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【25】プレゼントを計画します

 そうしてプルメリアは実験を行った日はそのまま騎士団の待機所へと向かうのが日課となっていた。初日に興奮してプルメリアにサインをねだった女性も、二度目からは落ち着いた対応を心掛けてくれていた。シオンから聞いたところによると、受付の女性も実はいいところのお嬢さんといった状態だったらしく、興奮のあまりプルメリアに詰め寄った自分を後々恥じていたらしい。だからプルメリアもあえてその話に触れることはなかった。もっとも、それ以前に再びあのように崇拝されるかの勢いで迫られても困るということもあったからなのだが――。


 シオンがプルメリアからポーションを受け取ったあと、その日の訓練した隊員にポーションを配る手はずを整えたこともあり、プルメリアも少しずつだが騎士の顔と名前を覚えていった。


 だから、今では最初は珍獣になったとも思えるくらい遠巻きに見られていた様子などなんのその、現れれば気軽に手を上げて挨拶してもらえるという具合にまでは仲もよくなっていた。


「プルメリアさん、いらっしゃい。今お茶いれてるけど、飲んでいく?」

「わ、ありがとうございます」

「南の遠征部隊の土産物だから、なかなか面白い匂いがするよ」


 こうして気軽に過ごせることができているのだが、ただ、ひっかかることがないわけでもない。


「あの、今日はシオンさんいらっしゃいます?」

「隊長は今日はいないですね。言伝があったら承りますよ」


 プルメリアにマグカップを渡す騎士はそう言っているが、実はこれは『今日は』ではなく『今日も』が正解であったりする。


(そもそもシオンさん隊長さんだなんて言ってなかったんだけど!!)


 最初に聞いた時に思わず二度見してしまったが、シオンは笑って『聞かれなかったし』と誤魔化していた。忙しいとは言っていたが、そのような立場だっただなんて教えられ無ければ想像だってできやしないのだから、聞きようがなかったのだ。


 だが、それだけならばまだいいのだが、このところシオンは不在続きだ。プルメリアが直接シオンにポーションを渡せたのは、最初の三回だけだったりする。


(人に無理しないようにって言ってたくせに、シオンさんのほうが余程無理をしてるんじゃないのかな)


 そう思うと、なんだか一言いってやりたくなるのはどうしてだろうか。

 もちろん仕事なのだろうし、他の隊員からの話を聞く限りポーションは届けられているようなのだが――その顔を見ないとなんだか不安になってくる。


(だって、前は忙しいっていいながらもルドベキアくんのところにも顔をだしていたのに、ここ最近本当にいないのよ。極秘の遠征とかあったりするのかな……)


 もしそうだとしても、ここの隊員もプルメリアに言うことはできないだろう。城で働いているとはいえ、プルメリアは騎士団の人間ではない。無理を言っても聞きだせるわけもなく、下手をすれば出入り禁止が待っている可能性だってある。


「じゃあ、とりあえず……言伝は、倒れないようにでお願いしますね」


 そう言ってプルメリアは紅茶を飲み切った。空になったカップは騎士が回収してくれたので、そのまま研究室に戻ってユウナと合流すれば今日の仕事は完遂だ。


 ただ、戻りながらもやはり気になって仕方がない。


「いや、お仕事だし、私が何を言ってもどうこうなるんじゃないのも分かるから……。だとすれば、出来るのはお疲れ様ってねぎらう何かなのかな」


 疲れ自体はポーションである程度回復もできているはずだろう。そもそも任務であるのならプルメリアのポーションではなく、ストックされたポーションが使われている可能性も高い。けれど、ポーションは気分転換となるものではない。根を詰めれば精神的にしんどくなることも考えられるので、なにか楽しくなる、喜ばせられるものが用意できれば一番だ。


「……ってなると、ルドベキアくんが一番詳しそうね」


 さて、尋ねに行こうかと思っていたら遠くからそのルドベキアの声で自分が呼ばれていることにプルメリアは気が付いた。後ろを振り向けば、遠くから小走りでルドベキアが近づいてきていた。


「仕事終わった?」


 その期待に胸を膨らませている表情に、プルメリアも頬を緩ませた。やはりルドベキアも王子ではあるが、可愛い可愛い弟分だと思わずにはいられない。


「終わったよ、今からユウナと一緒に帰るところ」

「なあ、ちょっとだけ遊んでいかないか? 今日、面白いカードゲームもらったんだ。一人じゃできないし、シオンいないし」


 口をとがらせるルドベキアの頭をプルメリアは撫でた。やはりルドベキアはシオンをとても慕っているのがよくわかる。


「いいよ。でも、ユウナとルドベキアくんで喧嘩したらだめだよ」

「しないって。俺のほうがお兄ちゃんだからな」


 そういって胸を張るルドベキアだが、その事に関してはどこまで信用していいものかとプルメリアも苦笑した。ただ、さきほどのやりとりでやはりルドベキアはプルメリアよりよほどシオンのことに詳しいだろうなと、プルメリアははっきりと思った。そしてそんなルドベキアだからこそ、尋ねてみたいことがあった。


「ねえ、ルドベキアくん。ルドベキアくんってシオンさんの好物とかしらない?」

「シオンの好物?」

「うん。ほら、たくさんお世話になったのに、私まだ全然お礼ができていなくて。なにか喜んでもらえるものがいいんだけど――できれば、お仕事の疲れを忘れられるものとか」


 しかし、そう言ってから注文がやや難しすぎたかとプルメリアも気が付いた。


(なんていうか、もうちょっと具体的に聞かないと……これ、私が聞かれても答えに困るわ)


 だが、プルメリアがやらかしたと感じた思いとは対照的に、ルドベキアは少し首を傾けてから、にこりと笑った。そして、満面の笑みを浮かべた。


「あるよ! シオン、巨大魚の丸焼きがすっごく好きなんだ。それこそ、丸かじりしたいって言ってたこともあったなぁ」

「……巨大魚?」


 予想もしない、そしてシオンにしてはずいぶんワイルドにも思えるその言葉に、プルメリアは目を二、三回瞬かせてしまった。




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