ホントは十番勝負でした。
58
数か月後。大安吉日芸能事務所。いつもの場所。いつもの面々。テレビの前に大集合。
「いよいよですね」
三隣亡がそわそわしながら言う。
「はい」
友引・先負が言う。
「どういう具合に仕上がっているかな」
そう言うのは大安。
今日は、『磯山浩介』二期目の初回放送日だ。仏滅の発案によって、友引・先負組、池・狼垓組双方が納得いくような内容で撮影が進められていった。今日はそれの初回放送ということになる。
番組が始まった。最初は普通のドラマのように淡々と話が進んでいく。勿論、磯山浩介の役は先負で、御壺寧々の役は友引である。話のクオリティは前期と変わらず高い。
「面白い」
三隣亡が言う。
「面白い、が」
大安が言う。
「普通だな」
「普通ですね」
「これでは、あの二人を納得させられるとは思わないが」
「これからどうなるんです?」
三隣亡が友引・先負に問う。
「それは見ての」
「お楽しみ」
友引・先負が不敵に笑いながら言う。
「気になるなあ」
三隣亡が気にする。
話は中盤に差し掛かる。シーンとしては、磯山が御壺の作った大切な資料を誤ってシュレッダーにかけてしまうというものだった。
「あー、やっちゃった」
三隣亡が言う。
「あ」
磯山が自分の過ちに気づく。
「どうしたの、磯山君。私の資料のコピー、終わった?」
ツカツカとやってくる御壺。
「あの、その」
磯山が口ごもる。
「あれ、資料は?」
御壺は傍にシュレッダーがあることに気づき、すべてを察した。
「処分したわね?」
「あーばれた」
三隣亡が言う。
「すみません」
謝る磯山。
「すみませんで済んだら警察はいらねーんだよ」
と、警察である御壺が言う。
「すみません」
再び謝る磯山。
「本当に申し訳ないと思ってるのか?」
「思ってます」
「土下座しろ」
「はい」
土下座する磯山。
「お手」
お手をする磯山。
「チンチン」
チンチンをする磯山。
「三回回ってワン」
三回回って
「にゃあ」
「てめー、やっぱり反省してねーじゃねーか」
「ハハハ、いいねえ、いつもどおりのあしらい方だね」
三隣亡が笑う。
「まったく、あんたってばいつもいつも。もうちょっと私を敬えないものなのかしらねえ」
御壺が言う。
「教育ができていないからよ」
そう言いながら出てきたのは、もう一人の御壺寧々。正確に言うなら御壺寧々の格好をした狼垓アケミ。傍らには、磯山浩介の格好をした池スカナイもいる。
「何、あなたたち」
「私は御壺寧々」
「それに磯山浩介」
狼垓と池が言う。
「御壺は私なんだけど」
「磯山は僕なんですけど」
友引と先負が言う。
「これまでは、ね」
「これまでは?」
「これからは私が御壺寧々」
「これからは僕が磯山浩介」
「なるほど、そういう出し方をしてきたか」
三隣亡がうなる。
「偽者、さっさと出ていきなさい」
「シッシッ」
狼垓と池が言う。
「あなたたちが偽者じゃない」
「偽者に偽者と言われたくない」
友引と先負が言う。
「あなたたちの方が偽者よ」
「なぜ?」
「磯山のしつけがなってないからよ」
「なってない?私が?」
「そう。だからなめられる」
「確かになめられてはいるけど」
ちらりと横目に先負を見る友引。
「磯山のしつけがなっていない証拠」
狼垓が言う。
「そこで私が本当のしつけ方を教えてあげようってわけ」
「そうそう」
狼垓と池が言う。
「あなたは何するの?」
友引が池に訊く。
「僕は、いいしつけられ方を体現します」
「なんじゃそれは」
友引が呆れて言う。
「私がいいしつけ方の見本を見せる」
狼垓が言う。
「僕がいいしつけられ方の見本を見せる」
池が言う。
「なら見せてみなさいよ」
友引が言う。
「では見せてあげる。どうしたの、磯山君。私の資料のコピー、終わった?」
ツカツカとやってくる御壺。
「あの、その」
磯山が口ごもる。
「あれ、資料は?」
御壺は傍にシュレッダーがあることに気づき、すべてを察した。
「処分したわね?」
「すみません」
謝る磯山。
「すみませんで済んだら警察はいらねーんだよ」
と、警察である御壺が言う。
「すみません」
再び謝る磯山。
「本当に申し訳ないと思ってるのか?」
「思ってます」
「土下座しろ」
「はい」
土下座する磯山。
「ジャンピング土下座しろ」
「ジャンピング土下座?」
質問する磯山。
「ジャンプしてから土下座するの」
答える御壺。
「ジャンぴーんぐ土下座」
ジャンピング土下座をする磯山。
「そんな必殺技を出すような言い方しなくていい」
「つい言いたくなって」
「普通にやる」
「普通に」
普通にジャンピング土下座をする磯山。
「よし、次」
「まだあるの」
