歯車 一つ目
文才が無いながらにこつこつ書き続け設定に寄り道し2ヶ月越しに3話目です…
やっと物語が少しづつ動き出します。
この世界の才能は個性のように固有のものがあるようですが,ミナミが使ったのはそうなのでしょうか。
歯車が回る。
かこん。かこん。と規則的に整った音を奏で。
1つづつ,1つづつ進んでいく。
『我が主よ。この剣に焔を。』
剣の柄からガスバーナーから出た炎の如く吹き出す。ひとつ違う点があるとすれば吹き出した炎が柔らかく剣の刃に巻き付くことだろうか。ただ大きくひと巻き。剣の刃全てを覆い尽くせる程の炎を出せるほどの才能のないルカはこれが限界。
だがそれでいい。炎のある刃とない刃どちらでも攻撃はできるだろう。
そんな都合のいい話そうそうある訳でもないが
『ええ!?殺す気!?』
炎を剣に纏い飛ぶように向かってくるルカの真正面に構えるミナミは声を荒らげ,存外明るく驚く。
まるでいつも見ていたことが自分に向けられていて癖まで熟知しているから絶望を感じる必要は無いと言ったところだろうか。
『そうでもしないとあんた,手加減してくるでしょう。』
『いやそうだけどね!?』
炎を受けるにあたり,1番に考えるのは水をかけるということだろう。魔法のあるこの世界だ。
水をひょいと出すくらい造作もないだろう。だが彼女は能力があるからこそそれが出来ない。ひょいと出すことは出来ど咄嗟の防御にはできない。
それは水支配が思考しなければ発動しないという制約があるからだ。
『畝れ,水流』
ミナミは息を止め,ルカが持つ剣へ狙いを定める。糸が紡がれ編み上がるように水が彼女の手から溢れ出る。水が渦巻き続けルカに向かって生き物のように畝って向かう。
カコン。
ひとつ歯車が動く。
『…ッ鹿!』
傍観しているだけであったはずの月祈が僅かな葉がかすれる音で危機を察する。何かが草木を全く気にしないように飛んでくる。いや。
この勢いは飛ばされてくるという方が正しいだろう。
飛ばされある程度減速し着地する地点は丁度タイミングがいいのか悪いのかルカとミナミの魔法がぶつかる部分である。
本来であれば気にしなくてもいいもの。稽古のついでに失敗作を狩れるのなら少しの足しになる。
願っても見ないことだ。だが違う。
鹿が反応した。知り合いが近くに飛んでくれば鹿は匂いで感知し本能的に其方に意識が行く。
そうすれば月祈だって嫌でもわかる。何かしらの知り合いが飛んでくる。
『…!ミナミ!』
『わかってる!霧雨!』
畝り出た水はミナミの言葉でただ天に上りなんの変哲もない霧雨へと変化する。ルカの魔力によって生成された炎も危機を感じ取ればすぐに消えるが剣は意思に反して進んでいってしまう。
ガン。と進む剣は出された鹿の腕にくい込み骨で止まる。
すぐさま飛び退きざまに剣を引くが傷が残ることには変わりない。
『鹿!』
ルカが声を荒らげる。
『問題ない。』
鹿がルカの声に答えれば,剣がくい込んでいた部分に芽が生えそのうちに枝になり傷口を覆う。そうして刹那も満たぬうちに1人鹿のいる場所に向けて吸い込まれるように真っ直ぐ飛んでくる。勢いが凄まじいのか鹿ごとその人物は木に叩きつけられるが強い血の匂いはせず少なくとも深手は負ってないことが分かろう。
骨が折れていたりする場合はもはや知らぬ。その時はその時だ。
『ミナミ。』
鹿が受け止めたとなれば鹿と月祈の事だ,きっと想像するより遥かに高い技術の治療を受けていることだろう。気にかけるまでも無い。
簡潔に思考を纏め即座に決断しルカは走り出す。
『まっかせなさい!何時かの世界を。何時かの主の思い出を。』
呼び声を聞けばハツラツとした声で応えるミナミ。静かに子供を優しく諭すかの如く祈り呟く。
”いつかの思い出”
短い詠唱にもならない言葉を並べればルカの体は光を僅かに帯び,少しばかり鹿の血が残る剣は其の光をルカから奪い取るように吸収する。
『御前は。』
ルカは今日すっ飛んできた人物から聞いた場所へ直ぐに到着する。
走る速さで最早滑空しているような馬鹿げた身体能力を持ってして”失敗作”を目掛け剣を握り込み
『今日の。』
剣は勢いよく炎をあげる。
先程の炎が小豆程の大きさで今の炎が人間程の大きさという有り得ないほどの威力を誇る。
ゴウ。と炎はルカの剣の振りに合わせ僅かに唸る。
元いた場所から然程離れない開けた場所を茂みの奥に捉える。目当ては開けた場所にいるその辺の狼と猪を混ぜてそのままでっかくしてみましたと言わんばかりの遊び心が感じられそうなデカブツ。
『昼飯代だッ!』
それ目掛け彼女は鋭い刃を叩き込む。やり過ぎなくらいの大きさを誇る炎は彼女の刃にほんの少しだけ遅れてデカブツの体を叩く。剣の威力が蚊に成り下がるほどの威力で。
