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【6】乙女の秘密にしたいです

「あなた様がオオイノシシを倒してくださったのですね!?」


 その問いにプルメリアは応えたくはなかった。

 なぜなら、恥ずかしい。どう考えても恥ずかしい。


(お淑やかで可憐なお姫様は絶対に素手でイノシシは倒さない――!!)


 しかしどうこたえるべきか考えている間にも、村人たちはプルメリアの無言を肯定ととらえたらしく、ざわつき、一様に表情を明るくした。

 そしてそれと同時に、ひざをつき、さらには額を地面にこすりつけた。


「えっ!? どうしたの!?」

「ありがとうございます……! 本当にありがとうございます……!! このイノシシは山だけではなく、我々の田畑も荒らしておりました……!」

「倒そうとしてもあまりに力が強すぎ、途方に暮れていたところです!!」

「以前害獣はすべて自分たちで駆除すると、城からの調査協力の依頼も断ってしまった手前、応援を呼ぶこともできず……本当にありがとうございます!!」

「この御恩、どうお返しすれば……!!」


 先の様子から、感謝されるのだろうことはなんとなく予想していた。

 しかしこれほどまでの大げさな礼を見せられるなど、プルメリアの想定外の出来事だ。


(……そんな、に?)


 村の状況はよくわからないが、村人たちの行動は演技ではない。

 驚きのあまり恥ずかしいと思っていたことすらプルメリアは一瞬忘れそうになってしまったが、そこでハッと気を取り直した。だめだ、恥ずかしいという気持ちを忘れてはならない。そして、プルメリアはゆっくりと村人たちに視線を滑らせ、ゆっくりと言葉を吐いた。

 せっかく、礼をと言ってくれているのだから、プルメリアにはどうしても願いたいことがある。


「あのお礼ということでしたら……一つだけ、お願いを聞いていただけますか?」

「できることでしたらなんなりと……!」

「では……私がこのイノシシを倒したことは、内緒にしていただけますか?」


 口の前で右人差し指を指し、プルメリアは内心冷や汗をかきつつ微笑んだ。


 ここで受け入れてもらえれば、『素手でイノシシを倒した女性がいる』なんて噂は広まらないはずだ。少なくともここにいる者たちはプルメリアに心から感謝している様子だ。それなら、約束すればきっと守ってくれることだろう。それに、受け入れがたいことではないはずだ。

 しかしそんなプルメリアの予想に反し、村人たちは戸惑っていた。


「そ……そのようなことで……?」

「ダメ……ですか?」

「いいえ! とんでもない!! むしろ、そのようなことで本当にいいのですか!?」

「それがいいんです!」


 『そんなこと』なんて些細な扱いにはできないことを、プルメリアは誰よりも思っている。村人たちははじめひどく困惑した顔を見合わせていたが、やがて互いに頷いていた。


「あなた様が、そう仰るなら――」

「ありがとうございます!」


 返事をすると同時、プルメリアは心の中で小躍りした。

 これでプルメリアの今の不安は解消された。少しの失敗はしてしまったが、人助けにもなったし、リカバリーができれば何も問題はなかったはずだ。失敗はカバーしていけばいいことなのだから、今回は合格だ。


「しかし、本当にそれだけでよろしいのですか?」

「えーっと……じゃあ、そのイノシシ、その、もらってもらえませんか?」

「え!?」


 プルメリアの申し出に、村人たちは声を揃えて驚いていた。

 このイノシシが気絶しているのか絶命しているのか、プルメリアにはいまいちわかり辛い。しかいいずれにしてもプルメリアはイノシシを持っていても困ることがある。


「私、解体できないので。せっかくですし、皆さんで食べちゃってください」


 農作物に被害がでたというのなら、代わりに食べてもらえればいいだろう。肉も売れれば、多少は損害の補てんになるかもしれない。しかし村人たちは目を見開いて、慌てて首を横に振ってみせた。