「当然。悪いことしたんだから」
「それは、本当にすみません」
「反省してる?」
「反省しています」
「そう?なら、シュレッダーを開けて」
「え?シュレッダーをですか?」
「そう」
シュレッダーを開ける磯山。
「では、裁断した紙を取り出して」
「まさか」
「そう、そのまさか。裁断された資料を復元するの。自分で。一人で」
「そんな、スパイ映画じゃないんですから」
「反省してる?」
「反省しています」
「じゃあ、できるでしょ。反省しているなら」
「うう…」
しぶしぶ復元作業を始める磯山。
「と、これぐらいやらないとダメよ」
素に戻る狼垓。
「これがいいしつけ方」
「これがいいしつけられ方」
狼垓と池がドヤ顔で言う。
「なるほど。見習わないとね」
友引が言う。
「あまり見習わないでください」
先負が言う。
「君も見習なきゃ」
池が言う。
「見習わなきゃいけないんですか」
先負が訊く。
「当然」
池が胸を張る。
「良いしつけられ方をすれば、本当に反省しているように思われるので、嫌がらせを早く済ませられる」
「なるほど」
先負がメモをとる。
「と、こんなわけで」
「僕たちの方がこのドラマの出演にふさわしい」
「私の方が上手くいびられる」
狼垓が言う。
「僕の方が上手くいびられる。ちなみに僕の『いびられる』の『られる』は受け身の意味だ」
池が言う。
「ぐぬぬ」
悔しがる友引と先負。
「というわけで、あなたたちは消えなさい」
「消えなさい」
追い払う仕草をする池と狼垓。
「消えません」
「消えるわけにはいかない」
抵抗する友引と先負。
「偽者はいらないわ」
狼垓が言う。
「偽者はあなたたち」
友引が言う。
「何を根拠に」
「根拠は?」
池と狼垓が問う。
「根拠」
「と言われても」
困惑する友引と先負。
「根拠はないのね」
確認する狼垓。
「ないと言えばないかな」
答える友引。
「じゃあないね」
言い切る狼垓。
「ないですねえ、はい」
先負が言う。
「じゃあないってことね」
再び言い切る狼垓。
「じゃあ偽者だ」
言い切る池。
「偽者」
「僕たちは偽者」
「そう、偽者」
得意げに言う池。
「偽者は去れ」
「偽者は去ね」
口々に言う池・狼垓。
「去らなきゃいけないのか」
呆然と言う先負。
「いや、去らなくていいよ」
友引が言う。
「では訊きますけど」
友引が池・狼垓に向かって言う。
「あなたたちが本物だという証拠はあるんですか」
「証拠」
「と言われても」
困惑する池と狼垓。
「証拠はないのね」
確認する友引。
「ないと言えばないかな」
答える狼垓。
「じゃあないね」
言い切る友引。
「ないですねえ、はい」
池が言う。
「じゃあないってことね」
再び言い切る友引。
「じゃあ偽者だ」
言い切る先負。
「偽者」
「僕たちは偽者」
「そう、偽者」
得意げに言う先負。
「偽者は去れ」
「偽者は去ね」
口々に言う友引・先負。
「去らなきゃいけないのか」
呆然と言う池。
「いや、去らなくていいよ」
狼垓が言う。
「とまあ、こんな感じでお互い自分が本物である証明ができないわけなのよ」
友引が言うのよ。
「じゃあどうするのよ」
狼垓が訊く。
「ここはどちらが本物の磯山浩介・御壺寧々にふさわしいか勝負して決めるという感じはどう?」
「勝負?」
「そう勝負」
「どんな勝負?」
「題してどちらが本物っぽいか選手権」
「どちらが本物っぽいか選手権?」
「そう。そのまんま、どちらが本物の磯山浩介・御壺寧々っぽいか競います」
「どちらが本物の磯山浩介・御壺寧々っぽいか?」
「そう。これなら文句ないでしょ」
「面白い、その勝負のった」
狼垓が言う。
「受けて立とう」
池が言う。
「なるほど。こういう展開か」
三隣亡つぶやく。
「ふむ」
大安もうなる。
「で、どういう内容の対決?」
狼垓が問う。
「そりゃ、より磯山浩介と御壺寧々っぽいことをしたら勝ちよ」
友引が答える。
「より磯山浩介と御壺寧々っぽいことねえ」
狼垓が言う。
「まずは決め台詞ね」
「決め台詞」
「そう。磯山浩介の決め台詞と言ったら」
友引がふると、
「事件は現場で起きているんじゃない。会議室で起きているんだ」
先負が言う。
「そうそれ」
友引が満足そうに言う。
「その台詞をよりそれっぽく言えた方が勝ちってことで」
「いいわ。受けて立つわ」
狼垓が言う。
「受けて立ちなさい」
狼垓が池に向かって言う。
「ええっ、僕っすか!?」
池が驚いて言う。
「当たり前よ。私が磯山浩介をやるわけにはいかないじゃない」
狼垓が言う。
「それもそうか」
池が頭をかきながら言う。
「事件は現場で起きているんじゃない。会議室で起きているんだ」
