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【0】邪竜を倒すお転婆娘は薬師さん

 天気がよく旅日和とも言えるその日、お気に入りの帽子と共に薄い空色の髪を持つ碧眼のプルメリアは、街道から外れ王都への近道となる森の中を鼻歌交じりに歩いていた。


 本来であれば手前の街から辻馬車に乗りたいところであったが、先日生まれ育った養護院に仕送りをしたばかりなので、手持ちにそれほど余裕がない。


 しかし歩けば進めることなので、馬車に乗れないということはほんの些細な問題だ。


「それに、王都に行ってこの薬草を売ればまたお金も手に入るし」


 そう思えば気分だって向上する。


 プルメリアは、旅をしながら薬草や薬を売り歩く薬術師だ。

 両親はおらず養護院で養母の院長のもと育てられていたが、二年前に旅に出た。その目的は古くなった養護院の立て直しのための金銭獲得である。


 そんなプルメリアは先程まで立ち寄っていた村で耳寄りな情報を与えられた。

 それは、前の村で薬草を売ろうと交渉していたときのことだ。


『ああ、この薬草ならここよりも王都に行けば高く売れるよ。少なくとも、ここの倍の値段だ。歩いても半日くらいで着くだろう』


 そのような親切な助言を聞けば、さっさと王都に行くしかない。

 いわく、王都では今『苦い薬のほうがよく効くブーム』が起きているため、今までは『そこそこ』の価値として扱われていた薬草が、欠品につき値上がりしているらしい。

 別に医者がそう言っているわけではないそうなのだが、なんせ客が求めるのがその薬草なので、どうしても不足してしまっているらしい。


「まかない食を分けてもらえないかなって宿のお手伝いをしたら宿泊代まで割引してもらえたし、優しい村だったなぁ」


 もちろんその浮いたお金で馬車に乗ることもできたのだが、送金で手元に現金が少ない上、可能であればそろそろブーツも買い換えたいので、やはりここは節約だ。


「ブーツも雨が降ったらすぐ水が入ってきちゃうし、何より……もしも、もしもここで王子様に出会えたりしてもみすぼらしい格好だったら恥ずかしいじゃない!!」


 思わず顔を覆いながら、プルメリアは「きゃー!」と抑えた声で叫んだ。


 プルメリアは昔から童話が大好きだった。

 危機に陥ったところを助けにきてくれる、白馬の王子様。

 よくある場面は、このような森の中で、邪悪な竜に襲われていて――


 そう、プルメリアが思った時だった。


 キイイイエエエエエエエエエエエエエエエエ!!

ガゥウウアアアアアアアアアアアアアア!!


 そんな雄叫びがプルメリアの耳を突いた。


 それは、間違いなく人の声ではない。

 ましてや森の中で平和に暮らす獣が上げるような声でもない。


 しかも聞こえてきたのは前方からで、目の前に現れたのは濃い灰色の鱗に覆われた、とても巨大な生物――


「邪竜!?」


 そしてその叫びが、邪竜の注目をプルメリアに向けさせてしまった。

 邪竜はプルメリアを双眼に映すと、猛スピードで動きだした。


「い、やぁああああ!! こっちこないで爬虫類……じゃないけど爬虫類ぽいのはだめだって!!」


 そもそも爬虫類云々より、どちらにしても邪竜に追いかけられるシーンなんて……


「望んでたけど望んでないってうか……王子様が出てこなさそうなこの状況でこっちにこないでよ!?」


 しかし邪竜の速度とプルメリアの速度を比べれば、プルメリアのほうが明らかに遅い。つまり、いまから逃げたところで間に合わない。


「――っ!!」


 逃げられない。

 そう判断したプルメリアは覚悟を決め、拳を握りこんだ。


「歯、食いしばりなさい――!!」


 叫んだプルメリアは地を蹴り、大きく口を開いた邪竜に正面から飛びかかり、額を勢いよく一突きした。

 途端、邪竜は完全に動きを止めた。

 そして一拍おいた後、巨体は大地に倒れ込み、光を弾けさせ、大きな魔石を一つ残して消え去った。


 プルメリアは再び地に足をつけ、拳を解いて、それから両手で頭を抱えた。


「ま、また……、私が自分でやっちゃった……。それも、周囲をちゃんと確認せずに……」


 プルメリアが夢見ているのはお姫様。

 しかし実際におとぎ話が始まりそうなシチュエーションに出会っても、自ら素手で邪竜すらも倒してしまう、この有様。たとえ王子様が現れたところで、引かれるのは目に見えてしまっている。倒すにしても周囲をみてから行動するようにしたいのだが、つい身体が反応してしまう。


 一般人が邪竜に襲われることなんて、そうそうない?

