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【24】振り返りましょう、自己管理

 騎士団の隊室にはもちろん関係者しか入室できない。だが、荷物を預け、届けてもらうことはできるので、プルメリアは入り口兼休憩室となっている場所の傍らにある受付で申請用紙を記入し、ついでにシオンにも伝わるように軽く経緯を説明した


 だからプルメリアも事務室で申請用紙を記入し、ついでに経緯を軽く説明した別紙を添付し、受付に預けようとした。


 だが、カゴを差しだしていると受付の女性から熱い視線を向けられていることに気が付いた。


「もしかして――調伏の神子様ですか?」

「え?」


 神子様――その、神秘的な呼び方にプルメリアは一瞬固まった。

 だが女性はプルメリアが口ごもったことを肯定だと捕らえたらしく益々興奮した様子だった。


「やっぱり! あの、よろしければサインをください!!」

「え、サイン!?」

「邪竜退治では飽きたらず、ケルベロスまで従えるという伝説を持ってらっしゃる御方なんて早々いらっしゃいません!!」


 そしてその響き渡る声はざわついていた室内を一瞬で静かにさせ、次の瞬間にはより大きな騒めきを生んでいた。


(ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って……!!)


 正直最初に神子という言葉を聞いた時は、もしそう呼ばれるのであればこそばゆいような、けれどなんだかときめくような気もしたのだが、その後の説明は豪快すぎる。そして周囲からの視線も恥ずかしすぎる。先ほどまでは来客の一人であったのに、あまりに注目の的になってしまった。


「……これは何の騒ぎだ?」

「あ、シオンさん」

「プルメリア?」


 ざわつく中で現れたシオンをプルメリアは救いの神かと思ってしまった。そして慌ててかけより、書きかけの申請用紙ごとシオンにつきだした。


「あのね、これ、その、いま余ってて……よかったらって、その」

「これは……もしかして、青のポーション?」

「そう! その、効力はあるんだけど、いま配分を変える実験してて、いっぱい余っちゃって……館長も私に飲んじゃえっていってたんだけど、シオンさんに飲んでもらうほうが役に立つんじゃないかなって」


 本当ならさらさらと言いたいところだが、周囲の視線が気になって喋っている言葉に気が回らない。なぜこんなに注目されているのかも、所々から『あれは手作り弁当じゃ』なんて訳の分からない言葉がとんできているのかもわからない。

 だが、シオンはそんな慌てるプルメリアにもごくごく自然に対応していた。


「いいの? もらっても」

「もちろん! ほら、シオンさんのおかげもあるし……ううん、ちゃんとお礼は後日改めてするつもりだけど、これ、シオンさんがいなかったら作れなかったし」


 だから早くとにかくもらってほしい! そうプルメリアは力強くシオンに向かって言いきった。


「ありがとう、助かるよ。訓練を受けた皆で分けても問題ないかな」

「それはシオンさんに任せるよ。鍋いっぱいにあまっちゃうし、それをシオンさん一人で飲んだらおなかタプタプになるかもしれないし」

「それは困るね」


 半分笑いながらも、シオンはプルメリアからカゴを受け取った。


「私もいまからちょっと出るから、薬術館まで送るよ」

「え」

「ほら、行くよ」


 小声でそう付け足したシオンが心なしかいつもより少し早い歩調で扉へと向かうので、プルメリアも慌ててそれを追った。返事を待たずに歩きだしたことに驚いたが、しばらく廊下を進んだところでシオンは足を止めた。


「ごめん、ちょっと急ぎ過ぎたかな」

「それは全然問題ないんだけど……どうしたの?」

「いや、野次馬がいっぱいだったから。プルメリアはあんまり目立つの好きじゃないかなと思って」


 なるほど、つまりシオンの急ぎの退出はプルメリアのことを考えてのことだったらしい。

 シオンは回廊の柱に背を預け、プルメリアから受け取った瓶をつまみ上げ、光に透かすかのように眺めていた。


「……な、なにか気になること、ありました?」


 失敗していないはずだと何度も自分に言い聞かせても、こうして見ている姿をみればやはり心配も積み重なる。だが、シオンはふっと笑った。


「いや、綺麗なものだと思って。遠征で何度か飲んだことはあるけど、ああいうときって本当に疲れているからこうして見る機会ってなかったし」

「そうなんだ」

「こういうのに体力回復させてもらってたって改めて思ったら、不思議な感じがした」


 そういいながら、シオンは瓶のふたをあけ、口に流し入れた。

 喉が動き、シオンの体内にポーションが流れ込んだのがプルメリアにも見えた。シオンはその後口元を手の甲で拭いながら目を瞬かせていた。


「ずいぶん飲みやすいね。凄くすっきりしてる」

「飲まなきゃいけない時に飲みにくかったらつらいかなって。ほら、故郷のきょうだいたちも不味いと薬を飲んでくれないから、味にはこだわってるよ」

「いいお姉さんだね」

「そりゃ、お姉ちゃんが頼りにならなかったら、みんな困るでしょ」


 肩をすくめるプルメリアに、シオンも釣られて笑っていた。ポーションの効果は目に見てわかるものではないが、それでもシオンの体の動きは先ほどよりも軽そうにみえた。


(もっとも、それも私がつくったからこその思い違いかもしれないけど……)


 ただ、自らその効果を尋ねるのも『肯定してください』とせっついているようなので聞き辛い。数値上は効果があるはずだとなっているのだから、問題はないだろうが――体感としてはどういう風に感じられるのかは気になっている。何せ、自分の作ったポーションを人が目の前で飲んだのは初めてなのだから。


「プルメリア?」

「あ、ごめん。ちょっとぼーっとしてたんだけど……また持ってきてもいい? 毎日作るから、毎日余るの」


 やはり今聞くことはためらわれるが、何度か試してもらえればそのうち感想もきけるかもしれない。少なくとも味は気に入ってもらえたようなので、飲むのがいやだと思われることもないだろう。

 疲れがとれるというのなら、これがシオンに対する恩返しの第一歩になるかもしれない。


「それはとても助かるよ。でも、大丈夫なのか? ポーションは効力が高いほど術者の魔力を消費する。毎日なんて作っていたら倒れかねないんじゃないのか」

「え? 全然疲れてないから大丈夫だよ。疲れてたら、家に帰ってからユウナと遊ぶこともできないし」


 本当に疲れなど感じたことがなかったので、プルメリアとしてはそんなことを尋ねられたことに驚いた。そのようなことはジニアからも言われておらず、本当に予想外だった。


 だが、その答えを聞いてシオンは安心したように肩をすくめた。


「なら、余裕があるならまたもらえると嬉しいな。でも、本当に無理はしないでいいから」

「ありがとう。でも、心配しすぎよ。私、無理はしないって決めてるから」

「……本当に?」


 その疑うような様子に、プルメリアは苦笑した。


「だって、私が倒れたらきょうだいに心配かけるし、ユウナだってご飯たべれなくなっちゃうじゃない」

「それだけじゃなくて、私やルドベキア、それから他にも王妃様やジニア館長もね」

「あ……」


 当たり前のように言った言葉にそう返されて、プルメリアは思わず視線を逸らせた。自分が言った言葉はむかしから自分で言ってきた言葉だったので、なんの疑問も持っていなかった。

 だが、シオンから言われた言葉で今の自分の世界が養護院から広まっているのだと、改めて認識させられた。


「その、ごめんなさい」

「わかればよろしい」


 その、まるで教師から言われるかのような言葉にプルメリアも苦笑した。

 そして自分はしっかりとしているしているつもりであったが、大事なことをど忘れしてしまうほどに抜けているのだと反省した。



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