迫真の演技。
「すごい。これは本物よ」
狼垓が拍手をしながら言う。
「そうかしら」
そう言うのは友引。
「見本、やってみなさい」
「あいあいさあ」
先負が見本を見せるようだ。
「事件は現場で起きているんじゃない。会議室で起きているんだ」
やる気のない演技。
「なんだ、このやる気のない演技は」
池が馬鹿にする。
「いえ、磯山君はいつもこんなもの。こんな感じでいつもやる気がないわ。あなたの熱血漢な感じの磯山君では違和感がある」
友引が言う。
「なんだと」
池が驚く。
「ふざけたことを言うな」
池がわなわなと震えながら言う。
「私も違和感があると思うわ」
そう言うのは狼垓。
「なんだと」
池が驚く。
「磯山君はやる気がない。全然やる気がない。ずっとぼーっとしてる。それこそが磯山浩介」
「いや、それほどでも」
頭をかく先負。
ほめられているわけではないと思うが。
「この勝負、あなたの勝ちね」
狼垓が言う。
「やったあ」
どうやら先負の勝ちらしい。
「納得いかない」
池は不満顔。
「演技力は僕の方が上だった」
「ええ、上でした。それは認めます」
そう言うのは友引。
「でも、これは演技力を競うわけではありません」
「あくまでも、どちらが本物の磯山浩介っぽいかを競うのです」
友引と先負が言う。
「彼の方が本物の磯山浩介っぽかった」
「僕の方が本物の磯山浩介っぽかった」
友引と先負が言う。
「磯山浩介というのはやる気のないもの」
友引が言う。
「やる気がないのは磯山浩介」
先負が言う。
「やる気のあるあんたの方が偽者くさい」
友引が断言する。
「だ、そうな」
狼垓が言う。
「ぐぬぬ」
苦い顔をする池。
「ということで」
と言ったのは友引。
「我々の」
と言ったのは先負。
「勝」
と言ったのは友引。
「ち」
と言ったのは先負。
「とは決まっていない」
と言ったのは池。
「往生際が悪い」
渋い顔の友引。
「そもそも一発勝負とは言ってはいない」
たたみかける池。
「それもそうね」
乗っかる狼垓。
「五番勝負だ」
池が言う。
「先に三回勝った方が本物」
狼垓が言う。
「何だと」
友引が言う。
「そんな都合のいいことが認められるわけが」
先負が言う。
「そんなに都合のいいことなのかしら」
狼垓が言う。
「どういうこと?」
友引が問う。
「今やったのは磯山浩介だけ」
池が言う。
「主要キャラであるもう一人」
「御壺寧々をやっていない」
池と狼垓が言う。
「別にやらなくてもいいんじゃ」
「主役が大切」
友引と先負が言う。
「そういうわけにもいかない」
池が言う。
「ということで、五番勝負」
「先に三勝した方が本物だ」
池と狼垓が言う。
「面倒だな」
先負が言う。
「でも、一理ある」
態度を軟化させた友引。
「私にも、『御壺寧々』としてプライドはある。本物の御壺寧々とちゃんと認められたい」
友引が言う。
「面倒な性格だな」
先負が言う。
「じゃあ、決まりね」
狼垓が言う。
「どちらが本物にふさわしいか五番勝負、スタート」
池が言う。
「ちなみにさっきのは君たちの一勝として認めよう」
池が言う。
「当たり前だ」
友引が言う。
そんなこんなで五番勝負が始まるということで、今回の話は終了。次回に続く、となった。
「フーム、そういう展開になったか」
三隣亡が言う。
「実際にあったことをモデルにして、ストーリーを組み立てた感じだな」
大安が言う。
「この五番勝負、ガチでやってるの?」
三隣亡が訊く。
「はい。ガチでやります」
先負が言う。
「負けたらマジで降板です」
友引が言う。
「なんてこった」
三隣亡が天を仰ぐ。
「勿論、勝算は」
大安が訊く。
「あります。絶対勝ちます」
と、友引。
「自分の役は自分で守ります」
と、先負。
「いい覚悟だ」
と、大安。
「自分の役は自分で守れ」
と力づける。
「はい」
力強くうなずく二人。
「でもなあ、そういうことはなあ、事前に相談してほしかったなあ。ウチの収益に関わることだし」
と、覚悟の足りない発言をする大安。
「それはまあ」
「すみません」
謝る二人。
「でも、内容は面白そうですよ」
三隣亡が言う。
「そうだな」
そこは大安も同意のようだ。
「人気がでるかも」
「人気が出なきゃ意味がないからな」
三隣亡と大安は言う。
「変わったストーリー展開だが吉と出るか凶と出るか」
三隣亡が言う。
「そこは視聴者次第」
友引が言う。
「お前たち次第だ」
大安が言う。
「お前たちの頑張り次第で、視聴者が付いてくるかどうかが決まる」
「そうなんですかね」
「そうだとも」
大安は力強く言う。
「とりあえず、僕たちはベストを尽くすだけですね」
先負は言う。
