三人目の聖霊の居場所
「テュ、テュッティ!」
魔王の側で守護をしていたドラモスの下に、気を失ったままのテュッティが運ばれて来た。
目を開けない。
聖霊フレイルの炎で、体中火傷を負わされていた。
「魔王様、これは、勇者どもの仕業ですか!?」
いつも冷静なドラモスでさえ、大事な部下が傷ついたとなれば、怒りが湧く。
「いや。勇者達も攻撃したが、ここまでしたのは聖霊の力だ」
「聖霊の……。やはり、テュッティでは及びませんでしたか」
「まだ子供。しかし魔族の一員だ。お前はテュッティの実力を計る為に、戦闘に出したのだろう?」
「はい」
「なら後悔するな。テュッティは頑張った方だ」
「そうなのですね」
二人が話をする接見の間に、スーリアが入って来た。
「魔王様……」
「スーリア。調子はどうだ」
「適切な処置をして頂いたおかげで、痛みはほとんどございません。ただ、トーラとターラに関しては、もう少し様子を見ております」
「その方が良い。あの二人も、大分やられたからな」
「それよりも、テュッティはどうなさいました?」
彼女は横たわるテュッティを見て、心を痛める。
「うむ。炎の聖霊にやられた。これから治療を受けさせる」
「その方が良いと思います。その様子では」
「うむ」
手を叩き、魔物を呼ぶ。
テュッティは運ばれて行った。
ドラモスも心配して一緒について行く。
魔王ダイロスとスーリア二人きりになった。
「魔王様。もう一つよろしいでしょうか? ガルディスの事なのですが……」
「お前も薄々気づいていただろう。わたしとドラモスが危惧していた通りだ。奴は、人間と通じていた」
「……え?」
「それでも、お前はあやつを信じるのだろうな。だからわたしはあやつの心を奪い、勇者討伐に行かせた。だが、それも失敗したなら、お前にも、覚悟を決めてもらわなければならない」
「それは……」
「できぬのか?」
「いえ。ガルディスは元々人間。我々が利用する為に連れて来た者です。こうなる事も、ある程度予測できていました」
「だが、辛いのだろう? お前は、あやつを好いていた」
「………」
「あやつが裏切ったなら、お前が殺してやればいい。そうすれば、誰の物にもならぬ」
「はい」
スーリアは接見の間を出る。
泣いている姿を、誰にも見られたく無かった。
涙がこぼれる。
ダイロスは、部下思いだ。
その思いが、今は、痛かった。
炎の洞窟内。
フレイルによるシトラスとロックの闘気の修行が続けられていた。
ジェニファー達はおしゃべりしながら眺めている。
「順調のようですね。ご主人様達の修行は」
「そうね。あの二人の事だし、元々素質があったんじゃない?」
「お二人と長い間親交があった、ジェニファー様ならではのお言葉ですね」
「うん。シトラス達の事なら、良く知ってるよ」
「その話、良〜く聞かせて貰いたいな〜。いつからシトラスの事好きになったの? ジェニファー」
ティナがジェニファーにピタッとくっつき、聞き耳を立てる。
ジェニファーは真っ赤になった。
「そ、それは……」
「わたくしもお聞きしたいです。ジェニファー様」
もう、ルナンまで。
ジェニファーは言葉に詰まった。
その時、シトラスの声が響く。
「ティ、ティナさん。余計な事聞かないで下さいよ」
「シトラス、あんた、闘気の修行してたんじゃないの?」
「隣でそんな話されたら、集中できませんよ」
見ると、シトラスも赤くなっていた。
ロックは吹き出している。
ティナはニヤッとした。
「ふ〜ん。やっぱし。シトラスあんたも気になるんだ」
「なっ。そ、そんな事ないですよ!」
「どうだか。素直じゃないわね〜。まぁいいわ。この話は取って置いて、あんたは集中しなさい」
集中しろと言われても。
シトラスはフレイルを見た。
彼は穏やかに微笑む。
「すみません、中断してしまって」
「いいよ。それにしても君は器用だね。集中している時に他の話が聞けるなんて」
「それは……」
「おっと、怒っているわけではないよ。敵はあらゆる所から攻撃して来る。一点に集中せずに、目や耳を傾ける。大したものだ」
「フレイル……」
「脱線してしまったね。続きをやろう。今度は君達の武器を持って、先ほどの要領で、武器に気を集中してごらん」
シトラスとロックはそれぞれの武器を手にする。
剣と矢が、光り出した。
「これは……」
「オレの矢が、光ってる!」
「そう。それが闘気の力だよ。さあ、その力でこの岩を破壊してみようか」
フレイルが指を鳴らすと、どこからともなくデカイ岩が現れた。
直径2メートルという所か。
まずはロック。
「飛天狩射!」
岩の中心に当たり、バラバラに飛び散った。
その手応えにロック自身驚く。
「す、すげえ……」
シトラスの方も剣を振ってみる。
見事に十字斬で四等分になった。
「これで、君達は闘気を使えるようになった。練習を積んで行けば、波動のように飛ばしたり、新たな技を生み出す事ができるよ。わたしが教えられる事は以上だ。後は君達次第だよ」
シトラスとロックは、声を揃えて礼を言った。
「ありがとうございました。フレイル」
女性陣も側に来る。
みんなで男の子達を褒めた。
最後にシトラスがフレイルに聞く。
三人目の聖霊の居場所は何処かと。
フレイルは、少し悲しい顔をして答えた。
「その聖霊の居場所はね、ここからかなり離れた場所。シトラス、ティナ。君達の生まれ故郷の、セントミディアだよ」
「え……?」
シトラスとティナは衝撃を受けた。
それは、勇者が生まれた場所。
魔王に滅ぼされた大地。
「アタシ達の……。あの故郷に、聖霊がいるって言うんですか?」
「そう。一時は焼け野原になった。けど年月を経て、再生しているよ」
「再生……。かつてのわたくし達の森みたいにですか?」
「そう。あそこは大切な勇者の生まれた場所。聖霊の加護を受けて、護られている」
「ああ……」
ティナは顔を覆った。
かつて、大切な家族やガルディス、それにシトラスと過ごした場所。
もう無いと思っていた。
それが、生きてた。
嬉しい。
「ティナさん……」
ジェニファーに肩を抱かれ、ティナは顔を上げる。
「ティナさん、行きましょう。シトラスや、ティナさんの思い出の場所へ。辛いかもしれないですけど、そこに聖霊がいるというのなら、進むしかないですよ」
「ジェニファー……」
シトラスも頷いた。
「ティナさん。俺、見てみたいです。いえ、帰りたいです。本当の、俺の故郷へ。そして、ただいまって言いたい」
「シトラス……。分かったよ。帰ろう。アタシ達の場所へ。ジェニファー、ロック、ルナン。里帰りに付き合ってもらっていい?」
「はい。もちろんです!」
三人は笑顔で言った。
フレイルが見送る。
「行くんだね。勇者」
「はい。フレイル、お世話になりました」
「外に出るのなら、わたしの後ろのドアを行くといい。来た道は、戻れ無いから」
「はい!」
ドアを開ける。
上に続く階段。
フレイルに手を振って、シトラス達は上って行った。




