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聖女はヤンデレ王子殿下と悪役令嬢の邪魔しませんっ!!

作者: 崎谷紫

仕事から帰宅をした私は、夕ご飯を食べお風呂に入った後、待ってましたとばかりに、

ゲーム機の電源を押した。

今人気の乙女ゲーム「幻の魔法と恋のラビリンス」をプレイするためだ。

巨大な悪の力を持つ魔王が現れた世界に、聖女である主人公が召喚され、

一章では学園に通い色々なキャラクターと交流をしつつ、

二章では共に旅たち、仲間と共に魔王に立ち向かうのだ。

聖女として力を使いつつ、仲間と絆を、愛を育んでいく。



恋愛ゲーム要素もありつつ、物語としても作り込まれていて、RPGとしても面白くて、

私は夢中になっていた。



オープニングもイケメン紹介がカッコよくて毎回飛ばさずに見ているので、

コントローラーは置いたまま、お供のポテチを食べていたが、

突然テレビ画面が光り、意識が無くなった。







「聖女が!!聖女がいらっしゃったぞ!!」



そして目を開けると、足元には不思議な光る模様が描かれていて、

沢山の人達がいるど真ん中に立っていたのだ。

パジャマ姿で。

いやいやいやいや。

何これ!?



「異世界から聖女が来てくださった!」

「これでこの世界も...。」



叫んだり、涙をこぼしたりしている人を見つつ、「あれ?」と私は思う。

このシチュエーション。

この言葉。

乙女ゲーム「幻の魔法と恋のラビリンス」の始まりそのままなのだ!

えええっ!?どういう事!?と下を向き頭が真っ白になっていると、

すっと目の前に薄紫色のスカートの裾のような物が現れた。



「申し訳ございません、聖女様。急に御呼びをしてしまって。」



その声に頭を上げると、真っ白な長い髪が見事な、薄紫色のドレスを着た美少女が立っていた。

き、綺麗!!

美人!!

その姿に見惚れる。

イケメンも好きだが、綺麗な女の子も目に良いのだ。

美少女が喋ると、その場がしんっと静かになる。



「ここはシャルズ国です。貴女は、この世界を救って頂きたく御呼びいたしました。」



そう言うと、その女性は両膝をついて頭を下げる。

「あっかーん!こんな美少女に跪かせるだなんて!!」と、あたふたする。



「この世界に魔王が生まれました。それに対抗するには聖女様のお力が必要なのです。」



深々と頭を下げる。



「すっ、すいませんっ!立ってくださいっ!ドレスが汚れてしまいますっ!!」



私は泣きそうになりながら目の前で跪いている美少女を立たせるべくお願いをした。

失礼だと思いつつ、手をさし出す。

するときょとんとした顔をした後、ふわりと微笑むと美少女は私の手を取り立ってくれた。

か、可愛い。

美少女だと、きょとん顔も可愛いと感慨にふける。



でも、何かおかしいと思う。

確かゲームではこのセリフは、シャルズ国の王太子殿下であるキャラクターが話していたはずだ。

初っ端からイケメン登場で、「うおーっ!攻略キャラー!!」と思ったら、

そのキャラクターは攻略キャラ外でたくさんのファンの涙を誘った。

ネットでは、「何か裏シナリオがあるのでは」と白熱した討論もあったほどだ。



確か、確か...。



「聖女様のお優しいお心に感謝を。わたくしはスノー・フィンデガルドと申します。」



美少女はまたも頭を下げた。

いやいや、だから私なんかに下げちゃ駄目だって!

