兄の想い
「さあ、おあがりよ」
兄は手料理を勧めて来る。オードリィはお酒を一口ほど口に含んでから、中身をほとんど残したグラスを置いて匙を手にした。
「遠慮せずに、飲めばいいぞ」
ルークは食べながら話す。酒類は庶民が手にすることは少ない飲み物だ。まず第一にエル・サルモンでは消費量が少なく、供給量もそれに比例して少なかった。供給量が少ないと言うことは、それだけ値段も高くなる。そうした理由で、妹がお酒を遠慮しているのだと兄は勘違いしていた。
「うん……」
彼女は不慣れな飲み物であったために少しばかり閉口していた。それでも兄の勧めもあって半ば無理矢理に喉の奥へと流し込んだ。彼女のグラスが空になると兄が再び注ぐ。食事を済ませる頃には彼女の知らぬ間に酔いが回っていた。
「オードリィ、大丈夫か?」
酩酊状態で今にもテーブルの上に突っ伏しそうな彼女を見て、ルークは心配そうに声をかけた。
「……う?」
混濁しそうになる意識を気丈にも繋ぎながら、彼女は何とか踏みとどまっている。
「後片付けはしておくから、もう寝ればいいぞ」
「ん……、それじゃ、おやすみなさい」
ふらつく足取りで彼女は自部屋へと入ってゆく。入りかけたところで振り返り、兄にもう一度だけ声をかけた。
「兄さん、ありがとう」
返事を待たず、彼女はさっさと扉を閉めてしまう。ルークは卓上を片付け始めた。食器を全て洗い場へ持って行く。オードリィは食器を洗う音を聞きながら、いつしか眠りに落ちていた。
「さて寝るか」
ルークは戸締まりを確認してから灯りを消す。自分の部屋に入る前に妹の部屋の前に立った。最後の戸締まりの確認に来たのだ。ノブを握り、ゆっくりと回す。扉は抵抗なく開いた。
「……」
その時、彼の脳裏に邪まな考えが過った。それを頭を振って追い出そうとしたが、ひとたび湧き上がったそれは逃れない。
「妹なんだぞ」
ルークは自らに言い聞かせる。だが言葉とは裏腹に体が勝手に動いて、彼女の部屋の中へ入っていた。目の前には服を脱いだままの妹が無防備に寝息を立てている。彼女の身体は程良く成長し、街中を歩く魅力的な女性に負けず劣らずだった。その彼女の胸が呼吸に合わせて上下しているのを見ると、彼はいても立ってもいられなくなった。脈打つ心臓が口から飛び出すのではないかと言うほど緊張しているのが自覚できた。忍び足で彼は眠る妹の傍らに立ったが、彼女は目を覚まさない。もしも理性を失ったのが夕飯に飲んだお酒のせいだと言えばそうかもしれない。それとも前々から彼にはそのような願望があったのだろうか。妹を自らのものにするという暗い願望が。
声の想定
オードリィ 上田麗奈さん
ルーク 松岡禎丞さん




