表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/32

【22】大人の女性のお茶会議

 品行方正な王妃のカトレアもお忍びをするが、それはいつも薬術館で薬草茶を飲むといった可愛らしいものである。もとは嫁いできたばかりの頃に、当時研究員であったジニアが手入れをしていた花に興味をもったということなのだが、以来茶飲み仲間として仲良くすごしている。ジニアも一研究員であれば多少臆することもあっただろうが、十三貴族とよばれる国内で非常に力のある有力貴族の長女であるので、あまり気にすることもしなかった。

 そんな二人は、今日も今日とて茶菓子をつまんでいたのだが、珍しくカトレアの額にはしわが刻まれていた。


「惜しい、本当に惜しいわ」

「どうしたの」

「プルメリアさんがあと十歳ほど若いか、ルドベキアがあと十歳くらい年をとっていれば、お嫁さんにって思うのに」


 そうして深いため息をつくカトレアに、ジニアは笑った。


「それはどうしようもないじゃない。というか、あの年齢差だからルドベキアもなついたのかもしれないし」

「私としては年の差なんて関係ないけど、プルメリアさんからみたらどう思うか……。もう、これはシオンにでも頑張ってもらうしかないかしら」

「ずいぶんなお気に入りですね」

「そういうジニアもプルメリアさんのことを気に入っているでしょう?」


 カトレアの言葉に、ジニアも苦笑した。


「いい子だと思いますよ。ただ、旅をしていたというわりには世間知らずなので、いろいろ教えてあげなければと思いますね。気に入るというか、半分庇護欲でもあるかもしれません」

「世間知らずというか、欲が薄くて浮世離れをしているような気はするけれど……ジニアはどうしてそう思ったの?」

「あの子、魔力の扱いは教わっていないそうなのですが、出来上がったポーションは恐ろしいほど、適正な魔力を含んでいました。ただ、本人はその自覚がありません」


 もう少し上級の薬草を使っていたなら、あの品質も理解できる。しかし、使っていたのは量産品用の薬草だ。最高の効果を引き出せるポーションを作ることができるのに、本人に自覚がない。


(いや、自覚がないというより、世間の基準を知らないというほうがただしいかしら)


 ただ、プルメリアに「あなたが作るポーションはすごいのよ」とだけ言っても信じないだろうとジニアは思っていた。カトレアの言葉を受け取るのさえ困った様子を見せるプルメリアだ。せいぜいジニアが言ったところでお世辞だと思うことだろう。むしろよほどポーションを作るのを面倒臭がっていない限りは、あのようなポーションが作れるのならばみだりに薬草のまま売ったりはしないだろう。少なくとも王都であればポーションの買い取り先だってみつかったはずだ。


(ずいぶん変わったアレンジだったし、あの魔力調整ができるなら、今あるレシピも新しい割合が探せるかもしれないし……ちょうど頼みたい仕事もできたし、それをさせてる間にもうちょっと世の中の適正価格を少しずつ教えてあげられればいいかな)


 ジニアとしてはここにとどまってくれれば面白いことがいろいろと起こるだろうと思うのだが、プルメリアが旅に出たいというのであれば無理に引き留めようとするつもりはない。再び旅に出ると決意したなら、それを尊重しようと思っている。ただ、一声くらいはやはり引き留めるとは思っているが。


(でも、その時がくるまでにちゃんと自分の力がどのようなものなのか教えてあげなくちゃね)


 邪竜を一人で仕留めるほどの力の持ち主だ。

 迷いなく立ち向かったという話から、武技に関する自信はあるのだとは思う。それと同じくらい、魔力も使えているのだと教えてやれればいいとジニアは考えた。


(勝手に弟子のように思ってしまうけど、まあ、今は一応部下だしそう思っても仕方がないわね)


 もしくは姉のようになった気分だと感じながら、ジニアも新たな出会いを楽しみ、そして更にいろいろな引き出しが何かないかも探し当てようと心に誓った。



**



 そして、後日。


「プルメリア、またお手紙?」

「うん。でも、よくわからなかったかな」

「うん?」


 ユウナが首を傾げているが、プルメリアにもどう説明していいのかわからないので、曖昧に笑って誤魔化すことにした。


(だって、説明するにもできないものね)


 王妃の意向で養護院にほど近い場所に軍人向けの温泉施設が建設されることになり、それを養護院の皆も無料で利用してもよいという誘いを受けたということなど、どうして信じることができようか。


(こんなことまさか王妃様に確認なんてできないし――)


 そもそも確認できないというのもあり得なさすぎるからという理由だ。


「もしかして、一回帰って来なさいって言う暗号だったり――するのかしら?」


 ずいぶん夢物語のような手紙が最近増えてきているが、それも帰省を促すための作戦なのかもしれない――などと、プルメリアも考えた。これまではそのような催促を受けたことはなかったが、他に適当な理由など思い浮かばない。


「まあ、でもお仕事もせっかく始まったばかりだし……なんなら、遊びにおいでよって言ってみようかな」


 ただし狭いところに住んでいるので、宿はとってもらうかソファーでの休息で我慢してもうらうかの二択になるのかな、と、のんびり考えながらプルメリアは返事を綴った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