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【23】効果はちゃんと保証します!

 薬草園の手入れはプルメリアにとっては思った以上に楽しい作業だ。

 自分のものではないと分かっているが、少しずつ成長する薬草を毎日見るのは楽しいし、花芽が増えれば思わず目元も緩んでしまう。そして自分のものではないとはいえ、その薬草を使うこともできるのもいい経験だ。


(ポーション作り以外も館長さんの仕事を手伝わせてもらえるし、毎日幸せだなぁ。知ってる知識でも、やってみないと分からないこともほんと多いし!)


 とはいえ、今日はその任されたポーション作りを行う予定だ。


(与えられた材料で一番いいって思える分量を私なりに見つけてくれって、指示を受けたのよね。私の魔力が一番反応するって思う分量をって)


 プルメリアとしてはあまり回数を作ったことがなかったので、そこまで分量についてアレンジを加えたことはない。だから何度も試してよいと言われるのであれば楽しみではあるのだが、もともと城にもいい具合に調整されたレシピがあるはずだ。

 そのことを指摘すると、ジニアはにやりと笑った。


『このレシピが作られたときから薬草も改良されてるのよ。同じレシピでも改良に伴って効果はあがっていたけど、もっといい割合もあるかもしれないでしょう?』

『ですが』

『この通り、人が足りなければ薬草園の手入れも困る感じなのよ。まあ、それも皆が好き好きに自分の研究するからだけど――まあ、とにかく、あなたがやってくれたら助かるの』


 若干ごり押されたような気もしなくはないが、ジニアがそういうならそういうことなのだろう。そもそも疑問に思っただけで、プルメリアもやりたくないというわけではない。むしろできることならやってみたい。しかもそれがお金をもらいながらできるというなら最高だ。


「ずいぶん楽しそうだね」

「あ、シオンさん。訓練だったんです?」

「うん。どうして……って、もしかして、私、汗臭い?」

「え? そんなことないですけど」


 髪の若干の乱れとやや浮かんだ汗を見て訓練後だとは思ったが、臭いについてはまったく告げたつもりはない。だから二、三歩と下がったシオンを見てプルメリアは目を丸くしてしまった。普段から身だしなみを整えていたのは知っているが、思った以上に気を遣っているらしい。


「もしも汗臭くても大丈夫ですよ! だって、お仕事じゃないですか! むしろ勲章というか……!!」


 それに旅をしている時の自分も、考えたくはないがことと次第によればなかなか水浴びすら叶わないこともある。だからその程度のことを気にされれば、普段の自分は一体どうなるのかと思わずにはいられない。


「それより、珍しいですね。訓練場からこちらのほうに向かわれるなんて」

「いや、今の時間ならいるかなと思って。でも、楽しそうで本当によかった」


 そう言うやいなや、シオンはそのまま手を振ってその場から去ってしまった。

 何の用事だったのかと考えたが、仕事を紹介してくれたからこそ心配して見に来てくれたのかもしれないとも思い至った。


「やっぱり紳士だ」


 ならば順調に仕事ができているところを見せなければならないと、プルメリアは新たに気合いを入れて仕事に励むことにした。



**



 そして、数日後。


「……うん、ちょっとどうしよう」


 プルメリアは多くのタグをつけた数々の瓶を前に悩んでしまっていた。


 長期間保存するにはむかないポーションを保存するために、城には特別な保存容器が存在している。だが、その数にも限りがある。ましてやすでに常備しているもののためにその大半は使用されているのだから、プルメリアが自由に使える数はそう多くない。


「このポーションたち、そろそろ使用期限だよね……」


 捨てるのは当然もったいないが、古いストック分を捨てて新たに作成したものと中身を入れ替えるということは残念ながら今はできない。なぜなら、城にストックするためにはその材料と分量等を記載した申請書と現物をともに審査会に申請する必要があるからだ。管理するためには基準を満たしているかどうか調べるのは、当然必要になってくるのだろう。


「審査会に申請している間に使用期限が終わっちゃうし、そもそも毎回分量かえているから全部申請書かかないといけないし……現実的じゃないよね」


 それに分量だってそう多くつくっていないし、そんな細かいことをし続けていると、むしろ審査会を行う人々の迷惑になることが予想できる。


 いったいどうしたものかと思ったプルメリアは、ジニアのもとを訪ねた。

 するとジニアからは想像していなかった答えがあっさり返された。


「じゃあ、売っちゃえば?」

「って、そんなのダメに決まってますよね!? これ、お城のやつの材料ですから!」

「別にそんなの黙って休日に採集した材料で~っていえばいいでしょ。王都ならポーションの買い取り場所だってあるし、一回行ってみなさいよ。あなたの作ったものならけっこういい値だから」

「だめですって! 私一応真剣に相談していますからね!?」


 おそらくジニアは冗談で言っているのだろうが、その悪魔のささやきはあまりに魅力的すぎてプルメリアの良心を攻撃しかねない。だから本気で反論したのだが、それを見たジニアは肩をすくめていた。


(まるで冗談なのにって仰ってるみたいだけど、うっかり真に受けたらどうするんですか……!)


 どうせばれないのにというジニアの声の幻聴まで聞こえてくるが、ここは絶対に流されてはいけないところだ。


「なら、飲んじゃえばいいんじゃないかな」

「え」

「体力回復薬よ。研究疲れを癒す、いい薬になるし、そうなればもっといいポーションができるかもしれないし。被験者になることもいいと思うの」


 確かに作ったものの数値を測ることは器具がおこなうことであるから、プルメリア自体はその完成品の効力を試してはいない。飲みやすい味を考える為に味見のようなことはしているが、ほんの少しだけだ。


(でも、その少しで充分回復しちゃえるくらい、私、疲れてないんだよね……)


 だから飲んでしまうのはもったいない。

 どうせならより疲れるひとに飲んでもらえたら一番だ――そう思って、プルメリアははっとした。


「館長、これ、城内の方が消費するなら、それも大丈夫ですか?」

「え? もちろん大丈夫よ。だからあなたが飲んでもなんの問題もないんだけど」

「ちょっといいこと思いつきました。ありがとうございます!」


 そしてプルメリアは慌てて自分の研究室に戻り、瓶をカゴに詰めた。


(これ、シオンさんみたいに訓練してる人の役にたつかもしれない!)


 いらないと言われる可能性もあるが、それでも喜ばれる可能性があると思えば急ぎ向かわねばならないことだ。改めて個人的に礼をすることは考えるが、気にかけてもらえている分、しっかりと仕事ができている姿を見せたいという個人的な事情もある。


(ここの薬草のおかげか、結構いい品質っていうのも結果がでてくれているし……効果はあるはず……!)


 それをわかったうえでも本当に効くのかとどきどきしてしまうが、それでも大丈夫だと自分に言い聞かせ、プルメリアはシオンが待機しているであろう隊室へと急いた。




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