休息
「う……」
目覚めるとそこは部屋の中だった。
木の天井が見える。
暖かい布団とスープの匂い。
ベッドの横には小さな棚。
一輪挿しに花が飾ってある。
窓の外から聞こえるのは、子供達の声。
ガルディスは体をベッドから起こしてみた。
「……っ」
包帯が巻かれている。
が、まだ傷は痛い。
そこに、スープを手にしたティナが現れた。
彼女は驚いた表情でスープを棚に置くと、ガルディスに言った。
「ガルディス、気がついたのね! でも駄目だよ。まだ横になってなきゃ」
ティナがガルディスを横にする。
ガルディスはティナに尋ねた。
「ここは?」
「バルーチェさんの家よ。気絶したあなたを寝かせたいと言ったら、快くベッドを貸してくれた。手当ても手伝ってくれたしね」
「そうか。バルーチェさん……」
「アタシの家の隣に住んでた人よ。覚えてない?」
「いや、いっつも俺達を笑わせてくれた人だろ? 確か、パントマイムとかして」
「クスッ。そうそう。面白かったわね。あ、温かいうちにスープを飲んで」
「ああ」
優しい手つきで、ティナがスープを口に運んでくれる。
ガルディスは照れながらも、それを飲んだ。
「旨い」
「そりゃそうよ。アタシがあなたの為に作ったんだもの」
「悪いな。ティナ。迷惑かけて」
「ううん。アタシは、あなたが戻って来てくれて嬉しい」
ティナの顔が真上に来る。
プルンと上品な唇。
ガルディスはフッと笑った。
「ガルディス……」
「ティナ」
目を閉じる。
挨拶代わりの、軽いキスを交わした。
一方外ではバルーチェさんが、シトラス、ジェニファー、ロック、ルナンに芸を披露していた。
久しぶりの観客に張り切っている。
コミカルな動きのパントマイムに、シトラス達は大笑いしていた。
「あら嬉しいね。こんなにウケるとは。わたしの腕も鈍ってないね。あらよっとっと」
酔っ払って壁にぶつかる人のフリ。
実際には壁は無いのに、そこにあるように見えるのは不思議。
体の動きと表情が可笑しい。
そこにコントも加える。
「あ〜、ヒック。そこのお嬢さん。眼鏡が素敵ねえ。わたしゃあなたに目が無いわ〜」
「あははははは」
「ヒック。あ、わたしも眼鏡持ってます。ほ〜ら、レンズが黒くて、これが本当の色眼鏡〜。で〜も、何にも見えませ〜ん」
「ははははは」
「どうも、ありがとうございました〜」
パチパチパチパチ。
拍手が鳴り響く中、歩いて来たのはガルディスとティナの二人だった。
「相変わらずやってますね。バルーチェさん」
「おや、ティナちゃん。それに、ガルディスも。目が覚めたんだね。良かった」
ティナの肩を借りて立っていたガルディス。
シトラスとロックが代わりに支え、ゆっくりと、仲間達の輪の中に腰を下ろす。
バルーチェさんも座った。
「バルーチェさん。どうも、ご迷惑をかけました」
ペコリと、ガルディスが頭を下げた。
「本当だよ。ずっと心配してたんだ。君が魔王に連れ去られた日から。君の死も覚悟してた。びっくりしたよ。聖霊に会いに行ったシトラス達が、いきなり気絶した君を抱えて来るから」
「……すみません」
「いや。だいたいの話は聞いた。苦労したんだね。わたし達の方こそ済まなかった。君を守る事ができなくて。けど、無事で帰って来てくれて良かった」
「バルーチェさん……」
「お帰り、ガルディス」
「ただいま」
お互いに顔を見合せて笑う。
一瞬で、あの頃に戻った。
今みたいに土の上で、バルーチェさんの芸に笑い転げていたあの頃に。
「それにしても、大きくなったね。ガルディス」
「はい」
「時の流れは早いね。わたしの中では、ティナちゃんもガルディスも、まだほんの子供だったのに」
「………」
「君達の両親も、喜んでいるだろう。兄弟二人、再会できたんだから」
「はい! これからは、兄さんと一緒に頑張ります」
「頼れる弟じゃないか。ガルディス」
「ええ、まあ……。まだ子供ですけどね」
「ブー。俺だって勇者だぞ〜」
「はいはい」
「大丈夫ですよガルディス様。わたくし達もお供致します」
「オレもいる事、忘れてもらっちゃ困るぜ」
「あたしも〜」
「なんだか、旅が賑やかになりそうね。ま、嫌いじゃないけど」
懐かしい地での休息は、シトラス達に活気を与えてくれた。
笑顔に花が咲く。
いつまでも、こんな日が続けばいいのに。
だから、魔王を早く倒さないと。
しかし、焦ってもいけない。
バルーチェさんのご厚意で、傷ついたガルディスをもう少し休ませる事にした。
ティナとルナンがガルディスの側についている。
シトラス達はその間に、聖霊グラニーにメモリーリングの事を聞こうと、神殿に向かった。
「グラニー」
「あんた達、どうしたの? あたちの美貌に会いに来た?」
「いえ。メモリーリングの有りかを聞きに来ました」
グラニーはプイッと膨れる。
何か気に触る事をしたのかな。
「もう、シトラス。そう言う時は、嘘でも会いに来たって言うの。乙女は喜ぶから」
「す、すみません」
「まあ、いいけどね。あんた達、すぐメモリーリングを取りに行くの?」
「いいえ。とりあえずこの後は、アルズベルト村に行く予定です」
「あたし達が、両親に会いたいと言ったから……」
「それに、シトラスの姉さん、サララさんのお墓に参りに行くんです」
「サララ……。魔族に殺された女性だね。分かった。じゃあ今は墓参りの事だけ考えて。終わったらもう一度あたちの所に来るといいよ」
「グラニー……」
「さぁ。きっと両親も待っているよ。あ、これ、持って行きなよ」
グラニーがパッと手を振ると、花の束が現れた。
さすがは大地の聖霊。
こんな事もできるのか。
「お姉さんの墓に供えるといいよ」
「あ、ありがとうございます」
グラニーから花を受け取り、シトラス達は神殿を出た。
彼女の言う通り、今は墓参りの事を考えよう。
ガルディス達と合流し、船に乗る。
本当は、不安が無い訳じゃない。
けど、行ってみなきゃ分からない。
アルズベルトは、どんな風に迎えてくれるのだろう。




