り,変声魔法をかけながら時間を指定すれば月祈がそれに同意しミナミはルカに同意しながら意図してかせずか変なことを聞けばルカはため息混じりに答える。


『んぇ!違う違う!暫く戻って来れないでしょ?ルカはあんまりバイバイしてないなぁって…』


『そういうこと?なら大丈夫。戻って来れないわけじゃないから。ありがとね。』


ぶんぶんとルカの言葉に含まれた意味を否定しながら答える。後半につれ小さくなっていく声はミナミの自信のなさを全面に見せている。

そんなミナミの姿に呆気にとられたルカは心なしか柔らかい表情で答える。


『えへへ。』


『さ。行くか。』


嬉しそうにするミナミにごたつきが落ち着いた様子を感じ取り,湊は男性の声に戻った状態で外套のフードを深く被りながら玄関の扉を開ける。


『…コンプレックス…ね…ほんとかな…』


ミナミ,ミナミに引っ張られるルカ,月祈,鹿の順番で部屋を後にする中月祈はポツリと湊に鋭い眼光を向けながら届くギリギリの声量で呟く。

その後ろに控える鹿は月祈によく似た顔立ちで月祈と同じように睨む。


『好きに解釈しろ。』


月祈と湊の身長差では月祈が下から覗き込む形。だから月祈にだけ見えただろう。

此方を見透かしているかのような美しい海の如き色の瞳が冷たく光を帯びているのを。




宿の扉を出れば外は日が照りつけ慣れない視界を少しの間白飛びさせてしまう。白い部分を持つ建物は例えようのない眩しさで太陽を見ているかのよう。四季があまりないこの国では気温の差が1年を通してあまり無く常過ごしやすい日が続くのだが時折の酷く晴れる日や雨の日は極端な天気になる。今日はその時折の酷く晴れている日。普段通りなら暑くて暑くて仕方ないものだが天が祝福したかのように珍しく過ごしやすい。


『馬車だー!』


そんな天気に宿を出て直ぐに目を細めたミナミは慣れてきた視界に写るモノに興奮していた。馬がひく車。時速10kmから15kmという低速だが足の労力を使わずに移動できるものだ。

乗り心地は…整備の度合いにもよるがそれを抜きにしてもあまりだが…


『…これは…』


『私あれ知ってる。貴族御用達のいいやつだよ。』


『こんなの乗るの…』


興奮するミナミとは真反対に遅れてやってきた月祈は目の前の景色に唖然とする。

何故なら今目の前にある移動手段は如何にも中に金持ちがいますと主張している黒塗りで馬車にこんなに要らないだろうというほど無駄に施された金の装飾の貴族が見栄のためによく使うお高い馬車だからだ。乗っているだけで注目されてしまう。


『…乗らなきゃだめ?』


『でしょ…』


『月祈!ルカ!何してるの!早く乗ろ!』


月祈とルカは揃って豪華な馬車に乗りたくなさそうな表情をしているが乗り気でしかないミナミに根負けしたかのようにふたり顔を見合わせて馬車に向かっていく。

如何にも過ぎる馬車に抵抗しかないが国からという前提を踏まえると納得しか出来ない現在の状況に仕方ないと感じるルカと月祈だが唯一気心があまりしれない湊の嫌そうな雰囲気にああ,そうだよね。なんという同じ状況にも関わらず他人事のように同情する。


『落ち着かん…』


馬車に乗り即座に窓にかかる厚手の布,カーテンを引く。それを咎めるものは誰もおらずそれどころか全員が早く閉めてくれと言わんばかりに目を合わせあっていた。

馬の蹄の音が一定で鳴り始め緩衝材のあまりない馬車の振動が伝わってきて直ぐ,湊が言葉を零す。


『たのしーけど…なんか…うん…』


最初は乗り気だったミナミもカーテンをひいてくれという表情を浮かべていた。乗り気であるのを馬車に乗り込むまで貫き通してはいたが行き交う人から向けられる視線に落ち着かなかず,けれども乗るしかないということで誤魔化していたからなのだろう。


『あはは…ところで湊。これからはどう動くの?』


苦笑しながらルカは湊へ質問を投げかける。


『此の儘一旦国境と1つ国を越えて行く。その2つ目の国に当たるルアーナに2日滞在して1つ大きめの依頼を受けよう。資金がどう考えても足りない。』


『けちだけちけち!おーさまけちだ!』


行先の話題に上がるルアーナ。王都付近にしては文明があまり進んでおらず,治安も良くはない場所。だが物価,給料共に高い国で仕事を受けるにはもってこい。道は少し逸れるがミナミの言うようにケチくさい最低限しか資金は出なかったようで稼ぐしかないのだろう。


