【15】そして進む、さらなる養護院の改築計画
養護院の養母は今日も子どもたちのためにたくさんの食事を用意していた。
ほぼ完成した新しい養護院の引っ越しを控えて皆が浮かれすぎているせいか、最近はうっかり腐った床を踏み抜くことも多くなったのでその応急処置にも時間がとられて大変だ。
「こんなときにプルメリアがいてくれたら、とても助かるんだけどねぇ」
しかしそのプルメリアから新しい養護院を贈られたのだ。
帰ってくれば盛大にねぎらうつもりであるのだが、王都が楽しいのか手紙を送ってもしばらく戻るつもりはないらしい。
「照れくさがっているのかしら? それとも王都がよほど水に合ったのかしら」
昔から破天荒な子どもだったが、王都は色々な人が集まると聞いているので、プルメリアと似たような、息の合う友人もできたのかもしれない。
その時、玄関のほうから子供たちのはしゃぐ声が聞こえた。
「お客さんだ、珍しい格好のお客さんだ!」
「なんか高そうな服!」
その声を聞いた養母は慌てて表へ向かうことにした。
誰が来たのか予想はできないが、立派な格好の相手だというのなら子どもたちの態度が失礼になっている可能性も低くはない。いや、高い。
そしてその予想の通り――尋ねてきていた者たちの身分は服装からして明らかに高かった。
「初めまして、私、王妃の命により派遣されたものです。こちら、プルメリアさんの出身である養護院で間違いございませんか?」
「は、はい」
「実は先日、プルメリアさんが大変貴重な薬を王女様に分けてくださったのですが、お代はいらないと仰ったのです。それを王妃様、そして王女様がいたく感激されまして、代わりにこちらにお贈りしたいものがあると……」
そうして差しだされた紙をみた養母は驚いた。
「これは……」
それは、盛大な数々の遊具の計画書であった。遊具の中には砦のようなものもあり、大規模な様子もうかがえる。
「こ……こんな立派なものを……?」
「王女様が、いつか完成した時には遊びにきたいと仰っています。幸いにもこのあたりには多く土地があるようですし、いかがでしょうか」
「も、もちろんうれしく思いますが……」
しかし、このようなものを贈られるほどのことを、プルメリアはまた何をやったのだろう?そのような空気の中、いつもの宅配の青年が「お届け物でーす!」と、いつも通り人々の後ろから声を出していた。
「って、あれ、今お取込み中です?」
「いえ、我々のことはお気になさらず」
「って、それ王家の紋章……!? あ、ありがとうございます」
恐縮しながらも青年は養母に手紙を渡し、そして慌てて去っていった。
手紙を裏返すと、プルメリアの署名が入っていた。
「それでは、我々も失礼いたしますね。正式なお返事はまた明日、お尋ねにまいりますので」
養母としてはもらえるものならお願いしたいというのが本心だが、それでもプルメリアの手紙に事情が書いてあるかもしれないと思えば一旦返事は保留することにした。
使者たちを見送った後、養母は手紙を開けた。
その中身は――竜馬に乗ったということと、あたらしい妹ができたということがかかれており、王女のことなど一切書かれていなかった。
「ちょっと、プルメリア……!?」
何がどうなってそうなったのか、まったくもってわからない。
だが、実は楽しく過ごしているらしいことは何となく伝わってきた。
「これは……照れ隠し、なのかしら……?」
きっとここに使者がくることは知っているはずだ。
「まあ、元気でやってくれているなら何よりだわ」
王都への返信は使者の人にお願いしようか。
まだまだ王都にいると言うかもしれないが、好物のケーキを焼くのでたまには帰ってきなさいと書いてみようと養母は心に決めた。
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そして、数日後の王都。
「どうしたの、プルメリア」
「ううん。なんか、よく分からないこといっぱい書いてあるけど、お義母さんがケーキ焼いてくれるらしい」
「え! それって私も行っていいの!?」
猫型状態のネコマタの頭を撫でながら、プルメリアは頷いた。
ただしもう少し稼ぐまでは帰れないかなぁ、と苦笑をこぼした。




