●小さな集落
シエナとイシュカがギルドから出ていくのを見送ってから時間が出来たことに気が付いた。今からする事ないんだよな……そうだ集落でも様子見てくるか。小鬼に荒らされてなければ良いのだけど。
集落に行くことにして門から出てドローンに乗り少し考えた。
どうも、この惑星の生物は全体に弱いみたいだ……単にこの戦闘ユニットが強すぎるだけかもしれない、今日まで戦闘していても前のユニットでは考えも及ばない位桁外れの運動能力で『スピ』を使って急激な運動でも骨が折れることもない。走れば景色が置き去りになるし、飛べば慌てる位飛べる。
ボディアーマーの機能もあるかもしれないが潜在能力がありすぎる。剣を振っても違和感なく振れてるのはユニットが武術を記憶しているのだろう。
多分、かなりの武術の他にもいろんな技術、スポーツとか競技も詰め込んでいるだろう。でないと今まで体を動かして経験した事は到底出来ない。
他の惑星で遭遇していない未知の生物に対抗出切る様に最善の動きを的確にしてくれる優秀な戦闘ユニットだ。いずれボディアーマーを脱いで試してみないといけない。
そして、この力はこの惑星では目立ちすぎると思うし、やり方を間違うとこの惑星をひれ伏すことも出来るだろう。
外から来た私はそんなことは望まないし面倒すぎる。少しの力添え位でちょうど良いのかもしれない、そうしよう。此処の文化はこの惑星の人のものであって、外から来た私のものでない事を弁えて行動しようと決める。
そんなことを考えていると集落に着いてしまった。
山の麓より少し上にあり、傾斜が緩い平原が広がってる場所に葉を付けた木の枝を屋根にして岩を積み重ねた壁、これで生活出来るのか心配するぐらいの家が二十数個ある。
驚かしてもいけないので少し離れた場所に着陸して光学迷彩でドローンを隠す。歩いて集落に行くと門らしきものが木の枝で囲ってありそれを潜って入る。
見渡しても生物が見えない。モニターで確認するとどうも家からこちらの様子を伺っているようだ。
「こんにちは、誰かいませんか?」
少し大声で家の中まで聞こえる様に探ってみる。少しの時間が経って呆然と広場らしき場所で立っていると7人?7匹と言ったらいいのか木の棒を持って家の陰から出てくる。木の先は刺せるように削ってあり警戒しながらこちらにゆっくり向かってくる。
頭の上に耳らしきものが付いていて尻尾がある。個体差で色は違うがほぼ同じ体型。人と同じように二足歩行で歩いている。人族より少し小さいがそれ以外は人族と同じ。
モニターには猫人族と出ている。見ているとなぜか癒される。なんでだろう?ただ皆体が細いし、服は獣の皮を加工して着ている。けっして裕福ではなさそうで体も汚れているのが分る。
その7人?の中央で少し後ろから木の棒も持たずに女性?雌?が出てくる。髪の色は白に薄いグレー色の痩せてる。子供でもなさそうだがかなり若い。
「人族が何か用か」
「下の向こうで小鬼が沢山居て殲滅してきたのだが、こちらに被害が出てないか気になって来た。被害はないか?」
「何をいまさら……人族が私たちを気にするわけがない。こっちも皆殺しに来たのだろう、出ていけ」
周りを取り囲むように動いてくる。
「いや、純粋に心配で来たのだ。争うつもりはない、分かってくれ、お願いだ」
両手をあげて戦闘意志がない事をアピールした。
「何をいっている、そんな大きな剣をもって全身鎧で覆っている奴に言われたくない」
「解った、剣を置くから攻撃しないでくれ」
ゆっくりとマルチ武器に手をかけて地面に刺す、もちろん片手は手を上げたままで。
周りはビクビクと私の行動を見ててすぐに刺せるようにしていた。
「誰かその剣をこっちに持って来てくれ」
一人の男がマルチ武器に手をかけて運ぼうとするが動かない。顔は真っ赤になって両手で動かそうとしてるがピクリともしない。
剣がゆっくりと倒れだしてとうとう男を下にして倒れてしまった。男がじたばたしてるがのけることが出来なくなっている。
「……」
三人で持ち上げてやっと災難から逃れることが出来た。両手をあげているので見守るしかなかったが。
そんな時、7人の後ろから小さな女の子の声が響く。
「キャー、助けてー」
見てみると大型の銀色の蛇が走って逃げてる子供の猫人族を丸のみしてるのが見えた。7人はそれぞれ慌てて逃げようとしたり腰を落として震えたりしている。
「あぁぁ、セレン……」
