【30】養護院長の想い
養護院の院長は干した洗濯物を満足げに眺めた後、エプロンのポケットから一通の手紙を取り出した。それはプルメリアから届いた手紙であった。
『嘘だと思うかもしれないけど、なんと陛下から釣り竿をお借りしてガンセキウオを釣りました。上手に丸焼きにでき、皆で分け合って食べ、もう一匹釣ってくるように約束することにもなりました』
この手紙が二年前、ここを立ったばかりのプルメリアから送られてきたのなら、院長も冗談だと笑い飛ばしたことだろう。だが、立派な養護院を建て替え、数々の遊具を与えられ、そして養護院に立派な教師を派遣してもらうきっかけになったプルメリアの言葉であれば嘘だと信じる要素はなかった。
「もう、本当に送金はいらないっていってるのに……心配性なのだから」
院長も養護院の現状をプルメリアに報告しているのだが、プルメリアからの送金は相変わらず定期的に送られてきている。プルメリアの手紙を見る限り収入にそれほど余裕があるわけではないだろうし、事実手ごろな部屋を借りている様子からももっと自分に使ってくれたらと思うのだが――。
「心配性のお姉さんは、言うことを聞いてくれないわね」
仕方がない、と、院長は添えられた金銭を貯金に回すことにした。
王家から送られた遊具の数々は大人も一度見てみたいと思うものだと認知され、養護院のあるほんの小さな村にも少し離れた街から定期的に人が訪れるようになった。そしてそれは街を訪れた観光客にも広がり、食事処が必要となった際に養護院が山菜ご飯と山菜汁、そして川魚の塩焼きをふるまったのだが――それが予想外以上に上々の評判を得、食事を楽しみにくる客すら現れるようになったために、いまの養護院は安定した収入も得ているのだ。
「しかたがないから、これはプルメリアの貯蓄にしましょうか」
いつかプルメリアが結婚することもあるかもしれない。
その時にお金に困らないように、養母として蓄えておくことにしよう。もっとも、それを稼いだのもプルメリアなのだから偉そうにはできないのだが、それでもせめてプルメリアが困らないようにと考えた末の結論だった。
それに結婚の予定がなくとも、急遽必要になることもあるかもしれない。
「よし、今からお返事も書こうかしら。無駄かもしれないけど、一回顔を見せにきなさいってもう一度かいてみましょうか」
そして院長は空を見上げた。
青く続く空の下、今日もプルメリアは笑っていますようにと小さく願った。