そして、その名前にはっとする。



スノー・フィンデガルド。



聖女の勉強を厳しく指導をする王太子殿下の婚約者だ。

その厳しさと、イケメンなのに攻略できない王太子殿下ファンの恨みを買って、

「悪役令嬢」、「こいつのせいで王太子殿下が攻略できないのよ!」と、

過激なファンには毛嫌いされている。



ファン達は公式に「何で王太子殿下は攻略できないんですか!?」と何千通も問い合わせたところ、

普通に「婚約者がいるから」という返答が返ってきて、「ええーっ!?」と思ったものだ。

だって、他のゲームだったら婚約者がいたってイケメンは攻略キャラになる。

むしろ婚約者を蹴落として、ハッピーエンドで結ばれるのがほとんどだ。



だから二次創作では、スノー・フィンデガルドは悪役令嬢として描かれ、

主人公が王太子殿下と結ばれる漫画や小説が多い。



「聖女様、そのような薄着で。...ユイシア。」



そうスノーさんは少し後ろを見ると、控えていた青年が前に出てきた。

髪の毛は茶色で、深い紫の瞳が印象的なイケメンだ。

って、ユイシアって!!

そうだ!!



ユイシア・アメジスター・シャルズ



シャルズ国の王太子殿下じゃん!!

ゲームでは、このキャラが始まりの言葉を言うのだ。



「何か羽織るものを。急いで。」



そう言われたユイシア王太子殿下は、さっと室内から出ていく。

って、出ていっちゃうんかーい!!

もっとお顔を見ていたかった!!

何を隠そう、私も一目惚れをして「ユイシア・アメジスター・シャルズ」狙いだったのだ。

攻略できないけど。



「すぐに持ってまいりますから。お待ちになって。」



にこりと微笑むスノーさんは、悪役令嬢のかけらもない。

でも、王太子殿下をパシリに使うんだから...うーむ。



悩んでいるうちにユイシア王太子殿下が上着を持ってきてくれて、助かった。

寒くは無かったけど、パジャマ姿なのは恥ずかしかったから。







王宮の一室が私の部屋になった。

「必要なものがあれば、すぐに言ってください。」と微笑むスノーさんの後ろに、

佇むユイシア王太子殿下。

ふたりが出ていった後、混乱をしたままベッドに寝っ転がると考えをまとめていった。



ここは「幻の魔法と恋のラビリンス」の世界。

私は召喚された聖女。

これから聖女としての能力と教養を身に着けるため、学園に通わされて、

レベルアップをした暁には魔王退治が待っているのだろう。



ゲームの恋愛としての攻略キャラは5人だ。

友情エンドもあるにはあるが。





一人目は、カイン様

騎士で真面目で、不器用ながらも主人公に寄り添ってくれるのだ。

もちろんイケメン。



二人目は、ロック様

ちょっとチャラいが魔法に長けていて、妹の様に思っていたはずの主人公を、

段々愛していく、実は一途なキャラなのだ。

もちろんイケメン。



三人目は、バース様

無口だけど、主人公が困っていると静かに寄り添ってくれる優しいキャラなのだ。

これまたイケメン。



四人目は、リー様

子供の姿だが実は400年も生きている大魔法使いで、エンディングでは、

青年の姿になって告白をしてくれて、

そのギャップにハートを撃ち抜かれたファンも多い。



五人目は、ケイト様

なんと、攻略キャラ唯一の女性で百合ルートだ。

エルフ族の姫君で、治癒魔法に長けていてめっちゃ美人。

きりっとした金髪の美人さんで、ファンも多い。

でも、百合ルートあるならなんでユイシア王太子殿下ルート作らないんだと荒れた。





キャラクターと恋愛をするもよし。

みんなの好感度をあげて、友情ハッピーエンドを目指すも良しな物語なのだ。





「うーん。」と考えた後、私は一つの事にひらめいた。

もしかして、ユイシア王太子殿下攻略できるんじゃない?って。

スノーさんという婚約者はいるが、あくまでも婚約者だ。

そして私は「聖女」。

この物語のヒロイン。




そう思うと、思わずぐふふと変な笑い声が出た。

失礼。





ユイシア王太子殿下といえば、小さい頃遭難に合い、町でスノーさんに拾われて、

何年も従者をしてきた苦労人なのだ。

偶々町に来た王宮の人達に救われて、王太子殿下として戻ってこれた。

でも、恩があるから、スノーさんを「婚約者」にしているのだ。




そう考えると、私が勝てるチャンスは大いにあると思った。

明日から頑張るぞー!!と気合を入れると、

家の布団とは比べようもないふっかふかの布団で眠った。







次の日は、またスノーさんからのこれからの説明だった。

正直、知ってる。

ゲーム何回もやってるからね!

