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【26】大変なところから借りてしまった

 巨大魚というのは、魚の個別の名称ではない。


 詳しい定義はないが、とにかく一目見て『でかい』と思わされる魚のことを纏めて言うときに使っている俗語である。だいたい大人が両手を広げてたほどの大きさで、なおかつ胴回りが太いものを指すことが多い。


 イベントの会場では丸焼きの解体がメインイベントにされることもあるし、プルメリアもその恩恵にあずかったこともある。


(でも、シオンさんが丸かじりしたいって思うくらい好きっていうのは意外かも)


 確かに美味しいとは思うが、シオンのイメージにしては少しワイルドな気がしてしまった。かじりつくにはあまりに大きい。

 ただ、ルドベキアの表情はまずからかっているとは思えないものだった。むしろルドベキアも『俺もやってみたいなぁ』と言っているので、本当なのだろう。


 巨大魚となると想像していた恩返しとはかなり異なるものになるのだが、それでも喜んでもらえるならその希望が叶うように努めたい。


「この辺の巨大魚っていえばガンセキウオがいるデュカ山が一番近いかな。夜に釣れる魚で岩石みたいな見かけしてるけど、白身で美味しい。俺は丸焼きよりムニエルのほうが好きだけど」

「……詳しいのね?」

「父上が釣りが好きなんだ。俺は行ったことないけど、釣れてるの見せてもらってる」


 国王陛下の趣味が釣りというのは、シオンが丸かじりをしたいと思って言るときいたことと同じくらい不思議な気がしてしまった。もっと高尚な趣味ばかりかと思っていたら、国のトップであっても意外と身近な趣味を持っているらしい。


「なあ、釣りに行くのか? 俺も行きたい」

「うーん……夜ってなると、さすがにルドベキアくんを連れて行くのは無理かな」


 王がルドベキアを連れていったことがないというのは、時間帯が関係しているだろうことも考えられる。まだ昼間であればカトレアに相談してみることも考えるが、夜に子供を連れだすというのはプルメリアには抵抗がある。

 しかし不満そうなルドべギアには、相応の理由を説明しなければならないだろう。それも、ルドベキアが納得する理由を、だ。


「……ルドベキアくん、人間、成長には睡眠が必要なんだよ」

「なんだよ、急に」

「ユウナのほうが大きくなっちゃうかもしれないよ」


 いや、たとえばケルベロスに変化をした場合においてはユウナのほうが圧倒的に巨大なのだが、ネコマタ型のときはまだルドベキアといい勝負だ。そして対抗意識を燃やす二人にとって、これはきっと効果があるはずだ。

 そして実際、プルメリアの狙い以上にルドベキアはあからさまな反応を見せた。


「ま、まぁ夜釣りは大人になってからでもできるもんな。俺は寝なくてもあのちびっこより大きくなるけど」


 そのいい方が余りに可愛らしく、プルメリアは思わず吹きだしそうになったのを必死でこらえた。ここで笑ってしまえばルドベキアの機嫌は悪くなるだろうし、そうなればすべてが水の泡である。だから無駄なことをするわけにはいかない。


「けど……私、釣れるかな。川魚しか釣ったことがないのよね」


 巨大魚が生息するような場所は故郷の近辺にはなかったし、旅で見たのもすべて調理されたものばかりだ。だいたい、それだけ大きな魚を釣ろうとしているというのに今までと同じ川魚用の釣り竿を準備したところでなんとかなるものなのかという疑問もある。


「全部魚なんだし、大丈夫じゃないのか?」

「……まあ、たしかにお魚だよね」


 しかしそうは言っても、あまりに定義が広すぎる。


「とりあえず、釣り竿は父上から借りてくるよ。だから、釣れたら俺も食べてもいいよな?」

「え? ありがと……じゃなくて!! ちょ、ちょっと待ってルドベキアくん! 食べてもいいけど、借りるのはちょっと……!!」


 これがただの『友人のお父さん』ならいさ知らず、相手は国王陛下である。

 どう考えても一般庶民のプルメリアがものを借りる相手ではないし、借りたところで緊張し過ぎて釣りどころではなくなることが目に見えている。

 だが、ルドベキアは軽く両手を頭の後ろで組み、何かを気にする様子など一切みせることはしなかった。


「気にしなくていいって。どうせ父上、たくさん持ってるし」

「いや、とっても大事になさってるから持ってるんじゃないかな……!!」

「もちろん大事にしてるけど、たぶん使ってもらうこと自体はむしろ喜ぶと思うよ。だって父上、母上に『一人で使い切れないくせにまた新しいのを買ったでしょう!?』って怒られてたけど、貸せば『使い切れない分は人に貸して使っている』って言い訳がたつし」

「……」


 カトレアに怒られるほどのコレクションというのは、一体どれほどコレクションを保管しているのだろうか? プルメリアはそう思わずにはいられなかった。


(でも……王様にもお世話になってるし……もしも喜んでもらえるなら、お借りしたほうがいいのかしら)


 それはカトレアの希望と真逆の結果になることだが、この話っぷりから考えてもおそらく一本二本増えたところでたいして変わることがないだろう。ならば、お願いするほうがいいのかもしれない――。


「それに、父上が言っていた。釣りでは下手なやつほどうまい道具が助けになるって」

「借ります。可能であるなら、ぜひお貸しいただきたく思います!」


 よい釣り竿のほうがいいというのは、安い釣り竿では当たりがわかりにくいなどということもあるのかもしれないが――もっとも、今回の巨大魚の場合気づかないわけがないとはおもうのだが――、そもそもよく考えれば自分が買えるような釣り竿で巨大魚が耐えられるのかという疑問もある。

 プルメリアの意を決した返答に、ルドべギアは満面の笑みを浮かべた。


「じゃあ、借りてくる! 丸焼き、楽しみにしてるからな!」

「それはもちろん――!!」


 ムニエルのほうがいいと言っていたのに、楽しみにしてくれていることはプルメリアにとっても嬉しいことだ。だが、一つ懸念もある。


(これで釣れなかったら、本当に大変だ……!!)



 ただ、なにも一日で釣らなければいけないという約束をしたわけではない。

 絶対に釣れるまでがんばろうと、プルメリアは心に決めた。




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