「そういうことだ」
大安は言う。
「頑張って」
三隣亡は励ます。
「では、見るべきものも見たし」
「本日は解散ということで」
大安と三隣亡が言う。
「お疲れ様です」
一同撤収となった。
59
そして、数か月後。
場所はテレビ局内の撮影場所。『磯山浩介』の収録現場だ。
場面は佳境に入っている。すなわち、「どちらが本物にふさわしいか五番勝負」が最終5戦目に入ろうとしていた。
「ここまで2勝2敗」
狼垓が言う。
「なかなかやるな」
池が言う。
「そちらこそ」
友引が言う。
「ここまでやるとは思わなかった」
先負が言う。
「いい勝負ね」
狼垓が言う。本当にいい勝負。2勝2敗。タイの状態で五番勝負の最終戦までもつれこんだ。
「負けた方はマジで降板だからな」
池が言う。
「勿論」
友引が言う。
「もっとも、あんたらは降板もクソも偽者なんだけどね」
さらに友引が言う。
「たとえ今本物だとしても負けた瞬間に偽者になるんだけどね」
狼垓が負けじと言う。
「最終決戦は何ですか」
先負が訊ねる。
「最終決戦の内容、それは」
狼垓が言う。
「それは」
三人が食いつく。
「磯山君が決めて」
「えっ、僕ですか」
先負が言う。
「このドラマの主人公なんだから、最後はびしっと主人公らしいところ見せなさいよ」
狼垓が言う。
「そういうもんなのだろうか」
先負が言う。
「勘違いするなよ」
そこで口をはさむ池。
「磯山は君だけじゃない。僕も磯山だ。いや、僕こそが磯山だ」
池が磯山という言葉がゲシュタルト崩壊しそうになるほど連呼する。
「では一緒に考えよう」
先負が言う。
「そうするか」
池が同意する。
「磯山浩介同士の夢のコラボね」
狼垓が言う。
「片方は偽者だけどね」
友引が言う。
「さて、最終決戦だ」
先負が言う。
「そうだな」
池が言う。
「最終決戦にふさわしいものにしなければならない」
先負が言う。
「そうだな」
池が言う。
「何がいい?」
先負が言う。
「僕に訊くのかよ」
池が言う。
「何も思いつかん」
先負が言う。
「だからって僕にふるなよ」
池が言う。
「君ならいい考えがあると思って」
先負が言う。
「ないよ。だから一緒に考えるんだよ」
池が言う。
「なんだないのか。偉そうに言うくせに」
先負が言う。
「君も思いついていないだろ」
池が言う。
「この二人に任せといて大丈夫?」
友引が言う。
「心配になってきた」
狼垓が言う。
「心配には及ばない」
先負が言う。
「きっと僕たちがいいアイディアを考えるさ。ね」
先負が池の方を見て言う。
「あ、ああ」
池が言う。
「では頼んだ」
友引が言う。
「よろしく」
狼垓が言う。
「任せてくれ」
先負が言う。
「やってやる」
池が言う。
「さて、どうする」
先負が言う。
「どうしよう」
池が言う。
「何もないのか」
先負が言う。
「ノーアイデアだ」
池が言う。
「頭悪いな」
先負が言う。
「他人のこと言えるのか」
池が言う。
「言える」
先負が言う。
「なぜ」
池が問う。
「僕は頭がいいからだ」
先負が言う。
「それは初耳」
池が言う。
「円周率言います。3.14159265358979323846264338327950288419716939937510…」
先負が円周率を暗唱する。
「うわ、キモ」
池がキモがる。
「どうだ」
先負はドヤ顔。
「きもい」
池がキモがる。
「僕は賢い」
先負はドヤ顔。
「マジできもい」
池がきもがる。
「そういうことなんで、僕に任せなさい」
「じゃあ、任せた」
「うーん…」
「何か思いついたか」
「何も」
「頭がいいんじゃなかったのか」
「頭が良くても思いつかないこともある」
どうやら、先負はいい案が思いつかないようだ。
「ダメだ」
先負が言う。
「ダメだこりゃ」
池が言う。
「糞だな。ただ単に円周率を覚えているキモい人間だな」
さらに池が追い打ちをかける。
「うるさい。そっちも考えろ」
先負が口をとがらせる。
「僕が本気で考えたら一瞬で考えついてしまうからね。それでは面白くない」
「面白い、面白くないの問題じゃないだろうに」
「面白さがすべて。面白くなければテレビではない」
池は考えてくれない。
「今本気出したら面白いですよ」
先負が言う。
「む」
池が少し反応した。
「今いい案が思いついたら面白いですよ」
先負が続けて言う。
「む」
池が続けて反応する。
「そろそろ思いついたら、面白い感じになりますよ。むしろ、今思いつくのが一番面白いですよ」
先負が言う。
「まじか」
池が完全に反応する。
「まじです」
先負が言う。
「仕方ないな。君がそこまで言うなら考えてやろう」
池が言う。