でも、神妙な顔で聞いた。



「突然の事で驚かれたでしょう。」と労わるように優しく右頬を撫でられた。

恋敵とはいえ、やっぱり美少女は目に良い。





ただ、ここでも本来なら説明をするのはユイシア王太子殿下のはずだ。

何でスノーさんが説明をするんだろ?

しかも、ユイシア王太子殿下はスノーさんの左後ろでぴたりと待機している。

よくある漫画や小説で読んだことがあるが、そこは従者の位置だ。




まさか、未だにユイシア王太子殿下を従者として扱ってるんじゃ!?と思うと、

スノーさんに怒りが出てきた。



一通り説明をしてもらったが、スノーさんが「ご質問はありますか?」というので、

衝動的に言ってやった。



「王太子殿下を従者みたいな位置に立たせるなんて、そんなの酷いです!!

もう自由にしてあげてください!!」



そう言うと、スノーさんはぽかんとする。

美少女は、そんな顔しても可愛いな!

でも、私は負けぬ!

「ユイシア王太子殿下ルートのために!!」と気合を入れていると。



「そうなのよ!すごく困っているの、もっとユイシアに言ってやってちょうだい!」



そう言って、両手を握られた。

手も綺麗だな。



「ユイシアったら、何度言っても傍から離れないのよ。」

「いつの間にか後ろにいるし。」

「婚約者とはいえ、もう歳なのに毎朝起きるとベットの横で待機しているし。鍵をかけたのに。」

「じっと顔を見ていて怖いのよ。」

「わたくしと喧嘩をしたご令嬢の髪の毛を掴んで地面に叩きつけようとするし。」

「息抜きに城下に行くと、何故か行く先々にユイシアがいるし。」

「わたくしの声が聞きたいから、スノーが説明をしてくれって言ったり。」

「それに...。」



そうマシンガントークを繰りだされる。

離れないまでは、のろけかと思ったがその後が怖い。

普通に怖い。

ユイシア王太子殿下ってヤンデレ属性のストーカーだったのか!



「聖女様からも、言ってあげて。」



そうスノーさんが言うが、後ろにいるユイシア王太子殿下の顔がめっちゃ怖いです!!

鬼を通り越して、貴方が魔王なのではってくらいです!!



「え...っとぉ。」

「お願い。」



そう微笑むスノーさんに戸惑っていると、「時間です」と誰かが呼びに来てくれた。

名残惜しげに離れるスノーさんの綺麗な手を見つつ、

扉に向かうスノーさんについて行こうとすると、

目の前にユイシア王太子殿下が立ちふさがった。




もしかして、「ユイシア王太子殿下ルート」覚醒!?




ヤンデレストーカーとはいえ、やっぱりイケメンだ。

ぽうっとそのお顔を眺めていると。



「...あまりスノーに近づかないで。そうでないとその両手を斬るから。あと、触れた右頬も削ぎ落してやる。」



ユイシア王太子殿下は、ぼそりと暗い瞳で私をねめつけつつ言うと、

スノーさんを追うように外へ出ていった。




こっわっ!!!

何それ、女子同士でも駄目なの!?

ジェラシーなの!?

心狭いっ!!







憧れの「ユイシア王太子殿下」像をぶち壊された私は、真面目に聖女業に取り組み、

友情エンドまっしぐらに向かい、

無事に帰った。




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[一言] こ、怖ぇぇぇぇーーー(;^ω^)
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