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セントミディア

 ピカアアアア。


 シトラスが懐に入れていた、水のオーブが光っている。

 誰かの声が聞こえた。


(シトラス。目を開けるのです。シトラス)


 気絶していたシトラスは、その声に反応して目を開けた。

 仲間達も起きる。

 嵐に飲まれ、沈没したと思われた船は、無事だった。

 それどころか、自分達も甲板にいた。

 青く優しい膜が包んでいる。

 この力は……。


「アクアリーゼ。あなたはアクアリーゼですか?」


 清らかな声が、笑う。


(そうです。怪我はありませんね、皆さん。水のオーブを通じて、あなた方の危機を感じました。ですから、私の力を、貸しただけです)

「ありがとうございました。おかげで助かりました」

(いいえ。これから三人目の聖霊に会えるというのに、こんな所で死んでもらったら困りますからね。あなたには、是非メモリーリングを手に入れて、魔王を倒してもらわないと)

「はい、分かっています」

(あなた方には、期待していますよ。シトラス、ジェニファー、ロック、ティナ、ルナン)

「ええ。任せて下さい!」


 アクアリーゼの膜は消えた。

 嵐は収まっており、波も静かになっている。

 これもアクアリーゼの力なのか。

 船の方向は?

 方位磁石と地図で確認する。

 良かった。ドグアック大陸の方向になっているみたい。

 よし、このまま進もう。


「シトラス……」

「どうした? ジェニファー」

「あたし、死ぬかと思った」

「わたくしもです。もう駄目かと思いましたわ」

「アクアリーゼがいなかったら、危なかったな、オレ達」

「そうだな」

「水のオーブを手に入れてた事も、幸運だったね。それが無かったら、アクアリーゼと繋がらなかったかも」

「そうですね。正に……」

「大ラッキー!」

「わ〜〜! ジェニファー。俺の台詞を取るなあ!」

「ハハハハハハ」


 楽しい笑いを乗せながら、船は全速前進、ドグアック大陸、もといその周辺へと突き進む。

 やがて夜。辺りは真っ暗。

 前方を照らす明かりを点ける。

 しかし、このまま進むのは危険でもある。

 ならばいっそ、


「船を停めるのですね。ご主人様」

「うん。なるべく危険は犯したくない」

「リーダーとして、正しい判断だねシトラス。アタシも賛成だよ」

「ならば、あまり前方を照らすのは周囲に迷惑なので、甲板の明かりだけ点けておきますか?」

「迷惑と言ったって、海の上だけどね。それに甲板の明かりがあかあかと点いていると、モンスターに狙われやすいって聞いた。ここは部屋の薄明かりだけ点けて寝よう」

「了解致しました」


 夜。特に夜行性の空を飛ぶモンスターが何か光る物を見つけると、そこに獲物がいると判断して襲って来る場合がある。それは海の上で起きやすく、漁師の船なんかが危ないという話を聞いた。だから船乗り達は大抵、体を鍛えている。

 こうしてシトラス達は眠りについた。

 そのおかげか、その夜は何も起きなかった。

 まあ、起きないに越した事は無いけど。


「お早うございます。ジェニファー様」

「お早うルナン。早いね」

「はい。朝食のご準備をしていました。あ、ティナ様も。お早うございます」

「お早う」


 続々と、勇者一行が起きて来た。

 予定では、今日セントミディアに到着する日。

 朝食の後、船を動かす。

 昨日の嵐が一転。晴れてポカポカしていた。

 やがてジェニファーが叫ぶ。


「見えたよ。あれ、ドグアック大陸じゃない?」


 村らしき物。遠くに山も見える。


「あれはジングー村かな。ティナさん、南下していいですか?」

「いいよシトラス。仰せのままに」


 大陸に沿って南下する。

 城を確認した所で、船を停めた。


「アタシの記憶によると、この辺りにセントミディアがあるはずなんだよね」

「オレ達、前にこの城を訪ねましたけど、島があったなんて気づきませんでした」

「あの時は、初めての街に浮かれてたからよ」

「そうだな。俺も海の方見なかったし。それにしても、見当たりませんね」

「そう言えば、聖霊フレイルがおっしゃっていましたよね。水と炎のオーブが、導いてくれるって」

「そう言えば、そうだな」


 シトラスは二つのオーブを出す。

 その時、ルナンが何かを思い出した。


「あ〜〜! そう言えばご主人様。お墓参りのお話はどうなりました?」


 シトラスは大きな声にびっくりして、オーブを落としそうになる。


「ちょっとルナン。驚かせないで。心臓止まるかと思ったよ」

「申し訳ありません。しかし本当に止まったりしたら困ります〜」

「そりゃそうだよ。ジェニファー、ロック、どうする?」


 シトラスは二人に聞いた。


「あたしは……、正直言うとジングー村を見た時、懐かしいって思ったの。アルズベルトを出てから随分経っているし、パパとママに会いたいって気持ちもある。それが、どんどん強くなってる。けど、シトラスが嫌だって言うなら、我慢するよ」

「オレ達、船を手に入れる前に一度、ジングー村を訪ねた事あったよな。神父さまの弟さんに、占って貰う為に。その時は、アルズベルトに帰らなくていいって思ってたけど、どうしてだろう。今は、帰りたいって思う。サララさんにも、会いたいって思う。きっとあの通信できるクリスタルのせいだな」

「ジェニファー、ロック……」


 泣き出しそうな二人の姿に、シトラスまでうつむいた。

 ルナンが心配する。


「ご主人様……」

「ルナン。俺も一度、姉さんの墓参りに行かなきゃって思ってたんだ。けど、今帰ったら、神父さまや村の人達に甘えてしまうような気がして。いや、そうじゃない。怖いんだよ。みんなが本当に俺を受け入れてくれたのか知るのが、怖いんだ」

「シトラス……」

「ティナさん。俺変ですよね。臆病ですよね」

「そんな事ないよ。弱くて臆病だから、泣けるんだよ」

「ティナさん、ありがとう。ジェニファー、ロック。もう少し待ってくれないか? 三つ目のオーブを手に入れたら……。そしたら、行こう」

「分かったよ。シトラス」


 二人は頷いた。

 水と炎のオーブ。

 シトラスは改めてそれを掲げた。

 二つのオーブから出た光が、海を照らす。

 結界の中に隠されていた島が姿を現した。


「これが……」

「間違いない。セントミディアだよ」


 シトラス達を、懐かしい島が導いた。








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