女性は振り向いて驚愕の顔をして動けなく震えて両手を口に持って行っている。
今ならまだ助けられる。走り出しながらマルチ武器を拾い白蛇近くまで行き飛び上がり目と目の間を貫く。
頭を貫いたのにも関係なく胴体がのたうち回っている。一旦、引き抜き胴体が膨らんでる端を輪切りにすると子供の頭が胴体の中から見えた。
武器を放置して両手で脇に手を入れ引き抜くと子供は動いているがぬめりで息が出来ない。手でぬめりを慌てて取っているとさっきの女性もやってきて一緒に除いていく。
子供が息をしだした。体から血が出てないのを確認して、やっと安堵した。
「よかった、何も無くて」
独り言のように言葉が出ていた。子供は恐怖のあまり泣き出し女性と抱きあっている。
「あ、有難う妹のセレンを助けてくれて」
「丸のみしてたのが幸いでした。よかったです。体洗ってあげたほうがいいですよ」
「そうですね。でも、下の川までいかないと今水がないのです」
そうだよね、此処は山の麓だからそうするしかないのか。山の方に向いてみると高い山が連なって山岳地帯となってる、何かないかスキャンしてみるか。
あ、上の方に地底湖がある、そこから水を引くか。
「ちょっと待っててください」
「?」
マルチ武器のレーザー出力を下げて距離を合わす、地面にひれ伏して標準をモニターで合わして地底湖の横壁の溜まってる水の上から少し下を狙って打ち抜く。
拳大ぐらいの穴が出来た。流れるだろう反対側も水路をレーザーで作る。そうだ下もスキャンしよう。真下に向かってスキャンして横に少し移動して見つける。距離を合わして下に打ち込む。
転がってる大きな岩を持ち上げて水を貯められるように剣で彫り込んでいくと、岩を持ち上げた時点で皆に驚かれた。
人なら三人は入れる位の大きさにしてスコップで穴を掘り削った岩をちょうど水が出る位置まで入れる。排水も考えて下に穴を開け木の栓を付け、上の所にも流れる様に溝を付ける。
もう一つ大きな岩を今度は板状に一枚切り取り床にして残った岩を下から噴き出してくる受けを作り貯められるように置く。
置いたとたん下からお湯が噴き出してきた。大分前に覚えてたマントル近く約一キロ下に穴をあけると温水が出ると書かれていたのが役に立つ。ただ少し熱いみたいだ。ここでは60度近いお湯が出ているから水と合わせて入りやすくしないといけないみたいだ。
考えていると今度は水が出てきた。生活用と風呂用に岩で分岐を作って終わりになる。
辺りを見渡すと皆が集まって呆然としていたが私の視線が気になったのか逃げてしまった。
「お待たせしました」
「って、どうやって水を……」
「まず、山の中の地底湖から水を引いて生活の水に、こっちはお湯を地下から噴出させてます。で、ここで体を洗ってください」
「えぇぇそんな事出来るの、聞いたことがない」
「そういわれましても……え~と……私タクヤ・キシといいます」
「あっ、私セアラ」
「セアラさんセレンさんを洗いましょう。ちょうど皆が向こうに行ったので、それとお湯を汲むものもお願いします」
取りに行ってる間にタオル、ボディシャンプー等を出しておく。ついでだから私もユニット洗うか。マルチ武器を立てかけてボディアーマーを脱いで岩に置くと消臭洗浄が始まる。ボクサーパンツを脱いでる途中でセアラさんがセレンを連れてきた。
「えっ……あっ……その……」
そのまま振り返るとセアラが真っ赤な顔で言葉に詰まりながら視線は私の下の方を凝視していた。
「?セアラさんどうかしました?セレンさんいらしゃい、体ベタベタしてるから洗いましょうね」
「よっ、よろしくお願いします」
セアラが飛ぶように言うだけ言って戻って行った。
「お姉ちゃんはどうしたのかな?一緒に洗ってもらえると思ったのだけど……」
「さぁ?」
「そっか、じゃおじさんが洗うから服脱ごうっか」
「うん」
前に座って貰って桶でお湯を汲んで頭からかける。目に入らないように手でカバーしてシャンプーで髪を洗う、リンスをしてボディシャンプーで体を洗い、自分のユニットも洗っていく。尻尾を洗うと擽ったそうにしていた。耳はお湯が掛かってパタパタと激しく動いて水分を飛ばしていた。
薄汚れていたセレンの体が白く艶のある柔肌に変わっていく。すごく垢が出たのにはびっくりした……膜が一枚はがれたのかと思うぐらいだった。
そして、二人で湯舟に入る。セレンは小さいので深すぎるから膝の上に乗せて入ると