「お願いします」
先負が頼む。
「うーむ」
池は考える。
「何かいい考えはないのか」
先負が言う。
「まだ早い」
池が言う。
「いつになったら思いつくのか」
先負が言う。
「それは分からない」
池が言う。
「分からないでは困る。いついつまでにやります、と答えるのが一般的な社会人だ」
先負が言う。
「僕が一般的な社会人だと?」
池が言う。
「思わないね」
先負が言う。
「じゃあ、そんなことを言うな」
池が言う。
「で、実際のところ思いつきそうなのか」
先負が問う。
「思わないね」
池が言う。
「あのー」
イライラしながら友引が言う。
「なんだ」
「なんだ」
二人の声がステレオで答える。
「二人で協力しましょうよ」
友引が言う。
「協力」
「協力」
またハモって二人が言う。
「協力ってなんだ」
「協力ってなんだ」
ハモる馬鹿二人。
「めいめい考えるからダメなのよ。二人で一緒に考えなきゃ」
友引が言う。
「二人で」
「一緒に」
顔を見合わせる二人。
「そうそう」
友引が言う。
「なるほど」
「二人で一緒に」
ようやく理解してくれた。
「二人で一緒に」
顔を向かい合わせる先負と池。
「こいつと?」
お互い嫌そうな顔をする二人。
「嫌そうな顔しない」
たしなめる友引。
「だってこいつ」
お互いがお互いを嫌っている。無理もないが。
「嫌いかもしれないけど、仲良くしなきゃ」
「先に進まないよ」
友引だけじゃなく、狼垓にもたしなめられる。
「仕方がない」
「ここは妥協しよう」
妥協する先負と池。
「ここは手を取り合おう。嫌だけど」
と、先負が言う。どれだけ嫌なんだ。
「うーん、何かいいアイディアは浮かんだか?」
そう訊くのは池。
「うーん、何も。そちらは何かいいアイディアは浮かんだか?」
そう訊くのは先負。
「うーん、何も」
そう答えるのは池。
「君はダメだなあ」
先負が言う。
「君こそダメだなあ」
池が言う。
「君はもっとダメだ」
先負が言う。
「君こそもっとダメだ」
池が言う。
「はいはいケンカしない」
友引がたしなめる。
「すぐケンカするわね」
狼垓が言う。
「ケンカするほど仲が良い」
友引が言う。
「仲が悪いからケンカをする」
狼垓が言う。
「うーん、何かいいアイディアは浮かんだか?」
そう訊くのは池。
「うーん、何も。そちらは何かいいアイディアは浮かんだか?」
そう訊くのは先負。
「うーん、何も」
そう答えるのは池。
「君はダメだなあ」
先負が言う。
「君こそダメだなあ」
池が言う。
「君はもっとダメだ」
先負が言う。
「君こそもっとダメだ」
池が言う。
「あんたたちは協力って言葉を知らないのか」
狼垓が言う。
「協力、ねえ」
池が言う。
「今更協力できるとでも?」
先負が言う。
「でも、協力しなくちゃ先へ進めないよ」
友引が言う。
「先へ進めますよ」
先負が言う。
「へ?」
友引が怪訝な顔をする。
「僕たちは協力できません。でも、先へは進めます」
先負が言う。
「やけくそになっちゃだめよ」
狼垓が言う。
「やけくそになってはいません」
先負が言う。
「そうなの?」
狼垓が問う。
「そうです」
先負が言う。
「どういうこと?」
狼垓が問う。
「僕たちの仲が悪いことを活かすんです」
先負が言う。
「仲が悪いことを活かす?」
狼垓が言う。
「題して『非協力ゲーム』」
先負が言う。
「『非協力ゲーム』」
狼垓が言う。
「協力するのは当たり前。協力するのを競っていても面白くない。そこでこの『非協力ゲーム』」
先負が言う。
「具体的にはどういうゲーム?」
友引が問う。
「ルールは簡単。お題をひとつ決める。そのお題で相手が嫌がることをたくさんした方が勝ち」
先負が言う。
「何か分からないが面白そうだな」
池が言う。
「でしょ」
先負がドヤ顔。
「じゃあ、それで行きましょうか」
狼垓が言う。
「ОK」
友引が言う。
「では、お題だが」
池が言う。
「どうしよう」
狼垓が言う。
「何かいい案はある?」
友引が言う。
「ない」
「ない」
「ない」
一同が言う。
「ないのかよ」
友引が言う。
「こうなることは分かってた」
先負が言う。
「ここでもめても仕方がない」
「そうね」
友引が言う。
「ここは、このゲームの発案者である僕が考えるっていうのはどうだ?」
先負が言う。
「そうね」
友引が言う。
「異議なし」
「異議なし」
「異議なし」
一同が言う。
「ありがとう」
先負が言う。
「勿論、いい案があるんだろうな?」
池が言う。
「あるにはある」
先負が言う。
「おー」
「おー」
「おー」
一同が言う。
「それは何だ」
池が問う。
「各チームで、自分の役柄に合わせた即興芝居をやる対決だ」
