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【18】よろしくお願いいたします!

 魔石は砕いてポーションに入れるというわけではない。

 ただ、魔石には魔力反応を示す力もある。だから水の中に魔石を沈めることで、あまり魔力制御が上手くないプルメリアにも状況が判別しやすくなるのだ。


 プルメリアはまず魔石を大きなビーカーに入れた蒸留水の中に入れ、そのあとに中和剤とガーゼに包んだ薬草を一緒に入れた。そしてゆっくりと色が広がりはじめたのを確認し、ビーカーに向かって手を掲げた。そして、薬草から魔力を引っ張れるように、ゆっくりと吸い出して水に吸収させるように集中する。

 指先はぷるぷると震えるが、その指先よりも揺れる魔石の淡い光に集中するほうが大切だ。余計なことは考えず、ただひたすら光の強さを確認する。


 それからどれほどの時間が経過したのかはわからない。

 けれどようやく水の中の魔石が安定した光を帯びたところで、プルメリアはゆっくりと手を引いた。これで、おそらく完成だ。ガーゼをビーカーから引き揚げてから、中が均一になるようゆっくりとかき混ぜた。

 薬草を投入したばかりの最初は頃は緑色に染まりつつあった水は、今は薄く青色がかった液体に変化していた。


「……ひとまず、完成かな」


 ポーションの品質の高さを判定するには含有魔力を測定するための器具が必要となるが、それをプルメリアは持っていない。あとはもう神の采配に任せるのみ――そう願いながら、ポーション作りで魔力が抜けきってしまった薬草をガーゼの中から小皿へと移し替えた。


 既に薬草にはポーションを作るための魔力は残っていないが、使い道はまだまだ残っている。例えば洗顔の時に使ったり、乾燥させて消臭剤としても使うことも可能である。だからこのまま捨ててしまうのはあまりにもったいない。


「館長さんまだ来ないのかな」


 時間がどれくらい経ったのかわからないが、それなりに時間が経っているはずなので他の薬草を使ってもう一種類作ってみるのも時間が足りない。しかしどうするべきかと考えていたとき、開けっ放しにしていたドアから聞き覚えのある叫び声が聞こえてきた。


「……また、崩れたのかな」


 もしも採用されたのなら一番に行うべきは掃除なのかもしれないと思いながら、プルメリアは書庫へと急ぎ、ジニアを救出した。


「ごめんごめん。うっかり……って、うわっ、もうこんな時間なの!?」

「はい」

「うっかりしてたわ。本に集中しちゃってたわ。薬草とポーションは?」

「見ていただけるように、用意はしています」


 そしてジニアとともにプルメリアは研究室に戻った。


「って、うわっ! あなたちょっと、これ全部選んだの!? 名前も全部つけて……いや、やれっていったの私だけど。等級まで書いてあるじゃない」

「え、そういう指示でしたよね」

「そりゃそうだったけど、ひぃふぅみぃ、っと……ホントに全部あるじゃない。作ったことないっていってたから半分くらい知ってればそれで充分だって思ってたのに」


 驚きながらも並べられた薬草をすべて確認するジニアに、プルメリアは大きなビーカーから試験管に入れたポーションをジニアに渡した。


「これ、検査していただけますでしょうか」

「了解。って、ずいぶん澄んだ色に仕上がってるわね。何の薬草を使ったの?」

「ランベル草をベースに、キュスファの新芽とラディルの実をすり潰したものを入れています」

「へぇ。けっこう渋くなるんじゃないの?」


 そう言いながら、ジニアは簡易測定用の棒を取り出し、その先をポーションに付けた。

 しばらくすると棒が光りだし、ジニアの目は見開かれた。


「あなた、これ、本当にランベル草で作ったの!?」

「え……あの、はい」


 もしかして本来ならもう少し効用が高いはずだったのに、低い等級のものができてしまった……などという反応なのだろうか? 


「あまり作っていないっていっていたわね? それはどうして?」

「それは……その、手間がかかるし、旅の途中だと設備もないし、買い取り先もないし、魔力制御も自己流ですし……」

「そうなのね……っていうか、あなたもしかして薬術の師がいない人なの!?」


 両手を肩に置かれて揺さぶられながら、プルメリアはかくかくと頷いた。

 たくさん驚かれているのはわかるが、驚かれ続けていることにどう反応していいのかわからない。これは好意的な反応なのか、それとも違うのか。合格か否かが最重要点であるプルメリアにとって、今の状況は心臓がバクバクとなり続けるばかりである。


「決めた。私はあなたを薬草園管理兼ポーション作成の薬術師に任命するわ」

「え……ということは、合格でいいんですか!?」

「もちろん! 先輩薬術師として立派にお姉さんが色々教えてあげるわ! ああ、もう! これなら非常勤じゃなくて常勤雇う申請を上に出しておくべきだったぁ……」


 顔を覆い天を仰ぐジニアに、プルメリアは勢いよく頭を下げた。


「よ、よろしくお願いします!」

「はい、よろしく。今日からでも薬草園の管理をしてもらいたいところだわ。でも結構汚れるから……今は確か、客間借りてるんだっけ? 帰るとき、だいぶ気を違う羽目になるわね」

「あ、住宅手当もらえるってきいたので、新しい部屋を借りようと思ってまして……」

「それならいいところ紹介してもらえるように、手配しておくわ。明日下見に行って、気に入ったところがあれば明後日引っ越し、明々後日に採用手続きでその次から出勤でもいいかしら? まあ、用事あるときは休んでもらっても構わないわ」


 ぽんぽんと提案してくれるジニアに、プルメリアは笑顔で元気よく返事をした。

 そして無事に王都に留まり続けることができることになり、ほっとせずにはいられなかった。




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