 いや、そんなことはない。

 少なくとも一般旅人であるプルメリアは月に一度はこのような場面に遭遇し、その都度自分で片付けてしまっているのだから、きっとそう珍しくはないはずだ。


「でも、ここまで遭遇していても王子様に出会えないなんて……世の中、なんだかおかしいわ」


 プルメリアとしては王子様とは王様の子を指すわけではなく、危機に現れるヒーローのことを言っているだけだ。本物の王位継承者がそうそう出てきたりはしないだろうが、おとぎ話のお姫様たちはどのようにしてヒーローを呼びよせたのか、プルメリアの疑問は深まるばかりだ。


 しかしその答えが見つかる前に、プルメリアの耳には弱々しい声が届いた。


「りゅ、竜、いなくなった……?」

「え?」


 突然聞こえた声にプルメリアは思わず顔を上げた。

 すると邪竜がいた場所よりも先に、金髪で緑の目を持つ、品の良さそうな少年が座り込んでいた。おそらく年齢は八~九といったところだろうか。


「あらま、可愛い男の子」

「……」

「もしかして君、この邪竜に襲われたの?」


 返事はないが、ぐずっと鼻をすすった様子からそれが正解だと肯定しているようだった。

 プルメリアは少し頭を掻いた。


「大丈夫? とりあえず落ち着いてね」

「……」

「……っていって、落ち着けるものでもないか」


 綺麗な髪の艶をした少年は、おそらくいいところのお坊ちゃんなのだろう。服装を見れば、きっと森にすら入り慣れていないだろうと思う。

 だから、このような状況に遭遇して混乱するのは当然だし、落ち着くにも相応の時間が必要であることは想像できる。


 しかしただ待つだけというのも時間がもったいないので、なにか少年の気がまぎれるものはないものだろうかと、プルメリアは周囲を見渡した。


 そして、先程消えた邪竜が残した魔石を見つけた。


 魔石は魔物を倒せば稀に手に入る代物だ。

 強い魔物の残すものなので、何かに使えないかと現在研究がされているらしいという噂は聞くが、数種類の種族の魔石を除けば今のところ一般的には使い道がないと認知されているため売っても二束三文の品である。一応プルメリアは自分なりの使い道を見つけているが、それでもほとんど消耗することはないし、なんなら今でも余っている。

 ちなみに綺麗な石であっても硬度の問題で装飾品にはしづらいし、売れはしない。


(でも、綺麗だったらまだ少年の興味を惹く可能性はあったけど……)


 しかし、これはない。


(まあ、仕方がないか。物に頼るのは諦めるかな)


 その後両頬を自分の手で叩き、気合いをいれた。


「よしっ!」

「!?」

「少年、いくよ!」


 そしてプルメリアは少年を勢いよく肩車した。


「うわっ!?」

「よし、お姉さんが君を家まで送り届けてあげよう! 君の家はどっちかな」

「あ、その……」

「わかった、あっちだね」


 おずおずと示された方向に向かい、プルメリアは歩きだす。

 荷物は重いし、少年も重いが、大量の荷物を持って歩きまわることも度々あるので、落としてしまうほどではない。


「お姉さんはプルメリアって言うの。君は誰?」

「る、ルドベキア」

「わかった、ルドベキアくんね」


 驚きからか、ルドベキアの声にはもう涙は混じっていなかった。

 プルメリアは鼻歌の続きを歌い、ルドベキアを肩車したまま、森を抜けた。


 すると、プルメリアたちの目にはいくつかの丘の向こうに巨大な城と立派な城壁が飛び込んできた。


「うわっ、大きい。やっぱり王都って大きいんだぁ!」

「あれ! 家、あっち!」

「『あれ』って、言われても……ルドベキアくん、それじゃどれかわからないよ。街に入るまでもうちょっと待ってね!」


 少年の指が自分の頭の上からわずかに見えるが、その指先がどこを指しているのかまでははっきり見えない。けれど、たとえ指先が見えたとしても少年の家がここから見えるわけもないだろう。


(まさか、城でもあるまいし)


 しかし、城壁が見えたことで少年の声も弾んで元気になった様子である。

 ただ、さすがにそろそろプルメリアも肩が痛い。


「ルドベキアくん、ここからはお姉ちゃんと手を繋いで歩けるかな?」

「もちろん!」


 しかし、プルメリアの肩から降りたルドベキアはプルメリアの手を取ることなく、走りだした。もちろんというのは、歩けるかとの問いのみへの返答だったらしい。


「追いかけて来いよ! 城はこっちだ!」

「もうっ、お姉さんはくたくたなんですけど」


 王都が見えた途端、ルドベキアからはしおらしい様子が失われた。

 少し生意気にも聞こえる声だが、プルメリアはその声が聞けたことに少しほっとした。 だが、そうゆったりばかりもしていられない。

 先まで走ったものの振り返って様子を窺うルドベキアを見る限り、プルメリアも早く追いかけなくてはルドベキアを不安にさせたうえで待たせることになるだろう。


「まったく……この古いブーツの最後のお仕事かぁ」


 そう言いながら、プルメリアも小走りでルドベキアを追いかけた。

 そして街に入ってルドベキアを家まで送り届けたら、最後『子供が不用意に森を歩くんじゃない!』と説教しなければいけないかな、と、軽く苦笑した。


 


おそらく4年ほど前に書いた?作品が出てきたため、ひっそり投稿させて頂きます。

明るく軽いノリのお話ですので、どうぞよろしくお願いいたします。

(6時、18時で更新させていただきます)

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