アンジェリカ
パパーッ!!
車がクラクションを鳴らしてすれすれを通ってゆく。
「大丈夫かい?」
僕はもう少しではねられそうだった女の子に声をかけた。
「ええ。ええ。ありがとう」
蒼白の顔は整っていて、彫刻を思わせる。僕は彼女を抱きかかえていた手を離した。
「何か気がかりなことでも?上の空だったけれど」
「時々、デジャヴがあって、いろんなシーンが見えるのよ、ベンジャミン」
「ベンジャミン?」
僕はまだ名乗っていなかったのに、彼女は僕のことをそう呼んだ。
「もしかして、きみは、アンジェリカ?」
「なぜ?」
「いや、ただ、そんな気がして」
「そうよ。アンジェリカよ。もっとも、前世の名前だけど」
「前世の名前を覚えてるの?」
「そうよ、ベンジャミン」
僕は胸元から銀のロケットを取り出して、ぴん!と蓋を開けた。
「それ、私の写真だわ!」
このロケットは僕が気がついたときにはもう手にしていたもので、中には微笑む女性の写真が収まっていた。
「地球じゃないけれどそっくりな星にくらしていたの。私たちは恋人同士だった。ある日他の星から異星人が攻撃してきて、ベンジャミン、あなたは闘いに向かってそのまま帰ってこなかった」
不思議な感覚。僕はアンジェリカの言うことが真実だと思えた。
「もうあんなことがない世界に転生させてあげるって、誰かが言ったの」
僕も誰かがもう一度幸せになるようにと転生させたのを覚えていた。
「ああ!アンジェリカ!またきみに会えた」
僕らはハグした。
往来で抱き合う二人に白い雪がチラホラと降ってきた。