『あ~』
気持ちよくて二人とも声が重なった。風呂から出て髪と体を拭き櫛で髪をとかすと非常に可愛い。このままペットにしていいかなぁ、無理だろうけど……
「奇麗で可愛くなったよ。服を着てお姉ちゃんの所に行こうね」
「うん」
セレンは素早く服を着て皆の所へ走り出す。
「おねぇちゃん、おねぇちゃん見て見て」
「セレン、どうしたの可愛くなったわね。肌もつるつるだし、肌の色もなんだか変わったわ、髪もふわふわ。いい匂いもする」
「でしょ、体が軽くなったみたい。でね、泡が一杯で、ごしごしして水たまりに入ったら温かかったんだよ。気持ちよかった~」
先程蛇に食べられた事がなかったように高揚感が一杯だった。それほど気持ちよかったのか、それとも襲われることが日常茶飯事なのかもしれない。子供でも襲われることに慣れないと此処では生きられないのかも、と考えてしまう。
ボクサーパンツを履きボディアーマーを着て頭だけ収納して皆の所へ行くと、怖がられて遠巻きに構えられる。
「おい、大男の人族が何しに来た。俺達を捕まえに来たのか」
一人の男がさっきの棒をこちらに向けて怒鳴る。
「私はそんな事しませんよ。さっき言ったように被害が……」
言ってる途中で遮られた。
「もしそうだとしても、さっきのを見たよね、ガセサーペントをこの人は一太刀で殺せるのよ。私たちが全員でも無理なことよ。従うしかないでしょ?」
「あのぉ、私はそんな……」
また、遮られた。
「そうだよな、俺達では逃げるしかないものな。残念だけど従うしかない」
「それでも、戦って自由を勝ち取るしかないのでは」
話し合いがあちこちで続き、女性は俯き、中には悲壮感で泣き出す人も数人、私は放置の状態で数分見守るしかなかった。さっきまで少し距離が近づいたと思ったのに、一人の男の言動で怪しくなってる。
そして、動きがあった。覚悟を決めたように男たちが前に出てきてひれ伏した。さっきのセアラが先頭に出てきて膝をついて
「私がこの村の長、セアラです。貴方に従います、どうぞ殺さないでください」
なぜか、悪人になってないか?
「やっと聞いてくれる体制になりましたね。まず、私は貴方たちを束縛したり殺したりは致しません。これは絶対です。
下の向こうで小鬼が沢山居て殲滅してきてこちらに被害が出てないか心配になって来たのが本音です。あと、友好関係が築ければ嬉しいです」
「えっ、私たちを心配して?」
「えっ?心配したのですが?」
「人族が、猫人族を?」
「そんなの関係ない、心配するのが当たり前でしょう」
セアラが涙を流して
「すれ違っただけで嫌な顔をされて、意味もなく蹴られたり殴られたり暴言を言われ、最悪連れ去られて売り飛ばされたこともあったし、いくら頼んでも私たちには助けの手を出してくれなかった私達を心配だったからというだけで来てくれた……当たり前だと言って……嬉しい。今までどんなに望んだことか」
どうも、猫人族は虐げられていたみたいですね。セアラの肩に手を置いて
「事情は知らないですが、大変な想いをされてたのですね。私は貴方たちの味方です。これからも宜しくお願いします」
「ありがとう。こちらこそ、よろしくお願いします」
「さっきのお風呂使ってくださいね」
「お風呂?」
「お風呂知らない?お湯を貯めた岩の事です」
「あぁ、お風呂って言うのですか?」
「です、使い方はセレンさんに聞いて使ってください」
「その、使うのは良いのですがあのままだと見えちゃうので……」
モジモジしながら思い出したように顔を赤くしていた。
「?使いにくいのでしょうか、何か遮る物ありますか?」
他の男性から
「それならさっき倒したガセサーペントの皮を利用したらどうかな?」
「任せてもよろしいですか?」
「良いけど切る物が無くて……」
「では、このサバイバルナイフで」
腰から取り出し男に渡す。
「すげぇ、よく切れそうだ。これならいけると思う、やってみるよ」
「よろしくお願いします。肉も切って食べてください」
「良いのかい。絶品の美味しさで貴重な肉らしいしお前が倒したものだぞ」
「良いですよ、皆さんで食べましょう、調味料はこれを使ってください」
肉用の万能調味料で胡椒、ニンニク、ハーブ、塩、出汁等を粉末にしてかけるだけで美味しくしてくれる調味料を渡す。皆が沸き立つ。中には久しぶりの食事だとか言ってる人もいる。
有難うございました