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【28】私の拳は『ちょっと』強い

 ガンセキウオのゆうに三倍はあるだろう肉体のない魚が、しかも宙を泳いでいる――。

 それが到底普通のことではないことなど、プルメリアにもわかっていた。だとすれば、当然目の前の生物は魔物である。


(肋骨の内部にある光る核――きっとあれが、この魔物の弱点ね)


 見たこのない魔物であるが、わかりやすい弱点を見せつけてくれていることはありがたい。それに驚きはしたが、目の前の魔物は骨である。邪竜に比べれば攻撃力が高そうにも見えない――そう思った次の瞬間、魔物は口を大きく開けた。

 口内から核すら覗くほどの大口からは次の瞬間、驚くほど強く巨大な光の咆哮が飛び出した。


「――は?」


 一体何が起こったというのか。

 光の閃光が自分の隣を通り抜け、その直後に後ろで木が倒れるような音がした。それはきっと湖の反対側にある木が倒された音だろうとプルメリアにも予想できた。


(誰よ邪竜より攻撃力ないって言ったの!! 私か!! こことどれくらい距離があると思ってるのよ!?)


 モーションが大きく避けられる攻撃だとはいえ、破壊力があるのは確実だ。このような魔物が一般人を襲撃すればどうなるかわからないし、時と場合によっては土砂崩れなど大事故に発展する可能性だって考えられる。


『肉……肉体……』

「え?」


 それは声とは異なるものだった。

 頭に直接響くそれはまるで言葉ではないのだが、魔物が訴えているものだということだけはわかった。


「ねえ、ユウナ……これ、聞こえてる?」

「うん。あのね、これ、骨の魔物。スケルトン種のボーンフィッシュの声だね。プルメリア、もしかして見るの初めてなの?」

「あ、うん」


 そのプルメリアの返事を聞いたユウナはもとのネコマタの姿に戻り、目を輝かせた。


「じゃあ、ユウナが教えてあげる! スケルトン種って二種類いて、もともと骨で生まれる魔物と、もとは肉体あった魔物がいるんだよ! 肉体があった場合は他者の肉体を求めて彷徨い歩くこともあるって聞いたことあるよ! だから、この声は肉体を欲しがってるんだと思う!」

「って、考えたくなかったけど肉体欲しがられてるの!?」


 自信満々に言われようが、そこに何ひとつ喜ばしい情報は存在しなかった。

 だが、ユウナはそんなことなどお構いなしといった雰囲気である。


「もしかしたらお魚の肉の匂いに釣られてここに来たのかなぁ。たぶん本当はお魚がいいんだろうけど、水の中入れないし、都合がいいと思って来たのかも? でもお魚さん見つける前に私たちでもいいかって思っちゃったのかもしれないね」

「……わかった、とりあえず倒さないといけないんだね!」


 いや、最初からわかっていることしかわかってはいないのだが、結局そうしなければいけないことだけはよくわかった。


『肉、肉ゥウウウウ!!』

「あーもう、黙らっしゃい!! あんたに食わせる肉なんて一片だってないっての!!」


 そういいながらプルメリアはユウナの首根っこを掴んで自分の肩にのせた。ユウナはすぐに子猫型に変化し、プルメリアの頭にしがみついた。


 プルメリアとしては正面から飛びかかりたいところだが、思いのほか大きく開く口が攻撃の邪魔になって仕方がない。側面に回りこみたいが、思いのほか素早い回転を繰りだすボーンフィッシュはなかなか戦いにくい。なんせ、肉がないのだ。


(骨が意外と細いのがめんどくさい……! 肉体があれば、一気に殴れるのに……!!)


 かといってプルメリアがあまり動きを早めればユウナを振り落としかねないし、なによりプルメリアもあまり今の場所から動きたくなかった。なぜなら――真後ろにせっかく釣って持ち帰る準備を終えた魚がいるのだ。


「……よし。ユウナ、思いっきりしがみついておいて。一発で終わらせるから」

「できるの? あれ、固いし痛みを感じない魔物だよ?」

「やる」


 そう言ったプルメリアは集中力を高めた。

 本気でかからないと、暴れているだけでも魚がどんどん汚れてしまう。


「正面が無理、側面が無理、それならもう上しかないでしょう!!」


 プルメリアはボーンフィッシュの正面まで走り込み、大口を開けた瞬間に地面をけり上げた。狙いを定め、手を突き出しそして肋骨よりも太い背骨に狙いを定めた。


「砕けろ、骨魚!!」


 思った以上に固い骨にプルメリアは顔をしかめた。ヒビが入った骨はもう一息といった調子だが、再び勢いを付けて殴りかかるのは一発という約束からは外れてしまう。ならば連続技なら問題ないと、腕を軸に小さく回転し、振り降ろした足で同じ地点を踏み抜いた。


 骨が砕け、直下の核も粉砕し、轟音と爆風が辺りに響いた。


 プルメリアはすぐにその場から後ろに飛び退いた。そしてガンセキウオの前に立ち、ユウナとガンセキウオを身体を張って守るようにボーンフィッシュに背を向けた。直後、第二段の爆風が響き、そのあと周囲はしんと鎮まり返った。


「……おわった。超埃っぽいけど、終わった」

「うん、凄く埃っぽい……」


 とりあえずイレギュラーな来客は終わったと、プルメリアはボーンフィッシュが爆ぜた場所に一旦戻った。核だったものは割れて小さな魔石の欠片になってしまっていた。


「……あれだけ固くてこれだけの収穫……なんか、激しく損した気分だ……。これ、全部継ぎ足してもあんまり大きくないよね……」


 これで魚に悪影響を受けていたらもっと最悪だとプルメリアは肩を落としたが、そこではっと気が付いた。魚ばかりに気を取られていたが、とても大事なものが他にもある――。


「釣り竿!!」


 借りものをすっかり忘れていたことに焦り、そして池の側を見た。


「うわっ、落ちちゃう!!」


 暴れたからか、半分落ちかけた釣竿をプルメリアは慌てて回収した。目立った傷もついていないし、問題もない。


「よし、うん。次に変なものが出る前に早く帰ろう」


 魚を抱え、その重さを感じてユウナの変化能力に感謝しながら帰りの準備を行っていたが、そこで人が近づいてくる気配が感じられた。そしてその速度はどんどんと早く近づいてくるのがわかった。


 ここは釣り場であるのだから、他に人が来てもおかしくはないかもしれない。

 だが、釣り人にしてはやけに近づいてくるのが早すぎるかもしれないと感じてしまう。


「……って、シオンさん!?」

「プルメリア!? どうしてここに――!?」


 どうしてもなにも、それはこちらだと言いたかったプルメリアは、次の瞬間にはシオンに抱き留められていた。




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