炎は獲物に燃え広がることなく其の儘斬撃を実体化させたかの如く剣の真下へ鋭く落ちる。
当然のように真っ二つになった”失敗作”は虚しく地面にごろりと倒れる。
『…アインツィヒ…先輩…ッ』
怯えたままの瞳を此方に向け必死になって絞り出したであろう声でルカを呼ぶ彼は中等部の1年で先程飛んできたルカの弟,リカとコンビを組んでいた男。
一般的に少し細めのリカに比べてリカより少し背が高くある程度筋肉のついている。中等部1年にしては中々に良い身体付きか。
『…何。』
剣に着いた血を振り落としながらその彼の声に冷たく反応する。何故ならルカ・アインツィヒという人が他者からもたれるイメージは冷たい才能のないやつ。というもの。ならそれに忠実に従ってやろうと入学当初から決めていたから。
なんでそんなイメージが着いたかなんてルカが聞きたいものだが今の今まで才能が無いからと人と関わろうとしなかった結果なのでは,なんて何となく思っているのだ。
『リカ……吹き飛ばされた子は、無事ですか。』
『さぁ。私の知ったことではないわ。』
『なッ…』
不安げなまま彼から絞り出された言葉にルカはまた冷めきった返事をする。誰もが名前を聞いていればルカとリカの血縁関係なんて考えなくてもわかる。それなのに無事かどうかという問いに関してその辺の石が割れたか否かを聞かれたかのようにどうでもよさげに答えている。
『なんでだよ。家族なんだろうが。って?こんなのに遅れをとる愚弟なんて持った覚えがないわ。』
これが昼飯代をかっさらいに来たやつとは思えない発言を重ねる。
1文字しか発さなかった彼の先の言葉を読み取りルカは冷ややかに答える。その手元は昼飯代に心躍り,討伐を証明する部位を切り落としているというのに。
『そうだよ!なんで─』
『やめとけ。雲嵐。その言い合いは無駄だ。』
感情のままに言葉を発そうとした彼こと雲嵐の言葉はルカにとって聞き馴染みのある声で遮られる。
声の主はルカの弟であるリカ。先程凄い速度で吹っ飛ばされてきた張本人である。月祈と鹿の治療を受けかろうじて歩ける位まで回復したのかボロボロの体を引き摺ってルカ達のいた方から草木を分けて歩いてくる。
『だけどよ…』
『御前は其奴に感謝をしようとも罵る資格はねぇよ。一応は助けて貰った立場だろうが。』
リカに遮られても怒りは収まらないのか言い返そうとする雲嵐を言い抑えながらルカと目を合わせようとしないリカは其の儘ルカと雲嵐の間を歩いていき真っ二つになり転がっている”失敗作”に刺さったままの剣を引き抜き鞘に収める。
『…悪かった。』
『槍でも降らす気?勘弁願いたいわね。』
リカは矢張りルカと目を合わせないながらも一言礼を言う。
だがそれを素直にルカが受け取るはずもなく嫌味を舌打ちでもしそうな勢いで返す。
『まぁまぁ!無事だったって訳だし!後輩くん達は先生に報告とちゃんとした治療して貰ってね!此方は討伐したヤツ換金しに行くから!じゃあね!』
『ちょ…!?』
今度はルカとリカとで言い争いが起きるかという雰囲気で何処からとも無くミナミが現れその場を言葉の勢いのまま仲裁し,ルカを引っ張りギルドの方へ向かっていく。
ミナミの後ろにいたのか月祈は後輩である彼等に気をつけてね。と一礼をして鹿と共に追いかける。
──────
所変わってギルド内。
『肉だ〜!!!!』
元気なミナミの声がギルド内に木霊する。学校近くにあるここのギルドはギルド兼飲み屋のようなもので昼飯には持ってこいの場所である。全体的に木が基調となり,暖かな雰囲気を出している。
『よく食べるわね…』
『ほんとに…よく食べることで…』
ルカと月祈は呆れたような声を出す。
それもそのはず。ルカと月祈は先程討伐したやつの料金で腹がはち切れそうになるくらい食べたのにも関わらず同じペースで食べていたミナミは未だに肉を貪っているのだ。
こつこつと重ねられていく空の皿,注文にれは討伐料だけじゃ到底足りないかもしれない。なんて危機感を覚えてくる。
『ふふーはよー』
普通だよ〜なんて言いたいのだろうか,口の中に肉を入れて喋るものだから上手く喋れていない。
『あんたのその食いっぷりが普通だって言うなら全人類飯食わなさすぎてガリガリよ。』
『それはそれで研究のしがいが…』
『するなよ?』
呆れたように有り得ないことをルカが口走れば月祈はそれに好奇心を呼び起こし鹿はそんな月祈を静止する。
いつもの光景だ。
『んまぁでもリカくんがぶっ飛んできたのは予想外だったなぁ…』
『そうだね…彼…あまり弱い訳では無いだろうし,何よりルカちゃんの弟だからフィジカルゴリラだとばかり…』
