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【16】面接前は寝れないタイプ

 朝のすがすがしい光の中、プルメリアは緊張して髪を梳いていた。

 今日は薬術館の面接試験を受ける日である。


(ようやく朝が来た……ホント、時間まで長かった……)


 プルメリアは旅先で突発的なアルバイトをしたことはあるが、雇用契約を交わすというよりその場のノリで始める仕事ばかりだった。


「さすがにお城のお仕事だもんなぁ……」


 それでも、あの日のあと改めて示された条件はプルメリアにとっては非常に魅力的だった。


(なにより住宅補助が出るって書いてあったし!! ここ、ポイントよね!!)


 これで新たな住まいを手に入れれば、後ろめたさもなく王都に滞在を続けることができるのだ。今、気合いを入れなくていついれるというものだ。


 そうプルメリアが決意した時、後ろから間の抜けるような声が聞こえてきた。それはネコマタの声だった。


「プルメリア、朝ごはんはー?」

「それより先におはようでしょう? 朝ごはんはもう少しまって……って、あ、やっぱりシリアル買ってるから、牛乳と混ぜておいてくれる? 牛乳は保冷庫に入っているから」

「わっ、それ朝ごはんなら、ユウナの分はふやかして食べないと!!」


 そう言いながらネコマタ改めユウナは慌ててベッドから飛び降りた。

 プルメリアよりいい名前が欲しいと望まれたので気に入ってもらえるか緊張したのだが、ユウナは自分のことを一人称で呼ぶようになったくらい上機嫌で受け入れてくれた。


「それより、今日はちょっと私用事あるから、ユウナはここで大人しくしておいてね」

「うんうん、お仕事してお金集めするためだってちゃんと聞いてる。お昼寝してるから平気だよ」


 それを聞いてほっとしながらプルメリアも背伸びをした。


「まあ、私も食べないと試験中にお腹が鳴ってもかっこ悪いし、食べないと」


 そうして準備を行っていると、滞在中に支給されている食事も一人前分運ばれてきた。

 初日は突然連れ帰ったユウナのことを使用人たちは驚き、すぐにもう一人前を用意すると慌てたのだが、それはプルメリアが慌てて止めた。客人が客人を呼んで手を煩わせるなんてとんでもない。ただ、スプーンとフォークだけもう一人分用意してもらい、今は二人で一つを食べながら、外で買ってきた物を取り分けている。ネコマタの食欲も心配していたが、幸いにも子どもらしい量が限界らしいので懐が痛むというほどのものでもない。


「ねえ、ユウナ。もうちょっとしたらお城からもーっと狭いところに移り住むけど、ちょっとだけ我慢してね。あと、朝ごはんもこんなに美味しいのじゃなくなるかもしれないけど」

「プルメリア、追い出されるの?」

「ううん、そういうのじゃなくて……私、ここいまお礼がわりで泊めてもらってるから、あんまり長い間いたら迷惑がかかるの」

「ふうん。よくわからないけど、連れてってくれるならいいよ」


 その答えにプルメリアはほっと胸をなでおろした。


 だが、こうやって宣言したのだ。

 なんとしても合格せねば、物凄くかっこ悪いことになると、更に自分を振るい立たせた。



**



 薬術館は前回も一度行ったことがあるので、迷うことなく辿りつくことができた。

 ただし、今日テストをするという館長には前回会っていない。


 シオンから聞いた話によると、歓迎してはくれそうなのだが、詳しくは『まぁ、悪い人ではない』ということだけで、それがプルメリアの緊張感を余計に高めている。


(時間は遅すぎず、早すぎず、ちょうどだし……よし、行こう)


 意を決して、プルメリアは薬術館のドアをノックした。

 しかし、中から返答はない。


「あれ?」


 少し弱すぎたのかと、再度ノックをするが、やはり返答はない。

 日程を間違えてしまったのかと焦るも、そんな大事なことを忘れるはずがないとも思いたく、プルメリアは思わずドアノブに手をかけた。

 すると、あっさりとドアは開いてしまった。


「……え?」


 中に人がいないのであれば施錠されているものだと思ったが、そこは無人であったにも関わらず施錠がされていなかった。しかしドアが開いたとはいえ、無人のそこに勝手に踏み込んでいいのかも少し迷う。


「まあ、誰か戻ってくるよね」


 それまでここで待とうか。

 そうプルメリアが決め扉を閉め直そうとした時だった。

 わずかに女性の声――それも、助けを求める声が聞こえたきがした。


 プルメリアは驚き、そして迷ったが薬術館に足を踏み入れることにした。助けを求めるも何も、このような場所で一体何があるというのかと思うのだが――声の先へ進むと、そこには見たことがない光景が広がっていた。


「本の……森っていうか雑林!?」


 まったく整理整頓されていないこの場所に、プルメリアは目を見開かずにはいられなかった。一体どうやったらこれほどの本がぐちゃぐちゃになるのか――養母がいれば即鉄拳制裁を喰らってしまうほどに場は荒れている。


「感心してないで、助けてってば!!」

「って、そうだった!!」


 助けを求める声をたどってここまでやってきたのだ。相手は一体どこにいる――そう思いながら部屋を見回し、部屋の片隅で必死に崩れそうになっている本を全身で止めようとしている人影を見つけた。


「ちょっと私が退いたらここの本全部倒れるっていうか周囲まで巻き添えにするから! 抑えてる間になんとかして!!」

「は、はい!」


 プルメリアは言われるがまま、急いで倒れそうになっていた本をすべて取り除き、一息ついた。


「いやあ、ごめんごめん、うっかり積み上げてた本、崩しちゃったんだよねぇ」

「それは……もうちょっと整理整頓が必要なのでは」

「いやいや、これはわかりやすいように配置してるのよ、だから決して散らかってるわけじゃなくて……」


 その発言は典型的な片づけをしない人の言い訳だ。

 何を言っているのだと思ったが、一応ここにいるということはこの人も薬術館の人なのだろう。


「あなたがプルメリアね」

「え」

「私ここの館長のジニアね。よろしく!」

「え」


 予想していた面接官とはあまりに違う雰囲気にプルメリアは一瞬遅れてから頭を下げた。


「申し訳ございません、ご挨拶が遅れました……!」

「ああ、気にしなくていいよ。どうせここは離れみたいなもんだし、うるさいことを言う人たちがくるようなところじゃないから」


 なるほど……とは思うが、下町でやり取りをしているような雰囲気でいいのか納得していいものかとやはり迷う。


「まあ、堅苦しいことはさておき、とりあえず人柄は私的には合格!」

「え」

「私を助けてくれた人に悪い人はいない。これ正義。でも実力はとりあえず見ないといけないからねぇ」


 そういいながら、ジニアは大きく欠伸をした。


「方法は……そうねぇ、ポーションでも作ってもらおうかしら。ただしベースは薬草園のものを使ってね?」


 その意外な試験内容に、プルメリアは目を瞬かせた。



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