「なりません! これはあなた様の獲物です、解体は致しますので、あなた様もしっかりとお持ち帰りになっていただかなくては……!」

「でも、私、今、調理設備なんてないですし」


 持ち帰って調理してもらうのも手ではあるのだが、居候が城の使用人にそれを要求するのははばかられる。かといって調理室を使うのも、邪魔にしかならないだろう。そしてまさか城の整えられた庭でバーベキューなんてこともできるとは思わない。


 ちなみにプルメリアは現在城のまかない料理をふるまってもらっている。

 初日こそコース料理を堪能したが、あんなものを毎食食べていては旅に戻った時に差しさわりがとんでもないことになる。豪華な食事はたまにでいい。むしろたまにだからこそ、ありがたさも跳ね上がるのだ。だから懇願する形でまかない料理をお願いしているのだが、それでも非常に美味しいので贅沢舌にならないか心配もしているところである。


 しかし状況から考えて、イノシシ肉をもらっても困ることには違いない。だが、プルメリアの言葉を聞いた村人たちは表情をさらに険しくした。納得できないというよりは、困っているという様子である。


(村人さんたちを困らせるのは本意じゃないんだけどなぁ……)


 しかしどうしたものだろうか。

 いい案など――。


「あ」

「どうかなさいましたか!?」

「もしもよろしければ、送料はお支払いしますので、保存がきくのであればとある養護院にお肉を送っていただきたいのですが――私の、故郷なんです」


 養護院では肉類は貴重だ。ウサギや鳥などがとれるときもあるが、なかなか量が足りていない。現金を送ったところでほかの必要なものを買いそろえるだろうが、肉自体を送り込めば転売したりはしないだろう。干し肉などにしてもらえれば、しばらく保存がきくかもしれない。

 たまには獣の肉をたべさせてやろう。これが私の幼少時代なら確実に喜ぶはずの名案だと考えたプルメリアを、村人たちは目を見開いて見ていた。そして動きを止めてしまっていたが、やがて一人が大きく声を張り上げた。


「も、もちろん手配させていただきます!」

「よかった、えっと、お代は……」


 しかし、ここでプルメリアは気が付いた。ここから肉を発送するにはある程度お金

がかかることになるだろう。だが、今の手持ちは帰りの馬車代くらいのものである。


「……すみません、もう一つお願いが……」

「何なりと!」

「日払いのアルバイト、募集されてたりしませんか……? その、私は旅の薬師なのですが、今、お金はあまりもってきていなくて」

「それなら私どもがお支払いしますのでお気になさらず……!」

「だめです! そんな余分な出費をさせるわけにはいきません! 対価はきっちり働いて出させていただきますから!」

「そ、そこまでおっしゃるのでしたら……」


 しかし急すぎる願いだったためか、村人は顔を合わせていろいろと相談していた。


(やっぱり、無理だった……?)


 それなら支払いは明日以降にしてもらえるように頼もうかとプルメリアが考え始めたとき、村人たちの話もまとまったようだった。


「もしよろしければ、薬草摘みのお手伝いをお願いできませんでしょうか。オオイノシシの燻製を作る際に、香りづけで一緒に燻します。主に使うのは木のチップですが、オオイノシシの大きさが大きさなので、量も必要になるんです。薬草自体は大量にあるので、運ぶ手助けをしてほしいのです」

「ありがとうございます、それなら任せてください!」

「目的の草はチルプ草ですが、たくさん生えているので探す手間はございませんので」

「はい、よろしくお願いします」


 そしてプルメリアは説明をしてくれた村人とともに、いったん村まで戻ることになった。残った村人たちは、その場でオオイノシシを解体するらしい。


「一応、我々で倒そうともしていたんです」


 だから、切るための道具はいくらでもありますから。


 しかしそう言いながらも少しばつが悪そうな様子であるのは、きっと『しかし倒せなかった』という思いがあるからだろう。しかし、城らの調査協力の要請を断っていたことも後悔していた彼らだ。今後は、きっといろいろと前向きに検討してくれることだろうと、プルメリアはほっとした。そうなれば彼らは安全だし、きっと城の側にいるシオンやルドベキアにとってもよいことだろうから。




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