兄と親友
「一体、何があったの?」
ミランダは親友の肩に手を置いて、真っ直ぐに見詰めた。
「兄さんは、もう、出入りしなくていいの。いいえ、できないの。だって……、だって……」
大粒の涙がオードリィの目尻から零れ落ちる。突然のことにミランダは驚いた。その彼女の目の前で、親友は両手で顔を覆って泣き崩れる。
「兄さんは……、兄さんは……」
溢れる涙を止められないままのオードリィを、ミランダは根気強く励ましつつ話を聞き出した。やっとのことで二週間前に彼女の兄ルークが亡くなったことを把握する。
「そう、だったんだ」
ミランダは話を聞き終えて深い溜息を吐き出した。その表情はどこかサバサバしているように見える。目尻をこすっていたオードリィはそのような彼女の様子を見咎めた。
「何よ、その嬉しそうな態度は?」
「え……?」
涙声のオードリィに指摘されて、ミランダは返答に詰まる。
「兄さんが死んで嬉しいの?」
「そ、そんなんじゃないよ。ただ、ね……」
ミランダの表情が曇った。
「ルークさんから、付き合ってくれって言われたことがあって……」
「え?」
オードリィは我が耳を疑った。ミランダは二年ぶりにこの街に帰って来たのだから、そのような言葉は彼女が十六歳の頃、兄は十九歳の頃の話だ。
「だけど、断るつもりだったんだよ。親友の兄さんに、そんな気持ちになれないしさ」
慌てたようにミランダは付け足した。だが、その言葉はオードリィの耳に届いていない。彼女の頭の中は、死んだ兄のことで一杯だ。
「ところでさ、一つ頼みたいんだけど、いいかな?」
オードリィは、我に返って首を傾げる。
「改まって、どうしたの?」
「実は……、泊めて貰える?」
「何かと思ったら。親友でしょ、遠慮しないで」
「ありがとう! やっぱりオードリィは優しいね」
飛び上がらんばかりにミランダは喜んでいる。そのような彼女を見ながらオードリィも心が安らいでゆくのが自覚できた。独りの夜は、もう耐えられなかったのだ。
「それじゃ、買い物に行かなきゃ」
「あたしも一緒に行くよ」
オードリィが立ち上がるとミランダは装備品を外し始めた。鎧を脱いで肌着姿になった彼女は、長靴を鎧の脇へ置く。オードリィは部屋から持って来た服と靴を差し出した。ミランダは借りた服の上から腰帯を巻いて愛剣を吊す。
「それは?」
「世の中、物騒だからお守りみたいなものよ」
ミランダの姿ほ腰の剣を除けばその辺りにいる少女と何ら変わりなく、二人は連れ立って市場へ向かう。昼過ぎの市場は往来が激しく、巡礼者の集団や荷物持ちなどがせわしなく行き来していた。その中を二人の少女は縫うようにして歩く。雑貨、青果、精肉、鮮魚。ありとあらゆる品々がこの聖都には集まってくる。
声の想定
オードリィ 上田麗奈さん
ミランダ 瀬戸麻沙美さん




