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【21】はじめまして、王妃様

 目の前に王妃様が存在する。

 そんな非常事態にプルメリアの脳内は混乱で沸騰しそうになっていた。


(いや、ルドベキアくんも王子だし、シオンさんだってキラキラしてるけど……!!)


 それでも、二人と出会ったのは街中で、一見して身分の高さがわかるような服装では無かった。しかし目の前の王妃はゆったりとした着衣ながらも、明らかに高貴な人であるということがわかる装いだ。


(確かルドベキアくんと最初に会った日に褒美をいただいたときも、王妃様もいらっしゃった気がするけどこんな近くじゃなかったし、だいたい王様の前ってことでもう頭がいっぱいいっぱいだったし!!)


 そんなプルメリアの混乱の中、カトレアは笑みを深くした。


「プルメリアさん、あなたに改めてお礼を言いたかったの」

「え!? あ、あの!?」

「母として、息子を助けてくれたこと、心より御礼申し上げます」

「あ、あの! そんな、顔を上げてください、王妃様!!」

「あら、今の私は母として申し上げているのです。王妃としてのお礼は、すでにお伝えさせていただいていますが、それでは満足できなかったの」


 優しく言葉を続けるカトレアに、プルメリアは返答に窮した。

 喜ばれていることは嬉しいが、いかんせんプルメリアも立派な志を以て助けたというわけではない。


「偶然が重なった結果ですから、本当にお気になさらないでください。それに、私もとても素敵な、一生体験することがなかったようなおもてなしを受けさせていただいておりますから、もう、充分お気持は受け取っています」

「でも、まだまだお伝えしきれない気持ちを抱いていますよ」

「本当に充分ですから!! 私の方が本当ならお礼を申し上げなくてはいけないくらいです!!」


 むしろそれ以上は恥ずかしいし、もらっているお礼はたくさんの縁を結んでくれている。だが、カトレアはあまり満足した様子ではなかった。


「王妃様……?」

「あなたはルドベキアだけではなく、ビオラのことにまで気をかけてくれているというのに……本当に、少々謙虚さが過ぎるのではないかしら」

「残念ながら、それは気のせいだとおもいます」


もしもその通りであるのなら、そもそも最初の宿の希望もしなかったことだろう。どうやって話を変えるべきかとプルメリアが思考を巡らせていると、ジニアが笑いながら話に割り入った。


「それくらいにしてあげてくださいな、カトレア様」

「でも……」

「本人が満足しているなら、無理にそれ以上の希望を求めるのは困らせることにしかなりませんよ」


 ジニアの助け舟に、プルメリアは心の中で拍手した。二人のやりとりからも仲がよさそうな雰囲気は感じ取れるので、ジニアからの言葉であればカトレアも受け入れてくれるはずだ。

 だが、ジニアの考えは単なるプルメリアの援護ではなかった。


「それに今はそんなことよりも、美容の話しでしょう」

(あれ?)

「プルメリア、その美容パック、私も一緒に試していいかしら?」

「そうね、私も一緒に試したいわ!」

「え、え、え!?」


 薬草パックを試したい。

 ただのその申し出であれば、故郷のいいところを伝えるためにもプルメリアも喜んで体験してもらいたいと思う。だからジニアに渡すのはなんら問題ない。

 しかし、カトレアになると話が違う。


「お、王妃様のお顔に泥を塗るなんて……そんな、恐れ多いです……」


 土と水と薬草を混ぜたものなのだから、要は泥を顔に付着させるのだ。プルメリアとしては恐縮してしまうのでできれば見逃してほしいところだ。


「プルメリアはときどきやってるんでしょ?」


「はい」

「なら、王妃様の肌に合わないとか心配しなくても平気よ。王妃様の肌、すごく強くて健康的で、びっくりするくらいなのだから」

「いえ……そうではなくて……。その、本当に泥を顔前面に塗るのを、王妃様にさせていただいていいものだとは……」

「ああ、顔に塗りたくるから面白い顔になるっていうことね」

「あら、それは使用人たちが笑うのを我慢しなくてはいけないことになるから……大変ね」


 そうではない。心配しているのはそこではない。

 しかしジニアもカトレアもそれで納得してしまったらしく、カトレアは頬に手を当てて、ジニアは腕を組んで考え込んだ。だが、それほど間を置かずしてカトレアは両手を合わせて極上の笑みを浮かべた。


「なら、私のお風呂にみんなでいきましょう。お風呂でするものなのよね? 使用人たち下がらせるから、皆で面白い顔を楽しみあいましょう。それなら、笑ってもおあいこということで済むわよね?」

「え!?」

「あら、それは素敵なお誘いね。でも、いいの?」

「もちろん。とても一人のためのサイズだとは思えないから、まったく問題ないわ」


 根本的な問題はそこではない――そう、プルメリアは思うものの、うまく二人を説得する方法は見つからなかった。しかし同時に薬草パックのためにリュリュ草をすりつぶさなければいけなくなるだろうことだけは理解できてしまっていた。


 そして準備が整ったあとにプルメリアが案内された浴場は、いつもは風呂嫌いのユウナが嫌がるのをわすれて茫然としてしまうほどの建物だったのだが、プルメリアはそれを感じることができないまま、緊張しながら王妃とジニアに薬草パックを施した。結果は満足してもらえたようなので何よりだったが、疲労度は邪竜を倒すほうがよほど軽いと思わざるを得なかった――。




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