『実際あれゴリラよ。あの失敗作が強かったとは思えないし…何かしら介入でもあったのかしら。』
一通りの皿を平らげたミナミが他愛のない先程の話を切り出す。
失敗作は現代の英雄,アインツィヒの2人が倒した敵の残党のようなものだ。言わば雑魚であるが故によくリカと剣を交えているルカは不思議で仕方がない。
自身より力がある弟が何故あんなにも易々と吹き飛ばされ,こんなにも易々と自身に真っ二つにされたというのか。
一番可能性があり,一番考えたくないことは何者かの介入。
『…あっては欲しくないよね。あんなのがまた…なんて。』
ルカの後半の言葉に顔を苦虫を噛み潰したようにしかめてはミナミが呟く。現代の英雄の冒険譚は良くも悪くも事細かに語られているのだが煌びやかな内容に対して被害が酷すぎる。
英雄確立から此処まで何十年と経っているが世界の半分は未だ混乱状態,けれど着々と復興が進んでいるのも事実であり,二の舞とあればこれがどう拗れるかなんて想像もしたく無くなる。
『うん…ほんと。』
『っはー!やめやめ!辛気臭いッたらありゃしない!』
肯定する月祈に加速するどんよりとした空気に堪えきれなくなったようにルカは話を切り上げる。
『確かに〜らしくなかったね〜』
狙ったかのようにタイミングよくきた追加の皿の中身を口に運びながらヘラヘラとミナミも底抜けの明るさを取り戻す。
月祈はそんな2人の様子を何処か見守るように,別次元にいるように干渉しないように微笑む。
──────
所変わって学園付近。
『何事!?!?!?』
一際声を荒らげるのはリリカンナ・ヴァルシュ。この学園の教師であり今回補助として派遣という名のサービス残業に呼ばれた不運なちびっこだ。
『しくじりました。』
淡々と答えるのはリカで,続々と無傷で帰還してくる同学年の者達にチラチラと見られる。
まさかクラスでも学年でも名の知れるほど優秀なリカが怪我を負って,しかも討伐し損ねたときたら物珍しさで見てしまうのだろう。
『骨も臓器も無事なようですね…打撲程度で済んでるが不思議なのですが。何かありましたか?』
流石生命体の錬金専門の教師と言ったところか。淡々と答える目の前の手負いの生徒の状態を確認しながら問いかける。
『高等部のアインツィヒ先輩,アイラット先輩,四季先輩の3名に助けられました。』
『あいつの事だからどうせギルドで飯食ってます。』
投げられた質問にあからさまに嫌そうに顔を顰めて答えるのを躊躇していると後ろから沈んだ様子の雲嵐が答える。
その答えに要らないとは思うが追加の予想と舌打ちを乗せる。
『成程。彼女達なら納得ですね…何故傷を負ったか確認しても宜しいですか?』
『正直分からないとしか言えないです。急激に力が上昇したり降下したり。かと思えば友好的な様子をしょっちゅう見せたり。不安定がすぎる創造物でした。ルカが介入してきて動揺したのか一撃で沈められてましたが。』
事のあらましを簡潔に説明するが説明している最中でさえリカの中の素早く回る思考が緩やかになる兆しは見えない。
何故あそこまで不安定だったのか。何故あそこまで短時間で力の上下があったのか。
力どころか情緒も不安定でチラチラと鬱陶しいくらいに顔を出す友好的な様子に攻撃を躊躇った事が敗因であろうが今まで友好的な創造物,洗脳者等一度も見たことも聞いたこともない。では何故。
疑問は増すばかりで腑に落ちる答えは出てこない。
『力が不安定…?しかも友好的な創造物…ですか。ルカさんが沈めたということは野生動物だった可能性も無い…
うぅうん?聞いた事ないですね…?例外にしても…』
リカからの答えを受け取れば眉間に意図せず皺がよる。友好的な創造物どころか力が不安定なものは聞いたことが無い。其れは生きた年月が圧倒的に違うリカとリリカンナでさえ共通認識だったようだ。
生物には確かに例外というものが存在するが例外にするにしたって別生物なのではないかという可能性しか浮いてこない。
『…私のような…いや…うん……取り敢えず。2人はこの後はいいので学園に先に戻って養護室へ。今日は出勤してる…と思います居なかった戻ってきて下さい。連れ戻すので。』
答えは矢張り出ないのか唸りながら考え込んだ後諦めたようで怪我を負った2人に指示を出す。
『…可能性は…ありますかね……はぁ,こういうのは貴方の仕事でしょうに…』
御閲覧有難う御座います。
じわじわとキャラは増えていきますがキャラ紹介は色々渋滞することになりそうなので打ち切りしておきます…
2ヶ月設定と本文を行き来してて最早書いてる自分がこんがらがってます…。
1つ目の歯車がぎこちなく1つ音を立ててやっと動き出しました。
この先の才能,行き着く運命はどうなるのか。ゆったりとお楽しみください。