故郷へ
フレイルが出口だと言って示してくれた階段の先に、光が見えて来た。
が、出口に近づくほど道が狭くなってきている。
穴があった。
人一人、やっとかがんで通れるほど。
シトラス達は順番にくぐった。
「あ……」
太陽の光。
洞窟の中はさほど暗くなかったが、やはり太陽の光は眩しい。
汚れた服の砂をはらい、背を伸ばす。
「ご主人様」
「ルナン」
「これから、ご主人様の故郷へ向かうのですよね」
「ああ。ティナさん、行き方を知っているのはあなただけです。道案内、お願いします」
眩しい太陽の光を避けるように、額に手を当て遠くを見つめていたティナは、シトラスの言葉に振り向いた。
「あ、ああ……」
「ティナさん、大丈夫ですか?」
「ああ。平気だよシトラス。ちょっと昔の事を思い出しただけさ」
ティナは元気に笑って見せた。
その笑顔が無理してるように見えたシトラスは、ティナに止めようかと問いかけた。
ティナは怒る。
「シトラス、何言ってるんだい? 聖霊がそこにいる以上、行くしかないだろ。それに、アタシも勇者の仲間だ。辛くても、悲しくても、行かなきゃならない時は行く。勇者をサポートするのが、アタシ達の役目だ」
「ティナさん……」
「だから、そんな顔しちゃ駄目。あんたは勇者なんだ。自覚を持ちな」
「はい!」
「それで、ティナさん。あたし達、何処に向かえばいいんですか?」
「そうね。とりあえずジェニファー。ギー婆さんの家までテレポートできる? 挨拶した後、船に乗りたいし」
「オーブが二つ揃った事、話したいですからね。分かりました。飛びます」
船はまだ、ギー婆さんの家の近くの砂浜に停めてある。しっかり固定してあるので、波に流されるって事はないだろう。
お互いに手を握る。
「テレポート!」
ビュン。
彼らは空間を割き、時間の中を飛んだ。
ギー婆さんの家。
このお婆さんには、実は家族と呼べる者はいない。
賢者だった祖先の血を受け継ぐ者は、もう彼女一人なのだ。
元々、ウマイーノ街に住んでいた彼女。
しかし、突如モンスターが現れ、彼女以外の家族全員殺されてしまう。
ギー婆さんと同じく力を受け継いだ彼女の息子、その嫁、そして生まれたての赤ん坊まで。
愛する者を失ったギー婆さんは、街の人々を守る為、一人、街を後にする。
森を抜け、この浜辺の小屋にたどり着く。
知り合いの漁師の物だったが、その主ももういない。
ならばこのままにしておくのは勿体無いと、使わせて貰う事にした。
掃除をして、生活できるようにする。
こうしてギー婆さんは、この場所に住み始めた。
普段無愛想で、人を寄せ付けない雰囲気を醸し出しているのは、賢者だと悟られて、周りの人々を傷つけられるのを恐れた為。
しかし根は子供好きで穏やかな人なのだ。
森で生活する人々、特に子供達に勇者の絵本を読んであげた時などは、にこやかで優しかった。
ルナンは、それを覚えていた。
たまにこの家に、ウマイーノ街でギー婆さんの知り合いだった人が訪ねて来る。
今日も、一人来ていた。
若い大工だ。
「ギー婆さん。屋根の修理が終わったよ。これで雨漏りはしないはず」
「いつも悪いの。こんなババアの為に」
「何言ってるの。ギー婆さんが優しい人ってのは、みんな知ってる。それより、何度も言うけど、街に帰って来ないの?」
「孫みたいな、いい子達に会ったんじゃ。わしが街に行ったら、またその子達に会えなくなるじゃろ」
シトラス達に出会った事。
その事はギー婆さんにとって、とても嬉しい事だった。
勇者の絵本を、子供達に読んで聞かせてたのは、過去にこんな英雄がいたという事を知って欲しかったから。そしてもう一つ。何処かにいる現代の勇者にこの話が届いて、いつか会えたらいいなと思っていたから。
だから実際にシトラス達に会えた時、ギー婆さんは願いが叶ったと喜んだ。
心の隅に、無念を果たして欲しいという思いを抱えながら。
そんなギー婆さんの下に、ジェニファー達が落ちて来る。
ドカンッ。
勢い余って庭に不時着する。
シトラス達は腰をさすった。
「う〜、痛ててて」
「ごめ〜んシトラス。コントロール間違えた〜」
「もう。気をつけてよジェニファー。ダンサーにとって腰は大事なんだから」
「は〜い」
「お、お前達……」
急にシトラス達が落ちて来て、ギー婆さんは目を見開いてびっくりしている。
シトラスは右手を上げて挨拶した。
「あっギー婆さん。久しぶりです。元気ですか?」
「おお元気じゃぞ。しかしどうしたお前達。あまり年寄りを驚かすんじゃないわい」
「へへ。すいません」
「あの、ギー婆さん。この子達は?」
若い大工は突然の事に状況が飲み込めない。
ギー婆さんはそっちを見た。
「おお、この子達がさっき言った孫みたいな存在の子達じゃ。魔王を倒すのに、旅をしておる」
「そ、そうなんだ。若いのに凄いな」
大工の人はシトラス達と軽く会釈をすると、ウマイーノ街に帰って行った。
ギー婆さんが家に誘う。
「あ、でも俺達、庭を……」
「いいのじゃ。庭は直せばいい。それよりわしに用なんじゃろ?」
「あ、はい!」
お茶を頂きながら、大陸の果てで聖霊に出会った事を話す。
炎のオーブも見せた。
「そうか。無事に二つ目のオーブを手に入れたのじゃな。それにしても、綺麗なオレンジ色じゃ。夕日の色に似てるかのう」
「そうですね」
「して、いよいよ三つ目か。それが、お前達の故郷にあるとは……」
「ギー婆さん。俺達行きます。行って、必ずオーブを持って来ます」
「行っといで。わしも待っておるよ。お前達に、魔法を教えると約束したからのう」
「はい!」
「元気でな。怪我だけは無いようにな」
「はい。ギー婆さん、また会いましょう」
孫を見送るように、ギー婆さんは手を振った。
シトラス達に、亡くなった赤ん坊を重ねているのか。
船はちゃんと、その位置にあった。
錨を外し、波の上へ。
「では、ティナさん」
「ああ。シトラス、ジェニファー、ロック、ルナン。セントミディアに向けて、出発!」
「お〜〜!」
甲板に、決意の声が響いた。




