【9】養護院のお肉祭り
「お荷物がとどいていますよー!」
その声に養護院の中で作業をしていた女性は一旦手を止め、表に出た。かなり古くなった養護院の隣には建設中の新たな養護院があり、その周囲で子供たちがじっと建設される様子を見上げていた。
「立派な建物ですねぇ」
「ええ。プルメリアからの贈り物です」
「あのお嬢ちゃんが立派になって……なんだか嬉しくて寂しいような気分ですね。それで、そのプルメリアさんからのお荷物です。今日は大きいですよ」
そして配達員の男性は下に置いていた木箱を指さした。
それはなんとか女性でも抱えられそうなものではあるが、明らかに重そうだ。
いままでプルメリアが送ってきたものは前回を除いて現金のみであったので、これが何なのかはわからない。一体何が入っているのだろうかと、男性が去った後女性はその箱を開けてみた。
すると中には肉の塊と、それから各種薬草と手紙が入っていた。
手紙にはこう書かれていた。
こちらはプルメリア様が討伐してくださったオオイノシシの肉です、と。プルメリア様はご自身は構わないので村の皆でわけてかまわないと仰ってくださいました。そして養護院にも送ってくださいと仰いました、と。
そして一番大事なこと――オオイノシシの肉を独占したいと思い、城に報告せず討伐しようとしたものの多数の被害を出し、いまさら助けを求めるなどできなくなっていた私どもの前に現れてさっと問題を解決してくださった、村の英雄です、と。
女性は仰天した。
オオイノシシの肉はその味で名を知られている、素晴らしいものである。貴重すぎるその肉は市場に出回る前になくなってしまい、女性だって目にするのは初めてだ。
「あの子……本当に欲のない子ね……」
女性は感激に涙を浮かべ、そう言った。
きっとプルメリアは損害を受けた村の復興資金にするため、もしくは美味しいものを食べて英気を養うために村に好きに使えと言ったのだろう。なんと立派な子なのか――。
「いえ、もう、あの子っていうのも失礼かもしれないわね」
プルメリアのおかげで隙間風や雨漏りに悩まされる宿舎は立て変わった。それだけでも十分すぎる恩返しで、もう仕送りなどせず自分自身のために使いなさいといっているのに、何も変える様子もない。
「プルメリアが心配しなくていいように、私ももっとしっかりしなくちゃいけないってことなのかしら」
優秀すぎる出身者に頭を悩ませつつ、女性はプルメリアの贈り物をどう調理するか、そして子供たちにプルメリアの話をどう聞かせるかということに頭を悩ました。
そしてその夜、急に荒れた天気により一人の旅人が養護院にやってきた。一晩の宿を求めた旅人を養護院はあたたかく歓迎した。旅人はバケツで雨漏りする水をうけ、隙間風を起こす場所に木の板を押し付けている古い養護院にも拘わらず、その夜出されたスープにはオオイノシシの燻製が入っており、旅人は驚いた。
旅人は子供たちと一緒に、プルメリアという少女の話を聞いた。
褒美をもらっては故郷の養護院を立て直し、故郷のきょうだいたちに美味しい食事を与えたいという心優しい少女に旅人は心打たれた。
実は旅人は王都の富豪であった。
旅人はこのような辺境の地に少女のような人物が育っていたことに感動した。
そして、もしもこの場によい教育があれば各界で活躍するのではないかということさえ考えてしまった。
富豪は自身の身分を女性に申し出、一晩の宿の礼に王都の高等教育を受けたものをここに派遣し、子供たちの未来に役立てたいと申し出た。商人は地方の教育は将来商人たちの市場の開拓にもつながるはずだと、女性を説得した。
その後派遣された教師は子供たちと仲良くなり、子供たちも意欲的に学習に取り組んだ――。
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数日後、王都で養護院からの返信を読んだプルメリアは眉を寄せた。
「……本当に、絵本でもつくるつもりなのかしら?」
オオイノシシの肉が届いたというお礼の手紙だけならプルメリアもよかったと思ったことだろう。しかし、そのあとに続いた旅人がイノシシ肉のスープに感動し、素晴らしい教育を施すことを約束したというくだりはどうにもこうにも信じられない。
プルメリアにとってはイノシシ肉より牛肉のほうがどう考えても美味しいのだ。
「まあ、人の好みはそれぞれっていうけど……別に、王都で食べれない肉じゃないし」
イノシシ肉自体ではなく、女性の料理そのものに感動した可能性もあるのだが、その手紙だけでは判断できないことだった。
「ひとまずみんなで楽しく食べたっていうのはわかるから、よかったってことだよね」
そしてプルメリアは引き出しに手紙をしまい、採集用のカゴを手に取った。
絶好の採集日よりになることをいのりつつ、プルメリアは森に向かうことにした。