『最近はどこも…資金不足みたいだから…資金豊富なのはルアーナくらいだよ…』


『そうね。ルアーナは金銭不足ってあんまり聞かないわね。うちの国もどこの国もか〜…』


『ルアーナは金の回りが早いからな。鹿。全員分の金を預かっておいてくれないか。ルアーナは金の回りが早い分枯渇するやつも少なくない。スられる可能性があるんだ。』


湊の答えに愚痴が混じった雑談が始まる。月祈やルカが話しているのを他所に馬車に興味津々で常に上の空な鹿に湊は話しかける。


『湊が持ってた方がいんじゃないのか?』


『俺が持ってると普通に金を配りかねん。』


『『なんだそれ』』


神妙な面持ちで鹿の言葉に答える湊だがその内容に鹿とルカの声が事前に合わせたのかと言うほど綺麗に揃う。

そんな中悪気,男性の声だからか意識して一人称を変える湊は月祈にまた不信感というものを芽生えさせているようだ。


『ほっとけないんだ…何はともあれ今日半日は確実に移動だ。寝るなり体力を温存しておけ。この馬車御者居ないけどな。』


『『『え。』』』


『こういう国の贔屓は中での会話を聞かれないように御者は雇わず馬に魔法で洗脳に近いもんをかけて本能に働きかけて動かしてるんだ。言葉も通じるようになってる親切設計だ。ついでに言えば何処にいるかってのは馬車で国に筒抜けって訳だ。』


答えはするがコロりと話題を変えた湊はとんでもないことを口にする。馬を操る御者がおらず走っている,と。そんなことをすれば普通の馬車は良くて動かず悪くて酷い暴走をする。

それをしない理由をどうでも良さそうに言いながら湊は備え付けてあった大きさが様々のクッションをかかえたり抱きしめたりして選びひとつ抱える。


『魔法とか才能ってのは人の能力より遥かに信用されてるってことだな。』


くわ。と小さくあくびを噛み殺しながらクッションを抱えて湊は寝息をたてる。ルカ達3人はそんな湊に驚愕する。あれだけ寝たのにも関わらずまた寝ている。と。


『ルアーナかぁ…あんまり治安良くないんだよねぇ…あそこ。』


『そうね。ちゃんと守ってくれんのかしら,この護衛役は。』


『うん…』


半日の移動,旅の本格的な開始とは思えないずんと沈んだ空気。もしかしたらこの旅は自分達へ与えられた試練なのかと頭が勝手な被害妄想を拡大させてしまう。


『…そうだ。現地で飛龍(フェイロン)空燕(コンイェン)を探す。』


急に言葉を発し始めた湊は眠たげに一言述べてはまた寝息を立てる。外套で実際の顔というのはその場にいる誰もが見えないのだが一定で穏やかに刻まれる呼吸に寝ていることくらい容易に想像がつく。


『言いたいことだけ言って寝たな。』


『そう…だね…大人しいかと思ってたけど…結構嵐みたいな人…』


ぱちくりと目を瞬かせ湊の行動に全員が驚いている中,月祈と鹿が湊を揃って覗き込み顔を見合せまた湊を見る。

困惑したように二人から紡がれる言葉は湊が言い放った飛龍と空燕という唐突な聞いた事のない名前への興味を完全に掻き消してしまう。


『ん〜…ま!何考えてもわかんないし!ミナミちゃん寝る!』


『あたしも…酔いそうだし。』


『じゃあ,おやすみなさい。2人共。』




日が暮れる頃,ミナミとルカが起床する頃馬車はルアーナの街並みが見える所まで来ていた。


『もう直ぐルアーナだ。荷物。特に食いもん忘れてくんじゃないぞ。腐るからな。悪臭のする馬車なんぞ俺は乗りたくないからな。』


湊の声に目を擦りながらミナミが馬車の窓にかかっているカーテンを少しずらせば


『うっわー!!!見てみて!他の国だ!』


と興奮気味に言う。綺麗だとか大きいだとかではなくただ他の国に来たという事実に興奮しているよう。


『綺麗とかそう言う感想じゃないのはミナミらしいね…』


その様子を受けて呆れながら寝起きの体を伸ばして言う。


『荷物まとめようか、』


ルカとミナミの様子を微笑ましく見守る月祈だが思い立ったようにパタンと本を閉じ,荷物をまとめ始める。


馬車は一定に刻まれる蹄の音と共に着々とルアーナに近づいていく。

『月祈はヨウということをしないのか?』


ルカとミナミが眠る後鹿は月祈に問いかける。

『うん。平気』

そう言って本を取りだし読み始める主人に人間って不思議だなぁと思う鹿なのだった。

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