兄と弟
「飛翔斬!」
空中からシトラスが剣を振り下ろした。
その剣をガルディスも剣で受け止める。
ガッチャーン。
金属音がぶつかり合う鈍い音が響いた。
シトラスは力を込める。
しかし浮かんだ状態ではガルディスに及ばず、飛ばされる。
クルッと回転して着地した。
もう一回行く。
「演舞斬!」
「むっ」
ガルディスの脇腹をかすった。
このまま五月雨に繋げる。
はずだったのだが、ガルディスの闘気の方が早かった。
シトラスを助けようとしたティナにも、波動が襲う。
二人は床を転がった。
「シトラス! ティナさん!」
ロックが立ち上がり、矢に闘気を込める。
「ほう」
ガルディスはそれを、余裕の笑みで見ていた。
「行っけ〜〜!」
光る矢が飛んで来る。
斬!
剣で真っ二つにした後、ガルディスはロックに攻撃を放った。
「衝雷斬!」
「ああああああっ!」
ロックは倒れる。
側にいたジェニファーと、気がついたルナンは震えていた。
そこに、
「ちょっとあんた。あまり暴れんじゃないわよ。あたちの神殿が壊れちゃうでしょ!」
グラニーだ。
彼女は土で出来た大きなハンマーを、ガルディスの頭上に向けて振り下ろした。
哀れ彼はその場に伸びる。
「ちょっ、グラニー様。ガルディス様が死んじゃいます!」
「えっ? 大丈夫よ。これ軽いから」
「けれど、こんなに美形なのに、ヒキガエルのように潰れてしまわれて」
「ヒキガエルって、あんた可愛い顔して毒舌だね」
「まあ、申し訳ございません」
「いいけどね。別に」
言った通り、ガルディスは息をしていた。
グラニーは服の上に手を添えて、調べる。
難しい顔をした。
「これは……。こんな怪我を……。多分魔王によって負わされたんだね。ひどいな。こんな状態で戦わせるなんて」
「グラニー?」
「シトラス。早く闇を祓わないと、ガルディスは死ぬよ」
起き上がったシトラスにグラニーが忠告する。
シトラスは慌てた。
無論仲間達も。
「そんな、兄さん……」
「ガルディス様……」
「何ためらってるのシトラス。紋章の力を使うの!」
「は、はい!」
横になって気絶しているガルディスに、紋章の力で触れれば闇は祓えるだろう。
シトラスは気を溜め始めた。
その時、
「無駄だ」
全身から黒い気を放ちながらガルディスが目覚める。
シトラス達を睨んだ。
グラニーが呼び掛ける。
「ガルディス駄目! これ以上やったら、あんたは死ぬよ」
「構わん」
「ガルディス!」
ティナが前に立つ。
さっきルナンが呼び掛けた時、ガルディスは反応した。
という事は、心が残っているという事。
「ガルディス。あなた言ったよね。必ず戻って来るって。約束だって。だからアタシ待ってた。あなたの言葉を信じて待ってた。今、ここが何処だか分かる? セントミディアだよ。アタシ達が生まれた場所だよ。バルーチェさんが帰って来たんだよ。またみんなで会おうって。村が、再生するんだよ」
「……う」
剣を振り上げる。
けど、腕が動かない。
「ガルディス! 帰って来て、アタシ達の下へ! シトラスも、ずっとあなたを待ってたんだよ!」
涙……。
その涙を見た途端、ガルディスの中で何かが壊れた。
剣を落とし、頭を抱える。
苦しい。
「ガルディス!」
「これは、闇と戦ってるよ。もう少し。もっと呼び掛けるの!」
「ガルディス、しっかりして。アタシよ、ティナよ!」
ティナ……。
その涙は、あの時と似ている。
そうだ、あの時。魔王にさらわれた時。
(ティナ! 必ず戻って来るから。約束だ!)
思い出した。
ティナは俺との約束を、ずっと待っていてくれたのか。
そして俺も、彼女の下へ帰ろうと。
ずっと、もがいていた。
「ティナ……」
「……! ガルディス、あなた……」
「どうやら、心が戻ったね。ん? 待って、まだよ!」
せっかく正気に戻った瞳の色が、闇に染まって行く。
魔王の仕業か。
本当に、ガルディスを殺す気なのか。
剣を拾う。
ティナに斬りかかった。
「飛天狩射!」
ティナに剣が当たる前に、ロックの矢がガルディスの肩に当たる。
動きが止まった。
右肩の、紋章が見える。
「今よシトラス! あんたの兄さんを取り戻すの!」
「はい!」
兄さん、今、助ける。
俺の代わりに魔王に捕らわれて、ずっと苦しんでいた。
今度は俺が、兄さんを救うんだ。
「ガルディス。いや兄さん。ティナさんが教えてくれた。あなたは俺の、兄さんなんでしょ? ゴメンよ。俺の代わりにあんな場所へ。ずっと俺を導いてくれたのに、救う事ができなくて……」
頬を流れ落ちる雫。
シトラスの紋章が光る。
その思いが、ガルディスにも伝わって。
ピカアッ。
(シトラス、俺を……)
「これは、一体どういう事でしょう? ガルディス様とご主人様の紋章が光って……」
「紋章が、共鳴してるの。勇者の思いが、一つに」
操られたガルディスの体が、シトラスを殺そうと走る。
シトラスも、剣を握った。
「兄さん! 俺はあなたを助ける! 一緒に戦おう。一緒に魔王を倒すんだ!」
「うおおおおお!」
「兄さ〜ん!」
シトラスの五月雨が、ガルディスを吹き飛ばした。
闘気のこもった剣だ。
ガルディスは倒れ、動けない。
「兄さん!」
シトラスが、ガルディスを抱き起こす。
ロック達も回りに集まった。
ガルディスが話し出す。
闇は、消えたようだ。
「俺を、兄と呼んでくれるのか……。魔王軍の使者として、お前を倒そうとしたのに……」
「それは、仕方なかったんだろ? 本当は、俺を導いてくれてた。だから俺は、あの頃より、強くなれたよ」
「シトラス……」
「兄さん。俺、兄さんに側にいて欲しい。俺と一緒に、戦って欲しい。いいだろ?」
「……ああ」
ガルディスは、シトラスを抱く。
「ありがとう。そして、済まなかった」
だが彼は、そこで意識を失った。
「兄さん、兄さんっ!」
「これは、傷がひどい。それに闇の影響もあるね。あたちじゃ回復できないから、何処かで休ませてあげた方がいいよ」
「それじゃシトラス。バルーチェさんの所は?」
「ああ、そうだな。ここから近いし、話してみよう」
バタバタと、シトラス達は神殿を出た。
グラニーに礼を言う暇無かったけど。
また、多分後で来るから。