先負が言う。
「おー」
「おー」
「おー」
一同が言う。
「それっぽい」
「最終対決っぽい」
「それなら納得」
一同が言う。
「でしょう」
先負は得意顔。
「自分の役柄に合わせた即興芝居をしながら相手チームを妨害する、ってわけ」
先負は言う。
「自分の役柄に合わせた即興芝居をしながら相手チームを妨害する」
狼垓が言う。
「ややこしいが面白そう」
友引が言う。
「複雑だが面白そう」
池が言う。
「さて、順番だけど」
先負が言う。
「順番ねえ」
「順番かあ」
口々に言う一同。
「順番なんかいらないんじゃない?」
友引が言う。
「いらない」
池が言う。
「交互にやるんじゃなくて、同時にやればいいんじゃない。交互にやる意味があまりなさそう」
友引が言う。
「なるほど」
池が言う。
「それもそうね」
狼垓が言う。
「自分の役柄に合わせた即興芝居をしながら、相手チームの即興芝居を妨害するってわけか」
先負が言う。
「やることが多いが、最終対決にふさわしい難易度だな。それでいこう」
池が言う。
「よし、ではそれで」
先負が言う。
「いよいよ最終決戦」
友引が言う。
「泣いても笑っても、ってやつだ」
先負が言う。
「これで決まる」
友引が言う。
「自分たちの役を守れるか失うか」
先負が言う。
「自分で守るしかない」
友引が言う。
「役は他の誰かが守るものじゃない」
先負が言う。
「自分で守るしかない」
友引が言う。
「僕らはそのためにここまで来た」
先負が言う。
「自分で守るしかない」
友引が言う。
「最後まで気を抜いてはいけない」
先負が言う。
「自分で守るしかない」
友引が言う。
「あのー、そろそろいいですか」
池が言う。
「あ、ああはい」
先負が言う。
「守るしかないけど、そろそろいいです」
友引が言う。
「さあ、これが最後」
池が言う。
「これがラスト」
狼垓が言う。
「では、最終対決、『非協力ゲーム』開始」
決戦の火ぶたは切って落とされた。
60
友引・先負組の状況はこちら。
「ハアアアアア」
「ハアアアアア」
二人は腕立て伏せをしている。
「次、腹筋」
「ハアアアアア」
「ハアアアアア」
二人はすごい勢いで腹筋を始めた。
「98、99、100」
「次、背筋」
「ハアアアアア」
「ハアアアアア」
二人はすごい勢いで背筋を始めた。
「もっと早く」
「もっと早く」
「もっと激しく」
「もっと激しく」
「こんなものでは物足りない」
「これではまだ足りない」
「これでは武術大会は優勝できない」
「優勝できない」
「もっと修行を」
「もっと激しい修行を」
「もっと強くならなきゃ」
「もっと強く」
『磯山浩介』って、こんな話だっけ。
「強くなるんだ」
「強く激しく」
「目指せ優勝」
「目指せ最強の称号」
この二人は完全にそっちの方向に行ってしまっているようだ。
一方、池・狼垓組は―――
「現場に行きなさい」
狼垓が言う。
「嫌です」
池が言う。
「なんで?」
狼垓が言う。
「事件は現場で起きているんじゃない。会議室で起きているんだ」
池が言う。
「何よそれ」
狼垓が言う。
「会議はそれだけ大切ということ」
池が言う。
「生意気言うな」
狼垓が言う。
「生意気じゃない。すべての事件は会議に始まり、会議に終わる。会議をしなければ、どのような事件も解決できません」
池が言う。
「現場百回というでしょ」
狼垓が言う。
「また始まった」
池が言う。
「何よ」
狼垓が口をとがらせる。
「それは古い刑事の考えです。スマートじゃない」
池が言う。
「事件の解決手段に、スマートも何も関係ないじゃない」
狼垓が言う。
「そう思うでしょ」
池が言う。
「何が言いたいの」
狼垓が言う。
「泥臭いのは時代遅れ。刑事も時代に併せてやり方を変えるべきです。何事もシステマティックに」
池が言う。
「古くからのやり方は大切よ。私たちの仕事は一般企業とは違うの。何でもかんでも合理性ばかり求めちゃダメ」
狼垓が言う。
「合理性は大事」
池が言う。
「合理性だけ求めてはダメ」
狼垓が言う。
「合理性は大事」
池は譲らない。
「このわからずや」
狼垓が言う。
「事件は現場で起きているんじゃない。会議室で起きているんだ」
池は譲らない。
この二人のやりとりはこんな感じであった。
「もっと早く」
「もっと早く」
「もっと激しく」
「もっと激しく」
「もっと修行を」
「もっと激しい修行を」
「もっと強くならなきゃ」
「もっと強く」
と、やっている友引・先負組。
「合理性は大事」
「合理性だけ求めてはダメ」
「合理性は大事」
「このわからずや」
「事件は現場で起きているんじゃない。会議室で起きているんだ」
と、やっている池・狼垓組。
「もっと修行。もっと強く」
「うおおおお」
友引・先負組の勢いは増してきた。
「次、走り込み」
「走り込み」
「うおおおお」
「うおおおお、走る」
友引・先負組は走り出した。
「てりゃあああ」
「はあああ」
「もっと早く」
「おりゃあああ」
友引・先負組は勢いよく走り出した。
「合理性は大事」
「合理性だけ求めてはダメ」
「合理性は大事」
「このわからずや」
「事件は現場で起きているんじゃない。会議室で起きているんだ」
「いい加減にしなさい」
「いい加減にしません」
「もう怒ったわ」
狼垓は池に向かって走り出した。
「わ」
池は逃げる。
「なんで逃げるの」
狼垓は訊く。
「急に追っかけてきたからです」
池は答える。
池・狼垓組は勢いよく追いかけっこをしだした。
「てりゃあああ」
「はあああ」
「もっと早く」
「おりゃあああ」
勢いよく走っている友引・先負組。
「もう怒ったわ」
「わ」
「なんで逃げるの」
「急に追っかけてきたからです」
勢いよく追いかけっこをしている池・狼垓組。そう広くもないスタジオ内で全力疾走しているのが二集団。となると、やはり、
「ちょ」
「うわ」
「え」
「こら」
ドシーン、となる。交錯する。
「いた」
「うわ」
「げ」
「こら」
四人、こける。
「うわ」
「うわ」
「うわ」
「うわ」
「何する」
「何するんだ」
「そちらこそ何するんだ」
「そちらこそ何する」
四人、ケンカ。
「せっかく修行してたのに」
怒る友引・先負。
「せっかく議論してたのに」
怒る池・狼垓。
「あんなのが議論に入るのか」
問う友引。
「入るわよ」
答える狼垓。
「ただの追いかけっこじゃないか」
先負が言う。
「ただの追いかけっこではない」
池が答える。
「そちらこそあんなのが修行に入るの?」
問う狼垓。
「入るわよ」
答える友引。
「ただ遊んでるだけじゃないか」
池が言う。
「ただ遊んでいるわけではない」
先負が言う。
「こんな奴ら無視無視。修行の続きよ」
友引が言う。
「こんな奴ら無視無視。議論の続きよ」
狼垓が言う。
「無視無視」
先負が言う。
「無視無視」
池が言う。
「修行修行」
「はああああ」
「いやっはあああ」
「せい!せい!」
修行を再開する友引・先負組。
「逃げるぞ」
「追いかけるぞ」
「うおおおお」
「とりゃあああ」
追いかけっこを再開する池・狼垓組。
「いやっはあああ」
「せい!せい!」
修行する友引・先負組。
「うおおおお」
「とりゃあああ」
追いかけっこをする池・狼垓組。となると、やはり
「ちょ」
「うわ」
「え」
「こら」
ドシーン、となる。再び交錯する。
「いた」
「うわ」
「げ」
「こら」
四人、再びこける。
「何するんだ」
「邪魔するな」
怒る友引・先負。
「邪魔してるのはそっち」
「そっちこそ邪魔するな」
怒る池・狼垓。
「そっちから邪魔してきた」
「邪魔をしだしたのはそっち」
怒る友引・先負。
「そんなことはない」
「邪魔をしてきたのはそっちから」
怒る池・狼垓。
「そっちから」
「そっちから」
怒る友引・先負。
「そっちから」
「そっちから」
怒る池・狼垓。
「どっちからでもとりあえずどうでもいい」
「埒があかない」
と、四人。
「修行を再開しよう」
修行を再開する友引・先負。
「議論を再開しよう」
議論(?)を再開する池・狼垓。
「修行修行」
「はああああ」
「いやっはあああ」
「せい!せい!」
と、友引・先負組・
「逃げるぞ」
「追いかけるぞ」
「うおおおお」
「とりゃあああ」
と、池・狼垓組。
このままでは三度交錯してしまう。そこで、
「ちょ」
「うわ」
「しかし、回避」
かわす友引・先負組。
「え」
「こら」
「しかし、回避」
かわす池・狼垓組。
「回避するな」
と、友引・先負組。
「回避するな」
と、池・狼垓組。
「くそ、今度こそ邪魔してやる」
と、友引・先負組。
「くそ、今度こそ邪魔してやる」
と、池・狼垓組。
「修行だ。修行だ」
「修行だ。修行だ」
と、修行する友引・先負組。
「議論だ。議論だ」
「議論だ。議論だ」
と、追いかけっこする池・狼垓組。
「修行だ。修行だ」
「修行だ。修行だ」
「議論だ。議論だ」
「議論だ。議論だ」
と、またまたまたまた交錯しそうになるが、
「しかし、回避」
かわす友引・先負組。
「しかし、回避」
かわす池・狼垓組。
「回避するな」
と、友引・先負組。
「回避するな」
と、池・狼垓組。
「くそ、今度こそ邪魔してやる」
と、友引・先負組。
「くそ、今度こそ邪魔してやる」
と、池・狼垓組。
「どうすれば邪魔ができるか」
と、友引・先負組。
「どうすれば邪魔ができるか」
と、池・狼垓組。
「今のままでは、またかわされるだけ」
と、友引・先負組。
「今のままでは、またかわされるだけ」
と、池・狼垓組。
「邪魔の仕方を変えないと」
と、友引・先負組。
「邪魔の仕方を変えないと」
と、池・狼垓組。
「どうやって邪魔をしよう」
と、友引・先負組。
「どうやって邪魔をしよう」
と、池・狼垓組。
「ぶつかることができないのであれば」
と、友引・先負組。
「ぶつかることができないのであれば」
と、池・狼垓組。
「どうすればいいのか」
と、友引・先負組。
「どうすればいいのか」
と、池・狼垓組。
「何か方法は」
と、友引・先負組。
「何か方法は」
と、池・狼垓組。
「二人で相談だ」
と、友引・先負組。
「二人で相談だ」
と、池・狼垓組。
相談を始める二組。
「けんけんがくがく」
相談する友引・先負組。
「けんけんがくがく」
相談する池・狼垓組。
「こうやつはどう?」
先負に言う友引。
「いやいや、こっちの方がいいでしょ」
友引に言う先負。
「うおらー」
友引と先負の間に割って入る池。
「どぅらー」
友引と先負の間に割って入る狼垓。
「うわあ、びっくりした」
びっくりする友引。
「うわあ、びっくりした」
びっくりする先負。
「こっちで相談しよう」
場所を変える友引・先負組。
「こういうやつはどう?」
先負に言う友引。
「いやいや、こっちの方がいいでしょ」
友引に言う先負。
「うおらー」
友引と先負の間に割って入る池。
「どぅらー」
友引と先負の間に割って入る狼垓。
「うわあ、びっくりした」
びっくりする友引。
「うわあ、びっくりした」
びっくりする先負。
「邪魔をしてやる」
と、池。
「邪魔をしてやる」
と、狼垓。
「なるほど。そういうことか」
理解した友引。
「こっちで相談しよう」
場所を変える友引・先負組。
「場所を変えても同じだぞ」
追いかけてくる池と狼垓。
「うおらー」
友引と先負の間に割って入る池。
「どぅらー」
友引と先負の間に割って入る狼垓。
が、しかし、
「ぶげら」
「ぶげら」
間に割って入った二人は鼻を抑えて悶絶。友引と先負は手にくさやを持っている。突っ込んできた二人の鼻先にくさやを突き付けたのだった。
「臭すぎて再起不能」
再起不能になる池。
「臭すぎて再起不能」
再起不能になる狼垓。
「勝利」
Vサインをする友引と先負。勝ったのは友引と先負だった。
「やった」
「役を守り切った」
喜ぶ友引と先負。
「負けた。負けたよ」
「私たちの負けだわ」
鼻を抑えながら立ち上がる池と狼垓。
「悔しいけど、『磯山浩介』はあなたたちのドラマになったようね」
狼垓が言う。
「元から私たちのドラマだけどね」
友引が言う。
「『磯山浩介』は君たちに譲り渡そう」
池が言う。
「元から僕たちのドラマだけどね」
先負が言う。
「ま、こんなドラマなんかどうでもいいけどね」
狼垓が言う。
「こんなドラマ出なくても、他にもたくさん仕事あるし」
池が言う。
「酸っぱい葡萄」
先負が言う。
「ふう、疲れた」
狼垓が椅子に座りながら言う。
「コーヒーでも飲もう」
池が言う。
「あの先輩方」
友引が言う。
「どうした?」
池が訊く。
「もうお二人は負けなんで」
先負が言う。
「さっさと退場願います」
友引が言う。
「いやー、良かった良かった」
三隣亡が言う。
「なんとか役がキープできました」
友引が言う。
「怒ってなかった、狼垓さんたち?」
三隣亡が訊く。
「まあまあ」
先負が言う。
「怒るだろうねえ」
三隣亡が言う。
「でも、最後には『勝負の結果だ。仕方ない』と言ってました」
友引が言う。
「意外と大人なところがあるんだな」
三隣亡が言う。
「最後らへんは大人しかったです」
友引が言う。
「彼らもお前たちと仕事したことで、人間的に成長したのかもしれない」
大安が言う。
「成長」
友引が言う。
「そうだ。お前たちは周りに与える影響が大きいんだろう。それだけの役者になれたということだ」
大安が言う。
「ほめられた」
友引が言う。
「調子に乗るなよ」
大安が言う。
「でも、良かったよ。仕事を失わなくて」
三隣亡が言う。
「それは本当に」
先負が言う。
「とりあえず一安心だな」
大安もうなずく。
「では、今日のところはこの辺で」
三隣亡が言う。
「この辺で」
他の三人も言う。
こうして、四人は別れた。
それで、『磯山浩介』の人気はどうなったのかと言うと、
あまりにもぶっ飛んだ内容であったため、全然人気がなく、第二シーズンをもって終了となった。結局、役を守った意味がなくなってしまったのである。
完